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12月22日(4)

ビュォオオオオーーーー………

表に出ると横風の強い雪の嵐が吹雪いていた。


「寒っ……」


ダッフルコートを羽織っていても寒かった………てか、シャレにならねぇじゃん。ホント勘弁してくれよ……俺はブツブツと愚痴りながらアパートのオンボロ階段を降りてい……

つるっ、ズルゥウウー!


「うぉ!?」


俺は階段で足元が滑りそうになったが、滑る瞬間、何とか手すりに掴まり事なきを得た。うっそ!凍ってるよっ!地面っ!ちょっ、おまっ、ここは北国じゃねぇんだぞっ!?おーい!誰か邦衛さん呼んでこーい!……いかんいかん、ちょっちテンパッてるな俺。しっかし、危ねぇなオイ!すっ転んで階段から落ちて気絶して凍死とかなったらシャレにならんぞオイ!


「し、慎重に行くか……うぅー、さぶっ」


俺は寒さしのぎに両腕を抱えながら、一歩ずつ階段を降りて行った。それにしても……アイツ。何でいつまでもアパートの前に居たんだ………だいたい、その、何だ。何故、俺にかまう?他の俺より百倍優しい奴に頼めばいいのに。……分からん、全くもって理解不能だ。


「くそっ、何やってんだよ俺………」


けれどあんな姿見たら放っておけねぇじゃねぇか……一度目に焼きついたアイツの姿は俺の記憶に残ってる。それが俺の身体を前へ突き出すんだ。一度、冷たくあしらった相手だ。もしかしたらアイツは俺に嫌悪さえ抱いている、つーかその可能性が一番高い。自分でも分かっている、俺は最低でアフォで三十路でちょっと根暗で童貞でもう……何ていうか、その直しようの無い人間的にダメだっつーことは。きっと、客観的に見ればさっきあの女にやった俺の行動は最低の部類に当てはまるだろう………だからこそ、どこかであの女を遠ざけていたのかもしれない。同属嫌悪じゃなくて、俺みたいな冷酷非道人間があの女に近づくことは気が進まないって。それは自分勝手な言い訳に聞こえるかもしれねぇけどさ。


「……何、脳内で語ってんだろうね。俺……」


とにかく、罵倒されても、殴られても、良かった。いや、それくらいして欲しかった。じゃねぇと俺みたいなアフォは一生気付けねぇから。


「はぁ……はぁ……」


そして俺はアパートの前まで行き、雪の上で倒れている女の近くまで寄った。色んな覚悟をして。






「おーい、生きてるかー」


俺は倒れている女の前でしゃがみ、女の頬を掌で軽くペチペチと叩いた。すると、目の前で倒れている女はかすかに反応し、顔をゆっくり上げ……


「あ………お兄さん………お兄さんだぁー、エヘへ………(///)」

「……っ」


……女は本当に嬉しそうな、無邪気な子供のような真っ赤な顔で俺にそう言った。……何だよ、何だよコレ。何で……何でそんな表情を浮かべるんだ………俺は、俺は一度……お前を見捨てた男なんだぞ……?どうして……どうして……しかし、ソレを口には出来ず俺は………


「よーしっ、まだ生きているみたいだな。よっこら、せっと」

「………あ(///)」


俺はそのまま女を背負った。


「おーちめたっ、お前の身体ヤバイくらい冷えてんじゃん」


何故か軽々しい台詞しかいえない自分に対して嫌悪を抱く。あー……ホント、俺最低だわ。こんなんになっちまったのも自分のせいなのに。でも、何故だか不思議と気遣いの台詞が言えない。あれか?俺、コイツの親みたいな感覚で接しているからか?まぁ、幼女だしいいか。


「うぅ……お兄さん、私はハタチですよぉ……」

「お前はあれか?よくあるヒロインの能力を真似て作られたメイドロボか」

「何ですかそれ……全然意味分からないですよぉ……それに私はメイドロボじゃないです……」


さっきから、女の声が弱々しい。震えているのか……寒さで?


