翡翠さんがお休みしている間に女神がエグい案件に取り組んだ
ヒトラー編で疲れたので無敵女神で翡翠さんには汚らわしすぎる案件に取り組みました。
「やっと終わった。歴史介入は長くて疲れる。」
「おまえは見ているだけで疲れないだろ。」
「見ているだけだと飽きる。うずうずする。」
「またそうやってプレイヤーになろうとする迷惑客かよ。」
「迷惑言うな。翡翠にできないことも私にはできる。」
「おまえにしかできないことは世界を壊すから。」
「そうでもないぞ。翡翠はNGでも私ならOK案件というのもある。」
「それは俺にもNGのような気がしてならない。」
「読者はそういうのも望んでいるかもしれないじゃないか。」
「さすがにレイティングに関係するようなのは困るぞ。」
「ふふふ、まあ見てろ。人間界の掟を超越したところで私は活躍できる。」
「おとなしく行かせると思うなよ。」
「ほれ、ハーゲンダッツ梅酒ジャブジャブでも食え。」
「お、これは絶品だ。」
「ほれ、必殺お腹ピー!」
「あ、いかん、トイレ!」
「しばらく籠もっているんだな。」
試練の女神はギリシャ神話時代のクレタ島へやってきた。
「青い海、地中海の陽光、いつ来ても気持ちが良いな、ここは。だが牛の呪いがある。その業を払うのが今回のミッションだ。ふっふっふ、神にしかできない。人の子である翡翠には無理だ。女神最強、女神ワンダフル、女神美人、女神エロい、女神爽やか、梅サワーだけに。」
しばし自画自賛したあとで、女神は宮殿の近くに降り立った。女神は羽根がなくても空を飛べる。だって女神だから。
「ここのミノス王は、たしかゼウスとエウロパの間に生まれた人間だったな。父親がゼウスなんだから、なぜランクダウンして人間になったのだろう。とりあえず会いに行くか。格好は...デフォルトで良いな。」
「おい、ミノスよ。」
「誰じゃ、おまえは?いきなり現れて無礼だな。」
「ふ、人間風情が女神に無礼とはずいぶんだな。」
「女神...様?」
「そうだ、試練の女神だ。それ以外の名前はない。」
「で、何の用でございますか?」
「おまえの母ちゃん、でべそか?」
「わかりません。おっぱいは大きかったと記憶していますが。」
「エウロペ、アルファベットの読み方しだいではヨーロッパだな。牛が好きだったのか?」
「ゼウスが擬態した牛なのでただの牛ではありませんから。」
「でも牛は牛だ。よく牛と交尾できたな。牛のペニス、検索するとペットフードとして売られているが、人間も食べるようだ。検索したら声優の杉田智和がヒットした。スープにしたりカレーにしたり、ものがものだけに強壮食材として人気があるな。サイズは平常時で1メートルはあるぞ。勃起時は....わからん。ゼウスは牛に擬態とかいってデカちんになりたかっただけじゃないのか?」
「じゃないのか、と言われても、私には答えようがありません。」
「ちょっと待て、牛の交尾、動画を検索してみる。」
「やめてください。自分の出自が切なくなります。」
「おまえの母ちゃん、牛に発情したんだな。」
「ゼウスの愛を受け入れたのです。」
「おまえも牛が好きだろう?」
「はい、否定はしません。でも性的な意味ではありませんよ。」
「ふん、どうだかな。」
「エウロパを誘惑したゼウスのような白い立派な牛を所望しなかったか?」
「え?(ギクリ)」
「ポセイドンに。」
「はい、送っていただきました。この地を繁栄させるため種牛として活躍させようとしたのです。」
「立派な子牛がたくさん生まれたか?」
「はい、おかげでこの国はたいそう豊かになりました。」
「それは何よりだ。さすが牛の子、牛に助けられたな。」
「だから牛の子ではなくて神の子ですってば。」
