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翡翠さん、久しぶりにチャンバラで敵をやっつける、ヒトラー編ラスト

長かった。けっこう知らないこともあったので時間がかかりました。

「ルーデンドルフ将軍がヒトラーの代わりにナチスの総統になるのか?」


「いや、あいつはオカルト好きの変な爺だから総統は務まらない。カリスマが足りない。どうせ負けるんだから誰でも良いんだが、もう少しマシなやつを使うよ。」


「チャンバラもなく魔法も使わないヒトラー編、そろそろ読者は飽きてきたぞ。私が乗り込んでドイツを勝利に導いてやろうか?」


「やめれ!最悪の歴史改ざんになるわ。おまえはゴジラ以上のモンスターだからアメリカ軍の原爆にも勝てそうで怖いわ。」


「敗戦国に賠償金という発想はいかんな。戦争は大きな経済的疲弊を国と人々に与えるのだから、負けた上にさらにカネを取ると恨みが五臓六腑に染み渡るぞ。」


「うん、経済学者のケインズは警鐘を鳴らしたね。」


「日本はアメリカからチョコや脱脂粉乳や小麦をもらって尻尾を振るようになったしな。」


「お礼にたくさんおもてなしした。エッチなおもてなし。一般の日本人女性の貞操を守るためとか抜かして、RAA、つまりRecreation and Amusement Association という組織を作ってこっそり政府主導の管理売春をしていた。ご立派なことに男女平等の思想も導入して女性兵士向けの施設も作ったんだ。たっぷり肉が食えるぞということで肉体ホストのオーディションが行われ、けっこう人気が高かったとか。」


「ドイツにはそういうのがなかったのか?」


「ドイツは政府が壊滅していてそういう政策を実行する力もなかった。女たちは個人営業だな。」


「かわいそうに。私が代わりに相手してやっても良いぞ。」


「無敵の女神でも肉体はマネキンだからそれは無理だな。」


「ふん、その気になればいくらでも身体を変形させられるわ。それにしても、肉を食わせてもらって女兵士に肉棒を提供する大和益荒男、屈折した敗者のパトスがたまらん。」


「パトスというと奮い立つ感じがするが、同じ文字を英語風にペーソスと読むと、何か薄ら笑いで萎える感じがするのはなぜだろう。」


「たしかにペーソスでは大和益荒男に合わないな。ほとばしる熱いパトスで思い出を裏切れない。かつての敵国の女に肉をたんまり食わせてもらって熱いパトスがほとばしる、うーん、独特なエロゲだわ。」


「おまえ、さすが何万年も生きているだけあって、変態の度合いが測定不可だな。」






 ヒトラーが画家になった時間線で、ナチスの総統になったのは第1次世界大戦の撃墜王ヘルマン・ゲーリングだった。ルーデンドルフ将軍との激しいポスト争いで、エルンスト・レームが育てた突撃隊(SA)を巧みに使い、正規軍に揺さぶりをかけて国軍を掌握した。ゲーリングは、「国民社会主義」のイデオロギーから社会主義の部分を周到に縮小し、旧態依然とした独裁体制を築き、資本家や貴族層と深く結びついた伝統的な右翼政党にナチスを育てた。反ユダヤ主義の看板を下ろすことはできなかったが、金融資本と深く結びついたユダヤ人の絶滅計画は考えにくかった。しかし、反ユダヤ主義の看板を掲げておかなければ国民の支持は得られない。党内のイデオローグたちにその弱点を攻撃されると、築き上げたポジションが崩れる。ゲーリングはユダヤ人富裕層に巨額の個人的寄付と引き換えに密かに情報を流し、国外逃亡を黙認した。そして、迫り来るホロコーストの足音を独自の諜報機関「金竜疾風」の調査で聴き取ったのは、織田家の国王をいただく極東の立憲君主国日本だった。日本は全力でユダヤ人救出作戦に着手する。


 織田家ジャパンによる「ホロコースト阻止作戦」の記録は以下のアーカイブで読むことができる。

 

 https://ncode.syosetu.com/n7138kh/77/



 ヒトラーは、第2次世界大戦が始まる前にパリを出国して再びスイスに居を構えた。もう仮住まいに甘んじるわけにはいかないので、レマン湖藩に新築のアトリエを建てた。パウラはジュネーブに店舗を構え、オートクチュールとしてそれなりの評価を得ていた。新聞には戦況の移り変わりが毎日奉じられ、フランス・ベルギーの陥落もヒトラーの知ることとなった。状況を一変させたのはアメリカ合衆国の参戦である。ノルマンディー上陸で西部戦線の様相は一変し、同時にソ連の機甲師団が破竹の勢いで西に迫る。ゲーリングは敗北を覚悟し、何とか戦争終結の軟着陸を模索したが、連合国の条件は厳しく、体制を維持したままでの敗北は不可能であるように思えた。


 織田家ジャパンによる「ホロコースト阻止作戦」の成功により、皮肉にもジェノサイドの汚名は免れることができたので、ゲーリングは最後の最後で故国を裏切って家族共々南米へ逃げだそうとしていた。このままドイツに留まれば裁判で絞首刑になるのは明白であった。しかし、航空機で逃げ出せば撃墜されるだろう。Uボートも駆逐艦に撃沈される。ゲーリングは一計を案じ、かつて巨額の寄付と引き換えにドイツ国内からの逃亡を許したユダヤ人金融資本家に泣きついた。戦争経済で密かに私腹を肥やした資産の一部を提供するかわりにソビエト連邦内のユダヤ人自治区に匿ってもらい、そこからほとぼりが冷めたら南米へ脱出する計画を打ち明けたのだった。ユダヤ人資本家はスイスの銀行の口座へ多額の現金を振り込むように指示し、ゲーリングがそれに応じると、ソビエト連邦内のユダヤ人自治区の住民票を送ってきた。封印列車でそこを目指せという指示だった。


