12月23日(4)
「うっわ、またいるよ……」
ケーキ屋のバイト終了後、双葉と一緒にアパートへ帰ると遠目から俺の部屋の前で大家の魔血子が邪鬼のような面で立っているのが見えた。あの……一箇所だけ空間が捻じ曲がっているんですけど。オーラで人を殺せますよ?オバサン?(汗)
「うぅ、しかも手には金棒を持っていますよぅ……」
双葉が泣きそうな声で震えながらそう言った。や、ヤメロー!泣くなっ!泣きたいのは俺の方なんだっ!!!
「凶器がパワーアップしてやがるな……下手すりゃ命の危険も……」
「司さぁん!!!何とかしてくださいぃいいいい~~~~~(泣)」
「な、何とかつったって……金ねぇし。素で謝るしかねぇだろ……」
結局あれから店長に前金もらえなかったし……手元に残ったのは肩揉み券10万円分(しかも店長手書きの)だけ。まさかコレが今月の給料とかふざけたこと抜かすんじゃないだろうなあのクソ店長……くっそ、今度会ったら絶対アイツの鼻毛抜いちゃるYO!!!
「す、素で謝って許してもらえるのでしょうか……?」
「ほぼ百パー無理だね、無理だよ、むーりぃー!けっ」
「じゃ、じゃあどうするんですかぁー!?というか何でそんな態度がふてぶてしいんですかぁ!?真面目に考えてくださいよぉ!!!うっー!うー!」ジタバタジタバタ
双葉はついには雪の上で横になり子供のように手足をバタつかせ始めた。コイツは本当にハタチか?
「落ちケツ、まだいくらか手はあるかもしれない、まずこれを見ろ」
俺は手元に残った店長から貰った肩揉み券10万円分を双葉に見せた。
「肩揉み券……?えっと、それがどうかしたんですか?」
「奴にやるんだよ、コレで許してくださいお姉様々って」
「子供のおじいちゃんへのプレゼントじゃあるまいし無理ですよぉ!!!しかも何ですかそれぇー!?手書きじゃないですかぁ!?馬鹿にしているの丸出しですよぉー!!!」
「それにちょっとしたオプションも加えるんだよ。『お、おねがいですぅ~~~お姉様のお靴を私の汚らしい舌で舐め舐めして綺麗にしますからぁ~~~ペロンペロン!ちゅるるっ!』ってな感じでよろしくな双葉」
「そ、それ私がするんですかぁー!?そんなプライドを全部かなぐり捨てた人間みたいな行動したくないですよぅ!!!」
「お前にハナからプライドなんて存在しねぇんだよっ!!!俺に家に居候している時点でなっ!!!」
「司さんひどいですっ!横暴ですっ!鬼畜ですっ!マザコンですっ!」
「誰がマザコンだっ!!!ちょっと確信スレスレのこと言われてビックリしたじゃねぇか!!!」
「え………つ、司さん?」
「やっ!見るなっそんな目で見ちゃやだっ!これは大人の事情なんだよっ!仕方ねぇんだよっ!あっ、やめて!そんな純真無垢な目で見るのやめてぇー!」
くっそ、分かってるよ……こんなショボイ作戦が成功するわけないってコトくらい。しかし、どうしたものか……今度は土下座プレイじゃ絶対無理だろうな。
「くそぅ!そうだっ、てめぇ双葉ぁ!お前も何かアイデア出せよっ!一応お前も俺の居候もといペットみたいなもんだろっ!?」
