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逆行死神令嬢の二重生活 ~兄(仮)の甘やかしはシスコンではなく溺愛でした~  作者: 猪本夜
第一章

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40 逆行、そして残酷な神

 第一皇妃レベッカに階段から落とされ、次に目が覚めると、私は五歳になっていた。頭を強く打ち、確かに死んだと思ったはずなのに、何故私の体は縮んでしまっているのだろうか。

 もしや、ルドルフと結婚し、第三皇妃になったほうが夢だったというオチ?


 いやいや、そんなはずはない。首を振る。夢だというオチなら、ここまで鮮明に記憶があるのはおかしい。それに、五歳が見る夢でもない。

 ということは、やはり、私の時間が遡った?


 そこまで考えて、顔が青くなった。もしかして、ルドルフに聞いた、あの力。絶対に使わないでとお願いした力。それをルドルフは作動させてしまったのではないか。


 この国には建国貴族と新興貴族がいる。その建国貴族にのみ、血族が継承していく力がある。神ヴァリーに与えられし、特別な石の力。建国貴族はその家門自体が少数で、受け継ぐ特別な力は家門により少しずつ違うという。


 帝室も建国貴族であり、ルドルフもその力を受け継いでいた。どの建国貴族も、受け継いだ力を得られるのは、当代当主とその後継者のみ。後継者は当主の子で、かつ次代として儀式を受けたものだけが力の継承を受け継ぐことができるらしい。


 つまり、ルドルフの場合、当主だから力を持っていた。しかし、私の子ができるまでは、第三皇子ヴェルナーの子を次代に据えると言っていた。ルドルフの子ではないから、力の継承ができないのではと思った。しかし、ヴェルナーは前代の子であり、ルドルフが生きている内にヴェルナーに当代を譲る儀式を行えば、ヴェルナーの子に力の継承ができるらしい。「まあ、ギリギリの継承にはなるがな」とルドルフは笑っていた。当代を譲る儀式というものが重要なんだとか。


 とにかく、そういった血で継承される力だが、その力は大きく分けると三つあるという。家門により力は違えど、大まかにはこういうことらしい。帝室の場合だが、

 一つ目、エネルギー源化。これは最初は誰も知らなかった実験の副産物だそうで、現在で言う『皇帝石』にあたる。これに関しては、血の力は使っているが、力を使う人物、つまりルドルフに副作用がないため、使い放題である。

 二つ目、再生力、もしくは治癒力。石の力と血の能力で、生きている人間に対し傷や病気を治す、といったことができるという。ただし、限度はある。また、この力を使う人物の体力も奪われる。だから、この力は多用しないようにしなければならない。

 三つ目、時間の逆行。石の力と血の能力で神ヴァリーに願うことで、時間を戻すことができる。ただし、時間を戻すことによる影響は多大であり、力を使う人物にも代償がある。


 本来、こういった話は当代と後継者のみの秘密事項だろうが、ルドルフは私に何でも話す人だったので、大した話でもない、という感じで話してくれたことがあった。その時、三つ目の時間の逆行については、力を使う人物にも代償があると聞いて、絶対にその力は使わないでとルドルフにお願いした。


 その代償というものは、時間の逆行年数やその影響がどれくらいあるかによりさまざまであるから一概には言えないと言っていたが、力を使った人物の寿命が縮んだり、記憶がなくなったり、ということがある可能性を話していた。しかし帝室に文献などが残っていないらしく、ルドルフも代償の詳しいことは分からないとのことだった。


