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閑話休題

1000アクセス突破!?

ユニークに到っては200人越え!?


びっくりしました…。

嬉しい限りです。



次ページから本編です。


シンヤパパ初登場!!


1923年 初夏の午後 エスティリア共和国首都ダレン



煙草を燻らせ、両手に大量の日用雑貨や食料品の入った紙袋を抱えながら歩く男性がいた。


逆立った黒髪、肌は若干黄色を帯び、精悍な顔立ちは孤高の狼を思わせる。


男性の名は、シンヤ・ササキ。


エスティリア共和国国防海軍に籍を置く飛行中尉だ。


たまたま今日、短いながらも貴重な休暇が取れた彼は、『暇なら買い物にでも行ってちょうだい』という愛妻の言葉により現在こうしているわけである。

もともと、こういう事に嫌悪感を感じない彼は使い走りのようなこの行為を楽しんでいる傾向がある。



「…よっと。ただいま」


「お帰りなさい。早かったわね」



自宅の玄関を片脚で開けた彼を出迎えたのは、愛妻であるフィーナ・ササキ。


茶色の長髪を首の後ろで纏め、柔和な顔立ちが特徴の女性だ。


余談だが、何も特別な事はしていないが両名とも30歳を越えているのにどう見ても20代で通じる容姿をしている。


強いて挙げるなら、夜の有酸素運動が盛んだとでも言っておこう。


「結構、量が多かったな。ずっと持ってたから腕が痺れちまった」


「大変だったわね。…ところでシンヤ。“約束”は?」


フィーナが指差したのはシンヤの口元にあるもの。


それを受けて彼は『しまった』という表情をした。


「…済まない。忘れてた」


そう言いつつ、シンヤは閉めたばかりの玄関を開けて外の地面に煙草を捨てて踏み潰した。


「もう…。吸っても構わないけど、吸うなら外でね。部屋に臭いが移っちゃうわ」


「悪い。今度からは気をつけるさ」


「いっそのこと禁煙してみたら?」


「…フィーナ。分かって言ってるだろ…」


悪戯っぽく微笑むフィーナに対しシンヤは苦笑を返す。


彼がこれまで禁煙しようと思い至った事は何度もあった。

だが結局、守られずにここまで来てしまった。


シンヤの言葉を借りるならば『苦痛になることはするもんじゃない』だそうだ。

「…ところで、アレックスは?」


「あの子なら今しがた学校から帰って来たところよ」


「…様子はどうだった?」


「…何時もと同じ」


その言葉にシンヤは溜息を零した。

何も呆れ返ったからではない。

自分の一人息子が不敏だったからだ。


半分とはいえ倭国人の…東洋人の血を受け継いでいるというだけで、この国では白い目で見られる事が多かった。


「…そんな顔するもんじゃないわシンヤ。折角の良い男が台なしよ?」


「…酷いか?」


「かなり」


そう言われて更に肩を落とすシンヤにフィーナは彼の頬をぺちっ、と両手で挟む。いきなりのことにシンヤは驚き、自分より頭ひとつ分低い愛妻を見下ろした。

「ほらそんな顔しない。分かってた事でしょ?苦労するって。…でも私は両親から反対されてもあなたと結婚した事は後悔はしてないし、アレックスを産んだ事も後悔なんかしてない。…シンヤだって同じでしょ?」


