12月25日(6)
「司さんひどいですっひどいですっひどいですっーーー!(泣)」ポカポカ
スーパーで鍋の材料を買い終えると、双葉が真っ赤な顔して泣きそうな声でそう言いながら俺にニャンニャンぱんちをお見舞いしてきた。
「ひどいのはチミのここだろ、こーこっ!」ツンツン
俺はそう言いながら双葉の頭を軽く小突いた。つまりはノータリィーンってことさ。
「い、言うに事欠いてなんてこと言うんですかぁ!ひどいっ!ひどすきますっ!司さん!」
「やかましいよロリ、だいたいなぁ……お前あれ本気で信じてたの?」
あれとはつまり、あれさ。あれ……あれ?えーっと、あるぇー何だったっけ?おいちゃん忘れちった、てへっ☆
「忘れないで下さいよぉー!チーカマのことですっ!司さんは私を騙しましたっ!今思えば人前であんな恥ずかしい台詞言っても全然、おっきくなりませんでしたっ!ひどいですっ!このチーカマペテン師!略してカマ師!」
「やめろ略すな。ったく、いつまでも終わった事をグダグダ言ってもしゃあねぇじゃねぇか。割り切れ、な?帰ってメシ食ってクソして風呂入って寝りゃあ今日の些末な出来事なんか綺麗さっぱりと忘れるさ。人間割りきりが大事だにょ~ん」
「しゃあなくないですっ!ひ、人事だと思ってぇー!当事者のクセになんでそんな偉そうなんですかぁー!……うぅ、周りの方々達には私どんな目で見られていたのでしょうか……私もうあのスーパーには二度と行けないですっ……」
「そりゃあ、完全に痛女だろ。首領ク○ークもびっくらコンなドン引き羞恥プレイだよ。お前見たろ?あのおば様方の何とも言えない表情。僧侶みたいな人がお前の頭の上に小銭乗っけてたろ、ありゃあ完全に哀れみの念を抱かれてるよ。お前オワタな、色んな意味で」
「うわぁあああああーーーーーーん!思い出させないで下さいぃいいいいーーーーーー!(泣)」
双葉はそう喚きながらその場で頭を抱えて蹲った。ふふん、そうよぉこのような俺が双葉を弄る、双葉が俺に弄られるという弄り弄られる関係が俺と双葉の関係なのさぁー!今、いい歳こいて何キモイこと考えちゃってんの?とか思ったろ?別にいいのさ、とうに諦めてるし。何って?人生だよっ、ワスの人生っ!あぁーん?わりぃだスかコラァ!しまった、ちょっとおいちゃん興奮したからいな○っぺ大将入っちまったじゃないだスか。
「お兄ちゃん悪ノリしすぎ」
今までの俺と双葉の会話の一部始終を聞きいてらしゃった妹様は俺をジト目で見つめる。なぁに、もう嫉妬かい?まいぷりちーしすたぁーちん?
「キモイ」パチン
「うがぁー!いってぇ!い、いきなり何しやがるっ!兄である俺様の神聖なる柔肌頬に『キモイ』の一言の数秒後にハイ、パチーン!キタッーきょうれつぅー♪なビンタを送るたぁー……お前はあれかっ!?ゆとりかっ!?DQNかっ!?それともツンデレかっ!その行為はこの後に繋がる『ツン』から『デレ』へと励起する一種のデモンストレーションかぁ!クラァー!それとも何かっ!?お前は俺が『べらM(←べらぼうにMの略語、つまりはすごくアウチな行為に対してハァハァ悦ぶ属性の人のこと)』であることを知ってて打ってくれたのかぁ!よぅし、受けて立ってやろうじゃねぇかぁ!その挑戦!但し言っとくがなぁ……次からの攻撃は主に下半s」
「うるさいし長いし、ほんとキモイよお兄ちゃん。調子に乗らなければまともな人なのに、調子に乗るとホントダメダメな人だよねお兄ちゃんって……やっぱり翼お兄ちゃんとお母さんとお父さんの血が色濃く残ってるよね……はぁー」
「………す、すみません」シュボーン…
何か栞に俺にとって地味に辛辣な事を言われてシュンとした俺は素直に謝った。な、何だろう……何故か分からんが今まで言われた暴言の中で一番胸に突き刺さったぞ……?馬鹿な、何を言われても悦びに昇華させる……というのは嘘でベニヤ板の心を持つ俺がこんなショックを受けるなんて……やっばい、10分くらい立ち直れなさそうって早いなオイッ!とかいうノリツッコミはなし。
「(うぅ~、お兄ちゃんあんなに双葉ちゃんと楽しそうに喋ってデレデレしちゃってぇ……!どうせ私は正ヒロインに隠れる日陰な妹ですよぉーだっ!)」ギュ~
「あだっ、あだだだっ!栞ぃ!俺の乳首を抓るなぁ!……アッ」ビクンッ
「ファミチキおいしいですー」はむはむ
「だよねー、この油がギトギトしてなくて食べやすいのがいいよね、双葉ちゃん」まむまむ
「………」
俺はロリ様もとい双葉様と妹様に失礼な事をした御礼としてファミチキを奢らされた。……ま、安くついたからいいけれどな。
「ファミチキウマー」はみゅはみゅ
「鳥さんウマー」まみゅまみゅ
「……太るぞお前ら」ボソッ
バッチコーイ!(×2)
「………」ジンジン
「ウマー」
「馬ー」
………打たれた。親にも打たれた事ないのにぃ!……マザなんたらかんたらコンとかではないのであしからず。
「……さて、買うもん買ったしそろそろケーキ屋に戻るか」
路上に雪が残る街中を3人で歩いている途中、俺は双葉と栞にそう言った。時刻は夕方の5:00……そろそろ仕度しねぇと……皆に、世話になった奴に挨拶しねぇとな……いきなりでびっくりするかもしれないが魔血子、魔鬼じゃなくて優梨子ちゃん、苺ちゃん、店長……栞は一緒に実家に帰るから別として……それに、今俺の横に居るコイツ……双葉も。……その後のことは、魔血子に任せたが、………いや、何考えてんだ俺は。……だめだ、決めただろ?俺は……
「………え、あ……」
俺の言葉を聞いた双葉は何処か寂しげな表情を見せる。……まだ遊び足りないのか、しかし……ん?服の袖を引っ張られる感触がした。そこに目を向けると……
「お兄ーちゃん、双葉ちゃん」
「お、お……?」
「あ……」
栞は俺の右手と双葉の左手を動かし握手させる。そして、栞は栞で俺の反対側の左手と自分の右手で握手する。……何だこの夕日に向かって歩き出す父子家庭で二人の子持ちっぽい演出を匂わせる構図は?
「……双葉ちゃん、お兄ちゃん………帰ろ?」
「……お、おう、だな……双葉もいい……か?」
「……ハイッ、エヘへ………」
双葉は何故か嬉しそうな表情で微笑み、俺の手をギュッと握る。……栞も何だか少し嬉しそうなんだが、何だ?意味が分からない……ま、いいか。そして俺達は茜色に染まる雪の街をケーキ屋に向かって歩いて行った。
この時、俺はまだ気付いていなかった。
この栞の行動と双葉の態度が何を意味するのかをーーー………