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プロローグ

彩水「――! 旭! もう、またこんなとこで寝てたの?」


 誰かに呼ばれる声で目を覚ます。

 目の前で夕焼けに照らされた黒髪と空色のスカートがたなびいている。


旭「悪くない景色だな」


 川の近く、ちょうど坂になっているところで眠っている俺をのぞき込むような形になっているせいで、ちょうど純白のそれがよく見える。


彩水「……何見てるの?」

旭「お前のパンツだ! やっぱり彩水は白が似合う。その黒髪とのコントラストで映えるあどけなさといい全くよく似合う。最高だな」

彩水「そ、そう? それはうれしいけど……でもその言い方、またあのおじさんに変なこと教えられたでしょ」

旭「仁叔父さんのことか?」

彩水「そう。旭があんな風にならないか、私心配だよ。バツ3なんでしょ?」

旭「いや、ついこの前バツ4になった。まぁそうならないためにも彩水がずっと俺のことを見ててくれよ」

彩水「……まぁ、そのつもりだけど……」


 照れているのか、ほんのり赤らんだ顔を反らしながらそんなことを言ってくれる。そこまでいじらしい反応をされるとこっちまで照れそうだ。

 俺と彩水はまだ小学生ではあるが、すでに将来を約束した仲だ。

 とはいえ所詮小学生の口約束……と言いたいところなのだが、一体どこから手に入れてきたのか彩水が持ってきた辞書ぐらい分厚い契約書に二人でサインもした。すでにコピーもあるらしい。

 正直そこまでするのかと怖い気持ちもあるが、こんなにいい相手なんてこれから先見つけることができる気もしないし、彩水に対する不満もないので受け入れている。


彩水「それより、こんなところで何してたの?」

旭「未来のために体力を温存してたんだよ」

彩水「未来って? 旭も何かしたいことがあるの? もしあるなら私が最期まで付き合うよ!」

旭「そうだな……まず中学には行くだろ?」

彩水「うん、それは大体の人は行くからね。それから?」

旭「……」

彩水「……? え? 終わり!?」

旭「いいか彩水。未来は無限の可能性があるんだ。今から急いで決めるようなものじゃない。これからゆっくり決めていけばいいんだ」

彩水「へ、へー……ってもう、そんな言葉で騙されないよ!」


 ぷくっと頬を膨らませて怒りをあらわにしてくるが、今更そんなものが効く俺ではない。

 彩水もそれが分かっているのか、早々に諦めて隣に座りこんだ。

 遠くから人の声が聞こえてくる。夕暮れ時ということもあって、まるでこの世界に二人しかいないような錯覚を覚える。


旭「……ずっとこうしてたいくらいだな」

彩水「何か言った?」

旭「大したことじゃない。気にしないでくれ」

彩水「そう? でも私も同じこと思ってたよ?」

旭「……ん? 聞こえてたのか」

彩水「そりゃ、私が旭の言ってることを聞き逃すわけないでしょ? それもこんな近くで」


 ……ちょっとゾワッとした。やっぱり少し恐怖が勝るかもしれない。

 で、でも俺は負けない。全ては俺の未来のため、この程度で彩水に不信感を抱かせてここまで積み上げてきたものをなくすわけにはいかない。純粋無垢に見える微笑みを湛えた彩水を見ながら内心で決意を新たにする。


旭「ふぁ――……」

彩水「あくび? 旭、さっきも寝てなかった?」

旭「寝すぎて悪いことはないだろ? というわけで俺はまた少し寝る。彩水も一緒にどうだ?」

彩水「だ、だめだよ! 私、旭のこと迎えに来たのに!」

旭「そうか。それじゃ、おやすみ」

彩水「ちょ、ちょっと旭!? 旭ってば! ――!」


 声が遠のいていく。微睡んでいた意識が深く沈んでいくにつれ、体がふわふわと浮かんでいくような心地よさに全身が包まれて――

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