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逢い見る

真夢「え……私が?」

旭「あぁ。もしかして嫌だったか?」


 放課後、龍一には教室で待っていてもらい、昨日と同じように教室へ来た真夢に龍一と話した内容を伝えた。

 当然乗ってくるものだと思っていたのだが、真夢は乗るどころかちょっとためらっているようにすら見えた。

 あれ……もしかして龍一って本当に避けられてるのか? 未知の世界で見ず知らずの奴にすら特攻するような真夢が?


真夢「あ、嫌ってわけじゃなくて。ただその龍一って毎日のように旭と一緒に居る人でしょ? あの人は隠してるつもりかもしれないけど、私のこと避ける人と同じ目で私を見るときがあるから多分私のこと苦手だと思うんだけど行ってもいいのかなってちょっと思っちゃって……。あ、でも旭が誘ってくれるのは嬉しいからできれば行きたいのも本当だから――」

旭「そういうことなら問題ないからついてきてくれ。むしろ、これは真夢にとってこれ以上ないいい機会なんだ。考えてみろ、俺以外の友達を作るチャンスなんだぞ?」

真夢「――っ! 友達……」


 その一言でどうやら乗り気になってくれたようだ。見るからにイキイキとしている。これが空回りしなければ最高なんだけどなぁ……まぁ無理だろうなぁ……。

 それに、龍一にも悪いことばかりじゃない。真夢の良くも悪くもなんでもかんでも話す性格はあいつの女性恐怖症を直すのにも一役買ってくれるだろう。大分荒療治にはなるけど。

 ……あれ? よくよく考えたらこのメンツって俺の負担めちゃくちゃ大きくないか? そりゃ言い出したのは俺だけど……まぁ、先行投資だとでも考えておくか。


_____


龍一「え……っと、始めまして、でいいのかな? 俺は総角龍一(あげまき りゅういち)っていうんだ。百目鬼さんのことは旭からよく聞いてるよ」

真夢「ど、どうも。えっと、真夢でいいから。苗字で呼ばれると、なんか距離があるような気がするし。あ、でも龍一が嫌ならどっちでもいいんだけど、龍一はいい奴過ぎるって旭から聞いてるし私が無理に言ったからそれで仕方なくとか言われても私だってちょっと居心地が悪いからできればって話なだけだから――」


 なんとか教室まで真夢を連れてきて、三角形のような形で近くの椅子に座りながら簡単な自己紹介を始めたが……

 ……気まずい。二人の間に流れている空気がとてつもなく気まずい。なんとなく二人とも俺を間に挟もうとして微妙に距離を取っているような気もする。

 それに龍一は表面上は取り繕っているように見えるが緊張が隠しきれていないし、真夢は真夢で俺以外の話し相手ができそうな状況に緊張しながらもどこかソワソワしていて悪癖が出てしまっている。なんならまだ喋っている。

 これは……今この二人を合わせるのは失敗だったかな……ってそんなことを考えている場合じゃなかった。このままだと龍一が真夢にやられる。


旭「真夢、そろそろ帰ってこい。龍一が引いてるぞ」

真夢「あ……ご、ごめんつい……」

龍一「いや……旭から聞いてたから……うん……大丈夫だよ……」


 ……どこが大丈夫だ。いつもであればもう少しうまく取り繕えるだろうに、今は真夢にすら気を遣わせる程度には下手くそだ。龍一本人もそのことに気づいているのか、申し訳なさそうに目を伏せている。

 こんな調子で本当に大丈夫なのか? まぁもうこのまま進めるしかないんだけど……どうにも不安だ。


旭「あー……それで本題なんだが、真夢はヒプナゴジアって聞いたことあるか?」

真夢「ひぷな、ご……? えっと、ごめん聞いたことないかも。なんかの授業で習ったやつだっけ? でも私そこまで頭いいわけじゃないからちょっと覚えてなくて、もし勉強会とかなら二人に迷惑かけちゃうかも――」

旭「そういうわけじゃないから心配すんな。ヒプナゴジアってのは昨日の夜に真夢と会った夢の世界……って、そもそも真夢は覚えてるのか?」


 そういえば普通は起きて三十分もすれば忘れるって龍一が言ってたな。ここで真夢が覚えていないと言えばこうして呼び出した意味がなくなる。

 だが真夢は俺の言葉にキョトンとしていて……これはどっちだ? 覚えてるのか? それとも俺が言っていることの意味が分からないのか?


真夢「……あそこ、そんな名前だったんだ」

龍一「っ! 百目鬼……真夢さんも覚えているのか!?」

真夢「ぉ……お、覚えてるけど……ねぇ旭、あの夢って覚えてたら変なの? 私もう半年くらい通ってるんだけど、今まで向こうで知り合いに会ったことなくて……」

旭「真夢に知り合いって……い、いや、なんでもない。それに関しては龍一の方が詳しいからそいつに聞いてくれ」


 今度は攻守交替。龍一が目をキラッキラにしながら身を乗り出して、その勢いに真夢が珍しくタジタジになっている。この調子で絶好調な二人をぶつけたらどうなるのかちょっと気にはなるが、そんなことしたら多分この二人は二度と仲良くなれない気がするからやめておこう。


