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真説・北方町史  作者: 木入香
第一章「七月・佐藤良祐」
4/10

01-04「個性豊か過ぎる人達」

創作物あるあるですが、物語の都合上、見栄えなどを考慮して校則は相当ゆるくしております。

後、秘密組織の組員が一堂に会して自己紹介するのも定番で好きです。

 テスト明けの通常授業からのホームルームという日常を終えた放課後。クラスメイトの少女によって、化学部の活動が行われている部室に連れてこられた佐藤良祐(さとう りょうすけ)は、何だか分からない話に巻き込まれ、非日常へと足を踏み入れることになった。


「まずはわっちからね。同じクラスだし昨日も話したから知ってるだろうけど、一応。芝原翡翠(しばはら ひすい)。色々と説明し出すと長いし面倒くさいし、話せない部分もあるから思いっ切り端折(はしょ)るけど、“芝原家”の当主を務めているよ。よろしくね!」


 自己紹介をしようと言い、その言い出しっぺである翡翠が口火を切った。その名前に(たが)えない腰を超える程の翡翠色のロングヘアを揺らしながら、また翡翠色の瞳を輝かせながら元気良く紹介を終えた。しかし、良祐にとっては芝原家の当主であるという情報が追加されただけで、それ以外は結局分からないままである。しかし、そのことに疑問を挟む人はいないようで、このことはすでに認知されていることなのだと理解する。

 翡翠の次に紹介を行ったのは、先程教卓に突っ伏していた男子生徒だった。ゆっくりと立ち上がり、気怠(けだる)そうに首を回す。


「(背、高っ)」


 思わずそう思ってしまった。教卓に突っ伏していた時から薄々感じていたが、やはり立ってみると、一七〇を軽く超えているのではないかと思う程に高い。体付きも細身であることが余計に背の高さが印象付けられる。

小学校低学年と言っても違和感のない程の低身長である翡翠と並ぶことで、その身長差に本当に一歳差なのか疑問に思ってしまう。


「はぁ、面倒くさい。化学部部長の高屋伸介(たかや しんすけ)。三年……まぁ組はいっか。“高屋家”五代目当主候補。ま、ウチみたいな歴史もない吹けば飛ぶような存在は……」

「はいはいネガティブはそこまでですよ。ということで、次です次」

「む」


 白と黒の髪が入り交じったボサボサの短髪で、先程(するど)く見えた目付きは気のせいだったのかと思うくらいにぼんやりとしたものに戻り、面倒くさいという雰囲気(ふんいき)を出していた。そして、再び(ひね)くれた言葉を発しようとした所で翡翠に(さえぎ)られる。

 言葉が切られたことで不機嫌そうな顔をするも、すぐに息を()いてそのまま先程と同じように腰を下ろして教卓に突っ伏す姿勢を取る。そして、その教卓の前に一人の女子生徒が立ち、腰に両手を当ててふんぞり返るように胸を張る。


派手(はで)な人だなぁ)


 率直(そっちょく)に良祐が(いだ)いた感想である。学年こそ違うが、一年以上同じ学び()で過ごしているのだ。話したことはないが、見たことは何度もある。

 その女子生徒の容姿は、金髪碧眼(きんぱつへきがん)で髪は肩を超える程度の長さでフワッとした癖毛(くせげ)のよう。顔も目鼻立ちがしっかりとしている色白な美人だと思われるのだが、如何(いかん)せんメイクが派手なのである。

 一言で言えばギャルである。髪や耳、首にカッターシャツにスカートから上履きまでも、至る所にアクセサリーなどが付いており、爪も当然のようにキラキラとしたネイル。一応、この学校の校則には装飾品(そうしょくひん)化粧(けしょう)に関する記述はないので取り締まられることはない。


(いやでも、限度があるでしょ)


 良祐は呆れる。それと同時に先程第一理科室に来た時に見た光景を思い浮かべる。足を肩幅に開き、右手で左目を押さえ、左腕を前に突き出すという謎のポーズを取りドヤ顔をするという奇行。

 教卓の前に立った彼女は、ドヤ顔を維持したままゆっくりと腕を挙げ、足を開き、今度は変身ヒーローの変身ポーズのような格好を取って口を開いた。


「クフフフ……我が名はアーシェン・ツェペシュ! ()悪名(あくみょう)高きヴラド公の末裔(まつえい)にてヴァンパイアハンターとして、遠路遙々(えんろはるばる)この極東(きょくとう)の地まで、我が故郷(こきょう)より逃げたヴァンパイアを追ってきた! されど心配無用! 我が先祖より継承(けいしょう)せり秘術により全てのヴァンパイアを砂に変えてみせよう!」


