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廃墟と

旭「あの、ちょっと――」

夢人「はい、ご用件はなんでしょうか」

旭「……また違った」


 意気込んで公園を出てきたはいいものの、さっきからずっとこの調子だ。彩水のいそうな目的地に向かいがてら聞いて回っているのだが、今のところ俺は人間に会えていない。違いが全くと言っていいほどわからないのだ。

 かれこれ十人ほどは声をかけただろうか。もしこの場所を作ったやつがいるのであればよっぽど手抜きしたとしか思えない。


真夢「あの、私たち今人を探してるんですけど少し手伝ってもらったりできますか。あ、でも無理に手伝ってほしいっていうわけでもなくて、忙しいなら全然大丈夫なんですけど、出来れば手伝ってほしいっていうか、名前に聞き覚えがあれば教えてほしいだけで全然時間も取らないですから」

筋肉質な男「えっと……す、すみません、ちょっと忙しいので……」


 真夢の方も数人には声をかけているが、なんかの勧誘か何かだと思われているのか、それとも普通に避けられているのかはわからないが向こうも向こうで誰からも話を聞けていないようだった。

 ……やっぱこの方法じゃダメなのかな


旭「真夢、真夢、ちょっと来てくれ」

真夢「な、なに? あ、私が全然話聞いてこないから怒ってるんだよね、ごめんね。まだ全然約に立ててないけどもっと頑張って探すの手伝うから帰れとか言わないでほしいんだけど、でもあんまり何もできてないのも本当だし――」

旭「あーわかったわかった。大丈夫だから。少なくとも人間に声かけられてるだけ俺より頑張ってるから」

真夢「そ、そう? ならいいんだけど……」

旭「それより、薄々思ってたけどこの方法じゃ意味ないからやめよう。もう普通に彩水がいそうなところ回った方がいい」


 幸いにもこの世界、少なくとも俺が見てきた範囲では現実の俺が住んでいた町とほぼ同じだ。ならば彩水が行きそうな場所にはいくつか見当もつく。とりあえずそこを回って、その後のことはその後に考えよう。


旭「というわけで、まずは彩水の住んでた家に行こうと思うんだけど……ついてくるか?」

真夢「も、もちろん。あでも迷惑っていうならそういってくれれば邪魔はしないから――」

旭「そんなこと言わないって、大丈夫だから、何もなければ全然着いてきていいから」


 なんだってこうも毎回自分を卑下されるとどうもやりにくい。そのたびに毎回大丈夫だと伝えてるのだが、いまいち伝わっていないのだろうか。


_____


旭「――ついた、ここが彩水の家……なんだけど……」

真夢「……ほ、本当にここに人が住んでるの?」


 その後、彩水が澄んでいた家へと向かったのだが、そこはとても人が住んでいるとは思えないような、一言でいえば廃墟のような場所だった。

 より詳しく言えば、屋根は一部が崩れ落ちていて、壁にはところどころ何かで強くぶち破ったかのような穴も開いていて、入り口は外れて地面に倒れている。

 もしここに人が住んでいるとすれば、その人は町中で色んな人に喧嘩を売って恨まれているか、とてつもない悪霊と同居しているかのどちらかだろう。そして俺の知る限り彩水はどちらでもない。


真夢「えっ……と……す、すごい個性的な家だね? あ、ごめん変な意味じゃなくて、なんていうかその……な、何ていえばいいのかな……」

旭「……いや、そんな無理に何か言おうとしなくていいから」


 とはいえ、俺もこの光景を前に言葉を失ってしまったのは事実だ。なんせ、この彩水の住んでいた家は俺の元々知っているものとは全く違う。少なくともこんなボロ家では絶対になかったはずだ。

 ともあれ、なぜこんなことになっているのかはわからないが探しに来たのだから行くだけ言ってみるしかない。


旭「真夢はここで待っててもいいぞ」

真夢「……う、ううん! ここまで来たんだから行く!」

旭「それはいいけど……本当に大丈夫か? そんな足がガタガタで着いてきて怪我でもしたら大変だろ?」

真夢「だ、大丈夫……」

旭「……なら、いいけどさ、絶対に怪我だけはするなよ? 夢の中とはいえ汚したらどうなるのかなんてわかったもんじゃないし。じゃあ、行くぞ?」


 どうみても大丈夫ではないが、真夢本人がそう言ってついてくるのであればついてきてもらおう。正直、俺一人でここに入っていくのはちょっと怖いし。


旭「……こんにちはー。誰かいますかー」

真夢「お……おじゃまします……」


 扉はないが、一応玄関から中に入って声をかけてみる。だが返事はない。それどころかしばらく人が住んでいたような形跡も、そもそも人の気配も感じられない。

 だが、まだ誰もいないと決まったわけでもない。一歩歩くたびに足元に転がっている何かが崩れていくことに恐怖を覚えながらも少しずつ奥へ進んでいく。さながら気分はダンジョン探索といったところだろうか。


 しかし、進んでいくにつれて生活感や人の気配などより、その荒れ具合が目につく。

 外から見てもかなりひどいものだったが中も相当で、家具などは壊れて破片が散らばっているし、窓ガラスは無事な部分を探す方が難しい。入ってすぐにキッチンだったと思われる部屋もあったが、床一面に食器類が散乱していてとても入れるような状態ではなかった。


旭「これはひどいな……真夢、足元気をつけろよ」

真夢「う、うん……ひぁっ!?」

旭「真夢!? どうした!?」

真夢「む、虫! 虫が! やだ! 取って取って!」

旭「お、落ち着け! 危ないから暴れるな! 怪我するから!」


 言ってる傍からと思ったが、見れば確かに真夢の足に虫が二匹登ろうとして張り付いていた。

 その虫をつまみ上げ、適当なところに放り投げる。夢の中とは言え、さすがにここまでひどい状態だと虫も沸くようになるんだな。

 しかし、真夢も今のですっかり参ってしまったようで、これ以上調べるのは難しそうだな。誰もいないとはいえ、何かしらの手がかりはありそうだと思ったんだけどな……。


旭「真夢、もうここは出よう。他の心当たりも調べたいし、そっちを回りたい」

真夢「む……虫……」


 ……真夢ってこんなに虫が苦手だったのか、もう動くこともできなさそうな真夢を先導し、入ってきた道を戻っていく。

 一応さっきの虫が戻って来ないか見てみるが、投げ捨てた場所からは動かずにこちらを観察しているように見えた。また飛んでくるかもしれないし、そろそろ早く出よう。

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