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微睡みの底へ

旭「ふぅ……」


 病院を出て、家に着くころにはすでに辺りは暗くなっていた。もう秋とはいえ、最近になって急に暗くなるのが早くなったような気がする。

 自分の部屋に入り、やけに重たいかばんを適当に放り投げる。どうせほとんど使っていないんだからどう扱っても一緒だ。

 おもむろにスマホを取り出す。ホーム画面には超長文のメッセージが一通だけ届いていた。百目鬼からだ。以前、何通も連続で送られると困ると言ったらこうなった。そのときは数時間で通知がカンストしてた。


旭「……どう返信すればいいんだこれ」


 トーク画面の百目鬼からのメッセージには、一番下に『全文表示』というボタンがあった。個人のメッセージでこれが表示されることってあるんだなと変な関心をしてしまった。

 とりあえず目についた内容について少しづつまとめ、それを送信することにする。

 ……龍一にこの画面見せればよかったか? いや、いくら百目鬼とはいえ女子のメッセージを勝手に人に見せるなんてことはするべきじゃないな。


旭「とはいえ、ちょっと疲れて来たな……」


 ベッドに横になり、一応一通り目を通しながらメッセージを作成していく。

 だが今日はどうにも体が重い。メッセージを打つ手も少しずつ遅くなって、瞼もだんだんと重くなって――……


_____


旭「……――ん?」


 気が付くと俺は気に囲まれた場所に立っていた。


旭「なんだこれ、どうなってるんだ……?」


  風が吹いて、それが肌に当たる感触がある。さっきまで外は肌寒さすらあったのに、ここはほどよく暖かい。

 夢……じゃ、ないのか? 服も違うしいつの間にか靴も履いている。誰かに連れてこられた? だがそんな相手に心当たりなどない。

 むしろ、こんな未知の現象には一つしか思いつくようなものがない。アニメやらラノベやら漫画で何度も繰り返し見たものが、自分の身で経験するとこんなに現実味のないものなのか。

 ――これが……異世界か……?

 間違いない。さっきまで自分の部屋にいたのに突然知らない場所に立っているなんて他に理由があるのなら教えてほしい。

 ともあれ、試すことは一つだ。右手を前に突き出す。全身に巡っている何かをそこに集中させ、そこに半透明の画面が浮かぶところを想像する。


旭「はぁぁっっっ!!」


 しかし何も起こらなかった。


旭「……」


 おかしい。確かに体に何か未知の力が巡っているような感覚があったし、なんか起こりそうな予感もした。なのに何も起こらなかった。

 ちょっと不安になって周囲を見てみるが、幸いにも誰もいない。もしこんなところを見られていたら恥ずかしくて俺の冒険はここで終わっていたかもしれない。


旭「サンダー! ファイヤー! アイスキュロス!!」


 続けて思い浮かぶ限りの魔法っぽいものを叫んでみるが、火も雷も亀も出ない。おかしい。こんなはずじゃないはず……。

 その後も念のため誰も近づいてきていないことを確かめながら数十分程色々と確かめてみたところ、何も起こらなかった。ここにきてから体中を巡っている謎の力は確かに感じるというのに。


旭「はぁ……もういいや」


 さすがにこれだけやって何も起こらなければあきらめもつくというものだ。

 ともあれ、ここがどこなのか確かめないことにはどうしようもない。言葉が通じるのか、文化はどのレベルなのか、俺が魔法を使えるかどうかよりも確かめるべきことはいっぱいある。