「……おい、お前」


俺が「大丈夫か……?」と言おうとしたが、その前に女が弱々しく口を開いた。


「……お兄さん、名前……教えて、下さい………いつまでも他人行儀な形で喋りたくない……です……」


耳元でかすかな息使いが聞こえる。それは女の……いや、もういいだろ他人行儀は。そう、双葉の身体が冷えて体力が落ちてきている事を意味していた。


「………司、溝淵司みぞぶちつかさだ」

「あ……司、司、司……エヘへ、司さん……ですね?私……もう、覚えましたっ。今度から司さんってお呼びしますっ。そして、今日からヨロシクお願いしますっ、ご主人様!」

「おーコラコラ、それとこれとは別だ。シェアーだコラ。俺はお前を買うなんて一言も言ってねぇぞ。第一、俺は1万なんて大金持ってねぇからな」

「うぅー……いいじゃないですかぁー……人間の腎臓は片方あれば充分なんですよ……?」

「お前かぁいい顔して何さらっと恐ろしい事言っちゃってんの!?悪魔かお前はっ!?」

「か、可愛いだなんてそんな………照れちゃいますっ(///)」

「いや、そんな桃色展開出されてもっ!ちっともドキドキしないから!違う意味でドキドキしたわっ!」


何だ……ちょっと元気になったじゃん。双葉は笑顔で俺に「もぉー冗談ですよぉー♪」とか言いながら俺の頭をポンポン叩いてきた。……この幼女、調子に乗りやがって。


「えっと……その、お金……別にいいです。司さんが私を買ってくれたのでいらないです」

「おい、それは買ったと言えるのか?あと、俺はお前を買ってねぇんですけど。買わないんですけど」

「いいんです!司さんは私を………ヘックチ!」

「おいおい可愛らしいクシャミしてんじぇねぇよボケ。とっとと俺の部屋に行くぞ」

「うぅ、申し訳ないです………」


そして、俺は背中に当たるちょっと柔らかな感触に耐えながら(アレな意味で)、双葉を背負って再びアパートのオンボロ階段を上って行った。






「うぅ……寒いです、狭いです、心が寒いですぅ」


双葉は俺の六畳間の部屋に入ると、部屋の端で体育座りでそう呟いた。


「えっ?ちょっ、おまっ、最後の聞き捨てならねぇんですけど」

「うぅ……その上、お腹空きました……」クー

「え?何、君、何で可愛らしい音出してんの?えっ?お腹空いた?嘘だろ?お前、牛丼特盛食ってたじゃん。まるで親の敵のようにガツガツガツガツと」

「そっ、そんなに食べていませんっ!(///)」


すると双葉は顔を真っ赤にし、俺にそう抗議した。……あー、あれか?こういうのがでりかしーに欠けているとかなんとか……現実の女ってのは色々とメンドク臭せぇな。


「あー、待ってろ。冷蔵庫に何かあるか探してみる」


そして、俺は台所にあるマイ冷蔵庫を開け、中に何か食糧が残っていないか確かめる………おっ、これと、これなんかいいんじゃねぇか?


「ほら、もずく」

「い、嫌ぁーーー!!!そんな黒くてえげつない物体をこっちに見せないでくださいぃぃいーーー!!!」

「えげつないって……おまっ、知らねぇのか?もずくはなぁ!食酢とあえて食うとうめぇんだぞっ!?海の贈り物なんだぞぉ!?このヌルヌルが最高にいいだぞぉ!?」

「そ、そんなヌルヌルしたものが大好きだなんて………司さん、不潔ですっ!ケダモノですっ!」

「おーおーコラ待てやてめぇ!もずく好きって言っただけで俺を変質者扱いかコラァ!全国のもずくふぁんくらぶの方々に謝れやコラァ!」


本当に……本当に美味しいんだぜ?もずく……


「ほ、他に無いんですかっ……!?」

「あーもう一つは……ほれ、魚肉ソーセージ」

「うっ……あ、あの!あのあのっ!そ、そういうのはまだ………早いと思うんですっ!その……もう少し、もう少しですねっ……距離が縮まったら………無くもないかな、と………(///)」

「………お前は何を想像しているの?いいから、それ食っちまえよYOU」

「う、うぅー……い、いただきます……れろっ、れろっ……ちゅるっ、ちゅるちゅる……(///)」


双葉はさっきより顔を真っ赤にさせ、何故かソーセージをしゃぶり始めた。えっ?何この無駄にエロイ構図。第二の俺が噴火しそうだよ?ビックビクって。


「普通に食えよ……」






「えっと……あの、司さん。その……少し、お願いしたいことがあるんですけど………(///)」


ソーセージを食い終えた双葉(あぁ!ほんっと地獄のような……いや、フルーツのような一時だったよ!うん!)は真っ赤な顔で俺に聞いてきた。


「……何だ?」

「えっと、そのぉ………お風呂、貸して頂いても宜しいですか?(///)」


双葉は下を向き、モジモジしながら人差し指の先でちょんちょんとさせている。


「え………」


俺は瞬間ーーーーー頭が真っ白になった。

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