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2話 魔法命名士の誕生 ~風魔法『シャルロッテ・スタジアム』~

 王城が見えてきた。

 石材で作られた立派な城だ。

 憧れていたファンタジーらしさ全開の城、それが今目の前にある。

 本当ならテンションが上がるところであったが、今はそれより不安が勝る。


 俺が王城に呼ばれたきっかけは、ここフーチェン王国の制度によるものであろう。

 この国では、魔法が使えるようになると王城に呼ばれて、治安維持のための魔物討伐部隊へと入隊することとなる。

 昨日、イースという少女と出会い協力して魔法を放った。

 その際に駆け付けた住民が国に連絡したのであろうが、張本人であるイースは帰ってしまっていた。

 だが俺は魔法の名前を考えただけ、自分では使えないわけで、魔物と戦うことはできないだろう。

 どう説明しようか、揺れる馬車の中でずっと考えていたが結論が出ぬまま、城は目前に迫っていた。


「タカミさん、到着しました。さあこちらへ」

 大柄な良い兵士に外へと誘導される。

 馬車から降りると、目の前には大きな外門が立っていた。

 近くで見ると凄い迫力だ、少しテンションが上がってきた。


 兵士が門番に声をかけると、門番が小さなカギを取り出した。

 門とのサイズ感が違うが、それで空くのか?

 いや、魔法を使うんだな!カギを通じて魔法を使用すれば、この大きな門も軽々と開けることができるというわけか!

 期待を胸に兵士の行動を眺めていると、門の隅にあった小さなドアノブにカギを差し込んだ。

 ガチャ

「さあこちらですー」

 大きな門に似合わない一般的なサイズの隠し扉が開いた。

 非常口かよ…なんだか肩透かしの多い世界だ。


 中に入ると、大きな庭園が広がっていた。

 だが、寂れた印象を受ける。わびさびというよりは手入れが行き届いていないというか…

「がっかりしたでしょう?」

 兵士が自嘲気味に話す。

「い、いやーそんなことないですよ」

 失礼のないように答えたが本心はその通りだ。

「もうこの王国は限界なんですよ…」

 寂しく呟く兵士。

 事情を聞き出そうと思ったが、ただならぬ様子に尻込みしてしまい沈黙が流れる。


 気まずい空気のまま宮殿へ向かっていると沈黙を突き破る元気な声がした。

「師匠ー迎えに来たよー!」

 イースだ!

 俺はほっとした。

 彼女がいれば事情を説明できるし、なにより再会が嬉しかった。

「昨日ぶり!イースも呼ばれてたんだな!」

「違う違う私が呼んだの!師匠のことパパに紹介したらすぐに連れてこいって言うから!」

 ん?話が嚙み合わない。キョトンとしてるとイースは続けて

「言ってなかったっけ、私国王の三女なのよ!」

 ええ!?それらしい振るまいもなかったから全く気付かなかった。

 まさかの告白に慌ててひざまずき、詫びの言葉を述べる。

「これはご無礼を致しました」

「もうーそんなの気にしなくていいから、私が弟子になったんだから師匠は態度変えないで!」

「さ、パパのところに向かいましょ」


 宮殿へと入り、王様のいる部屋へとたどり着いた。

「失礼いたします」

 兵士を先頭に俺とイースも部屋へと入る。

 部屋の中では、国王が立って待っていた。

「タカミ殿、突然の招集に応じていただきありがとうございます。フーチェン国王のジークと申します。さあさあお座りになってください」

 柔らかな口調で席に案内される。国王にしてはだいぶ腰が低い。


 一通りこちらも自己紹介を終えると、話が本題に入った。

「さて、娘から話は聞いております。イースに強力な魔法を教えてくださったと」

「いえいえイース様の才能あってのことでございます。」

 横でイースが嬉しそうに微笑んでいる。


 一息置いて、国王は少し声を張って話し始めた。

「その指導の才能を見込んで頼みがあります。あなたには討伐部隊のメンバーに魔法を指導して頂きたい。」

「お、俺がですか!?」

「はい、この国を救って頂きたいのです。そのための役職は用意しましょう。」

 急な提案だ、見ず知らずの俺をそんなあっさりと役職につかせてよいのか?


