表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/97

世の理を正す?それほど高邁な話ではなさそうな...

始まりました、新シリーズ。翡翠が青水のわがままに巻き込まれて女神の試練という難問を突きつけられます。

「おーい、女神!」


「は?なんだ貴様、女神様だろうが!人間風情が無礼な!」


「いや、俺は作者だから。作者の青水。会うのは初めてか。よろしく頼むわ。」


「作者が神を呼び捨てしても良いとでも?不敬にもほどがある!」


「まあそう怒るなって。あんたは俺が作ったの。I created you. You are my creature. ふふふ、クリーチャーだってよ。まるで化け物だな、おい。」


「貴様、女神の裁きを恐れぬか?」


「あ、その雷撃みたいなの?ここじゃ出ないよ。そう設定してあるから。」


「うぐぐ...あ、なんだ、別に悔しがる必要はないな。」


「どうした?急に薄ら笑いなんか浮かべて。」


「ふん、おまえは作者なら作品に対して全能の支配者だと言いたいのか?」


「当たり前だろ。」


「そんなナイーヴな文学観で作品を書いておるのか?人文知が聞いてあきれるわ。」


「あ!そっち?そっちから来る?」


「ここで面倒くさい理屈で2000文字使って説明しても読者がうんざりするから書かぬが、そういうことだ。あきらめろ、おまえは全能ではない。むしろ無能に近い。」


「ちょっと女神、いちおう俺の作中人物なんだから作者を無能呼ばわりしないでくれる?」


「だって酒ばかり飲んで駄文を書き散らすだけの存在だろうが。」


「あー、わかったわかった。これ以上文句は言うな。さもないとこの冒頭の対話の相手を甘やかしの女神に変えるぞ。作者にはそのくらいの権限はある。」


「うぐぐ...ならば痛み分けのイーブンとしようか。ノーサイドだ。女神と作者、呼び捨てのタメ口で許してやろう。」


「うむ、そうでないと話が始まらないからな。」


「で、なぜ私を呼び出した?何か頼みがあるのか?」


「うん、俺の胸くそを解消して欲しい。」


「おまえの胸のクソなど知ったことか。」


「まあそう言うな。世界の歴史や物語にたくさんあるだろう?胸くそ悪いエンディングとか、なんでそこでその人死んじゃうのとか。」


「まあ、それがリアリティというやつなのだろう。」


「世界がひっくり返らない程度なら少しぐらいいじって改変しても良くない?」


「おまえ、何を考えてる?」


「大それたことは考えてないよ。俺だってインテリの端くれ、たとえばイエス・キリストを助けて磔にされないようにしろとかは言わない。」


「当たり前だろう。そんなことをすれば世界がひっくり返る。キリスト教が存在しない世界になる。イエスとその弟子たちの教えは小アジアの地域宗教にとどまり世界宗教にはならない。ヨーロッパの枠組みが壊れ、その結果、南北のアメリカ大陸の白人文化もなくなってしまうだろう。」


「まあ、そこもなんとなく胸くそ悪いところではあるんだけどな。1人の人間を見せしめの磔にして殺さないと宗教がスタートしない。犠牲ありきの宗教。まあしかし、そこを改変してしまうと世界が壊れるくらいのことは俺だって承知してるさ。」


「ではどんな介入を考えているんだ?場合によっては協力してやろう。」


「史実への介入は後始末が面倒なので、とりあえずはフィクションへの介入から始めるか。これなら安全だ。」


「で、どうやって介入するのだ?」


「女神お得意の転生で翡翠を送り込む。」


「それは転生ではなくて派遣だな。転移派遣。ああ、できるぞ。翡翠は不服だろうが、女神の命には逆らえない。」


「よし、決まりだ。翡翠の介入大作戦、スタートです。」青水はビールを開けた。


「あ、また昼間からプシュッとやりおって!」


「で、どこに介入させて何をさせる?」


「最初なので簡単なタスク。白雪姫を救え~!」


「これまたとんでもないところから突っついてきたな。」


「うん、なんかあれ、王子のキスで問題解決ってところが気に入らない。」


「ふむ。ところでおまえ、『眠れる森の美女』と『白雪姫』、区別が付くか?」


「あ?えーと、とりあえず白雪姫は黒髪、美女はよくわからんけど金髪なんじゃないの?」


「細かくて下らない区別だな。まあ良い。どうせならどちらもメルヘン世界だ、両方一度に助けさせよう。」


「たしかどちらもグリムだっけ?あ、違うな。たしかにグリムの『いばら姫』は『眠れる森の美女』とほぼ同じ話だけど、これはたしかシャルル・ペローの『眠れる森の美女』を何度も読んで記憶していたユグノー(フランス系ドイツ人)の語りから採録したものだったはず。」


