12月23日(5)
「ふー……ふー……へー、苺さんって、ふー、ふっー……司さんのケーキ屋のバイト仲間の方なんですかー……ふー、ふっー、ふー!ふーーー!」
双葉は暖かいココアが入ったマグカップを持ち、コレでもかっ!というくらい口でココアをふき冷ましていた。どうやらこのロリもどきはへビィな猫舌のようだ。
「あっ、あっつっーーー!うぅ!顔にココアがっ!あ、あついですぅ!!!」
思いっきり口でココアをふくものだからココアが跳ねて双葉の顔にかかり、双葉は熱がっていた……訂正、どうやらこのロリもどきはヘビィな頭の弱い子のようだ。
「おしいっ!そこでホットミルクが顔にかかったらおじ様達に好感度+5だったねっ!双葉ちん!」
双葉の隣に座っているファミレスの制服姿の苺ちゃんは双葉に濡れタオル(よくファミレスとかで客に配るアレのことね)を渡し、イミフな台詞を口にする。何がおしいのだろう。おじ様て。
「うぅ、苺さんありがとうございます……うぅ~~~」フキフキ、チーン
双葉は情けない声を出しながら苺ちゃんに貰った濡れタオルを駆使して顔全体をフッキフキしていた。おい、鼻までチーンするな、ティッシュじゃねぇんだぞ。これがハタチの女か?あぁん?君は小学生からやり直しなさいっ!
「ところで……苺ちゃん。いいのか?こんな所で油売ってて?バイト中だろ?ほら、店長さんがすごい眼で此方をガン見してるんですけど?だから君はとりあえず仕事に戻りなさい、ほらっ、しっ、しっ」
あれから俺達は偶然ファミレスで働いている苺ちゃんに会い、双葉と苺ちゃんは気が合ったのか互いに下の名前で呼び合うほど仲が良くなった。まぁ、歳が近いし性格も天真爛漫という意味で似通っているしな。
「あ~先輩、私に対してそんな冷たい態度とっていいんですかー?ココアとフライドポテトのお代どうしよっかな~?」
「ゆっくりしていってね!」
「えっへっへ~もっちろんです♪先輩♪」
「司さん……」
双葉は何か言いたげな無垢な瞳で俺をジッと見つめる……言うな、それ以上何も言うな……長い物には巻かれよ、これが現代の荒廃した社会を生きていく上で賢い生き方なんだよっ……!年功序列?いぇー!んなもんクソくらえっ!……チッキショウ!悔しいですっ!苦しいですっ!立場とかっ!悲しいですっ!性格とかっ!お財布とかっ!寒いです!色んな意味で!(泣)
「つ、司さんが尻フェチ………(///)」
「そだよ~…司先輩って尻フェチらしくて毎日さりげなく愛撫されてるんだ~♪さわさわ~って」
脳内にいるもう一人の俺(?)が一人で身悶えていると俺を無視した双葉と苺ちゃんの会話が行われていた。え?俺が尻フェチ?何でいつの間にそんな話になったの?お嬢さん方?
「えっ、何言ってるの君達?俺は尻フェチじゃないから、正しくは太も…げふんげふん!と、とにかく!してないから、してないからね!そんないい年こいたオヤジみたいなセクハラ。あとそれは店長の日課だから!」
「司さんっ……やっぱり……!」
双葉は何故か不安そうな顔で俺を見つめる……オィ。
「やっぱり……なんだよっ!?やめろよそーゆー誤解を生む発言!何もしてねぇよ!何も無いから!君と俺との関係は主人と居候なのっ!それ以外の繋がりは一切無いからっ!」
「へー、司先輩と双葉ちんは繋がっているわけですね♪」
「あっ、えっ?いやそうだけど!?微妙に何か違う感じになったよっ!?それ単体で言うのやめてねっ!?すっげぇ誤解生むからっ!!ほらっ、そこのPTAの会員っぽいご婦人達、何事かと此方を常にチラ見してるからっ!?おいちゃん、おば様達の強烈的な視線は弱いのぉー!」
「はいっ、司さんと私は繋がっているんですっ!」
「お前もやめろよっ!?分かってんの!?お前がそーやって無遠慮な台詞を高らかに発言する事で男の俺の立場がドンドン株が暴落するかの如く下がるつーことをよ!?あー、ハイハイ!そこのガングロDQN共!俺を軽蔑の眼差しで睨まないっ!くちゃっらくちゃっらガム噛まないっ!…あっ、てめぇ!今噛んでたガム、床にに吐きやがったな!?こらぁ!こっちこいやー!……あっ、すんません、ゴメンなさい、やっぱいいです。だから……その、イカツイ彼氏さんを連れてこないで?ね?(汗)」
ガングロDQN共は口をモゴモゴさせながら何やらヒソヒソ話していた……これだから今時のDQN共は………まったく!親の顔が見たいねっ!おいちゃんも人の事言えねぇけどなっ!
「へー……双葉ちんは司さんの従兄妹さんなんだ~」
とりあえず苺ちゃんには本当の事は伏せておき、俺と双葉が従兄妹の関係であることを告げた。だって、言えないじゃない……道端でエロ看板持って突っ立っていたロリモドキを仕方なく保護したなんて。そんな事、告げてみろ……俺は間違いなく、ロ リ コ ン と言う名の不名誉な称号を贈られることになるだろう………それだけは嫌だっ!それは俺が社会的に抹殺される事を意味する!