「あっ当たり前だろ」


その答えに彼女は華が咲いたように笑い返す。


「だったら笑って?じゃないと私もアレックスも不安だわ。あなたが笑うと私もアレックスも嬉しい。だから…ね?笑って?」


彼女には敵わないとばかりにシンヤは笑った。フィーナに頬を挟まれているため笑顔が強調される。


「これで良いか?」


「んっ。よろしい」


そう言って彼女はそっとシンヤの唇に自分のそれを重ね合わせた。

シンヤも眼を閉じて彼女の温もりを確かめる。


いつまで経ってもお熱い夫婦である。


「…ありがとう。元気出た。…さて、と。アレックスは部屋か?」


フィーナが頷くのを確認して彼は息子の部屋へ向かった。

去り際に愛妻の頬に唇を落とすのを忘れずに。


二階に上がったシンヤは一室で歩みを止めて扉をノック…しないで扉を開けた。


「アレックス、入るぞ?」


昼間なのにカーテンを引いた部屋は薄暗かった。

勉強道具が散乱した机の隅には飛行機の模型が飾られている。


その部屋の主であるアレックス・ササキはベッドに俯せの状態で寝転がっていた。


「…おーい。アレックス?…生きてるか−?」


「…勝手に殺さないでよ」


悪戯まじりの問い掛けに答えたアレックスの声変わり前の声は高いながらも酷くか細く、傍目に分かるほど落ち込んでいる。

その息子の様子に気休めだと分かっていながらもシンヤは窓に歩み寄りカーテンとガラス窓を開けて空気を入れ換えた。


「鬱な空気溜め込むと自分もおかしくなるぞ?」


「…分かってるよ」


変化が見えない息子に溜息を零しながらシンヤはベッドの脇に腰を下ろした。


「…父さん…仕事は?」


「んっ?ああ。休暇が取れたんだ」


「…そう」


そう言うとアレックスは再び口を閉ざした。

会話のキャッチボールが出来ないことにシンヤは自分の頭を掻いた。

これでは往々と同じ所を行き来するのと同義。


(果てさて…どうしたもんか…)