 見た目に反して出て来た言葉に、一瞬思考が停止する。


(……話すとこんなキャラの濃い人だったんだ)


 とりあえず深く考えることは()め、無難な感想に留める。


「えぇと、彼女は池之頭(いけのがしら)アリサさん。お父さんが日本人でお母さんがルーマニア人のハーフの三年生。生まれも育ちも日本のちゃんとした日本人やよ」

(いな)! 我は……」

「後、重度な厨二病(ちゅうにびょう)で、言っていることも間違っていること多いから注意ね」

(ひど)いアル!」

「ちなみにこっちが()ね。”条件”さえ(そろ)えばすごく強いんやよ」


(語尾! 見た目ギャルのハーフ美人で厨二病。そして素の話し方の語尾がアルって、一人で色々詰め込みすぎ! それと条件?)


 ハッキリ声に出してツッコミたい衝動(しょうどう)に駆られた良祐だったが、相手が仮にも先輩であること、そして自身がまだ部外者であるという点で(こら)えることにした。

 まだ前に居座りたい様子のアリサを引きずる形で翡翠が引き離す。同じ年上の三年なのに伸介に対しては敬語なのに、アリサに対しては雑な扱いである。しかしそれに誰も疑問に思わず、本人も気にしている様子はない。


「はい、次は私で良いですか?」


 そう言って前に(おど)り出たのは、先程のアリサとは打って変わって、いかにも真面目そうな印象を受ける女子生徒であった。


「一年一組、千歳友希道(ちとせ ゆきね)です。所属派閥(はばつ)は“戸田家”に属しています。よろしくお願いします」


 見た目は黒色の前髪パッツンのおかっぱ頭。目付きは本人の真面目さを表すように鋭い。身長は翡翠よりも頭一つ分程高いだろうか。丸眼鏡をかけており、委員長という役職が似合いそうな見た目である。

 だが、それよりもまた気になるワードが出て来た。


(今度は所属派閥と来た。気になる単語が多すぎて理解が追い付かない……)


 芝原家、高屋家、戸田家。他にも【時の大結界】や、伸介が“ちから”と呼んでいたもの。


(一体何がこの町で起きているんだ……)


「次は僕ですね。戸田家分家の戸田光久(とだ みつひさ)です。クラスは一年三組です。本家の次期当主の光晴(みつはる)兄さんは従兄(いとこ)になります。よろしくお願いします」


 次に自己紹介をしたのは、先程まで第一理科室の出入り口で立ち往生していた時に助け船を出そうとしてくれていたややぽっちゃりな男子生徒であった。

 そして最後に残ったのは、良祐と同じくらいの身長の男子生徒なのだが……


(目付き悪っ! カッターシャツもボタン開けているし、中のシャツも派手だ)


「ちっ、南小(北方南小学校)出身、白木彰布(しらき あきのぶ)だ。クラスは千歳んとこと同じだ。以上」


 明らかに不良という感じの男子に、これまでそういった(たぐ)いの人と関わりを持っていなかった良祐は、相手が年下であるにも関わらず若干(じゃっかん)苦手意識を持つこととなった。

 髪はアリサと違って染めているようで、銀髪に赤のメッシュが入ったツンツン頭をしており、耳にはピアスがみられる。

 これで一通り自己紹介が終わったと思ったが、ここで翡翠が「じゃあ最後は佐藤君!」と呼ばれて彼は驚きの声を出した。


「え? 俺?」

「そうだよ? 今回の議題はあなたにも関わりがあることかもしれないのだから、ちゃんと自己紹介してね」

「わ、分かった」


 意を決して前に出た。周囲からの視線に尻込みしそうになるが、しっかり前を向く。


「二年四組、佐藤良祐です。今日は、その、何で呼ばれたのかよく分からないのですが、よろしくお願いします」


 それからは、翡翠の指示の元で良祐だけ教卓の前に立たされたまま、他の生徒達は各々思い思いの席に着いていた。ちなみに部長の伸介だけは相変わらず良祐の後ろで突っ伏した格好であり、背後からの視線で居心地が悪い。


「じゃあ昨日のことについて確認するよ? わっちが昨日あった出来事を話すから、佐藤君は違う部分などがあったら捕足(ほそく)してね?」

「わ、分かった」

「昨日の逢魔時(おうまどき)(夕方)の頃、五時過ぎくらいかな。突然、【時の大結界】に揺らぎが感じられた気がしたから、その原因を探るために戸田家に連絡を取ったんよ。でも、返答はそのような事象は観測されていないだった。戸田君、そうやよね?」

