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三重の織り姫  作者: 斗鬼悠道
11/13

先見の妖、嘘の病

「変えましょう、私達の未来」

 妖怪『手の目』観言(カンゲン)の両手の朱い目が開き、悠と宗二を今にも飛び出さんとする眼力で見張った。

「化物だ…」

 宗二の怯えとは対象的に悠は、

「観言。見てもらいたい未来があるんだ」

「私も同じ脅威から逃げてきました。然しながら、貴方はその脅威を求めている御様子」

「悠!逃げよう!なんか怖いよ!」

 宗二は部屋から逃げようとするが、観言がテーブルの上のペンを投げ、ドアに突き刺さる。

「そちらからは逃げない方がいいですよ。でも、早くここからは離れるべきですね。未来の話は、その後と致しましょう」

 観言はスクッと立ち上がると、窓を開けて隣の家の屋根に乗る。

「どうぞこちらへ」

 ゆっくりと歩きながらスタスタ進んでいく。

「行こう、宗二。大丈夫、俺がいるから」

「なんか変だぞ。悠」

 不安な顔のまま、観言と悠の後を付いて来る宗二。窓から出ようとするとき、観言が

「カーテンと窓締めて下さいますか?その数秒で未来が変わりますので」

 宗二はカーテンを締め、窓も閉める。屋根を渡りながら進むと、観言は古いマンションのベランダに降りる。

「こっからどうする予定かな?観言」

「こちらの部屋、窓が開いております。あ、5秒で先程のカーテンが開くのでお急ぎください。」

 悠は急いで宗二の手を引っ張り、飛び込むようにベランダに降りる。観言の言うとおりさっき出て来た部屋のカーテンが開き、複数の人影が外を見回す。

「よし、では地上に降りて歩きましょう。」

 観言は窓から部屋に土足で上がっていく。部屋は散らかっており人の生活感がない。玄関から出ると、観言が立ち止まる。

「あらあら、まずいですね」

 部屋に戻り、鍵を掛ける観言。踵を返し、ベランダに出ると、隣の部屋に移る。二人が後に続こうとすると、ガチャガチャとドアノブを回す音がする。

「勘が良いのが居るようです。」

 ドアが外れ、誰かが部屋に入ってくる。気配は無く、カーテンと窓が閉じていて暗い。しかし、玄関から見える部屋にチラチラと光が入っているのが見える。誰かはゆっくりと窓に近づくが、それと同じ速度で、玄関の前を三人が通る。

「あのぅ、悠様とおっしゃいましたか?実はー」

 観言が何か言いそうになったとき、白斗が首筋から口を開けて、

「話せる場所に行く。付いてこい。お前もだ」

「悠…その声…」

 宗二の驚きを放置して、階段を下まで降りるとポケットから鏡を取り出す。

「成るほど。八咫の鏡をお持ちとは、既にご自覚されている。その存在で人として生きるなどー」

「余計なことはいい。入れ」

 悠は、白斗の考えていることが言葉を交わさずわかる。観言は言われるがままに鏡の世界へ抜けていく。吸い込まれる様に消えた観言に宗二は言葉を失い、悠を見ている。

「大丈夫やから。俺がついてる。」

 悠はそう言うと、宗二の左手を掴み鏡に入る。宗二は吸い込まれながらも鏡の縁を右手で掴み抵抗する。その時、階段の上から小織が現れ黒い糸を宗二の腕に巻きつける。

 その頃、黎標界では左半身だけ来た宗二と左腕を持った悠、

「引っかかってんのか?おーい宗二ー?」

「釣れたな」

「えっ?」

 白斗が引っ張ると、宗二と一緒に黒い糸と小織が現れる。しかし、鏡を抜けると小織と黒い塊は分離して、小織は気を失う。

「これ…」

「牛鬼の子だ」

「妖怪に子供なんて概念あんのか?」

 黒い塊は毛のようなものが立ち、きれいな丸になる。少し痙攣する様に震えていた。

「狸や猫、狐とは違い妖怪に親と子と言う概念は無いが、産み落とされたばかりの妖怪は、生き物で言うこところのそれだ。力も弱く、影響力は小さい」

「小さいって、あんだけ人操ってたのにか?」

「操れるだけだろう?」

 産まれたての妖怪を子と称したり、人格操作を軽視する人間らしさと妖怪っぽさを持ち合わせてるこの感覚は馴れない。

「そろそろ、喚くぞ牛鬼が」

 白斗の言葉から間もなく、人の鳴き声のような音を出しながら、丸い黒い塊から棒のようなものが日本伸び、太くなってくる。中学生くらいの高さに立つ、太い角を生やし黒い毛を逆立たせる妖怪【牛鬼】。

