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プロローグ

 少女の人生は、魔法によって変わった。

 この世界には極稀に魔法という奇跡の力を扱う"魔女"と呼ばれる存在がいる。そして、彼女もその一人だった



「魔法なんて……大っ嫌い……」


 しかし、他の"魔女"たちと違い、彼女は全てを燃やし尽くすような力も、あらゆるものを氷に閉じ込めて沈黙させる力も、一つも持ってはいなかった。


 できることは、足の骨が折れてしまいそうなくらい無理やり付けられた枷を鳴らすことだ。優しさなんて欠片も無い石の床で寝返りをうつことも、二日は何も食べていない腹を鳴らすことも出来る。


 けどきっと、少女が"魔女"でなければ、それ以外の人間らしいほとんどをすることが出来た。少なくとも、二年もこんな動物以下の扱いを受けずに済んだ。


「魔法なんていらない、いらないから……」


  その先の言葉が出てこない。今の彼女が魔法に奪われてしまったものはあまりにも多くて、どれを欲していいのかもわからなかった。


 魔法が彼女にしてくれたことは、売り物としての箔に"魔女"を追加したくらいのものだ。


 魔法が無ければ。"魔女"じゃなければ。


 暗がりの中で、傷だらけの自分の腕を見た。見てしまったが故に、薄れていた痛みも、この傷がついた時の記憶とともに蘇ってしまう。


 その時、少女の中で何かの糸が切れたように感じた。


 枯れてしまった涙が溢れてくる。吐いた息は、血が混じって熱かった。


 涙を流し、肩を一つ振るわせるごとに、少女の体から黒い影が漏れた。


 やがてその影はゆっくりと集まり、徐々に形を成していく。


「えっ……?」


 気づいた頃には、少女の近くに影の化物が立っていた。その化物を見ていると、胸の中の黒い感情が渦巻いて吐き気がする。


 直後、耳をつんざくような轟音がして、少女は突然見えた光に目を眩ませた。


 太陽の光だ。もう忘れかけていた青空だ。


「おい! ガキが逃げっ……」


 少女の背後で、影の化物によって死体が一つ出来上がった。


 ああ……。やっぱり嫌いだ。魔法なんて、大っ嫌いだ。

 

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