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翡翠さん、クィルティに現代のエンターテインメントの一端を見せる

クィルティが館に入ってしまいました。このコネ、これからどう生かすのかな?でもこいつ、原作では悪者なんですよ。ネタバレしても良いですか?いや、やはりやめておこう。数少ないかも知れないけれど、このラノベを読んで原作に手を伸ばす層も一定数いるかも知れないから。

「ああ、やっぱり帰還したのは早計だったか。このクィルティという男も生かしてはおけない。」


「おい、物騒なことを言うのはやめろ。殺しは御法度だぞ。」


「なら性欲の源を潰す。」


「いや、物理的に潰したらふつうに死ぬから。」


「神パワーで脳に直接働きかけて邪な心を破壊する。」


「女神ロボトミーですか?そんなSF風味を持ち込まないでくださいよ。」


「なら、異世界に召喚して放置だ。うん、私にはそれができるのだった。なぜ思いつかなかったのだろう?」


「女神様、シリーズの主旨が違ってきてますよ。翡翠の活躍の邪魔をするなよ。」


「じゃあ、せめて私も歌って踊ってのアイドルをやってみたいぞ。」


「え?情緒不安定ですか?欲望の矛先が定まっていませんが。」


「武道館でワンマンやりたい。」


「だってあなた、歌も踊りもできないじゃん。」


「女神の力は万能です。」



挿絵(By みてみん)



「はい、万能でしたね。気持ち良さそうで何よりです。そこで満足していてくださいね。そこから出ないでね。」








「はい、どなたでしょう?」呼び鈴に対応したのは翡翠だった。


「こんにちは。脚本家のクレア・クィルティと申します。少しお話を伺いたくてやって参りました。」


「脚本家、ですか。うちの寄宿舎に演劇に関係する者はおりませんが。」


「音楽と演劇が一体化したミュージカルというエンターテインメントの様式がこれからますます盛んになるのです。音楽、とくに歌唱とダンスに才能がある者はいつでも歓迎されるのが現在のニューヨークの芸能界です。」


「そうですか。でもうちの子たちは個性的すぎて使い物になるかどうかわかりませんよ。」


「一度見せていただけないでしょうか。」


「男子禁制ですので武装スタッフに監視させますが、それでかまいませんか?」


「ずいぶんと厳重ですね。でもセキュリティーは重要です。受け入れましょう。」


「では少しお待ちください。スタッフが案内します。」


 翡翠は分身を2体召喚し、軽武装させて門扉の外に出した。サングラスをしているので翡翠の分身だとは気付かれない。




「ずいぶん豪華な館ですね。」


「はい、財団が古いヨーロッパ風の建物を改修して作りました。」


「財団の名前は?」


「あまり表に出ない方針ですので、公表は控えさせていただきます。」


「何やら音楽のような音が聞こえます。」


「はい、食堂にステージが設置されているので、誰か練習しているのでしょう。」


「な、なんと大きな音だ。聴いたことがないリズムだ!バンドは見当たらないが。」


「録音した音源ですから。それをあの舞台脇のスピーカーから流しています。」


「何なんだ、あのダンスは?ムーランルージュのフレンチ・カンカンとも違う...」


「あれは、そうですね、独自の進歩を遂げたダンスとしか言いようがありません。」



「あ、クレアだ!」ロリータが気付いた。


「やあ、ロリータ、久しぶりだね。」


「ここのみんな、すごいよ。見たことも聞いたこともない音楽を見せて聴かせる!」


「ああ、とても驚いている。すぐにでもニューヨークに連れて行きたいくらいだ。」


 クィルティは興行師の抜け目ない目でJK隊を見つめた。翡翠はすぐに割って入った。


「残念ですが、それは無理です。この子たちのもろもろの権利は財団との契約で取り決められていますから、それ以外での興行や楽曲発表はできません。」


「そうか、残念だ。でも、もし何か私にできることがあれば、さっき渡した名刺のアドレスに連絡してくれたまえ。おっと、そうだ。パファーマーたちにも1枚ずつ配っておこう。」


「配るのはかまいませんが、1本釣りはできませんからね。」


「わかっている。こちらもこれが商売なので顔を売っておかなければならない。君もかなりの敏腕マネージャーだね。」


「あら、私はマネージャーではありませんよ。私もパフォーマーです。今日は準備の関係で披露できませんが。」


「それは残念だ。」


「ねえ、クレア、私、この夏はこのサマーキャンプで音楽に没頭してレベルアップする。実力が付いたら、ブロードウェイやハリウッドで活躍できるようになりたいの。手伝ってくれるかな?」


「ああ、楽しみにしているよ、ロリータ。」



 館の門扉の前で、ハンバートは歯ぎしりして立っていた。自分は入れてもらえないのに、なぜクィルティだけが...。許せない、あの男、ロリータに向けたあの視線、自分にも自覚がある邪なものを感じた。クレア・クィルティが館から出てきた。ハンバートは通りの角まで退却し、身を隠した。



「どうだろう、翡翠さん、私の知り合いの音楽関係者にこの館の子たちのパフォーマンスを知ってもらいたいのだが。」


「いえ、今日のあなたは例外中の例外で、財団との契約で業界との接触は禁じられています。」


「そうか、残念だ。また会える日を願っているよ。今度は君の歌が聴きたいな。」


「機会があれば...ですね。」翡翠は微笑んで頭を下げた。




「ねえ、スイ、あの女神って子、どこに行ったの?」


「ああ、あの子はフラフラとあっちこっち行ったり来たりの流れ者なんですよ。」


「何それ、なんだかかっこいい。」


「行ったままでいてくれれば一番なんですけどね。」



「呼んだか?」


挿絵(By みてみん)



「あ、流れ者の女神だ!」ロリータの目が輝いた。


「何だ、その二つ名は?まあでもかっこいいかな。」


「もー、何しに来たんですか!」翡翠があきれた顔で腕を組んだ。


「ロリータの音楽の方向性を考えに来た。方向性は大事だからな。方向性の違いでどれだけ多くのバンドが...」


「ややこしいことを言わないでください。できれば帰ってもらって良いですか?」


「来たばかりなのにそうつれなくするな。男子禁制でも女神禁制ではないだろ。入らせてもらうぞ。」


風来坊、フーテン娘、どれも死語になっちゃったような気がするので「流れ者」と書いてみましたが、これも死語っぽいですね。「ああ、東京流れ者~♩」、うん、このフレーズしか頭に残っていない。テレビドラマの中で誰かがちょこっと口ずさんでいた。

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