12月25日(1)
街灯が聖夜の街を照らし、一層賑やかになってきた頃。
ケーキを求める客足は徐々に減り、暇になってきたところでレジでぼけ~っとしていると店内にゾロゾロとコスプレサンタ娘達(一人変なオバサンが混じっているが)が入ってきた。
「はぁうー中は暖かいですねぇ」
双葉はストーブの前で手を擦り、ぬくぬくモードに入っていた。
「おら何か今の台詞でおっきしたぞ」ムクムク
「氏ねよロリコン」
今日は珍しく店長もレジに出ていた。といっても店の中でタバコを吹かしてエロ本を読んでいただけだけどな。何度かそのまま自家発電をおっぱじめようとしたのでぶん殴って気絶させたがな。店長が『おっ、そうか!ホイップクリームの代わりに俺のザ●メン使えばいいジャン』とかほざいた時は本気で亡き者にしてやろうかと思ったが地中の分解者にご迷惑をかけるかと思って止めたがな。
「はっ、なんだい。そこのイカ臭そうな顔してる男がこの店のケーキを作ってるのかい。何も知らないでここのケーキを喰う客に同情するよ、フゥー……」
サンタクロースの格好でタバコを吹かしているババァもとい魔血子が蔑むような視線を店長に送る。あぁ、何でこのクソババァがここに……エロイ体つきをしているが全然萌えない。サンタクロースというよりサンタブッコロースみたいな感じだった。その服の赤いのはサンタを撲殺した時に付着した返り血ですか?思わずそう問いたくなるような異様なオーラを周囲にびんびんに放っていた。
「おい、司。何だそこの初対面なのに失礼なクソババァは?思わず萎えちゃったぞコルァ。ところで栞ちゃん、今日のパンヌーの色何柄?」
「兄の前で堂々とストレートなセクハラを働くなロリコン。あのババァは俺の住んでいたアパートの大家だよ」
「住んでいた?まるで今は住んでいないみたいな言い方だな。ところでそこのかぁい子ちゃん、おぱぬー揉ませてくれないか?」
「…えっ、え?あ?えぇ!?(///)」
店長は何かを揉みしだくかのような手つきで両手をワキワキさせていた……うん、とりあえずやっちゃうか。一応言っとくが、悦ばせるって意味じゃねぇぞ。
「あたしの妹にセクハラ働いてんじゃないよっ、イカ臭男!」ブンッ
「うおぅ!?」スカッ、パララッ
店長が優梨子ちゃんにセクハラを働くこうと近づいた瞬間、隣にいた魔血子が釘バットを店長の脳天に向けて振り下ろしたが、ワンテンポ遅れて気付いた店長は寸前のところで後ろに避けた。ギリギリで避けたせいか、店長の髪の毛は真ん中で一直線に綺麗にパラパラ抜けていった。何だその漫画みたいなおもしろギミック。
「ちょっ、おまっ、うぉおおおなんじゃこりゃぁあああああーーーーー!落ち武者の出来損ないみたいな髪形になっちまったじゃねぇかコラ!」
店長は手鏡を見ながら嘆いていた。とりあえず、俺は店長に指差しながらゲラゲラ笑っておいた。
「ちっ、避けるんじゃあないよ。てめぇの頭の表皮剥ぎ千切って、ドロッドロの脳味噌ブチ撒けてやるつもりだったのによ、かぁ~ぺっ!」
魔血子は落ち武者店長をドギツイ目で睨みながら唾を吐いた。店内で唾を吐かないで下さいオバサン。
「ねぇ?司君司君、あのオバサンあんな事言ってるヨ、おっちゃん怖い」ガクプルガクプル
「俺に触れるなチン●スマン」バシッ
「ひでぇ!」
「ところで……君達は何でこんなとこで客引きしてたの?」
昼から忙しくて彼奴等に構う事ができなかった俺は疑問をコスプレサンタ3人娘(+α)にぶつけた。
「客引きだなんて……別にここ怪しいお店じゃないんだし、人聞きの悪い事言わないでお兄ちゃん」