「そうですね。僕は軽く聞いただけですので詳細は分かりません。本家が主導していることですし、そこに分家が口を(はさ)むことはしません。ただ結界の観測担当である清水(しみず)家からはまだ何も回答はないと思われます」

「それで、今度は揺らぎがあったと思われる箇所を数カ所ピックアップして、それぞれ見て回った。どれもハズレだったけどね。そしたら今度は、地下(じげ)家から強力な【(うつろ)】が出現したから急行してと連絡が入ったんやよ」

「ちょっと待て、そのような報告は高屋家には来ていない」

「僕の方もです。ただ、地下家は戸田家の傘下(さんか)ですので、本家の方は把握していたはずです。ただ、今回は発生源が芝原家寄りだったので当主である芝原さんに直接連絡が行ったのかも……」


 光久の推測(すいそく)に、同意するようにうなずいた翡翠は話を進める。


「【現世(うつしよ)】での調査は限界があったし、それに報告の【(うつろ)】も気になったから、すぐに【彼世(かのよ)】へ移動して、何体か【(うつろ)】を倒しながら報告のあった【(うつろ)】の場所まで移動したんやけど、そしたらそこで佐藤君が襲われている現場に遭遇(そうぐう)したってこと。佐藤君、ここまでは良い?」

「う、うん。良いと思う」


 分からない単語ばかりだったが、最後の部分だけは自身が経験したことであったことからうなずくことが出来た。

 もしもあの時、翡翠の到着が遅れていたら自身はどうなっていたか。それを思うと、良祐は何度目かの恐怖に震える。


「それは蜘蛛(くも)の形をした【(うつろ)】やったんよ。本来なら形があるだけでも強力なのに、更にとても大きい個体やった。そして大きい割に、動きは、えぇと、しゅ、そう、俊敏(しゅんびん)。しかも同族の【(うつろ)】ではなく、生きた命、つまり人間などの生き物がいれば本能で襲ってくる(むし)型なのに、相手はあの場を離れた。どちらかと言えば相手が優勢だったにも関わらず、やのに……多分、わっちらを倒すことが出来たとしても手痛いしっぺ返しを食らうと判断したようやね」

「聞けば聞く程、恐ろしいんだが。というかオレらが対抗出来るように思えないんだが」

「部長のネガティブは置いといて、わっちが気になっているのは、あれだけ素早い動きをする上に知恵も回る【(うつろ)】を相手に、どうしてわっちが助けに入るあの時まで何の冥加(ちから)もない佐藤君が生きていたのかってことよ」


 表情や格好、性格はバラバラだが、周囲の関心が一点(良祐)に集中しているのを感じる。これでは裁判を受けているような感覚である。

 何か言わなければと考えを巡らせ、必死に昨日の出来事を思い出す内にふとあのことが頭に浮かんだ。


「声が聞こえたんです。逃げろって」

「声だぁ? それは芝原のか?」

「違います。男の声でした」

「男?」

「ちょっと、それはわっちも初耳だよ」

「どういうことだ? その場にはお前と芝原の他に誰かいたのか?」


 相変わらず面倒くさそうに話す人だが、その声は真剣なものに変わっていた。


「わっちと佐藤君以外はいなかったはずやよ。他に【冥加師(みょうがし)】いれば合流してくれたはずだけど、応援が駆け付けたのはことが終わった二〇分後よ」

「佐藤だったか。声に心当たりは?」

「あ、ありません。あの時は怖いもあったんですけど、現実か夢か分からなくて、ぼんやりしていたところに頭の中に声が響いて、それで……」

思念通話(テレパシー)か! お(ぬし)はまさかの紋章(もんしょう)(きざ)まれし者か!」

「え? いえ、違うと思います」


 突然反応を示したアリサに驚くも、とりあえず否定の言葉を返す。ちなみに言葉の意味は分かっていない。


「その謎の声に関してはまたこちらで調査するとして……昨日の【(うつろ)】といい、結界の(ほころ)びが無関係とは思えないかな。結界や声の調査は追々進めるとして、今急いで対処しないといけないのはあの【(うつろ)】やよ。傷を()やした上で、弱小の【(うつろ)】を()らうことで更に(ちから)(たくわ)えているはずだから、次遭遇したら少なくともわっち一人では厳しいかも」

