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12 死神業1

 ユリウスと学園から帰宅し、自室で仕事のための準備を行っていた。準備といっても、『モップ令嬢』の変装を解き、死神業用の変装をするだけである。

 

 私たちは『死神業』なんて言ってはいるが、それはただの通称のようなもので、死神としてイメージされるような、大きな鎌を持って不気味な仮面と黒い外套の恰好で人を襲う……のような変装をするわけではない。死神業の仕事をする時は、私の場合、ダークブラウンの前下がりのボブのウィッグを装着し、猫目の瞳を化粧でたれ目にする。そしてブラウンのカラーコンタクトをし、本来の私とできるだけイメージが遠くなるよう、顔面を作り込む。恰好は走ったりもするため、動きやすいようパンツ姿にブーツ、そしてフード付きの外套をする。これが死神業としての私の制服のようなものだろうか。


 変装の準備が終わると、自室で少し腹ごしらえをする。仕事の途中でお腹が空いたりしないようにするためである。

 チョコレートとパンケーキを食べていると、一緒に仕事をするヴィーとディーの双子が入室してきた。


「二人とも、準備はできた?」

「うん! あのね、お嬢様。今日ラーメン店にお客さんが来たよ」

「あ、ほんと?」

「しかも二人」

「あら、今週はいい滑り出しだわ」


 この場合、『ラーメン店』とは、ただの隠語である。死神業に関係する店に客が来た、という意味だ。そのラーメン店は店であることは間違いなく、普段この二人が店番をしてくれている。


「リストと照合は?」

「ばっちりだよ! お客さんで間違いない! 明日の夕方に出直すようお願いした」

「うん。その対応で合ってる。二人とも、ありがとうね」


 ヴィーとディーの頭を撫でると、二人とも嬉しそうにしている。


「二人とも、おやつをお食べ。エネルギー源を摂ろうね」

「えねるぎ? うん、いただきます!」


 エネルギーという言葉が分からなかったらしい。


「紗彩、準備できたかぁ?」


 咲が入室してきた。


「なんだもう終わってんじゃん。俺もお菓子もらい」


 咲は自由に勝手にお菓子を食べだした。

 次にジークも入室してくる。ジークはテーブルの上に無線機を置いた。これはもちろん東京から持参したもので、私たちが互いに離れていてもやり取りができるように使うものだ。インターネットがないので、こういうやり取りで代用している。


「ありがとう、ジーク。ジークも少しお腹にお菓子を入れてね」

「ありがとうございます」


 それから腹ごしらえがみんな終わると、席を立った。五人は無線機を腰に装着し、家の裏口へ向かう。この恰好で表の玄関を使うのは目立つからだ。

 外に出ると、今日は打ち合わせしていたように帝都の西側へ足を進めた。そしてただ散歩しているかのようにうろうろとする。死神業の最初の仕事は、ターゲット探しである。みな私を先頭に足を進めていたところ、急に咲に腕を引っ張られた。


「そっちは行き止まりだ」

「え? そうだっけ?」

「そうだよ。相変わらず方向音痴だな。こっちの道に行くぞ」


 そう言って咲に引っ張られながら少し方向転換する。あの道行き止まりだったっけ? といまだ疑問だが、私が方向音痴なのはちょっとだけ認めているので、素直に咲に従う。

 それから道を歩くこと一時間、なかなかターゲットがいないな、と思いながら歩く。こういう日もあるのだ。帝都は広い。ターゲットは地道に探すしかない以上、こちらの希望通りにすぐに見つからないこともある。だから、ターゲットがいないからといって、がっかりする必要はない。

 もう少し歩いたら、いったん休憩しようか、と考えていた時、ターゲットの匂いがかすかにした。私が一度立ち止まったため、四人もいったん止まる。


「いたか?」

「うん……ちょっと待って。…………あっちだわ」


 私がまた足を進め始めると、みんなも付いてくる。匂いを追いながら、誰がターゲットだろうと探していると、匂いが強くなり、一人の男性に的を絞る。そして、尾行していると思われないよう、一定の距離を保ちながら男性の後をつけ、確信を持つ。


「あの眼鏡の男性で間違いない」


 私の言葉に全員が頷いたときだった。私がまた立ち止まる。先ほどの眼鏡の男性とは違う方向から匂いがしたのだ。私の反応に咲が口を開いた。


「二人目か?」

「……だと思う」

「分かった。ジーク、いつものように目標を追え」

「はい」


 ジークは頷くと、双子を連れて眼鏡の男を追った。

 一方、私は二人目の匂いを追うように歩き出す。後ろには咲が付いてくる。匂いが強くなるのを感じながら、どの人がターゲットなのか目で探す。そして、一人の女性に的を絞ると、男性の時と同様、一定の距離を保ちながら後をつけた。


「あの女の人っぽいなぁ」

「お、美人じゃん」


 咲は少しテンション上がりめで言う。確かに綺麗な女の人だった。二十歳くらいだろうか、けれど何故か時々後ろを向いては、何かから逃げているような仕草をしている。


「様子が変だな?」

「そうね……とりあえず、話かけましょう」


 私たちは女性に近づき、彼女のすぐ後ろまで迫った。


「すみません、少し……」

「わぁぁぁ! こんなところまで追って……くるな……よ? あれ、女の人?」


 私の声に飛び上がり、後ろを振り向いて叫ぶように声を出した女性は、私を見るなり、少し拍子抜けのような表情になった。

 女性の声に私もびっくりしてドキドキしながらも、にこっと笑った。


「驚かせてごめんなさい。あなた日本人ですよね?」

「………………っえ!?」


 女性は驚愕に目を見開いた。

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