「で、その立派な種牛をポセイドンに返したのか?犠牲獣として。」
「は、はい、もちろんです。神との約束ですから。」
「私も神だが、真実を語らないと罰が下るぞ。」
「ぐぐぐ...このミノス王、見たことがない女神を恐れるものではない!」
「なるほど、ポセイドンが怒ったんだな。」
「何もお告げがないので怒っておられるかどうかは知らぬ。」
「ところで牛のペニスは平常時で1メートル以上だが、その子であるおまえの逸物はどうなんだ?見せてみろ。」
「いやですよ、何をおっしゃる!」
「では女神スキルで透視してやろう。ふん、平常時6~7cmだな。」
「やめてください。これでも十分に性生活は成り立っております。」
「はたして妻はどう思っているかな。おまえの嫁は何という?」
「パシパエと申します。」
「やはり牛が好きか?」
「そんなことはありませんよ。私だけを愛する貞淑な妻です。」
「なるほどな。まあ、ピッコロで頑張れ。」
女神は宮殿をあとにすると、海岸へやってきた。ミノス王の妻パシパエが海を見て佇んでいた。
「海に何を望む、パシパエよ。」
「どなたですか?」
「私は試練の女神、人に試練を課して成長を促すありがたい女神だ。」
「私は夫以外の愛を知ってしまいました。この気持ち、もうどうにも収まりが付きません。」
「ほう、それは過酷な試練であるな。私の好物だ。話してみよ。」
「夫がポセイドンから賜った美しい雄牛、人間ではないのですが、好きすぎて頭がおかしくなりそうです。恥ずかしながら、姿を見るたびに発情してしまいます。人間と牛、結ばれるはずはないのに。」
「ふむ、それは困ったことだな。苦境、窮地、たしかドイツ語に“Not lehrt beten“苦境は祈りを教えるというのがあったな。神頼みだ。どうする?」
「祈ります。女神様、この窮地をお救いください。」
「ふむ、で、具体的にどうしたいのだ?牛に抱かれたいのか?」
「はい、恥ずかしながら直裁に言えばそういうことです。」
「おまえが牛になるか、牛が人間になるか、解決法はそのあたりにあるな。」
「島にダイダロスという発明家がおります。彼に頼めば何か突破口が開けるかもしれません。」
「ふむ、人間の技でこの問題が解決できるとも思えないが、面白い、行ってみよう。」
「ダイダロスよ、試練の女神である。おまえに試練を課そう。この女が牛と交わりたいと申しておる。どう解決する?」
「女神様、牛と交わるには牛の姿にならなければなりません。交尾は同種の相手としか成立しないのが自然の掟です。そうでなければ世界はキメラで溢れてしまいます。」
「なるほどな。で、どうする?」
「牛の姿になる外皮を作りましょう。その中に入れば見た目は牛。お望みの雄牛も必ずや発情することでありましょう。」
「ふむ、ならそれが完成するまで待つとしよう。いや、待たない。私は女神であるがゆえ、時間を早送りにできる。」
..................
「完成しました。」
「これ、入れるのか?パシパエ、入ってみろ。」
「上半身は何とか行けますが、下半身をどう収めるべきか。脚は屈曲位の状態にするのでしょうか?」
「無理するな。どれ、私が入ってみよう。身体を自由に変えられるからな....お、すっぽりはまった。気分は雌牛だ。メェエエエ!」
「ちょっと、女神様、出てくださいよ。雄牛が来ちゃいます。」
「どんと来いだ!Don’t comeじゃないぞ。」
「あ、来ちゃいましたよ。私の雄牛様が。やだ、いきり立ってる!」
「おお、私の魅力にメロメロでたぎるパトスを持て余しておるか。かまわんぞ、突きまくれ!」
「もぉおおおおお!」ガツン、バキッ!
