100 妹(仮)が可愛すぎる件 ※流雨(兄(仮))視点
紗彩に浮気を心配する視線で見られ、居心地が悪い思いをする流雨だが、流雨が東京でモテたことは事実で、それを紗彩が知っているので、何とも言い訳しづらい。紗彩も過去の事を追及するわけではなく、これからの流雨が紗彩以外に目を向けないか心配しているのだ。紗彩しか興味はないのだと、これから行動で示すしかない。
紗彩が過去のことを気にするのは分かるのだ。流雨だって、紗彩が前世で夫がいたと聞いて、内心動揺した。紗彩が夫だった第四皇子を気にしていないのならいいのだが、時間を逆行させてしまうなんて、第四皇子を不幸にしてしまったと紗彩は気にしている。
現世では顔を見られて一目惚れされないよう紗彩は顔を隠し、今まで第四皇子と接触もほとんどないとは聞いたけれど、だからこそ心配だった。前世では夫の事が好きだったと聞き、もし再び対面することがあれば、紗彩は流雨よりも第四皇子を取るのではないだろうか。
そんな不安と嫉妬から、つい紗彩に前世での夫を愛称呼びをしないで欲しいと言ってしまった。現世ではほぼ面識がないのに、いまだ第四皇子をそう呼ぶ紗彩が、本当は今でも第四皇子と一緒になりたいと思っているのではないかと、愛称呼びを聞いていたくなかった。
紗彩は目に涙を浮かべながら言った。
「あと少しで赤ちゃんが生まれるはずだったの。最初は嫌がっていたけれど、第四皇子は少しずつ赤ちゃんが生まれるのを楽しみにしてくれていた。もう少し私が死ぬのが遅かったら、せめて赤ちゃんが生まれていたら、第四皇子も時間の巻き戻しをしなかったんじゃないかって。私が第四皇子の腕を離してしまったから、私が悪いの」
どう考えても悪いのは、紗彩を殺した第一皇妃だし、時間の巻き戻しをした第四皇子だ。なのに、今まで後悔し、思い出すことが多かったのだろう。紗彩はいつも自分を責める。
しかし第四皇子が時間を巻き戻してまで、紗彩を生き返らせたいと思った気持ちは分かるのだ。もう二度と愛した人に会えないのは、気が狂うことだろう。自分が使える技を使えば再び会えるかもしれないとなれば、流雨だって同じ事をしてしまうかもしれない。
しかし、それは絶対しないでと紗彩が言うし、約束してしまったから、流雨は同じことはしない。それよりも、そんな状態にならないように力を注ぐ。
「前世ではね、ルーウェンは作った敵に報復にあって亡くなったの。それがいつだったか思い出せなくて。るー君、くれぐれも気を付けてね」
「うん、気を付けるよ」
現世で本当のルーウェンが死んで魂がルーウェンの体から抜けた日のことを、紗彩は言っているわけではないのだろう。ルーウェンは、自ら作った敵から報復される機会が多かったに違いない。それのどこかで前世では死ぬことになったのだろうが、現世では流雨が対策をしている。簡単には死んでやったりはしない。
その後、紗彩は東京に一度戻り、帝国に戻ってきた。紗彩の母は、婚約のために今度戻ってきてくれることになった。流雨も父であるリンケルト公爵と話は進めていて、今のところ順調である。
そんな東京から戻ってきた紗彩が、不安そうな顔で口を開いた。
「るー君は、まだ私が好きだよね?」
「まだ? もちろん好きだよ」
「お兄様が、るー君は東京にいるときから、私が好きだったって言ってた」
「ああ、うん、そうだね。紗彩は小さいころから可愛かったから。俺昔から、紗彩が好きだって言ってたでしょう?」
「それは、シスコンの意味で好きなんだと思ってたの……」
「まあ、そういう意味もあったけれど」
流雨が紗彩の額にキスすると、紗彩は顔を朱色に染め、恥ずかしそうにした。うん、可愛い。
「……あの、ごめんね、るー君。私、大きくなっちゃったから……」
「……? 何がごめん?」
「もう小さくないから。でも、ずっと好きでいてね?」
「………………ちょっと待って、まさか俺が紗彩を好きなのは、小さかったからって、そう思ってる?」
「るー君に小さいころから可愛がってもらっていたけれど、よく私の小さいころの写真見てるって言ってるし、小さいころから可愛いって言うし、小さい頃の私の方が好きなのかと」
「そんなわけないでしょ!? 俺、ロリコンじゃないから! そりゃあ、小さいころの紗彩もめちゃくちゃ可愛いけれど、今の紗彩も可愛いし、すごく好きだからね!?」
「……本当? 今が好きのピークじゃ……」
「何言ってるの! 年々好きが増すばかりで、来年や再来年は今よりもっと紗彩が好きだから!」
間違いない、断言できる。まったく、紗彩を不安にさせているのは誰なんだ。俺なのか? 今までも可愛がると紗彩の反応が可愛いから率先して可愛がっていたけれど、今後不安に思う隙がないくらい愛情を注ごうと思う。
それにしても、結婚するとなってからの紗彩が、今まで以上に甘えたで可愛い。やはり今までは流雨から離れなければと遠慮していたのだろう。流雨に抱き付くのに遠慮がなくなって、紗彩の視線から「好きです」と言っているような光線が飛んでくる。
紗彩は帝国でモテないと言っているが、紗彩は日本では間違いなく可愛い。そんな紗彩が東京に帰るとなると、紗彩を狙う男がいるのではないかと不安だった。紗彩は自分が可愛いことを信じていないようで、東京に一緒に帰れない流雨が心配すると、紗彩は笑い飛ばす。
「るー君、心配しすぎだよ! 私って、そんなにモテないって言っているのに」
「それは紗彩の思い込みだよ。紗彩はすごく可愛いんだからね。もし街でナンパでもされたらどうするの?」
「ナンパ? ナンパなら、されたことあるよ」
「やっぱり! ほら、危ないじゃないか!」
「ナンパって商売なんでしょう? お兄様が、最近のナンパは物を売りつける商売がメインになっているって言っていたの。男の人に声を掛けられたら帝国語で返せばいいっていうから、そうしてるよ。皆すぐに諦めてさよならしてくれる」
「…………」
先に実海棠が対策済だった。しかも商売がメインとか適当な話を紗彩は信じている。さすが実海棠。
しかし、なぜこうも紗彩は自己評価が低いのか。紗彩が席を外している時にユリウスに聞いてみた。
「分かりません。姉様は小さいころから自分は可愛くないと言っていました」
「……これは、また前世で何かあったんだな」
小さいころからということは、間違いないだろう。