12月25日(7)
「おい、チェリーボーイ司」
「何だ、アブノーマル薄毛」
あれから双葉と栞と一緒にケーキ屋に帰り、さっそく店の奥の居間で皆で鍋の準備をしていると一休さん仕様の店長が俺を少し睨みつけながら俺を呼んだ。
「これは何だ?あれか?一種の俺への当て付けか何かか?」
店長は大方殆どの具材が入った鍋を指してそう言う。ちなみに鍋のスープは優梨子ちゃんの愛情が詰まった特製の鶏がらスープだ。
「なんだい、あたしの妹の料理にケチつけるってのかい?おぉ?ん?オルァ、クソハゲ?ちょっと表出るかい?ハァー……」グイッ
魔血子は店長の胸倉を掴み上げ、タバコの副流煙を店長の顔面に吹きつけた。もうやってることがそこいらのコンビニでウンコ座りでたむろっているチンピラと大差ねぇじゃねぇか。
「おうおう!ちょっ、まっ……ち、違げぇよぅ!別に俺ぁ優梨子ちゃんの味に文句あるわけじゃねぇよぅ!」
「あー?」
店長はちょっと泣きそうな情けない声で必死に弁解し始める。どうでもいいけど、優梨子ちゃんの味って何か響きがエロイな。
「何でこんな鍋の具材がワカメとかひじきとかトロロ昆布とか……海藻系が多いんだってことだよぅ!ハゲの俺への哀れみかぁ!?同情かぁ!?おいっ!司っ!どうなんだこらぁ答えてみろおらぁあああああーーーーーー!!!!!!」
店長は魔血子に胸倉を掴まれながらも俺の方に向き、必死に喚く。内心は魔血子のオーラにビックビクして今にも失禁しそうなくらいハムスターのようにぷるぷる怯えてんだろうが、それを誤魔化すために大声で喚いてんだろうな。だからと言って俺に当たるのは筋違いだ。
「知るかよ、鍋の具材は魔血子に頼まれて買ってきたんだから俺に文句言うなハゲ」
「な、なにぃ!?ち、ちみぃ!そ、そんな……苦し紛れな嘘をつくなんて男として恥ずかしくないのですか!?」
「どうして俺がそんなところで苦し紛れの嘘をつかないとならねぇんだよ。あと何でお前は敬語なんだ」
「おう、そうだよ。アタシが司に頼んだんだよ。つまり、それは何か?アタシの飯が食えないと?」ポキポキッ
「ひっ、ち、違いますぅ!」ビクンッ
何かオジサンとオバサンがじゃれ合っている内にメシ食お、メシメシー腹減ったー。
「おう、ハゲ。やっぱテメェ面貸せ、そして表出ろ。アタシがたっぷり可愛がってやるからよぉー」グイッ
「おっ、ちょっ、まっ……うぉおおおおおおおおおらめぇえええええええええーーーーーー!!!!!!」ズルズル……
「「「「「いただきまーす」」」」」
ケーキ屋から魔物とケダモノが消え、少し平和になったところで食事タイムスタート。ムフフ……なんせ今日の晩メシは優梨子ちゃんの愛情がたっぷりねっぷりねっちょり詰まった鍋料理……興奮せずにはいられないぜっ!