「あ、すまん、私の身体におまえが求めるものはついてなかった。痛かったか?悪かったの。」
「女神様、もう出てください。雄牛様がもだえ苦しんでいます。」
「パシパエよ、この作戦は無理だ。人間には交尾の態勢が取れないどころか、身体が歪む。」
「まあ、女神様、こんな身体になってしまって。」
「案ずるな、すぐ元通りになる。女神だからな。」
「ああ、どうしましょう?私、雄牛様と愛し合えないのでしょうか?」
「そもそもなぜ人間のおまえが牛と交わりたくなったんだ?」
「わかりません。愛は突然にやってくるものです。」
「エロスの矢かもしれんな。」
「何ですか、それは?」
「アフロディーテの息子さ。その矢を射かけられると恋してしまう。」
「どうしましょう?」
「しばらく待ってろ。真相を確かめてくる。」
「おい、アフロディーテ?」
「誰だ、いきなり呼び捨てとは無礼だな。私は女神だぞ。」
「私も女神なんだよ。おまえさ、息子を使ってパシパエが牛に恋するように仕向けなかったか?」
「ああ、そのことか。したよ。ポセイドンに頼まれたからな。お礼に貝づくしの大皿刺身盛り。」
「安い女だな。解除はできないのか?」
「無理、燃え上がった愛はむさぼり尽くして飽きるまでは醒めない。」
「面倒なことをしやがって。」
「おまえにもしてやろうか?」
「ふん、試練の女神に色恋攻撃は効かないんだよ。梅干しでも食ってろ!」
驚いて開いたアフロディーテの口に女神は大粒の梅干しを3個放り入れた。
「うぇっ、すっぺえ!」
「美容のために我慢しな。クエン酸は大事だぞ。じゃあな。」
「パシパエよ、待たせたな。どうやら解除は無理のようだ。こうなると、おまえに残された道は3つ。異種交合は諦めて憧れに悶えて暮らす。これは世界中の人間がアイドルに憧れつつも悶えて我慢するのと同じなので、できない相談ではない。次の選択肢は、雌牛になってめでたく牛夫妻になる。どうやって雌牛になるか、私にもわからない。ゼウスならできるだろうが、やってくれそうもないな。最後は、雄牛を人間に変えて夫婦になる。しかし、おまえは人妻だ。ミノス王が俺を許すとは思えない。そもそも雄牛を人間にする方法もわからない。」
「袋小路ですね。」
「無理しちゃいかんのよ。たいていの女は実らぬ欲望を心の奥にしまって平穏な暮らしを選ぶものだ。私があのスターの恋人なのよと突っ込んでいったら拘束されて精神鑑定だ。ましてや相手は牛だ。まあ、蹴り殺されないように注意しながらかわいがることだな。いや、危ないな。おまえは何かやらかしそうだ。運営のポリシー的にここに書けないような、あんなことやこんなことをだ。」
「そんなあ、やりませんよお、そんなはしたないこと。」
「やらないと言いつつやるのが人間だからな。性欲を舐めてはいかんぞ。うーむ、こうなったら少々腹立たしいが、翡翠の術を使うか。アンチアフロディジアクムだ。どうやって自然界から抽出するんだっけ?ちゃんと聞いておけば良かった。女神通信で訊くか。....あー、翡翠か?ちょっと面倒なことになったので、アンチアフロディジアクムを抽出したい。呪文はどうだった?私にもできるよな?何々...、複雑だな...、うん、そして最後に....それ、言わなければダメなのか?そうなのか、わかった。」
「+*@~|;+:*@...急々如律令!」
「あら、私は何を求めていたのでしょう?」
「旦那のミノス王と叡智を高め合いたいのではないのか?」
「あ、そうでしたわ。叡智の先に一族の繁栄があります。アテネに負けてはいられません。」
「おお、励めよ。私は帰る。」
こうしてミノタウロス誕生は阻止されたのです。ミノタウロス、何も悪くないのにラビリントス(ラビリンスの語源)に閉じ込められて毎年アテネの男女の生け贄を食う怪物にされ、そのあと英雄に討ち取られるという胸くそです。はい、あの偽牛の模型に入ったパシパエが――考えるだに絵面がグロい――が牛と交尾して生まれたのですね。