 だからルドルフに言ったのだ。その力は絶対に使わないでと。ルドルフの寿命が短くなるなんて嫌だったから。

 ルドルフは、二つ目の再生力や三つ目の時間の逆行を使うのは面倒だからやらない、と笑いながら言っていたから、私も安心していたのに。


 時間を逆行させる力を使ってしまったとしたら、それは神ヴァリーとやりとりをしたということ。

 逆行させたのがルドルフなのかどうか、もしくは別の何かの力なのか、それを確かめるには、月に一度、死神業の連絡にやってくるティカに聞くしかない。


 そして、やってきたティカに、母には退出してもらい、ルドルフが時間を逆行させたのかと聞いた。


「やっぱり、そこ気になる? 今日それ聞かれるかなって、思ってたんだよね」

「……では、やはり」

「君、愛されてたんだねぇ。こういうことって代償が付き物なのに、それを顧みないんだからさ」


 やはり、ルドルフだったのか。じわじわと涙があふれた。私のために、なんてことをしたのだろう。


「私に、記憶があるのは、何故ですか? 時間が戻った全員に、記憶があるのですか?」

「まさか。君の記憶があるのは、カーリオンさまの影響だよ」

「カーリオンさまの?」


 神カーリオンは私の死神業での上司である。


「うーん、やっぱり少しは説明が必要だよねぇ。どうしよっかな。……ちょっと待ってて」


 そうティカは言うと、消えた。そして待つこと二分ほど。私は今までいた部屋とは違う別の空間にいた。


「こ、ここは?」


 部屋にいたはずなのに、瞬きする間に真っ白の空間に立っていた。傍に立っていたティカが口を開いた。


「君に分かりやすく言うなら、天界かな?」

「天界……」

「君の体はここにはないよ。体があるように見えるだろうけど、実際には魂だけこっちに呼んでるから」


 それからティカに案内され、私は幼児の前に立っていた。

 真っ白の空間、地面には大量の紙らしきものが積み上げられ、大きいテーブルの前に五歳くらいの男の幼児が座ってなにやら作業をしていた。顔の造形は可愛らしいが、目が幼児の目ではないというか、なんでも見通されそうな目をしていた。テーブルの前に座り、次々と紙を見ては、何やら作業をしている。


「カーリオンさま、東京地区サーヤを連れて参りました」


 まさか、この幼児が神カーリオンなのだろうか。いやいや、まさかね?


「それで聞きたいことと言うのは?」


 幼児がテーブルから顔も上げず、そう口にしたので、信じられないがこの幼児が神カーリオンなのだと、頭がくらっとする。実際には魂しかないので、頭がくらっとするはずないのだけれど。


「サーヤの記憶があるのは、カーリオンさまがそうしたからだというところまで伝えました」

「そのとおりだ。またヴァリーに時間を戻させてくれとお願いされては、かなわん。影響がどれだけあると思っている。ヴァリーに願ったルドルフとやらと今後は関わるなよ」

「……ど、どういう意味でしょう」


 もっと順を追って説明をしてくれないだろうか。


「今回ヴァリーが時間を戻したいと言った世界に、お前がいた。本来なら、その世界の時間だけ巻き戻せばいいから、ヴァリーに勝手にすればいいと言いたいところだ。だがお前がいると、それが急にややこしい話になる」


 どういうことかというと、死神業をしている私は帝国のある世界と、東京のある世界に影響がある。つまり、帝国のある世界を逆行させるなら、東京のある世界も同じく逆行させる必要がある。そして、東京のある世界には、他にも死神業に携わる人物がいて、その人に影響する別の世界も逆行させる必要がでてくる。

 今回、それをやったことで、複数の異世界の時間が逆行することになった。


 そうすると、逆行した分、その間に亡くなった方も生き返り、今まで魂の洗浄やらの作業をした分が、全部元に戻ってしまったらしい。

 それを聞いて、血の気が引いた。


「どれだけ影響があるか分かっただろう。もう同じことになるのはごめんだ。だから死んだお前の記憶も戻しておいた。どうやればルドルフと関わらないで済むか、考えて行動しろ」

「……ルドルフと、二度と結婚するなと?」

「それだけではない。ヴァリーに願えるのは、限られた人間ということだろう。その限られた人間にならないよう、対処しろ」


 それは、ルドルフに今回は皇帝になるなと言っているのか。力を使えるのは、皇帝とその後継者だけだから。


「ルドルフに会うことがなければ、皇帝にならないよう仕向けることはできません」


 私がそう口にすると、その時初めて神カーリオンがテーブルから顔を上げた。そして私を見て目を細める。


「……お前とルドルフには縁があるようだな。お前がルドルフを回避しても、どこかで出会うようだ」


 カーリオンには何が見えているのだろうか。私の未来だろうか。選択によって、枝分かれする、すべての未来。


「いいだろう。皇帝にならないよう仕向ける、という方は努力目標でいい。ルドルフと関わらない、そちらに全力を注げ」


 ルドルフに関わらない。それが、どれだけ辛いことなのか、この神は分かっているのだろうか。私は、ぐぐぐっと涙を我慢し、口を開けた。


「承知、しました」


 そう言うと、私は次の瞬間には部屋に戻っていた。

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