「まあ細かいことはここではどうでも良いのだ、青水よ。おまえ、そういうところだけ細かいと嫌われるぞ。」


「白雪姫は継母から毒リンゴを渡されて仮死状態。眠り姫――めんどくさいのでこのように呼称する――は誕生の祝宴に呼ばれなかった妖精の呪いで眠る。さて、翡翠には何をさせるか?」


「具体的に細かく指示を与えると彼女とて面白くなかろう。結果は救済ということにして、やり方は任せよう。」



「翡翠よ、試練の女神である。」


「私を理不尽に19世紀末ロンドンから異世界へ転生させたお方ですね?何の用でしょう?」


「これから試練の女神らしくしばしば試練を課す。ミッションと呼んでも良いしタスクと呼んでも良い。おまえは持てる力を振るってそれをやりとげよ。」


挿絵(By みてみん)


「拒否する選択肢はないのですね?」


「ない。私はおまえを目的地へ転移派遣する。ミッション・コンプリートしたら呼び戻す。それだけのことだ。なおこのテープは自動的に消滅する。」


「あの、お気持ちはわかるのですが、目の前でご自分を旧時代の記録媒体に例えるのはやめてもらえますか。そもそも消滅してませんし。で、何をしろと。」


「眠り姫と白雪姫の救済だ。初回ミッションなので簡単なものにしておいた。」


「了解しました。行って参ります。」



 ふわっと「中世」、西暦何年とかは無関係な物語特有の「中世」に現れた翡翠。とりあえず巫女服では悪目立ちするので、修道女に変装して、あるお城の宴を訪れる。


「なるほど、ここにペロー版だと7人、グリム版だと12人の妖精が来て祝福を与えるのだけど、招待されなかった1人が呪いをかけて王女は眠ることになるのですね。どうしたものか?呪いをかける妖精を無力化する?いや、それはあまりに乱暴ですね。そもそも人間ではないので無力化できるかどうかわからないし、返り討ちに遭う可能性もあります。あ、次々と招待客が入ってきます。これはまずい。」


 翡翠は物陰に隠れた。修道女の姿なので別に隠れる必要はなかったが、これからどうするか思いついていなかったので、介入先の人間との接触は避けたかった。


「ともかく赤ちゃんをこの場から連れ出して安全を確保しましょう。五十四いつよの星辰、疾く集まりて結びつき、虚ろなる魂、霧に沈み、眠り誘え。縛せし鎖、解き放たれ、安らぎの内に、意識よ翳れ!急々如律令!」


 翡翠は印を切ってキセノンガスを結界で囲んだパーティー会場に充満させた。城の人間も招待客もみな昏睡して意識を失った。翡翠は赤ん坊を抱き上げ、その場から立ち去った。


「まさか子どもを誘拐することになるなんて。でも仕方がありません。どこか安全なところにしばらく匿ってもらって、少し日を置いてから両親に返しに参りましょう。」


挿絵(By みてみん)


 翡翠は大きな修道会を訪れ、修道女ネフリティカと名乗り、理由を話して赤ん坊を1週間だけ匿ってもらうことに成功した。


「次は食器の手配ですね。王様とお妃様は東洋の預言者の言葉を聞いてくれるでしょうか?失敗するわけにはいかないので、分身に一芝居打ってもらいましょう。分身壱、背中に翼を付けて顕現し、王と王妃に会って用件を伝えなさい。」



挿絵(By みてみん)


「王よ、王妃よ、一人娘がいなくなってさぞや心配であろう。しかし案ずることはありません。娘は神の御許に安全に匿われています。来客用の金の食器一式をあとひとつ、いや念のためあと5つ用意すれば、娘は汝らのもとへ返しましょう。」


「本当でございますか。」


「ええ、そして食器が揃ったら妖精全員を宴に招待するのです。決して粗相がないように。念のため、その宴の席に私が赤ん坊を抱いて現れましょう。私の手から受け取った赤ん坊に悪さをする者はいないはずです。」


最初のミッションはそれほど難しくなさそうですね。でも、青水はどんな動機からこの物語への介入を望んだのでしょう?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