途方に暮れたシンヤが部屋を見渡すと机の上に飾ってある飛行機の模型に目が止まった。


「…これ、まだ持ってたのか?」


「当たり前でしょ。父さんがくれたんだから」


この模型はシンヤが軍務の合間の暇な時間に手慰みにと作った木製の模型である。


久しぶりに手に取ると作り始めた頃の不器用さが滲み出ているざらついた感触がした。


しばらく模型を手に取っているとシンヤにある考えが浮かんだ。


「…なぁ、アレックス?」


問い掛けにアレックスは視線を父に向けた。

そのシンヤの表情は実に晴れやかなものになっている。


「空、飛んでみないか?」




「…ねぇ父さん。大丈夫なの?」


「大丈夫大丈夫…たぶん」


呆れたような溜息を吐いた息子の頭をシンヤは乱暴に撫でた。


「ちょっ、止めてよ!」


怒気の混じった声など何処吹く風という感じでシンヤは自分の所属している部隊−第13制空戦闘航空隊−が世話になっている飛行場の滑走路を小走りで駆けて行く。


それを必死に追い掛けくる息子に微笑みを浮かべながらシンヤは自分の愛機が置いてある格納庫の前で足を止めた。


やっと追い付いたアレックスは肩を激しく上下させ肺に酸素を送り込んでいる。


「ちょっと此処で待ってろ。飛行許可と準備してくるから」


その言葉を聞きながらいまだ息切れが治まらないアレックスはなんとか頷いた。

息子の様子に苦笑を浮かべながらシンヤは許可を得るため司令部がある建物へ入って行った。




やっと息切れが治まったアレックスは何時の間にか扉が開いていた格納庫の中にあるものに視線が釘付けとなった。


それは試作段階にあるが、実戦配備が近くなった隼風と呼ばれる戦闘機。

倭国と共和国の共同開発によって生み出された戦闘機だ。


これまで主流であった、水上機や戦闘飛行艇。

さらに複葉機だった世界から離脱した全く新しい水上運用を考えない設計。

単葉機と呼ばれる構造の飛行機だ。


全ての無駄を排除した新しい設計。


すらりとした胴体。


鈍く輝く三枚のプロペラ。


この飛行機にアレックスは一目で見惚れた。



「こらっ!危ないぞ」


そう言われてひょいと軽々と持ち上げられるアレックス。

何時の間にか機体に近付いていたようだ。


「全く!どうしてこんな所に子供が」


「オリビア副長ぉ〜。どうしたんすか」


いきなりの大声に何事か、と近くにいた兵士達がぞろぞろと近寄って来る。


「いや、この子供が格納庫に入り込んでてな。坊や、どっから入って来たんだい?」


「えっ?あのっ。父さんにここで待ってろ、って言われて…」


「父さん?…もしかして坊やは、シンヤの息子か?」


自分の父親の名前にアレックスは微かに頷いた。

その様子に彼−クラウス・オリビア中尉−は納得したように頷いて見せた。


「それは悪い事をしたな。名前は確か…アレックス君だったかな?」


「うん」


心細げな返答にクラウスは苦笑した。


「心配しなくても良いぞ?おじさんも此処にいる皆もお父さんの仕事仲間だ」






「えっと…これは何事?」


飛行許可を貰ったシンヤは飛行服に着替え飛行帽と飛行眼鏡を手にして戻ってくるとそこで見たのは自分の部隊の隊員達と戯れる息子の姿だった。


しかも久々に見る屈託の無い息子の笑顔に幾分か心の荷が下りたシンヤだった。


近付くとシンヤの姿に気付いた部下の何人かが敬礼しシンヤもそれを返した。


ちょうどアレックスを肩車している親友であるクラウスがシンヤに気付いて振り返る。


「遅かったなシンヤ」


「許容範囲だろうがクラウス。…ほらアレックス。あんまり髪掴むなよ?おじさんハゲちまうぞ」


その言葉に笑い出す周り。


苦笑しながらクラウスはアレックスを下ろし心配そうに自分の髪に触れた。


「まあ大丈夫だろ。俺もまだ若いしな」


「少しは気にしろよ。三十過ぎたら嫌でも後退するぞ」


更に広がる笑い声。


そんな中、クラウスはある事をアレックスに聞いた。


「なあアレックス君。君は大きくなったら何になりたい?」


「父さんと同じパイロットになる」


当然だとでも言うような解答。


名指しで指名されたシンヤは照れ臭そうに鼻を掻いている。



「さてと、飛行許可も貰ったからなそろそろ行くか。お前達もだ!直ちに離陸準備!!」


了解の声を響かせ散って行く部下達に目を遣りながらシンヤは息子を抱き上げて愛機へと向かった。



操縦席に入り込み息子を膝に乗せ、アレックスごと安全帯で固定する。


「エンジン回せ!!」


整備兵がプロペラを回しエンジンが動き始める。


プロペラが高速回転し始め、しばらくした所でブレーキ解除し格納庫を出た。




快調なエンジン音が鳴り響く操縦席。

高度600mでシンヤは風防を後ろへ滑らせた。


ビュウビュウと音を鳴らし風が操縦席へと流れ込んでくる。


「アレックス、下見てみろ!!」


声を張り上げて息子に伝えたシンヤは若干、機体を斜めにした。


その言葉に恐る恐ると眼下を覗き込むアレックス。


アレックスが見た光景は生まれて始めての物だった。


眼下にあるのは、何も遮ることなく見える光り輝く海。


言葉を失っている息子を見ながらシンヤは操縦捍を引き寄せ、更に高度を上げる。



到達した高度に広がっている光景に再び言葉を失っているアレックス。


「…綺麗…」


アレックスは我知らず呟いた。


目の前に広がるのは果てしなく続く雲海。

あまりの光景に言葉を失っている息子にシンヤは苦笑を浮かべた。


「父さん!!」


突然の息子の声にシンヤは驚いた。


「どうした!?」


「僕、絶対にパイロットになる!!」


いきなりの宣言に呆気に取られるシンヤだったが、彼自身の人生で一番の自然な笑顔が顔に浮かんだ。


そして彼は何も言わず、ただ息子の頭を乱暴に撫でた。


「よし戦闘機動やるぞ!舌噛まないように気をつけろよ!」


「うん!!」


そう言ってシンヤは開けていた風防を閉じ、隣を飛んでいたクラウスに襲い掛かった。


『いきなりだなシンヤ!』


「たまには息子にかっこいい姿でも見せたくてな!」


『後ろを3秒取られたら撃墜判定だからなシンヤ!!』


「やれるもんならやってみやがれ!!」


激しく攻撃位置を入れ代わる戦闘機。


そんな場所に似合わない高い声の歓声。


燃料の許す限り乱舞は続いた。




この三年後、シンヤたち第13制空戦闘航空隊は中央海戦争へと出征する事になる。



その後の事など知る由も無い、短いながらも平和な一時だった。




第11話に続く

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