「ペットって何ですかぁー!?私は人間ですっ!まごうことなきヒューマニズムですっ!」
「うるさいっ、奴隷じゃないだけありがたいと思えっ!あとヒューマニズムは微妙に違うからなっ!それより早くアイデア出せっ!」
「むぅ~……」
双葉は頬をプクーッと膨らませしばらく俺を睨んでいたが、諦めたのかじっと考え始めた。
数分後……
「拳骨せんべいを渡すのはどうでしょう!?きっと喜んでくれるはずですっ!」
「お前も結局、媚売りプレイかよっ!しかも何だその食い物のチョイス!?拳骨せんべい!?お前はアレか!奴に喧嘩でも売るつもりかっ!そんなん渡した瞬間、大魔王がご光臨するぞコラァ!!!」
「え?あの大家さんって歯が弱い方なんですか?」
「それNGーーーーーーーーーー!!!!!言っちゃだめぇ!ホントダメだからそれっ!奴の前で年寄りを匂わせる発言は確実に寿命を減らすよ!?特に俺のなっ!」
「ならひ●こまんじゅうならどうでしょう!?柔らかいし、めちゃくちゃおいしいですっ!私、月に一回は食べてますしっ!」
「だからお前のそのチョイスは何っ!?いや、うまいけどっ!お前はアレか!?九州大好きっ子か!?」
だいたい、媚売りプレイには問題点がある。それは……
「うっ~~~何がいけないんですかぁ!じゃあ、ず●だ餅でなじょ(仙台弁で『どうだ』の意)!?」
「なじょって……いや、あのな。いいか?よく聞け双葉……俺達は金がない、よってそんなもん買えない、以上」
「うっ、そうでした……」ガクッ
双葉は落ち込んだのか下を向いた。くぅ、媚売りプレイは破棄……となると、かくなる上は……
「よし、『誘拐作戦』だ」
「え?」
双葉は顔を上げ、呆然と俺を見つめてくる。うむ、お兄さんその犯罪者を見るような軽蔑の眼差し大好きだよ、なんせドMだし。ごめん、嘘です。ハートがアウチです、デリケートなんです僕。
「すまん、言葉が悪かったな。正確には『人質作戦』だ」
「あまり変わっていないような気が……」
「悪鬼、魔血子には一つ年下の妹がいます。その名も魔鬼子ちゃん、名前と顔が一致しない可愛らしい女性です。俺は嘆きました、何でそんなエゲツナイ名前なのか、と。そこで俺は改名しました、優梨子と」
「何でそんな説明口調なんですか……?そして、人の名前勝手に改名してますし……」
「その優梨子ちゃんは姉とは間逆の存在、獣の群れにハムスター1匹と言いますか、とにかく優しくて魅力的な女性でして……頼んだらオッパイ揉ませてくれそうな雰囲気を漂わせている女性なのです」
「頼んだんですか……?(汗)」
「そんな彼女を人質とし、悪鬼魔血子を倒す!じゃなくて懐柔するという作戦です」
「……何か人として最低な事しようとしているような気がするんですけど(汗)」
「イインダヨー!とにかく、今日の寝床を確保するにはコレしかないっ!」
「あの……絶対、うまくいかないような気がするんですけど……」
なぬっ!?俺の完璧な作戦がうまくいかないだと……?馬鹿なっ!?