双葉、栞、優梨子ちゃんはふっつうの良心的な客引きに見えるが、魔血子は風俗やキャバクラの客引きにしか見えないぞ。しかも悪徳の、一度掴んだ男は死ぬまで骨までしゃぶられ身体も精神もボロボロにされた挙句に最終的には奈落の底へ突き落とされそうだ。
「じゃあどうして」
「えっと……ですねぇ(みなさーんっ、手筈どーりにやりますよーっ)」(双葉)
「(ほ、本当にやるんですか……?『アレ』?)」(優梨子)
「(ここまできたらやるしかないですっ!背にハラミはかえられませんっ)」(双葉)
「(双葉さん……背に腹は、です……)」(優梨子)
「(けっ、この娘は脳内に食い物しかないんだね)」(魔血子)
「(ちっ、ちがいますぅーた、偶々間違えただけですっ、別にバウムクーヘンとかクロワッサンとか食べたいなとか全然これっぽっちも一ミクロンも思ってませんー!)」
「(ふん、まぁそんな正直な所がアンタのかぁいいところでもあるんだけどね)」(魔血子)
「(………ずるい)」(栞)
「(……?どうしたの?栞ちゃん?)」(優梨子)
「(な、何でもないです)」(栞)
「(こ、こほんっ、では……やりますよーっ、いっ、せー、のー、せっ!)」(双葉)
パンッ、パパパッ、パンッ、パンッ「「「「メリークリスマース!!!!」」」」
突然店内に爆竹のようなけたたましい音がした。さらには色取り取りの紙テープやら紙ふぶきやらが飛交いそこは華やかな空間を演出していた。
「ひぃ!?な、なんだぁ!?」
突然の音にびっくらこんした俺はコスプレサンタ3人娘(+α)の方を見ると、全員、手にパーティ用のクラッカーを持っていた。なんとっ!苺ちゃんまでニヤニヤ顔で俺を眺めているでは無いかっ!そ、そうか……!これはもしかして、あれだ……嵌 め ら れ た 。まだ女の子を色んな意味で嵌めた経験は無いけどとにかく、嵌 め ら れ た 。
「えっへへへー、司さん!驚きました?やーい!やーい!びっくりしましたねぇ!やったですー!」ジタバタ
双葉はしてやったり的な笑みを浮かべ、その場ではしゃいでいた。一発しばきてぇ……だが奴らに出し抜かれた俺はその場で脱力した……こんなロリモドキに先手を取られるなんて……ガクッ。
「なんだい、辛気臭い顔しちゃってさ。せっかくクリスマスパーティー開いてやろうってのに元気出しなっ」ピシッ
魔血子はいきなり俺の背中に鞭打った!
「ぎゃぁー!な、何しやがるっ」
「見て分からないのかい、鞭だよ鞭。あんた大好物だろ?こーゆーの」ピシッパシッ
「……司さん」ジッー
「……お兄ちゃん」ジッー
「だ、大好物なわけあるかっ!お、お前らもそんな意味深な目で俺を見つめるなよっ!」
「司先輩はドMなトナカイさんですねっ、実際のサンタさんとトナカイの関係って女王様とその奴隷って感じですよね。ドSなサンタさんがドMなトナカイさんに鞭打って良い子にプレゼントを届けるってな具合に」
「苺ちゃんもそーゆー怪しげな解釈で俺とサンタさんを汚さないでくれるっ!?……うげぇー!苺ちゃんがそんな事言うから中年の白ヒゲの小太りのオッサンが真っ赤な顔でハァハァ言いながら擬人化したオスのトナカイ(こちらもまた何故かハァハァしている)のケツをひたすら鞭でしばくみたいな腐女子的な妄想しちゃったじゃないっ!うっわぁーこれ軽く自己嫌悪に陥るよ……ガクッ」
「うわぁ~司先輩ちょーきもいーあははははー」
「「ジーッ」」
「やっ、見ちゃダメ!笑っちゃやーよ!こんな薄汚い妄想で汚れちゃった大人なアタシを見ないでぇー(泣)」
