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128 罠2 ※ユリウス視点

 帝都の街のとあるガーデン、いわゆるお茶会の場の貸出会場では、貴族の令嬢たちのお茶会が行われる予定であった。姉が特に嫌いな、微笑みながら行われる令嬢たちの口での戦い。令嬢たちには派閥もあり、今日の口撃対象は、ユリアと同じくらい皇帝の婚約者に近い人物。皇帝ではない男性への、身に覚えのない恋文を暴露されるはずだった。しかし、ガーデンには令嬢たちが誰もいない。


「これは、どういうことです?」


 侍女を従えたユリアがガーデンを訪れると、そこにいたのは異母弟のユリウスで驚いているようであった。


「令嬢たちには、本日のお茶会は中止だと、連絡させていただきました」


 ユリアは眉を寄せ、踵を返したけれど、その先に立っていた第四皇子ルドルフを見て立ち止まった。


「……ルドルフ殿下?」


 ユリアに名を呼ばれたルドルフは、ユリアの血まみれの部下を地面に転がした。ユリアは少しだけ表情を動かしたものの、冷静にルドルフを見返した。


「このようなものをいきなり放り出すとは、礼儀がなってない――」

「このようなものとは、勝手だな。お前の子飼いを返しただけだ」

「……そのような言いがかり――」

「言いがかりか。それこそ、今日のお茶会で行われようとしていたのが、まさしくそれではないか?」

「………………」


 ルドルフはさらに口を開いた。これまでユリアが裏で行っていたと思われる、所業の数々を。ルドルフが口にした以上のことを、他にもユリウスは知っている。しかしユリアは淡々とルドルフを見ているだけだ。


「これだけ言っても、顔色を変えないか。自分の所業を反省する気はなさそうだな」

「証拠はございますの?」

「ない」

「であれば――」

「なくとも、ヴェルナーの婚約者としてはユリアは不合格だ」

「ルドルフ殿下が決めることでは、ございませんでしょう?」

「ヴェルナーが決めたんだが?」


 初めてユリアの表情が変化した。


「ユリアの所業は、今言った内容は全てヴェルナーも知っている。ヴェルナー自身が、特別婚約したい相手がいないから放っておいただけだ。しかし、最近の所業は目に余る。毒物混入だけでなく、事故を装った馬車の暴走も用意しているようだな。放置できないと判断し、ヴェルナーがユリアの婚約者候補を引き下げた。ハイゼン侯爵にも本日通達した」


 ユリアがルドルフに持っていた扇子を投げつけた。


「またサーヤなのね」

「………………」

「知っていたわ。ルドルフ殿下がサーヤを気にしているということは。陛下かルドルフ殿下か、まだどちらが皇帝に近いのか、図りかねていた時、ルドルフ殿下を観察していたら、いつもあなたはサーヤを見ていた。陛下はサーヤを取引相手と言いつつ、他の令嬢とは違う態度で接している。でも、そんなのどうでもいい、私が陛下と婚約して、結婚して、国母になれれば、それでよかった」


 ユリアは顔を歪めた。


「なのに、いつまでたっても、陛下は私を婚約者にはしてはくださらない。私がどの令嬢より有利なはずなのに、陛下を見ていると、私は本当に有利なのかって不安になる。サーヤが婚約したから、陛下は私を見て下さると思ったのに、状況は何も変わっていない。ふ……お生憎様ね! いくら陛下やルドルフ殿下といえど、あの悪童ルーウェン・ウォン・リンケルトが相手では、絶対にサーヤを奪うなんてできやしないわ!」

「………………」


 ユリアの言葉にルドルフが圧力のような睨みを返し、ユリアはビクっとなり横を向いた。


「ルーウェン・ウォン・リンケルトが相手で、サーヤをどうにもできないのは、私も同じよ。サーヤが婚約したのに、陛下が変わらないからサーヤを消そうと思っても、なかなか上手くいかなかった。それは、私の相手がルーウェン・ウォン・リンケルトだけでなく、ルドルフ殿下やユリウスもいたからってこともあるのね」


 ユリアがユリウスを見た。


「ウィザー親子には、いつも私が欲しいものを奪われる。お父様も、陛下も。思い通りに動かないことばかり。国母となって、自分で産んだ子なら、誰にも奪われずに、私の思い通りに動かせると思ったのに。残念だわ」


 歩き出したユリアの腕を、ルドルフがつかんだ。


「どこに行く」

「帰ります。ここにはもう用はありませんもの。証拠はないのでしょう? だったら、罰せないはずです」


 ルドルフがユリアの手を離すと、ユリアは侍女を連れて帰っていった。


「……ルドルフ殿下、やはり証拠なしにユリアを追及したのでは、罰せないではないですか。この男も口を割らせる前にルドルフ殿下が口を利けなくしてしまいましたし」


 ユリウスは地面で気を失っているユリアの部下を見た。


「罰せなくとも、対処は考えてある。ハイゼン侯爵には伝えているし、承知したと連絡もあった」

「……対処ですか?」

「数か月前、エキュール帝国から双子の皇子の婚約者探しの要請があった。我が国との友好の証に令嬢を二人婚約者として差し出せと。前帝が崩御されて後回しにしていたが、そろそろ返事をする必要がある。その婚約者の一人にユリアを出す」

「……それが対処ですか? 婚約相手が他国の皇子とは罰にはならないでしょう。ユリアは喜ぶのでは?」

「お前は知らぬか。双子の皇子はいろいろと歪んでいてな。自国でさえサイコパス双子皇子だと有名だぞ。これまで何人の婚約者が婚約破棄を申し出たか。自国では相手できる女性がいなくなったから、他国にまで要請したんだ」


 ユリウスはそんな相手とは知らず、目を見開く。


「正式文書には、単に伯爵以上の令嬢を求めてきているが、本人たちに会うとこんな注文を付けてきた。『性格がひねくれていて、自分よがりな令嬢だとなおよい』」

「……皇子たちは、僕とは好みが合わなさそうです」

「同意だな。今まで婚約破棄されてきた相手とは、少し違う遊び相手が欲しいんだろう。『壊しても壊れない子だといいな』と呟いていたからな。まあ、ユリアがうまくやれれば、望み通り他国ではあるが、国母になれる可能性はある」


 双子皇子の呟きに、ユリウスは引き気味に、うわっと内心思う。


「二人ということは、もう一人はどうされるのですか?」

「リーゼだ」


 リーゼとは、第一皇女のことである。


「ルーウェンとユリウスに降嫁を断られ、また病気が発症していたな。次々に相手のいる男ばかりに手を付けている。婚約者や夫の不貞にショックを受ける女性を見て、何が楽しいのやら。このままでは婚約破棄や離縁を決断する人が増える一方だから、双子皇子に贈呈することにした。リーゼはひねくれているからな、さぞ皇子たちは喜ぶのではないか? 双子皇子の自国の元婚約者の令嬢たちとは違い、返却不可で送り出す。双子皇子に壊されようが、帰りたいと思いようが、ユリアもリーゼも、生死問わず二度とこの国の地は踏めない」


 問題のある女性二人をまとめて、問題のある女性を求める双子皇子にプレゼントする。需要と供給がうまくはまっている。


 ユリアの処遇を聞いて、今後姉とは関わらない場所に行ってくれることに、ほっとする。それと同時に、少し不安に思いながらユリウスはルドルフを見た。


「ルドルフ殿下、姉の結婚を……邪魔しないで頂けますか。姉は、今すごく幸せなんです。……ルドルフ殿下にも、前世の記憶があるのでしょう?」

「……邪魔するつもりはない」


 ルドルフは、少しだけ悲痛な顔をした。

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