「なにぃ~!?これのどこがうまくいかねーつーんだっ!?あぁ!?」
「えっと、うまく言えないんですけど……まず、魔鬼…」
「優 梨 子 っ !」
「え、えっと……まず、司さんに対する優梨子さんの信頼ガタ落ちです」
「え……」
「その、たとえうまくいったとしてもですね?魔血子さんがそのまま黙っていると思えないです。流血沙汰になること必須です。それと、ダブルで司さんに対する優梨子さんの精神的攻撃もありえます。無視、睨まれる、誹謗中傷等々……司さんの精神面を攻撃すること必須です」
「……お前、結構可愛い顔してリアルにきっついこと言うね」
これは結構くる……やばい、すっげぇ胸痛ぇ……ただでさえロンリーなのにこんな……俺は……俺は……そして俺が俯くと……
「……あっ、ご、ごめんなさい司さんっ!わ、私その……ひぅ、こ、こんな……つもりじゃないのにっ……!ご、ごめ、んなさ……ひっく、ごめんなさ……」
双葉はポロポロと瞳から涙を流して何度も謝った。マジ泣きだった。俺は……そんな双葉に……
「……悪い、そうだよな。今のは俺が悪かった、ごめん」
俺は双葉の頭を撫でていた。そうだ……そうだよな、自分から信頼を失うような行動とってどうすんだ俺は……そんなことしたら……もう俺はこのアパートにいられなくなる。それだけは絶対嫌だ……それはすなわち実家に帰るのと同じ意味を持つからだ。
「うぅ~……」
双葉は俺の身体(正確にはダッフルコート)に身を寄せしばらくの間泣いた。
「お客様?ご注文はお決まりでしょうか?」
「いえ……あの、また後で注文しますハイ、ぷひひ」
「?はぁ……」
俺が曖昧な返事をするとガ●トの従業員のお姉さんは『え?何コイツ?キモッ』みたいな顔をしてこの場を後にした。うーん、しまったなぁ、おいちゃん緊張してつい変な声出しちゃったよ。生足が綺麗なお姉さんだったのになぁ……今ので大分好感度が下がったような気がするけど。うん、この歳にもなってギャルゲー感覚の感想述べちゃったよ。あいたたたた~~~♪
「うぅー……司さん、お腹すきました………」
ぐぅ~
ぐぅ~
双葉がそう言うと、インターネットの検索サイトみたいな腹の音が鳴った。モチのロン、俺と双葉によるものだった。
「俺もだよ……仕方ねぇだろ?もう、これしかなかったんだ……」
あの後俺と双葉は一旦、悪鬼がいるアパートから戦線離脱してとりあえず街を歩き回って街の中にあるファミレスであるガ●トに入った。作戦と呼べるかどうか分からんが、ファミレスに入ってとりあえず時間を潰して真夜中になったらアパートに帰ることにした。ファミレスは24時間営業なので、いつまでもこうしてだら~っと居座る事ができる。店の中は暖房が効いてて暖かいしな。しかし、それにしても……
「腹減ったな……」
「お腹空きました……」
さっきから俺達はこんな台詞ばっかり言っている。そうだ、金。マネーががないんだよチックショー!そんなことで俺達の空腹を満たすかどうかわからんが唯一、口に出来るものは……
「ウォーターだ、ウォーターを飲め……ゴキュンゴキュン」
「うぅ、切ない。切な過ぎますよぉ……ここはサハラ砂漠ですかぁ……ゴックゴク」
「ぷっはー……すっげぇ味気ねぇ……あっ、ウォーター無くなった。すいませぇーん!店員さぁーん!おひやもう一杯くださぁーい!」
このように俺達の体力は限界に近づいていた……それにさっきから10分置きに店員さんが注文を聞いてくるんだけど……一銭もマネーが無い俺らには誤魔化す事しかできなくて。それにさっきから周囲の店員さんの奇異な目が俺達に突き刺さる……どうしよう。すっげ怪しまれてるよ俺達。水だけって、水だけって!
「……そういえば双葉、お前店長からもらったケーキはどうした?」
「うぅ……そんなのとっくに私の身体に吸収されていますよぉ……」
あ り え ね ー 。確か店に置いてあったケーキの種類は20種類は余裕で超えていた。店長もアホだが確か1種類につき5個ずつ貰っていたのにそれを全部食ったのかコイツ?なのに何故お腹が空くんだ?そのカロリーはどこに行っちゃったの?ねぇ?意味わかんない。
「そうか……今頃、ケーキはお前の身体の中でウ●コとして処理されている最中なんだな……」
「ウ●コとか言わないでくださいよぅ……」
あぁ、もう……何かおいちゃん疲れたよ……パトラッシュ……そして俺はゆっくり瞳を閉じ……
「お客様ぁー!ご注文は何ですかー♪」
元気な女の子の声が聞こえてきた。……ん?何かどこかで聞いたことがあるような声だな……俺は気になったので顔を上げて女の子の顔を確認すると……
「………え?」
「……あー♪司先輩だー♪こんばんわっす♪」
ファミレスの制服を身に纏ったケーキ屋のバイト仲間の苺ちゃんがいた。