苺ちゃんは俺に向かって指差しながら笑い、双葉と栞は俺にひたすら意味深な視線を送る……ぐぁー!お、俺という奴はなんちゅー妄想を……百合ならまだしもウホッ的な妄想をするなんて……し、死にたい。
「あ、あの……司さん」
「ん……?な、何かな……優梨子ちゃん?え、遠慮しないで……さ、さぁ、君もこんな腐ったおいちゃんを存分に笑ってよ……ははっ、ははははは………」
「い、いえ……その、あの………サンタ(♂)×トナカイ(♂)の続きは……?(///)」ドキドキ
「ははっ、ははは………は?」
「おらぁーお前ら用意してやったぞ。たーんと食べろやぁ」
店の奥からでケーキを持った店長が出てきた。ケーキは見たところ普通の苺がのかっているケーキだ。うーん、特に怪しい所は無いが……
「おやぁ?どうした童貞君?俺のケイクをジロジロ見て。別に毒なんて入ってねーゾ」
「……そのクリームにてめぇのザー●ン入ってねぇだろうな?」
「そんな食べ物を粗末にするわけあるかい。でもあれだよな、とんこつラーメンってザー●ンの色に近いんじゃね?そうだっ、とんこつラーメンの汁をザー●ンに見立てて、とんこつ『もどき』ラーメンってのはどうだ司!?」
「やめろ、今度からとんこつラーメンが食えなくなるだろうが」
「まぁ、んな冗談は置いといて……とりあえず司、男のお前は決してこのケーキを口にするなよ」
「何でだよ……まぁ、甘いのあんま好きじゃないし、いいけど」
「て、てんちょーさんっ!こ、このケーキ……!食べてもいいですかっ!?」
「おいしそう……」
「おいしそうですね……」
「おいしそーですねー」
双葉は突然の店長特製ケーキの来襲に心を奪われたのか瞳をキラキラさせていた。また、他のサンタ娘及び苺ちゃんも双葉ほど表に感情を現さないものの、店長のケーキに釘付けだった。やっぱ女の子は甘いのに目が無いのかね……
「あぁ、いいともーじゃんじゃん食べちゃってくれよ。もちろん他の女の子達もよ」
「いただきまふっ!むしゃむしゃ!がつがつ!……っ!おいひー!すっごくおいひーでふ!」バクバク
「じゃあ私も……あっ、ホントだ。おいしい……」パクパク
「クリームがしつこい甘さでなくて甘さ控えめでおいしいですね……」パクパク
「うんっ、やっぱ店長の手作りケーキはおいしーなー♪ホモだけど」パクパク
店長のオーケーサインを皮切りに双葉、栞、優梨子ちゃん、苺ちゃんはケーキを食べ始めた。
「おい、苺ちゃん。訂正しろ、俺はホモじゃない。バイだ」
「お前の存在を訂正しろ」
皆、女の子達は幸せそうな顔でケーキを食していく……ほんと特に双葉は旨そうに食うなぁ。
「おい司。ちょっとこっちこい……」
店長は俺を奥の店の厨房に引っ張っていく……
「な、何だよ……」
「司、俺がタダでケイクを作ると思うか?」
「……そうだな、アンタは何か見返りを要求しそうだ。例えば、『身体で支払え』とか」
「おぉ!その手があったか!……まぁ冗談だが」
冗談に聞こえない……
「何だよ……回りくどい言い方はよせよ」
「あぁ……実はな、あのケーキに媚薬を入れた」
「そうそうストレートに………って、ブッーーーーー!」
「おぉう、きったねぇな」
「今なんて……!?媚薬!?何やってんのアンタ!?犯罪だぞそれは!」
「何言ってんだ、今だ童貞のお前に捧げる俺からのささやかなプレゼントだ。いくらでもしっぽりがっぽりいっちゃえよユー」
「なっ……!(///)」
時刻は24時00分ーーー
聖夜を終え、もう本当のクリスマスは目の前に差し掛かっていたーーー