 夜の闇に隠れてユダヤ人組織が用意した封印列車に乗り込んだゲーリング一家は、約束されたユダヤ人自治区へは到着せず、モスクワに到着した。兵士たちに銃で促されて列車を降りたゲーリング一家をスターリンが満面の笑みで出迎えた。


「同志ゲーリング、歓迎するよ。」


「...私をどうするつもりだ?」


「われわれの共産主義をどう思うかね?」


「民が飢えることのない素晴らしい体制だと思う。」


「そうだろう?君の祖国ドイツも共産国にならないか?」


「良いかもしれない。議会の承認が必要だが。」


「君は共産化に賛成するのか?」


「もちろんだ、同志スターリン。」


「よろしい、ではドイツへ戻って共産主義革命の演説をしてくれたまえ。」


「いや、急に言われても...」


「何、大丈夫だ。ここにしばらく滞在して共産主義の教育を受けてもらう。それが終われば立派な演説ができるだろう。なにせかつての英雄なのだから。よろしく頼んだよ、同志ゲーリング。」



ジュネーブのアトリエでヒトラーはスイス芸術アカデミーからの封書を受け取った。会員証が同封され、晴れてアカデミー会員としての芸術家人生が始まった。ヒトラー56歳、まだまだ老境には程遠い。結婚して息子と娘ができ、それぞれ成人していた。息子はジュネーブ大学で文学と哲学を専攻し、ドイツロマン主義と観念論哲学の関係について博士論文を書くつもりらしい。娘は音楽を志し、ピアノと声楽を学んでいる。妹パウラも結婚して子どもがいた。パウラの夫はフランス人の俳優で、新しいメディアである映画に活躍の場を求めていた。


「そろそろ戦争も終わりそうね、お兄さん。」


「ああ、故国は負けるな。ろくでもない国になったので負けるべきだ。」


「私たち、スイスとフランスには本当にお世話になったわね。」


「ああ、恩返ししていこうと思っている。」



 ゲーリングの共産主義革命の演説はモスクワで短編動画として編集され、KGBの手によってベルリンの映画館で放映された。ナチス党員たちはもちろん激怒した。演説の内容もだが、敗色が濃くなったドイツを捨ててモスクワでぬくぬくと暮らしている事実に直面してナチス党員の怒りは頂点に達したのである。


 行方不明になったゲーリングに代わってナチスドイツを率いたのはヨーゼフ・ゲッペルスだった。ゲッペルスもナチスドイツと心中するつもりは微塵もなかった。もともと自分は情報将校で、荒事とは無縁だ。ドイツ文学を専攻して博士号も持っている。武闘派に担ぎ上げられて今のポジションにあるというストーリーで破滅を逃れようと算段していた。降伏文書に署名するのは自分ではなく、リッペントロップかデーニッツにさせよう。自分は....、そうだ、情報を流すことによって日本の金竜疾風の作戦に協力したことにしよう。作文はお手のものだ。虚偽の無線会話の録音も作っておこう。「コンニチハ、ゲッペルスです」、よし、日本語の挨拶も完璧だ。


 ベルリンは陥落目前だった。ソ連の装甲車や戦車がウンター・デン・リンデンの前を我が物顔に走行している。大きなトラックの荷台にステージのような設備が用意され、ゲーリングがマイクの前に立った。


「我がドイツの同志諸君!共産主義革命は...」


 演説を始めるやいなや、数発の銃弾が彼の身体を貫きゲーリングは倒れた。撃ったのはもちろんナチスの親衛隊だった。ゲッペルスは家族とともにポーランド国境付近で赤軍に拘束された。考え抜いたスト-リーに耳を貸す者は皆無だった。


 国防軍最高司令部総長ヴィルヘルム・カイテルが降伏文書に署名することで、戦争は終結した。ドイツの無条件降伏だった。



 1947年、ヒトラーはオーストリアの芸術アカデミーからの招待でウィーンを訪れた。アカデミーの名誉会員への就任とベルヴェデーレへの作品展示がその用向きである。故郷を捨て、フランスとスイスで作品を製作してきた彼が、ついに故郷から正式にに認められ、芸術家として歓迎されたのだった。豪華なパーティーが催され、妹とともにホテルへの帰路を急ぐヒトラーの前に数名の黒い影が現れた。


「裏切り者!」


「ユダヤの汚い金で学んだ絵をウィーンに飾るのか!」


「スイスでぬくぬくと絵を描いている間に何人の同胞が銃弾に倒れたと思っている?」


「少し痛い目、いや少しでは済まないな、死ぬかもしれないが、我慢しろ!」



 そのとき白い着物に赤い袴の若い女が現れて暴漢たちの前に立ちはだかった。


「見苦しい。ナチスの亡霊ですか。殺しはしません。でも峰打ちはそこそこ痛いですよ。」



挿絵(By みてみん)



 一瞬だった。暴漢たちはうずくまって呻いている。


{Vergessen Sie bitte, was hier geschehen ist, Herr Hitler!(ここで起きたことは忘れてくださいね)}


 翡翠はそう言い残すと風のように立ち去った。



挿絵(By みてみん)


いちおう「胸くそを潰します」で終わったつもりなのですが、ヒトラーが幸せなのは許せないという方もいるかも知れません。はい、本当に申し訳ありませんでした。翡翠さん、久しぶりに太刀を振るえて嬉しい。

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