龍一「は、半年だって!? でも真夢さんは毎日のように教室の外に来てたけど、何日も眠り続けたりしたこともないのか!?」

真夢「えぇ……ないけど……なんでそんなこと聞くの? なんかこの人怖いんだけど」

旭「まぁちょっと待ってくれ、結構大事な話だから。怖くてもちょっと我慢してくれ。龍一ももうちょっと落ち着け」

龍一「落ち着いてるって! それより今は真夢さんの話を詳しく聞きたいんだ!」


 真夢が俺の後ろに隠れようとして椅子を動かしてくるのを止め、元の位置に戻す。確かに圧は凄いけど悪い奴じゃないんだ。こんな風になってるのは今日だけなんだ。

 だからそんな不安そうな顔でこっちを見ないでほしい。なんか悪いことをしている気分になってくる。


龍一「いいかい真夢さん、ヒプナゴジアっていうのは――」


 そこからは昼休みに俺が聞いたような龍一の事情や、ヒプナゴジアと夢幻病のことについての説明が始まった。

 真夢は終始意味がよくわかっていないような、どこかキョトンとしているような顔で龍一の話を聞いていた。だが龍一は興奮しているせいかそのことに気づいている様子もなくそのまま最後まで話しきった。


真夢「――えーっと……つまり、そのヒプナゴジアに行ってるってことは、私も夢幻病だっていいたいってことでいい?」

龍一「はっきりとは言えないけどね、でもその可能性が高いと――」

真夢「いや……ないでしょ」

旭「……え?」


 龍一の言葉を、何言ってんだこいつみたいな表情でぶった切った真夢に、思わず声が漏れた。龍一もポカンとしてしまっている。


龍一「な……ないってまだ言い切ることはできないんじゃないか?」

真夢「えー……私も夢幻病ってのはニュースとかネットでしか知らないんだけど、あれって眠った人がそのまま起きなくなる病気でしょ? 私は普通に起きれてるし、なんなら土日も目覚ましかけてるからそんなこと一回もないんだけど……」

龍一「……」


 ……確かに。

 龍一は身近に何人も罹患者がいる上に、医者とかからも詳しく色々と聞いているようだった。そのせいでヒプナゴジアに行っているから夢幻病だっていう思い込みがあったんじゃないか?

 つまり夢幻病の患者はヒプナゴジアに行くけどヒプナゴジアに行っているから夢幻病とは限らなくて、ヒプナゴジアに行っているかつ眠り続けていれば夢幻病ってわけで……?


旭「……なんか、わけわかんなくなってきたな」

真夢「え、今のそんなに難しい話だった? ってごめん、今の嫌な言い方だったよね。そういうつもりは全然なくて、むしろどこが分からなかったのか教えてほしいっていうか――」

旭「あー……いや、いいんだ。真夢は悪くない……」


 龍一もフリーズしてしまっている。そりゃ、今までどれだけ夢幻病について情報を集めていても真夢みたいな状況の奴と話す機会はなかっただろうしな。


龍一「……真夢さん」

真夢「えっ……は、はい……なに?」

龍一「連絡先、交換してもらってもいい?」

真夢「えっ……え……? え、いいの!? むしろこっちからお願いしたかったくらいっていうか、してくれるならそれ以上にありがたいことはないんだけど私ちょっとメッセージが多いからそれが嫌じゃないかとか先に聞いておきたくて――」

龍一「全然構わない! むしろこっちからも色々と聞きたいことがあるからそれぐらいは全然大丈夫だよ!」


 ……なんかよくわからないが一段落ついたらしい。俺を放って二人でずいぶん距離が近くなっている。

 いやまぁいいんだけど、なんか腑に落ちない。龍一に会うのを足踏みしてた真夢を見て、今回だけでも俺が頑張らなければと勇んでいたのが遠い昔のように思える。


旭「……じゃあ俺はこの後用事があるから帰っていいか?」

龍一「できれば旭の話も聞きたかったんだけど……少し遅らせることとかできない?」

旭「悪い、あんまり遅くなるとな。なんかわかったら明日にでも教えてくれ」

真夢「私、旭がいなくて大丈夫かな。また変なこと言ったりしたときに旭がいないと止められなくなっちゃうかもしれないんだけど、あでも旭の用事を止めたいとかそういうことじゃなくてまた今度そろった時でも遅くないんじゃないかと思うんだけど――」

旭「……大丈夫だ。俺の見立てでは二人は相当気が合う。だからゆっくり話してこい」


 思わず呆れたような言い方になってしまったが、少しは納得してくれたようだ。

 さっきあれほど二人でハイテンションになっておいて何をいまさら不安になっているのか。というか、すでに龍一の方はかなり乗り気みたいだし、帰るっていう方が困るだろ。

 それにここで二人の仲が深まってくれでもすれば、真夢の矛先が分散してくれるかもしれない。龍一も、自分の話したい話題の時は人並み以上にテンションが高くなるみたいだし、なんだかんだ仲良くやってくれるだろう。


旭「じゃあ、お先に」

龍一「あぁまた明日な。何か重要そうなことがあればメッセージで送るから」

真夢「また、夢でね。待ってるから」

旭「お……おう……」


 ……少し背筋が凍った。いや意味は分かっているのだが、なんか『逃がさない』みたいな意味に聞こえた。

 ともあれ、荷物を背負って教室を後にする。……少し速足で。

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