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おもくろいせかい

真夢「いっ……しょう……?」

安達「そ! ねぇいいじゃん! 二人もせっかくここに来れたんだったらずっとここにいた方がいいって! あんなとこよりこっちのが楽しいっしょ!」


 至って無邪気に、本当にそれが万人にとってこの上なく良いことであるかのようなその言い方に、とっさに何も言葉が浮かばなかった。安達は、今現実の方がどうなっているのか知っていてこれを言ってるのだろうか。


安達「え、なになに、なんでそんなに怖い顔してんの? めっちゃよくない?」

旭「本気か? 実際、何千万人って人が夢幻病になってこっちの世界に来てるせいで、どれだけ大変な思いをしてる人が――」

安達「じゃあさ、その人たちもみんなこっちにくればいいじゃん? あっちで苦しい思いして生きるくらいなら、なんでもできるこっちに来た方がみんな幸せでしょ!」

真夢「……それは」


 ……ダメだ、根本的に考え方が違う。ずっと話をしていると俺の方がおかしいんじゃないかとまで思えてきそうだ。

 実際、真夢も少し心当たりがあるのか、先ほどから動揺が見え隠れしている。俺はあの魔法が使えないからそれが残る理由にはならないが、使えるのであれば迷うのかもしれない。それだけこの世界は理想の場所でもあるということだ。


 だが、それは肝心なところを考えていない。現実の体がなくなったとして、こっちの世界に残された俺たちはどうなるのだろうか。

 今は眠っている人たちに対して生命維持の処置がとられているが、全員がこちらに来てしまえばやがて訪れるのは緩やかな破滅だ。現実の世界では、誰一人生きられない。


真夢「……わ、私……もうそろそろ起きないといけないから……!」

旭「あ、真夢!」


 そう言い残して目の前から真夢の姿が消える。いつものようにノイズのようなものが入っていない。起きようと思えば、というのは本当にどのタイミングでもいいのかなんて多少場違いな感想が頭に浮かんだ。

 安達もそれを見てあちゃーとでも言いたげな顔をしているが、そこまで落ち込んでいるようにも見えない。むしろ、まるで気にしていないようにすら見える。


安達「あれ、帰っちゃったかー。まぁでも、旭くんは残ってくれるってことは、やっぱこっちの世界の方がいいってことで――」

彩水「太良(たいら)ちゃん、もういい加減にして」

安達「あいたたたた! ご、ごめんごめん! ギブ! ギ~ブ~!!」


 そのまま標的が俺に移り、嬉しそうに俺の肩に手を置こうとした安達を、ようやく彩水が止めに入る。正直、かなり助かった。

 しかし、ここまでしきりにこっちの世界に残らせようと勧めてくる理由がわからない。それに、真夢がいなくなってなんとも思っていなそうなのも疑問だ。俺からすればそのどちらもやっている安達の考えはまるで理解ができない。


彩水「もう……旭は私のだから手を出しちゃダメっていったでしょ?」

安達「ごめんってば~。もう、旭くんったら愛されてるんだから」

彩水「そういうのもやめて、ね?」

安達「っ……ご、ごめん……」


 それにしても、見れば見るほどこの二人の関係が分からない。

 最初は彩水が振り回されているだけかとも思っていたが、さっきまでの二人の様子を見ていると、どうも彩水の方が上であるかのように振舞っているときがあるように見える。

 彩水も強くなったんだな、なんて感慨にもふけりたいくらいだが、もはやそんな余裕もないくらいにこの状況に混乱している。


旭「……あー、真夢が起きる時間なら、俺もそろそろ戻りたいんだけど……」

彩水「あ、そっか。じゃあ太良ちゃんまたね」

安達「え、もう帰っちゃうの? てかもしかして、旭くんもあそこに帰るの!? いいな~! 私も行ってみたいー!」

彩水「うーん……来てもいいけど、じゃあもう無理に旭と真夢ちゃんをこっちに誘ったりしないでね? 真夢ちゃんも怖がってるし、旭には自然にこっちに来たいって思ってほしいから」