 その辺から適当な大きさの木の棒と先のとがった石を拾い上げ、近くの木に印をつけて適当な方向へと歩き出す。

 運よく人がいる場所につけばいいが、もし迷った時のため念のためにだ。

 だがそんな不安は当たらず、少し歩いたところで人の声が聞こえてきた。気の隙間からは人工物もうっすら見えてきている。


旭「おおぉ~……おぉ? こ、これは……」


 その後は迷うこともなくまっすぐに歩き、すぐに人のいる場所までたどり着いた。

 そして、そこを歩いている人は地球上では見かけないような三メートルはある人や動物の耳や尻尾の生えている人がたくさんいて、まさに異世界といった雰囲気だ。

 ……なんか、異様に平均身長が高いのと、女性比率が高いような気がするが。あとめちゃくちゃ猫が多い。

 それと、その街の様子で一つどうしても気になることがあった。


旭「……俺の住んでた街と、同じだな?」


 よくよく見れば建物が違っていたりはするのだが、その配置だったり形だったりといった部分が八割方同じだった。

 これではせっかく別世界に来たというのにそれっぽさが薄れてしまう。と思ったが、そこを歩く人たちがあまりに異質でそうはならなかった。

 ひとまず落ち着ける場所を探そうと、記憶を頼りに近くの公園のある場所へと向かう。やけに町中に猫がはびこっているが、気にしなければ気にならない。

 その移動中も、記憶にある街とほとんど同じ景色が続くせいでかなり不思議な気分だった。


旭「着いた……けど、あれ? この公園ってこんなだったっけ」


 その後は最初に迷っていたのが何だったのかと思うほどに何の苦も無く公園までたどり着いた。そしてそこにあった空いているベンチに座ろうと思ったのだが、何か違和感を覚えた。

 その違和感が何だったのかはわからない。ぱっと見は向こうにあったものと全く同じなのに、どこか違うような、そんな小さな違和感だ。

 公園にも猫がざっと数えても数十匹はいるが、それとは違う。だがじっと一つ一つ見ていっても何が違うのかはわからない。


旭「……気のせいか? まぁそもそも建物すらあちこち違うんだから気にするようなものでも――」

真夢「あ、いた! 旭!」


 そちらに集中していたせいだろうか、離れたところからかけられた声に思わず体が跳ねる。

 聞き覚えがありすぎる声。なんなら今日も聞いた声。だがここにいるはずがない。ここはあの世界とは違うんだ。あいつがここにいるはずがない。

 そう思いながらも恐る恐る声の方へ振り向くと、そいつはいた。


真夢「もう旭探したんだよ? いつもはこっちに来ると外の近くにいるのに、今日はいくら探してもいないから何かあったのかもしれないとか悪い想像ばっかりしちゃって、ってこんなに一気に喋ったら困るよね? 今日も旭に落ち着けって言われちゃったし、そのことも寝る前に謝ったんだけど全然反応してもらえてなくてね――」


 間違いない。百目鬼本人だ。百目鬼以外にこんなにマシンガンを撃ってくるようなやつがいると思いたくない。

 まさかこんなところで会うとは思わなかった。しかもその話しぶりからして今日初めてここに来たというわけでもないようにもないように思える。

 そのうちこの世界に詳しい奴でも捕まえて色々と聞いてみるつもりではあったが、知っている奴がいるのであれば話が変わる。だがそれがよりにもよってこいつとは……。


真夢「――でもあっちで私なんかとちゃんと話してくれるのは旭くらいだから嫌われたくなくて、むしろできればもっと仲良くなりたいくらいなんだけどまだ本人に直接言うのは恥ずかしいからこっちの旭の意見を聞いておきたくて……旭? どうしたの?」

旭「……えっ、ちゃんと聞いてるぞ? うん。聞いてる聞いてる」

真夢「……」


 何か間違えたことを言っただろうか。珍しく百目鬼が黙りこくってしまった。

 額に冷や汗が流れていく。今までこんな失敗なんてしたことなかったのに、知らない場所にきて気が動転していたのか?

 と、ともかく何か言わないと……だがこんな気まずい空気になったことなんてないからなんて言ったらいいかわからない……!


真夢「え……えっと、旭……?」

旭「んなっ、ななななんだ? 俺はいつも通りだぞ?」

真夢「旭は……今、ホンモノなの?」

旭「……は?」


 こいつは何を言ってるんだ? まるで俺の偽物がいるかのような言い方だ。いくら俺がいい男だからと言って、偽物が現れるほどなのか?

 だが百目鬼の様子を見るに、どうもそれだけとも思えない。というか、なんか焦っているような……?


真夢「……私、百目鬼真夢」

旭「あ、あぁ百目鬼だよな、もちろん知ってるぞ?」

真夢「昨日ここに来たときは真夢って呼んでくれてた……」

旭「昨日……ここで……? い、いや俺は百目鬼のことはずっと百目鬼って呼んでるはずだぞ?」


 こいつは何を言ってるんだ? 一人で話しすぎたせいでついに妄想と会話ができるようにでもなったのか?


真夢「……い――」

旭「ん?」

真夢「いやあぁぁぁぁぁああああ!!!」

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