12月24日(4)
クリスマスイブの昼前。
俺と双葉と栞の三人は繁華街にあるデパートに来ていた。ロリコン店長は『幼女を物色してくる』とかリアルに犯罪ちっくな台詞を言い残し、街中に消えていった。明日の三面記事の隅っこの方にやけに侘しい感じで顔写真が載らないことを祈っておくとしよう。とまぁ、そんな変質者の話はどうでもよくて俺達三人がこの繁華街に来た理由は先の双葉の誕生日なのですぅ発言によるものだ。妹様の妹様による妹様のためのドギツイ視線によって俺は屈服せざるを得なかった。つまりは『甲斐性なし』的な視線を俺にず~~~~~っと向けてくるのだ。さすがの鈍感ちんの俺でもこの視線の意味することは理解できる、ぐすん。
「双葉ちゃんこれなんてどうかな?似合ってると思うけど」
「わぁ……そうですねぇ、この紺色のフリルスカート、ぷりちーですっ」
俺は女物の洋服を色々物色している双葉と栞の傍らでぼけ~っと突っ立っていた。こーゆーときって何か男って肩身が狭くなるよな。何かさっきから年配の女性の熱い視線を感じるし………何で?もしかして、おばちゃま好かれ体質なのか俺?全然嬉しくない。
「ふぁ……」
つーかだるい。服を物色し始めてかれこれ2時間経つ。女の買い物はいつも決まって長いし、待たされる男は溜まったもんじゃない。これが恋人同士ならイチャラブフラグ立ちまくり俺のきゅうりも立ちまくりすてぃだが、これはそんなエロゲーちっくなイベントではない。今の俺は妹様と珍獣の使い走りに過ぎない。何か無性に腹立ってきたので思い切って触手イベントでも起こしてやろうかと思ったが死亡フラグに直行しそうなので断念した。何だ触手イベントって、何だフラグって。あー、やだやだ。これだから歳をとるのはやだねぇ……これはあれだ、オナヌーし終えた後の妙に寂しさが倍増したあの時の気持ちと似ているな。
「あの……司さん」
俺が脳内ロンリーコミュ二ケーションをしていると、俺のダッフルコートの袖を軽く引っ張る感触を感じたのでひとまず現実に向き合うと、双葉が上目使いで俺を見ていた。……違和感、それは双葉の服装は前の痛々しいトナカイのコスプレっぽいものでなく、上は黄色のヒトデ模様がぎっしり半分入った緑地のパーカーに下は紺色のフリルスカートという何ともコメントし辛い格好だった。
「……お前、何その格好」
「あのっ、そのぉ………」
双葉は何故か身体をモジモジさせ、両手の人差し指でツンツンしていた。何その乙女ちっくな反応。とりあえず、前の格好よりは痛さは数段下がったが……うーん。
「とりあえずだな………そのヒトデがひしめき合ったパーカーはどうかと思うぞ」
「あぅ!ち、違いますよぅ!これはヒトデじゃないですっ……!これはス……」
「おっと!その先は言うなっ、分かったぞ……!」
「は、はい?」
双葉は戸惑った表情で何か言いかけたが、ふふん。おいちゃん分かっちゃったぞん。その特徴的な形状……そして、フードファイター双葉!この二つのヒントから予想されるその不思議な模様はずばりっ!