「恐らくこの化学部の中では芝原さんが一番の実力者だと思うのですが、それでも倒しきれないというのは……」

「そうですね。多分単独では光晴兄さんでも厳しいと思います」

「池之頭は……縛りが多いからな。今回は条件が悪い。十全に発揮出来れば、芝原や戸田本家よりも上なんだがな……」

「“契約”出来ただけでもすごいっすよ。というか普通試そうとも思わないっすけど」


 翡翠の報告に、友希道は真剣な表情を崩してはいないものの、その発言はどこか諦めが含まれているようだ。そこに光久も同意する形で続く。同じように伸介と卓もアリサの方へ視線を向けるも、当の本人はノートに何やら落書きをしているようで話を聞いているのは聞いていないのかは分からなく、席は離れているにも関わらず同時に溜め息を()く。


「まぁでも、今のところ町に被害が出ていないのは(さいわ)いか」

「そうですね。芝原さんの話す通りの強力な【(うつろ)】なら、何かしら悪さしたらすぐに分かります」

「つーことは、どこかに(ひそ)んでいるということか。面倒くせぇな。こりゃ芝原の言う通り、万全な状態にしようとしているか」


 伸介と翡翠が意見を出し合っているところに、アリサがボソッと(こぼ)した。


「……(なんじ)の紋章に反応した?」

「まぁいいや。お前、佐藤だったか。お前の両親の出身は?」


 しかし伸介はこれを華麗(かれい)にスルーして話を進める。良祐も、すっかり慣れてしまい、気にしないようにしている。


「え? えぇと、父は名古屋(なごや)出身で、母は一応北方です」

「んじゃあ、母親の方、何か血縁で話を聞いたことないか?」

「えぇと……すみません。分かりません。母の父、俺の母方の祖父が幼い頃に根尾(ねお)から北方に引っ越してきたとしか聞いていないです」

「苗字は?」

「えぇと、水鳥(みどり)です」

「うーん、聞いたことないな。お前らは?」

「私もないですね」

「はい。僕もありません」


 伸介が周りに確認するも、翡翠と光久は否定。その他の面々も、知らないと答えた。


北方(ここ)に”(えん)”がある奴だと思っていたんだが、違ったか。いや、それとも根尾って言ったな。近くには谷汲(たにぐみ)華厳寺(けごんじ)があるな。そっち方面か?」

「部長、根尾と言っても広いですし、そもそも今の根尾は本巣市(もとすし)、谷汲は根尾川(ねおがわ)を挟んだ揖斐川町(いびがわちょう)。全然近くないです。すごく遠いです。北方町二個分です」


 翡翠がスマートフォンを操作し、地図アプリを開いて指摘する。


「うっせぇぞ芝原。で、二個ってどっちの距離だ?」

「横」

「普通長い方使うだろ。縦の長さでやれよ。何で横幅でやるんだよ」


(そういう問題なのだろうか?)


 心の中でそっとツッコミを入れたのは良祐だけでなく、この場にいる少なくとも数名は同じ気持ちであった。


「つぅか町を物差しにすんじゃねぇ。分かりづれぇよ。えぇと、二つ分だから大体四キロ程か。どこから計るかにもよるが、自転車で四キロはそれなりの距離だな」

「山やしね」


 このまま放っておくと話が余計にややこしくなりそうだと察した光久が「部長、話が脱線しています。一回戻しましょう。えぇと、それで佐藤先輩は心当たりありますか?」と軌道(きどう)修正してくれたおかげで、何とか場の流れを引き戻すことに成功した。

 そのことにホッとしつつも、良祐は素直に自身の答えを述べる。


「すみません。分かりません。それと、その縁って何ですか?」

「んぁ? おい芝原、お前まさか何も説明せずにただ連れて来たのか?」

「はい!」

「はいじゃねぇ。だから話が噛み合わねぇんだよ。ったく、面倒くせぇ。芝原、お前が責任持って説明しろ」

「昨日は、無関係なら話す訳にはいきませんし、それに一度家に持ち帰って協議する必要があったからでして……」

「お前当主なんだから必要ねぇだろ?」

「当主って言っても成り行きで、好きでなった訳じゃないです」

「俺だって好きで五代目候補やってねぇ」

「えぇと……」

「ほら、あいつも困っているぞ。部長権限だ。やれ」

「うぇ、横暴です。はぁ、分かりましたよ」


 そう言って立ち上がった翡翠は、良祐に向かって説明を始めるのであった。


高評価・感想をいただけると幸いです。

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