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朴念仁

龍一「旭、おはよう。……今日は、大丈夫か?」

旭「あぁおはよう。いや、今日もどうにも調子が悪い……」


 昨日……でいいのだろうか。ともかく、昨日の夢の中で起こったことはあまりにも強烈すぎた。

 向こうに行ってすぐは多少落ち着くことはできたのだが、あの安達という奴のせいで考えることがまた増えてしまった。おかげで今日もこうしてとてつもない眠気と戦っている。


 そもそもあの世界はどういう理屈で動いているんだ? 向こうへ行ける条件も不明だし、帰ってくる条件も不明。その上帰り方まで人それぞれで統一性がないときた。

 安達に関してはあの性格だし、ただ単に覚えていないということも考えられるが、だとすると昨日は何も進展がなかったということになる。いや、向こうの世界を気に入って自分の意志で残っている者がいる、という情報が進展だと思っておこう。


龍一「やっぱり、ヒプナゴジアに行ったせいだったり?」

旭「多分な……向こうも向こうで色々ありすぎてもう……疲れる」

龍一「……それ、行かないようにすることとかできないのか? 一日だけでも休めればかなり変わると思うんだけど……」

旭「あー……わからん。それに、向こうには彩水――昨日言ってた幼馴染もいるからな。毎日行くって約束しちゃったんだよ」

龍一「だからって……ずっとそんな状態が続いたらそのうち倒れるんじゃないのか?」

旭「大丈夫だって。今もせいぜい眠気があって頭がボーっとしてて全身がなんとなく怠いくらいだし」

龍一「どこが大丈夫なんだよ! ともかく、ちゃんと休めるときは休むように!」

旭「……おぉ、」


 ビシッと指を突き付けて、少し怒っているような龍一に思わず座ったまま後ずさる。正直そこまで心配されるとは思わなかった。

 実を言うと眠気と授業中ボーっとしてるのは今までもそんなもんだったし、龍一もその辺は伝わってくれるかな、なんて思って言ってみたものの、ちょっと龍一がいい奴過ぎて後悔している。

 まぁそう言ってくれるような友達がこっちにもいるっていうのは心強い。とはいえ――


旭「心配はありがたいけど、そうも言ってらんないんだよ」

龍一「よっぽどの事情じゃない限りは止めるからね」

旭「いやぁ、昨日向こうに行ったとき、安達太良(あだち たいら)とかいう女に会ったんだよ。そいつがまあ変な奴で――」

龍一「ちょ、ちょっと待ってくれ。今、安達太良って言った?」

旭「あ、あぁ。まぁ名前は呼ばれたくないとかで名乗らなかったんだけどな。彩水が太良ちゃんって呼んでたから……で、そいつがどうかしたのか?」

龍一「いや……ちょっとね……」


 一体どうしたのか、急に難しい顔になって額に手を当てながら考え込み始めた。その間、することもないので昨日買ってきてもらったパンを一つ手に取ってかじる。

 もしかして知ってる奴なのだろうか。だとしたら龍一の周りに夢幻病の奴多すぎるだろ。家族に俺に真夢に安達に……まさかこいつが元凶とかじゃないよな。んなわけないか。彩水が夢幻病になったときには龍一と知り合ってないし。


旭「んで、どうしたんだ?」

龍一「いや……その安達さんって子はもしかして、短めの黒髪で、眼鏡をかけてて物静かな背丈の低い大人しい子だったりする!?」

旭「全然違うな。狐耳が生えてる金髪ロングでモデル体型の、誰にでも馴れ馴れしいギャルっぽい奴だった」

龍一「……じゃあ違うか」

旭「そうとも限らないな。俺はなぜかできないが、あっちの世界じゃ姿かたちも自由に変えられるらしい。まぁ言っちゃえば見た目と名前じゃ確かめようがないな」

龍一「そうなのか……実は去年、俺と同じクラスに同じ名前の子がいて……夏休み頃に事故に遭って入院したまま、滅多に目覚めなくなったらしくてさ。もしかしたらって思ったんだけど……」