「もみじ饅頭だろう!」
「全然違いますよぅ!この模様はスターです!キラキラスターですよぉ!!!」
「なにぃ、キラキラスターだと!?錦野さんか!?星条旗かっ!?アメリカンかっ!?貴様はアメリカンなのか!?この洋モノかぶれがっ!!!」
「言っている意味が分かりませんよぉ!……ひゃふ、むにぃ~~~!」ギョム
俺は毎度おなじみ、ほっぺをギョムった。よく伸びーるびるびる、びびるびるびるびびる大●。
「………」
「ムッ」ギョムギョム(←ギョムプレイ実行中)
もがいている双葉の背後から何者かのオーラを感じた俺は双葉から目を離し、そこに目を向けると睨みをきかせた目で俺をジッと見つめる妹様が突っ立っていた。ふふん、君ぃ、その目はも、し、か、し、て、嫉妬……しているのかい?やれやれ……俺も罪作りな男になったものだ。……ごめん、言ってて何か空しくなりました。つーか、妹だし。ありえないし、嬉しくもない。
「………」
妹様は引き続き俺にドギツイ視線を送ってくる。……毒電波でも送っているのだろうか?いやだん、ハゲになる毒電波でも送られていたらどうしよう。おいちゃん、ただでさえこのところうす~くなっているような気がするのに……クソッ!この魔女めっ!アマゾネスめっ!俺の毛根は永遠に不滅だっ!俺は仕返しとばかりにか●は●波もといハゲハゲ破のジェスチャーをした。ふふん、これでお前も違うところがハゲチマイナ!主に下の方ね。
「……何やってんの?」
妹はしばらく俺を見つめた後、耐え切れなくなったのかついに俺に声を掛けてきた。ぬぅ、ハゲハゲ破は奴には効果が無かったのか?くぅ、それとも属性の相性が悪かったのか?しかし、ハゲハゲ破は無属性の攻撃だ。どんなポ●モンにも平等に効果があるはずなんだが。
「おい、栞。お前の属性は何だ?」
「は、はぁ?何言ってるの?頭おかしいんじゃない?とにかくちょっと来て」グイッ
栞は俺の耳元まで顔を近づけてきた。なっ、そ、そこはぁ!
「お、おい……!やめろっ、俺は耳が弱いんだぁ!あひぃ!だめぇ!そこはだめなのぉー」
「お兄ちゃん、気持ち悪い声出さないでちゃんと私の話を聞いて」
素で返されてしまった。
「……はい、すみません」
「ふーっ、いい?お兄ちゃん?さっき双葉ちゃんがお兄ちゃんに何て言おうとしたか分かる?」
「……は?」
意味が分からない。双葉はさっき俺に何かを言おうとしていたのか?そんな素振り見せたっけ?
「……はぁ、その顔は全然気付いていないんだね。じゃあ、問題。双葉ちゃんはお兄ちゃんにある事を聞こうとしていました。そのある事とは一体なんなのでしょーかっ?」
……は?まったくもって意味が分からない。世界不思議発見か?
「おいおい、栞。俺の高校の頃の現国の成績知ってっか?10段階評価で1だぞ1。はっ、どうだびびったか」
「今はお勉強タイムじゃないよっ、って本当に酷いね。お兄ちゃんの日本語読解力能力はサル並み……いや、ゾウリムシ以下かも」
「おい、俺の知能は単細胞以下ってかコラ」
「あー、もうっ!話逸れた!お兄ちゃんの知能がゴミムシ以下かどうかは置いといて、とにかく早く私の質問に答えてっ!」
ゴミムシって……ママン、いつから俺の妹は言葉の暴力を覚えたのでしょう?昔はかぁいらしかったのに……えっと、とにかく何だっけ?双葉が何か言おうとしてたんだよな……俺はふと双葉の方に顔を向ける。
「あぅう……」サスサス
双葉は未だに俺にギョムられた両頬を掌でさすっていた。ふむ、いつもと違う服装で駆け寄ってくるエロゲーのヒロインを見たことがあるな。その駆け寄ってきたヒロインの女の子が頬を染めてモジモジしながら主人公に言った台詞は確か……
「分かった?」
「……『……この服、似合ってるかなぁ?(///)』か?」
「……合ってるけど、何故か台詞に不純な感じがしたんだけど……」
「気のせいだ」
「そう、だったら双葉ちゃんに何て言うべきか分かってるよねお兄ちゃん?」
「あぁ、とりあえずボロクソに貶したらいいんだよな」
「違うよっ!ここまで分かってどうしてそんな考えに至るのか私にはお兄ちゃんの思考が理解できないよ!?」
「いや、とりあえずいぢっておいたほうが何つーか、ほら。第一印象って悪い方がギャップが後々の好感度を左右するっつーか、な?萌えるじゃん」
「本当に何言ってんの!?何言ってるのかさっぱり分かんないけど夢見すぎだよっ!とにかくっ!ほらっ!双葉ちゃんのところに行って!もう何言えばいいか分かるでしょ!?」
「あ……?結局なんて言えばいいんだ?」
「もぉー!何かサルにモノを教えているみたいだよっ!とにかく!『似合ってる』!その一言でいいのっ」
栞は俺の背中を押して双葉の方へ行かせようとする。ふーむ、『似合ってる』か。でも正直、双葉の格好はいつもと違うせいか違和感バリバリ君だ。つまりは『似合ってはいない』。……嘘を言ってもいいのか?