「はふっはふっ、おっ、おいひしでふぅー!こ、このエビがプリップリッしてて……最高にうまいでふーーーーーー!!!!!!」ハグハグ
何やら俺の隣から珍獣の喧しい声が聞こえてくるが、ふふっ、そんなもんは雑音雑音……さぁ、さっそくまずはこの優梨子ちゃんが剥いたエビちんを味わお……
「せんぱーい?さっきから何でニヤニヤしてるんですかー?」
俺がエビちんを口に運ぼうとしたところ苺ちゃんが俺の顔を見ながら不思議そうな顔でそんな事を聞いてきた。ぬっ、しまった……俺こと純情少年TU☆KA☆SAきゅんの表情は隠し切れないってことか。誰ですか今おめぇは少年じゃねぇだろバーローとかいったお子様は?うるせぇよ、今の俺は外見は大人でも心は清純なボォイなんだよブァー
「あ、あの……司さん?もしかして……お口に合わなかったでしょうか……?」ショボンヌ
同じく俺の表情から何か察したのか優梨子ちゃんは顔を伏せ、寂しげな表情を浮かべる。優梨子ちゃん?まだ僕ちゃんは君の料理をお口で味わってないですヨン?といってもこのままではまずい。
「ち、違うよっ!うまそうだよっ、優梨子ちゃん!まだ口で味わってないから分かんないけど……!ほらっ、見てよ!今から優梨子ちゃんが剥いたこの優梨子ちゃんのエキスがたっぷり染みたプリップリのエビちんを俺の舌でねっぷり舐め舐めして……この舌でじっくり優梨子ちゃんを味わうからぁ!だからそんなに落ち込まな」
「お兄ちゃん?!何言ってんの!?」パッチコーン
「うがぁ!!!」
必死に弁解していると妹様からのドギツイビンタが飛んできた。いきなりのビンタに華麗なる一族の俺はひらりと華麗に避け……れるわけもなくそのまま頬にモロ直撃した。
「いきなり何しやがるっ!?やっぱりお前はあれかっ、ツンデレか!?なら早くデレを見せやがれチッキショォー!なら萌えてやらぁー!」
「ワケ分かんないこと言わないでよっ!それよりお兄ちゃん!何、口走ってんの!?それは普通にセクハラだよ!?」
「あ……?何って、お前……あ」
「………(///)」
ジンジン痛む頬を手で押さえながら優梨子ちゃんを見ると顔を伏せモジモジしていた。……よく表情は見えないけどあれは恥ずかしがっている。おそらく優梨子ちゃんのお顔は茹蛸のよぉに真っ赤なのだろう。
「泣く子も黙るまごうことなきセクハラですね~、せんぱーい」
「……ご、ごめん優梨子ちゃん。い、いただきマッサル……」
「………はい、どうぞ(///)」
「……もぉ、お兄ちゃんったら……」
……何か変な空気になっちった。ひょっとして俺っ?!俺のせいなのかコレ!?(汗)
「ハグハグ、お肉最高ですっ!ムシャムシャ、カニさんもウマーですぅ!」
「お前、さっきから肉とかエビとかカニとか高いもんばっか食ってんじゃねぇか。ほらっ、ワカメちゃんとかトロロ昆布さんとかひじきくんも食え」どばどばぁー
「あっ、あーーー!私の受け皿にグロくてえげつないものがいっぱいにぃ!うぅ!やめてくださぁい!司さん!これ以上私の受け皿をバイオハザード状態にするのはやめてくださぁい!」
「やかましいわ、それにお前あれだろ?主に下半身がツルッツルだろ?海藻ちゃん達をドンドン食って生やしなちゃいなさい」どばどばぁー
「わ、私はツルッツルじゃないですぅ!(///)って、あぁ!追加投入するのやめてくださぁい!」
「だからお兄ちゃん、それも普通にセクハラ……」
とまぁ、ちょっと変な空気になったところでそのまま尾を引くわけも無く皆で喋くりながら食事を楽しんでいますよえぇもちろん。そして外から帰ってきた魔血子と無数の傷がついてボロボロになった店長も参加し、ますます皆で囲む鍋対談(?)はヒートアップしていく。
「優梨子ちゃん、そこの豆腐取ってくれねぇか?」
「あ、ハイ。どうぞ、店長さん」
「おぉ、すまんね。……ヌフフ」
「あー、パクッ」
「……ってあぁ!な、何しやがるっ!クソババァ!せ、せっかく優梨子ちゃんが口をつけた箸で取った豆腐をぉお!?優梨子ちゃんとの間接ちゅーを楽しめたのに!クソババァ!何の怨みがあっ」
ドスッバキバッキボッキボキ
そのまま口を閉ざしときゃあ言いものを……店長は余計な事を言ったせいで魔血子に調教を受ける羽目となった。しかし、知り合ってあまり間もないのにまぁ随分と仲良くなったもんだ。見ている分は微笑ましいよ。悪酔いで暴れられるよりはよっぽどマシだ。
「モグモグ……そう言えば苺ちゃん、家に電話しなくてもいいの?ご両親は心配してるんじゃないか?」
俺はシャキシャキの白菜を頬張りながらふと疑問に思ったことを苺ちゃんに尋ねてみた。俺や栞はもとよりお袋や親父の了承を得てここに来てるし、魔血子や優梨子ちゃんはあのアパートの大家の部屋で二人暮らしだし、店長は当然独身だし、双葉は……どうなんだ?謎だが、まぁ俺と今日を含めて4日間過ごしているから大丈夫……なんだろう。しかし、残った苺ちゃんはどうなんだろう?多分、ご両親もいるのだろうから心配しているのではなかろうか?
