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翡翠さん、ソウルダンスを踊らされる、そして感動の結婚式

女神は数万年生きているので、1970年代も今と変わらない感覚なんでしょうね。それにしても翡翠さん、今回のミッションのため、20世紀アメリカの芸能世界を調べていたとは抜かりがない。

「結婚するかもってことでお祝いに行っちゃってよかったのかな?まあ翡翠の爽やかな笑顔を見てシャーロットは喜ぶだろうし、ハンバートは月煌に脅されていたし、問題ないだろう。翡翠さん、ミッションスタート!」




「まあ、スイちゃん、わざわざ来てくれたの?さあさあ、入って。」


「お邪魔します。」


「ハンバート!ハン!スイちゃんがワインを持ってきてくれたわ。」


「やあ、翡翠さん。こんばんは。」


 月煌に脅されたハンバートは心なしか顔色が悪い。


挿絵(By みてみん)


「ロリータさんはとても元気ですよ。音楽やダンスの練習をして、見違えるほど垢抜けてきました。夏休みが終わって帰ってきたら、きっとびっくりしますよ。」


「まあ、そうなの?女学生の館でお世話になって本当に良かった。」


「垢抜けたということは、ハキハキした少女になったということですか?はっきりとした自己意識を持った?」


「はい、その通りです。目的を見据えてやるべきことをやる人間は強くなります。」


「強い少女に育ったのですか?アタランタのように?」


「いや、肉体派の戦士になぞらえられても困りますが、言いたいのは意志の強さです。」


「そうですか...」


ハンバートは明らかに落胆した。もはや自分の妄想通りに動く人形にはなれない。ニンフェット計画は潰えた。ならばこの劣化メリー・ウィドウと結婚する意味もない。翡翠はその心の動きを読んだ。


「乾杯しませんか?皆さんの幸せな未来に(アフロディジアクム)!」


挿絵(By みてみん)



 翡翠は乾杯の言葉の中に性愛の発動を促す呪文を仕込んだ。シャーロットとハンバートの顔がわずかに上気しているのが見て取れる。


「では、そろそろおいとましますね。どうかお幸せに。」


 翡翠は手応えを感じたので、満足してウィンクのサービスとともにその場を後にした。


挿絵(By みてみん)



「さて、これであの2人はラブラブの夜を過ごすことになるでしょう。ハンバートはともかく、シャーロットにとっては天国の入り口ね。メロに精気を吸われまくったハンバートはシャーロットを満足させられるかしら?まあ、何とかなるでしょう。大人なんだし。巫女の私には想像がつきません。」



 女学生の館に戻ると、少女たちの足しそうな笑い声が聞こえてきた。1970年代のソウルミュージックがかかっている。娯楽室には未来のレコードも並んでいる。少女たちは、彼女たちにとってはレトロな、ロリータにとっては未知の、ディスコダンスに興じていた。


「おかえり、翡翠さん。楽しいわ、このリズム。」


 ロリータは器用にソウルミュージックに合わせて踊っていた。流れる音楽は、“Soul Train“。たぶん女神の発案だろう、“Soul Train Line“という左右に並んだ人々の間をひとりずつ、あるいはデュオで踊りながら通る遊び。翡翠はYoutubeでしか見たことがない。



挿絵(By みてみん)



「どうだ、翡翠?私が提案したナウいヤングの遊びだ。」女神がドヤ顔で言った。


「ええ、とてもナウいですね...」翡翠は顔がこわばらないように注意して笑顔で答えた。


「おまえも踊れ。」


「えー、私もですか?」


「そうだよ、ソウルトレインなんだから、乗ったからにゃ踊らにゃ損損!」


「わかりました。」



挿絵(By みてみん)



 翡翠は諦めてジョン・トラボルタのようなステップを披露した。今回のミッションのため、翡翠はYoutubeで20世紀のアメリカの芸能をチェックしていたのだった。すべてはロリータのプロデュースのためである。



 数日後、ヘイズ家から女学生の館に結婚式の招待状が届いた。ハンバートとシャーロットは教会の牧師の前で誓いの言葉を言うことになる。何も知らないメンバーたちは素直に喜んだ。ロリータだけは、母親の再婚だけに少し複雑な笑顔だったが、すぐに吹っ切れたようだ。むしろ、これで安心して自分の人生に邁進できる。



 結婚式当日、みんなの前でハンバートとシャーロットは牧師に問われた。


「病める時も健やかなる時も、富める時も貧しき時も、あなたを愛し、敬い、慈しむことを誓いますか?」


挿絵(By みてみん)



「I will.」


 翡翠たち列席者は盛大な拍手を送った。そのあと指輪交換があり、牧師が「夫婦と認めます」と宣言して、2人はみんなの前でキスを交わす。そしてさらに大きな歓声と拍手が沸き起こった。



「ねえ、ママ、とってもきれいよ。」



挿絵(By みてみん)



「ありがとう、ロー!嬉しくて涙が出ちゃう。」


「ダメよ、お化粧が崩れちゃう。笑って、ね、ママ。」



 その様子を見て、翡翠はハンバートに近づき声をかけた。


「ハンバートさん、車に空き缶を付けておきましたよ。新婚旅行に出かけますよね?」


「はい、妻としばらくニューイングランドを離れます。ニューヨークで都会の空気を吸ってこようかと。」


「良いですね、ニューヨーク。たまにはブロードウェイで現代のエンターテインメントに触れるのも良いと思いますよ。奥さんもきっと喜びます。」


「ありがとう。そうします。あの晩あなたが来てくれたので再婚する勇気が出ました。本当にいろいろありがとう。」


「あ、そうだ。ロリータさんからお二人にプレゼントがあります。女学生の館に来ていただけませんか?」


「はい、妻と向かいます。」




 館のステージにスポットライトが点いた。ギターを抱えたロリータが立っていた。


「ママ、そして新しいパパ、聴いてください。二人のために私が作った曲です。」


挿絵(By みてみん)


 シャーロットはもう涙を堪えきれなくなった。


感動の結婚式でしたね。翡翠の仕込んだアフロディジアクムのおかげなんですが。あれって長持ちするのかな?まあ、結婚してしまえば気持ちが冷めても家族だしね。

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