「『似合ってる』」
「っ!」
「栞、これでいいんだな?」
「……」
栞は黙ってゆっくり頷いた。……?そこでどうして俯くんだ?とにかく、そろそろ双葉の元へ戻ろう。迷子のアナウンスとかで呼ばれたら恥ずかしいしな。俺は栞から離れ、双葉の方へ歩いていった。
「………馬鹿」
「似合ってる」
「ふぇ?」
俺は頬をさすっている双葉に向けて栞の言われたとおりの台詞を言うと双葉は不思議そうなアホ面で俺を見つめてきた。ふむ、まだ『似合ってる』分が足りないようだな。
「似合ってる似合ってる似合ってる似合ってる似合ってる似合ってる似合ってる似合ってる似合ってる似合ってる似合ってる似合ってる似合ってる似合ってる似合ってる似合ってる似合ってる似合ってる似合ってる似合ってる」
「ひぅ!い、いきなり何ですかぁ!?」
双葉はギョッとした顔で驚いていた。くそっ、何で伝わらないんだっ!
「うるせぇー!似合ってるって言ってんだよぉ!」
嘘だけど。
「な、何が?」
「それ」ピシッ
俺は双葉に指を指した。
「……いっ、こ、こんなところ似合っていても全然嬉しくないですっ!ひ、ひどいっ!司さんは私にはこのサイズが似合っている、そう言いたいんですねっ!?うぅ、死んでやるぅ!舌を噛んで死んでやるですー!」
双葉は胸元を両手で隠して真っ赤な顔して涙目で俺を睨んできた。あるぇー?何か勘違いしていないかこのロリモドキ?
「待て、お前は何かを勘違いしている」
「うぅ、いいですよぅ。どうせ私は一生ひんぬーですからっ!一生ひんぬーのままひんぬーらしくひんぬーのようにつつましく生活をしてひんぬーのまま死にますよぅ……」
双葉は俺に背を向け体育座りでいじけていた。め、めんどくせぇ……
「服だよっ!」
「………え?」
「お前の着ているその服………似合ってるよ」
「………」
……緑地のキラキラスター模様のパーカーに紺色のフリルスカート。正直、双葉には似合っていないような気がするが、本人がさっき嬉しそうにしていたからもういいだろう。栞がさっき言っていた事は嘘も方便、という事だろうか?……でも本当にそれでいいのか?
「………」
「双葉?おい、双葉?」
「あ………ぅ(///)」
「……お~い?双葉さんや~?お~い?双葉ちゃ~ん?」
双葉はその場で固まっていた。何なんだコイツ。……それにしても。
「……ちんまい」
ピキッ
俺がそう言うと何かが割れるような音がした。……?何だ?双葉の様子がおかしいぞ?何か震えている。
「う」
「う?」
「うわぁああああーーーーーん!」ダッ
「お、おいっ……!?双葉!?」
双葉は泣きながら俺の元から走り去ってしまった。……15分後、デパート内に双葉を呼ぶ迷子のアナウンスが入ったのは言うまでもない。
後に栞からアドバイスを貰った。
『お兄ちゃんはもっと女心を知るべし』だと。……意味が分からん。