「こいつ…あの時の…」

 宗二の言葉に、悠は反応したが牛鬼は悠にタックルする様に突っ込んだ。

「悠!」

 悠は、牛鬼のタックルを包むように止めた。腹から出た赫駿の右腕で牛鬼を止めていた。牛鬼は鼻息荒く、地面をえぐる様に後ろ足を踏むが進めない。悠は腰を落として、足を肩幅に広げる。

「ふぅー」

 息を吐くと同時、悠は白斗の右腕で地面に牛鬼の頭をめり込ませる。地面は割れ、牛鬼の体が仰け反って固まる。

「悠!怪我は無いか?!角が刺さったりとか!」

「大丈夫ですよ。彼は神ですから」

 観言が笑みを浮かべながら話す。宗二がよくわからないという顔をしていると、宗二の腕を掴み、面と向かって勝手に喋る悠の口。

「お前だろう、牛鬼は。でなければあんな弱いモノが我々に向かってくる筈がない。」

「えっ?なんで!悠も見ただろ!あれは小織から出てきたじゃないか!」

「取り憑く人間が気を失っては、力を発揮できない。妖憑きだからな。」

「白斗、この世界なら人間と妖怪は別れる筈だ。独立してるなら今の状態もあり得るんじゃないの?」

「さっきも言ったが、あれは半端だ。まだ力を生み出せない、人間に依存しなければ存在し続けられん弱者だ」

 悠の一人二役のような掛け合いに、宗二は呆気にとられるが、何かを納得し笑顔を作る。

「なんだ!悠も妖怪連れてるんだな(笑)じゃあ隠さなくていいな!先に言えよな」

「それより、なんで追われてた。宗二、小織さん人質に取られてたんじゃないのか?」

「っそうなんだよ!急に現れて、俺の周りの人が変わっていって…怖くて…」

「そっか…」

「嘘だな」

 白斗の言葉に、宗二は驚く。牛鬼は飛び上がると、周りの木に糸を掛け、更に俺と宗二を隔てる壁を造った。壁の上部に後ろ足を引っ掛け、悠を見下ろす牛鬼。背中が割れて脱皮を始めるようだ

「悠!おい、やめろよ!」

 宗二の言葉に、牛鬼は更に腕を生やしていく。

「牛鬼の力が増している。やつの言葉が引き金だろう」

「どうして…離れているのに。」

「糸さ」

 その言葉に宗二と牛鬼が見えない程の糸で繋がっているのだと気づいた。しかし、

「なんで俺を襲う?宗二の意思に反してる」

「それが牛鬼と言う妖怪だからだ。牛鬼の力の源は『嘘』だ。あの人間、嘘をたらふくやつに食わせたな。」

「じゃあ、宗二の言葉は…」

「本心ではない」

「悠!大丈夫か?!おい!化物!悠を離せよ!」

 宗二の叫ぶ声が聞こえる。これが嘘?

「どうすればいい?」

「真意を確かめればいい。観言、示せ」

「見通しましたぞ。牛鬼は糸を飛ばして貴方様を捕まえます。その前に真横の壁を穿ち、その先の一糸をお断ちください」

 観言の言葉を聞き、悠は腰を落とす。拳を覆うように、4本の腕が順々に重なり大きな塊になる。

「ハッ」

 悠が息を吐いて、止めると凄まじい突きが糸の壁を突き破り、大きな穴を開ける。

「なんだとぉ!」

 牛鬼が糸を吐く前に悠の腕が壁の先に伸び、人差し指で見えない糸を千切った。

「ああぁ」

 宗二から力ない言葉が漏れ、周りを囲んでいた糸が柔らかくなり飛んでいく。牛鬼は地面に落ちて、這うように意図を吐き出して、宗二に再度糸を向かわせる。

「させるか」

 赫駿は、足を踏み鳴らし地面を振動させ糸が消えていく。

 悠が牛鬼に向かおうとした時、宗二が腰を掴んで止める。

「待って悠!お願い!『嘘病』(ウビ)のおかげで今の俺はあるんだよ!」

 宗二はそう言うと、ウビと呼ばれた牛鬼のそばに駆け寄り、糸で繋がる。

「ごめん。悠もウビもって欲張ったんだよ。どっちも俺には大事な存在なんだ…」

 宗二の目からは涙がこぼれ、ウビの体が更に大きくなる。

「一旦落ち着きましょう。牛鬼の子とはいえ、大妖怪ですし。それ以上は地形が歪みますゆえ」

 観言はいつの間にか和装に着替えていて、傍らには雲外鏡のショウゼンと、管狐のチクゼンがいた。三体の妖怪の雰囲気はどこか似ているが、観言の方が根っからの平安時代公家臭がする。