 だが受け入れたい提案ではある。

 俺の憧れであるファンタジー世界の生活にに魔物との戦闘は欠かせない。

 そのためには軍に入りたいが、魔法が使えない俺に戦闘は難しい、魔法の指導役としての入隊は願ってもないチャンスだ。

 あとの問題は…魔法に名前を付けるやり方がイース以外でも通用するかどうかだ。嘘吐きとなってはこの国で生きていくのは難しくなるだろう。


「一つだけ懸念があります。私指導経験が無いもので軍の方にもイース様同様に指導ができるのか、確かめたい。それがうまくいけばそのご提案を喜んでお受けいたしたいと考えております。」

「おお!真面目ですな。そしたら誰か魔法を使えるものを連れてきましょう。」

 イースが元気よく手を挙げる。

「そしたら、私のメイドに教えて欲しいわ!私と同じでまだ魔法が未熟だから!」

 イースの提案で話が進み、そのメイドに教えることになった。


 そのメイドを庭へと呼んだ、箒とちりとりを持っており屋敷の掃除中だったようだ。

 彼女は淡々と自己紹介を始めた。

「よろしくお願いします。メイドのエイマーです。魔法を見せて欲しいとのことですね。」

 ずいぶんクールな方だな。

「タカミといいます。実は…」

 これまでの経緯を説明し、実際に魔法を見せて貰うことになった。

「それでは見せます。」

 箒を握って掲げ、目の前の木に照準を合わせる。

 杖の次は魔法の箒か!ファンタジーらしくていいねえ!


 そのまましばらくの間沈黙するエイマー、すると

「すいません。普通の箒と間違えました。」

「もーまた間違えたの!ほんとおっちょこいなんだから!」

 あらら、クールなイメージだったが天然さんらしい。


「ま、まあ普通の箒でも、これくらいの軽さであればかっと飛ばせます。」

 エイマーは、慌ててちりとりの中から丸めた紙を取り出し、再び箒を構えた。

「ふっ!」

 丸めた紙は手元からふわっと2m程上に浮かび上がる。

 投げた方がまだ飛びそうだが、風の魔法ではあるな。


「じゃあ師匠、強力な魔法教えてください!」

 イースが期待の目を向けてくる。

 さて、風魔法はどうしようかな。

 いざ考え出すと難しいものだ。強力でかっこいい名前の魔法を付けたい。

 だが昨日の炎魔法をジッポーと名付けた以上、オリジナリティも欲しくなっている自分がいる。


「丸めた紙…強風…かっ飛ばす…」

 悩みながら先ほどの魔法を思い返していると、昔の思い出が頭に思い浮かんできた。

 そこは、強風吹き荒れる野球場、外野に飛んだ白球が強い海風によって軌道を変え、プロの選手が落球してしまうシーンだった。

 あのくらいの強風吹き荒れる魔法…そうだ!


「よし!じゃあ次はこう叫びながら魔法を使ってみてくれ」

 なんとなく口元を隠しつつ、エイマーに耳打ちをする。

「わかりました。いきます。」

 再び箒を構えるエイマー

 俺の異世界人生が軌道にのるかはこの一振りにかかってんだ、かっ飛ばしてくれエイマー!

「シャルロッテ・スタジアム。」

 掛け声と共に目の前で強風が吹き荒れる。

 その風は徐々に円形となり、俺ら3人を取り囲んだ。

 あまりの強風に庭の草や枝、小石が飛んできたが幕を張ったかのごとく、円の中には入ってこない。

 エイマーが箒を下すと、風は止んでいった。


「やった成功だ!」

「さすが師匠!」

「すごいですね。」

 3人で喜びを分かち合う。

 これで分かった。この世界では魔法に名前を付けると強化される。

 これが分かれば俺でも戦力になれる。魔法に名前を付けて魔物と戦うんだ!


 無事に魔法の強化に成功した俺は、国王の元へと報告に戻った。

「おお、タカミ殿。 どうやら成功した様子ですな。」

「はい無事に成功しました。そのため先ほどの提案お受けいたします。」

「ありがとう!ではよろしく頼みますよ。」

 握手を求める国王に対して、手を出しつつもう一言付け加える。

「ただ、一つだけ条件があります。」

「なんだね?」

「私に頂ける役職の名前を、『魔法命名士』とさせてください。」

 先ほどの一件で魔法に名前を付けることにハマった俺は、この条件を出した。

 自分が名付けた魔法が目の前で具現化してくれる。

 ファンタジー世界を楽しむにあたって、こんなにワクワクして楽しいことはないだろう。

「おお、それだったら問題ない。もともとタカミ殿用に役職を新設する予定であったからな。」

 承諾を受け、改めて国王と握手を交わす。


 こうして『魔法命名士』となった俺は、このファンタジー世界の楽しみ方を見つけたのであった。

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