安達「え~! ……んー、わかった。彩水っちがそういうならしない。だから行きたい~!」

彩水「しないならいいよ。じゃあ一緒に帰ろっか」

安達「やったー! 彩水っちマジで愛してるー!」


 あ、来るんだ……。というか、ここまでグイグイ来るのに今まであそこに入ったことがなかった方が驚きだ。そういえば彩水は、安達のことを一度も友達とは言ってないような……。

 ともあれ、来る時とはまた違う面子でまた元の場所に戻ることになった。それはいいのだが、それより……


旭「なぁ、さっき自然にこっちに来たいって思ってほしいって……彩水はもう現実の世界に戻る気はなかったりするのか?」

彩水「うん……戻れるなら戻りたいよ。でももう色々試して、結局全部だめで、多分だけど私はあっちには戻れないと思うから」

旭「でも、まだ全部試したわけじゃないんだろ? もしかしたら彩水が帰る方法もまだ見つかるかもしれないだろ。俺だってこれから毎日来るつもりだし、まだわからないだろ?」

彩水「……そう、だね」

安達「まぁまぁ旭くんってば! 彩水っちだって色々あるんだから、そんなに追い詰めないでさ!」

旭「追い詰めてるつもりはなかったんだけどな……」


 まぁそういう風にも見えるのか? しかし、大口を叩いたものの彩水の言う色々が分からない限りは協力のしようもないな。

 だが幸い、一度も目覚めていない彩水とは違い、俺には現実の世界からアプローチする方法もある。今まで考えていたのがこっちの世界からだけだとすれば、まだ彩水が現実の世界に戻ってくる方法が見つかる可能性もある。


 ……そういえば、安達は現実の世界に帰ったことはあるのだろうか。私たちと一生こっちで、なんてことも言っていたし、もしかしたら彩水と同じで一度眠ったきり目覚めていないのかもしれない。

 真夢と俺の目覚め方も違っていたが、安達からも聞いてそのどこかに共通点が見つけられればそこから推測することもできそうなもんだが……。


安達「旭くんったらなーに難しい顔して――あ、ごめんごめん、触らないから。ちょっと喋るだけ、いいでしょ?」

彩水「……まぁ、そういうことならいいけど」

安達「で、なに難しい顔してたの?」

旭「あぁいや、安達って現実の世界に戻ったことってあるのか?」

安達「え? うん、あるよ。でも最後に戻ってから……三か月? 半年? こっちって昼も夜もないからわかんないや! あはは!」


 ……そんなもん、なのか。

 しかし、今まで例外にしか会っていないせいで忘れていたが、そういえば龍一が徐々に目覚めなくなるとか言っていたっけ。安達はその末期症状といったところだろうか。


旭「それで、どうやって戻ったかとか覚えてないか?」

安達「あ、もしかして彩水っちを起こそうとしてる? でもあたしの聞いても参考なんないよ? 自分でもどうやって起きたかわかんないしー、気づいたら起きてたーみたいな?」

旭「はぁ……き、気づいたらか……」

安達「そ。ねー、参考になんないっしょ?」


 まぁ……うん、真夢みたいに起きる方法というか、どうやって起きているみたいなやつがみんなあるもんだと思っていただけに、少し期待外れと思ってしまった。

 というより、真夢は例外側の人間だったのだから……いや、まだ安達からしか聞いていないし、これだけで判断するのは早計が過ぎるのか……。


彩水「ほら、二人ともついたよ」

安達「おー! あたし初めて入る! ね、ここに入ったの自慢していい!?」

彩水「他に誰も連れてこないって約束できるならいいよ? もし破ったら……ね?」

安達「わ……わかってるってー! うん、絶対言わないから!」

彩水「それより、旭はもう寝るんでしょ? 先にそっちまで連れてくから」

旭「あ、あぁ、悪いな」


 考え事をしているうちにいつの間にか着いていたらしい。

 結局考えも何一つまとまらないまま、そのまま彩水に連れられて昨日と同じ部屋のベッドでその日は現実の世界に戻った。

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