「ふぇ?あぁ、大丈夫ですよー。私、高校生になって実家から上京してきたんでマンションで一人暮らしなんですよん」
「あぁ、そう……って、えぇー!?初耳だよそれっ!?」
「えっへん、太古のロマンですよねー先輩」
いやどの辺が太古なのか分からんが、すごいな……一人暮らしっつーのは思っている以上に金が掛かる。毎月の家賃はもちろんの事、電気代、ガス代、水道代、その他諸々……まぁ、しっかりとした職業に就いている人はそこそこやっていけるんだろうけど。しかし、苺ちゃんは高校生だ。バイトでまかなっていくしかないのか……あぁ、だからケーキ屋とファミレスの掛け持ちか……しかし、たかがバイトじゃしれてるだろう。良くてもギリギリの生活を強いられているんじゃないだろうか?よくご両親は許したな……とまぁ、他人の俺がこれ以上踏み込むのはちょっとよそう。
「……すごいよ苺ちゃん、偉い偉い」なでなで
素直に偉いなーと思った俺は自然と苺ちゃんの頭に手をやり撫で撫でしていた。べ、別に一人暮らしの自分が両親のお金を当てにしてたから情けなく感じたとかそういうことじゃないんだからねっ!?(///)
「……やっ、やだなぁ~先輩。別に私苦労なんかしてないですし、そ、それに……格安アパートで暮らしてますから豪遊ですよ、豪遊、あは、あはは……」
苺ちゃんは口ではそういうものの少しいつもの元気な様子とは違って見えた。……無理、してるんだろうな……俺とは大違いだ。俺はさらに頭を撫で撫でする。
「……せ、先輩(///)」
「………ん?」
撫で撫でし過ぎたからだろうか、苺ちゃんの頬は少し赤く染まっていた。でもちょっといつもと様子が違う苺ちゃんもかぁいいなぁ……だからおいちゃんもっと撫で撫でしちゃう!とまぁ、おふざけはほどほどにして……べ、別に下心なんか無いんだからねっ!?(///)
「………じゃあ、先輩が私を養ってくれますか?(///)」
「………え?」
苺ちゃんはちょっと上目使いで俺を見ながらそんなことを仰る。……うぇ、ちょっ、コレマジか……!?ど、どうしよう……苺ちゃん本気でそう思って……いやいや、苺ちゃんのことだから冗談……でもこの瞳はマジモンだっ!う、うわぁー俺、ちょっと調子乗りすぎたかなぁ!し、しかし……ここは大人として寛大な心を見せるところではないだろうかっ!?だ、だが、俺はもう……帰え……
「……ぷっ、あはははーーー!先輩!何、本気にしてるんですか!?真剣な顔して悩む先輩かぁいい♪」
「えっ、ちょっ、えぇええええーーーーーー!?嘘っ、それやっぱり嘘なのぉ苺ちゃん!?」
「うーそでーすよーん♪あっ、でも一人暮らしっていうのはホントですよ?先輩、本気で考え始めるから私冷や冷やしましたよー」
「こ、こぉのぉ!またいたいけな大人をからかったなぁー!もう許さんとですよー!?今度は頭じゃなくておっぱいを撫で撫でしてやるー!こっちに来なさいキェー!
「きゃー♪先輩に犯されるぅー♪」
「お兄ちゃ~~~ん?」ゴゴゴゴ…………
苺ちゃんの後を追いかけようとすると俺の目の前に背中にどす黒いオーラを携えた妹様が仁王立ちで俺の行く手をふさいでいた。
「……あっ、えっ、ちょっ、栞様?も、もぉ~冗談に決まってるじゃあ~りませんかぁ~へへっ、ここは一つ許してってあんぎゃぁあああああああああーーーーーー!!!!!!」
「……先輩、向こうに帰っても頑張ってくださいね」
苺は司が栞に制裁を受けている最中、一人そんなことを呟いた。それは魔血子しか知りえぬはずの司の実家への帰還を示唆するものであった。