「あと、雨にお気をつけくださいませ。新手でございます。」

 観言はそう言うと、鉄扇で傘を作る。ショウゼンとチクゼンは大きな鏡を掲げる。

 悠が上を見上げると、大量の矢が森の枝葉の隙間から無数に落ちてきていた。

「宗二を護って!」

 悠の言葉で、全身から生えた腕で半球に宗二と牛鬼に被さった。牛鬼も繭を作って、宗二と自分を包み込む。

 ドドドッという音共に、矢が地面に刺さる音が続く。音が止まるまで、宗二は震えていた。

「止んだ。敵は複数、然し妖怪ではない」

「じゃあ、誰が…」

「炙り出しまするぞぉー!悠様!」

 ショウゼンはそう言うと、鏡を覗き込む。その眼は鋭くなり、迫力があった。

すると、手長足長の池の方から無数の矢が飛んできた方向めがけて飛んでいく。

「これが本当の反射ですなぁ!」

 役に立てて嬉しかったのか笑顔のショウゼンと頷くチクゼン。

 森の木々がバキバキと音を立て、空から人々が降ってきた。矢が突き刺さり、殆どが絶命しているように見える。人魂だと知っていても、目の前に横たわるのは、完全に人間だ。

「気にするな。理に則した結果だ。」

「…無理やわ!ちゃんと生きかえんのやろな?!」

「悠様、御安心を、半刻もすれば生き返ります。」

「半刻もかかんの?俺の時一瞬やったのに…これも…」

「そこは、鬼神なればこそです!」

「やっぱり…鬼神やっぱ凄いんや…」

「なんで嫌そうなんだ」

 悠と妖怪たちの会話を地面に倒れながら聞く宗二とウビ。その時、落ちてきた人魂の一人が起き上がり、懐から短刀を抜き出し宗二に襲いかかろうとした。

「お待ちを」

 観言は、持っていた鉄扇を宗二とその人魂の間に差し開き、短刀を止めた。

「くそっ!邪魔するなぁ!」

 人魂は、観言に向かって行こうとするが悠が羽交い締めにして止める。観言は笑みを浮かべて見ているだけで、おそらくこの未来も見えていたのだろう。

「待って!この子は俺の友人や。なんで妖怪じゃなくて人の方を狙うんや」

「うるせぇ!妖憑きなら人を殺せば弱まる!」

「あっそうやった。でも、それはさせられんわ。なんで狙う?」

「…成仏のため。こんな世界…早く死にたい」

 人魂『シンタ』の体から力が抜け、悠は離れた。その場に座り込むシンタは涙を零し始める。

「ここにいるみんな、生きるの辛くて自分で死んだんだ。なのに、起きたら死ねない世界にいたんだ。くそったれ…」

 悠はシンタの言葉で、『西山颯』の最後を思い出した。

「なんでそうなるん…」

 シンタは、悠を睨んだが顔を見て驚いた。悠は悔しそうな顔に涙を浮かべていた。

「結局、誰も救われなかったんやな。」

 悠は捨てるようにそう言うと、宗二に駆け寄った。シンタは後ろで倒れる人魂達を見つめた。

「悠、泣いてるのか?」

「宗二、ウビとの関係教えて。話は全部聞くから。」

 その頃、浮世では咲乃の身体を使って殲姫が一〇九でウィンドウショッピングをしていた。次々と試着をして、色んな格好をするが正解がわからない。

「殲姫よ、そんなことしとる場合ではないぞ。観言が消えた。恐らくは手長足長と共にいる。」

「其方も服装を変えよ。古臭いぞ」

「目的を忘れるな。なんの為にその娘をお前にやった。」

 殲姫の雰囲気が変わり、少し手を振るった。夜道怪はすぐにマネキンの影に沈んで消える。空気が震え、殲姫を中心に波のように広がり、炎が上がる。

 人々が炎に気づき逃げ惑う中、殲姫はピンクと黒のパーカーにロングの革ブーツで炎の中を歩く。

「これにしーよぉ。咲喜んでくれるかなぁ」

 上に上がるエスカレーターに乗る殲姫。上から逃げてくる人々が、殲姫とすれ違うと燃えて灰になっていく。殲姫が扉に手を置くと鉄の扉は溶け、窓に手を置くとガラスが溶けた。大きな穴が開き、風が吹いてくる。

 殲姫が外に出ると、一〇九は燃えスクランブル交差点から人々が見上げていた。

「何処かな、観…なんだっけ?」

「観言だ。相変わらず、多くの人生を巻き込むのが好きだな、殲姫」

「其方、名は何と言う。」

「私に名は無い。人から産まれた訳ではないからな」

「ほぅ。そんな稀有なモノがおったのか。不思議じゃのう。不思議は良い…」

 夜道怪は、複数の和紙を殲姫に渡す。水墨画で描かれた絵には、宮本や来間に加えて丸亀や桜井の顔もあった。

「このモノらは?」

「復讐の手掛かりだ。殲姫と私の」

 殲姫は和紙を一枚一枚捲っては、空へ捨てていく。和紙は空を舞い落ちて人々の目の前に降る。触ろうとした男性が燃え、更に騒ぎは大きくなる。和紙は地面に当たると燃え、人に当たると人と共に燃えた。

「復讐…私の敵」


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