 本当に知ってる相手だったのか。だが龍一にはこういったが、安達は魔法を使うことにためらいどころか、どんどん使っていった方がいいといったスタンスだった。ならば龍一の知っている見た目と違っていてもおかしくはない。

 とはいえ、本人だと知ったところでどうしたものかという話ではある。安達は向こうで永住することも厭わないようなことを言っていたし、「お前を心配しているやつがいるから起きろ!」なんて言ったところで意味があるのやら。

 そもそも安達自身がどうやって起きてたのかもわからないとか言ってるしな……。


旭「……まぁ一応、確かめるくらいならしておくぞ? そいつだってわかるようなエピソードとか、あとは元クラスメイトからの伝言とかがあればそれも一緒に」

龍一「エピソードか……そうだな……ちょっと、考えさせてもらってもいい?」


 そういってまたも考え込み始めてしまった。まぁさっきの話からするに、一学期分くらいしか関りもなかったらしいし、そんなもんか。

 しかしこいつもよくやるな。人がいいのは知ってたが、そんなほとんど他人のような奴のことをそこまで気に掛けるなんて、さすが龍一と言ったところか。それかもしかして……


旭「なぁ、そんなに安達のことが気になるって、もしかしてそいつに気があったりするのか?」

龍一「ん? いやいやそんなんじゃないよ。元クラスメイトなんだからさ、普通無事くらい気になるでしょ?」

旭「まぁそうかもしれないが……龍一ほどやるやつはいないんじゃないか?」

龍一「まぁ安達さんとも全く関りがなかったってわけじゃないしね。入学して少し経ったくらいの頃、一度俺に告白してくれたこともあったしさ」

旭「……はぁ?」


 今こいつは聞き捨てならないことを言った。しかもそれをさらっと無関係な俺に伝えるとかいう暴挙もやった。

 なんだ? モテ自慢か? モテ自慢なのか? そんなさらっと流せる程度のことですってか? あーあ、なんかどうでもよくなってきちゃったなー。


旭「もうそれでいいんじゃないのか? その話も、どうせ龍一と安達しか知らないんだろ?」

龍一「いいのかな。もう去年のこととはいえ、俺も断っちゃったしさ」

旭「じゃあなんで俺に話したんだよ。もはやちょっと怖いんですけど」

龍一「だって旭は女子が嫌がりそうなことをわざわざやるような奴じゃないだろ?」

旭「……まぁ、それはそうだけどもな。いいか、龍一。もしそうだとしてもな、簡単に人に言いふらしていいような話ではないってことは覚えておけ。ましてや振った話なんてもってのほかだ。いいな?」

龍一「わ、わかったよ……なんか、旭ってそんなキャラだっけ?」


 龍一がちょっと怯えているようだが、仕方ない。一度はっきり言っておかないといけない話だ。

 ともあれ、聞いてしまったものは仕方ないし、これ以上考えてももっといいエピソードは出てこなそうだし、向こうに行ったときになんとか安達と二人の状況を作って確かめてみるしかないか。


旭「それで、本人確認はそれでいいとして、なにか伝言はあるか?」

龍一「それじゃあ、今度お見舞いに行くって伝えといてもらってもいい?」

旭「お前……いやまぁ、もう俺が関与していい部分じゃないからこれ以上は言わないし、龍一がそれでいいならいいんだけどさ……」


 もし安達が本人で、龍一がお見舞いに行って、そのタイミングで安達が目覚めたとする。安達からすれば自分を振った相手が一年越しに自分を心配して来てくれているとかいう状況だ。龍一、いいのかそれで。

 ていうかよく考えたら、その後安達が向こうに戻ったとして、一番気まずくなるの俺じゃないか? うわ、どうしよう。一気に面倒になってきた。でも伝えとくって言ったしな……はぁ……。

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