「最初、司先輩と双葉ちんを見たとき危うく店の電話に手が行きそうになりましたからね~…まぁ、とりあえず声を掛けてみて安心しましたよん♪」
……うんホント、本当の事隠しておいて良かったよ。おいちゃん、苺ちゃんの冷静な対処に感謝するよ。
「司さんっ、ポテトが自然発火でなくなりましたっ!どうしましょう!?これはアレですね!もう一皿頼むしかないですねっ!」
双葉は興奮しながら俺に空になった皿を見せ付けてきた。
「んだよ自然発火って!お前が食ったから無くなったんだよ!嘘をつくならもうちょいマシな嘘つけよっ!え?ということは?俺、一口も食ってねぇ!オイコラ!てめぇふざけんなっ!吐け!今すぐ吐け!吐けぇえええええええええーーーーー!!!!!ドリームフードの王様!ポ-ティートゥー!!!」
俺は理不尽に唯一の晩飯を奪われた事による腹いせに双葉の両頬を掴み、思いっきり横に伸ばした。
「ふぁ、ふぃたふぃでふぅ~~~、ふぁ、ふぁふぇってくらふぁいぃぃいい~~~~~」
涙目で必死に抵抗しているようだが知ったことかっ!クソッ、クソ!クソォ!!!まだ俺、ココアしか飲んでないのにっ!空腹で死にそうだっ!
「えー……司先輩ってゲロフェチだったんだ……もしかしてス●トロプレイも嗜んで……」
「違うよっ!?それは壮大なる勘違いだよ苺ちゃん!?俺は人の吐いた汚物を飲んだり食ったり、人のアレの穴から出した黄褐色の遠くから見たらカレーみたいな固形でたまに水っぽい感じのアレを飲んだり食べたりとかしてないからっ!……うげー!自分で言ってて何か気持ち悪くなってきたよっ!言わせないでよ!こんな汚い話!」
「つ、司さん………あの、私(///)」
「司先輩……(///)」
「えっ、あっ、はぁー!?何で赤くなってんの君達!?やめてよそーゆー変な空気!?求めてない!求めてないよ!俺、君達にそんな汚いブツは求めてないよ!?そんなのいらないから誰か俺にマネーを下さいよろしくお願いしますっ!」
切な願いだ……ホントお金大事。今となって改めてそう思う。誰か、誰かっ!俺にマネーをプリーズ!
「ホントに司先輩はお金持って無いんですねー……あ、そうだっ、なら先輩、クリスマスシーズン限定のアルバイトやってみませんか?日給制なんで働いたら働いた分、お金ガッポガッポ稼げますよ♪」
「えっ!?何!?マジか!?マジマギー司○!?クリスマス限定の仕事ってどんな仕事!?」
「この街の子供達にプレゼントを配る仕事です♪」
「へー……今時そんな慈善事業みたいな子供達の夢を叶える仕事があるんだ。感心するなぁ……」
「お子さんに夢を叶えるお仕事………何だか素敵な仕事ですねっ!エヘへ(///)」
「んー……そういうのではないんだけどね。事前に親がお金を払って、その家の子供に親が払ったお金を下回るプレゼントを渡すんだよー」
「一瞬にして子供の夢をぶち壊した!?」
「郵便受けにプレゼント入れとけばいいし、楽なバイトだよー……去年、私が配りに行った時にとある子供の親に会って『子供が最近、サンタさんのプレゼントプレゼントってうるさいのよねぇ……はぁ、これでちょっとは落ち着いてくれるかしら……早くサンタさんは卒業して欲しいわねぇ』とか言ってましたし」
「うっわ……何かリアルに切実な親の本音を聞いたよ……やめて、おいちゃんそんな子供を騙すような心が痛む仕事はしたくないです……苺ちゃん、他にはないの?」
「そうですねー……私はやったこと無いんですけど、聖夜の一夜で数十万ほど稼げるお仕事がありますけど……聞きます?」
「あ、何か嫌な予感。やめときます」
「えーっと、ハメルだけで……」
「言わなくていいからっ!?おいちゃん、そーゆー怪しいお仕事はナンセンス!NG!ナッシング!」
「もー……先輩、わがままですよぉ……そんなんだからいつまで経ってもマザコンなんですよぉ」
「マザコンは関係ないよねっ!?」
「司さんっ……やっぱり……!」
「やっぱりじゃねぇよっ!!!」
苺ちゃんはさすがにバイトの時間帯だったのでようやくバイトに戻っていた。店長らしきイケメン男にどやされていたようだが……まぁ、仕方ないよね。あのイケメン店長、終始俺に向けてゴートゥーヘルのサインを送っていたからね。えっと、一応客なんですけど俺。文無しだけど。
「苺さんって色んなバイトをしてるんですねー、女子高生なのに偉いですっ、エッヘン」
双葉はココア(お代わり)をすすりながらまるで自分の事のようにまな板の胸を張って言う。
「そこで何でお前が威張るのか分からんが、そうだな……高校生でバイトの掛け持ちには驚いたが……まぁ、今時の女子高生はあんな感じなんじゃないのか?」
「……何だか司さん、台詞がオッサン臭いです」
「うるちゃーい!悪かったなアラサーで………ふぁ、っと、もう12時前か……」
ふむ、この時間帯ならあのクソババァはもう冬眠(?)しているかな。そろそろ、眠くなってきたし我が王国に帰るとするか……
「よし、双葉。おいちゃんそろそろ本格的に眠くなってきたから帰るぞ」
「……え、あ、あの。大丈夫なんですか……?」
双葉は俺に不安そうな顔を向ける。
「この時間なら大丈夫だろ。このアホみたいに寒い外でずーっとボケーっと突っ立っていると思うか?いくら奴が鬼のような化け物でもこの寒さじゃ凍えちまうよ」
部屋の前で凍ったクソババァの置物ができていたらそれはそれで笑えるが、まぁそれはないだろ。
「で、でも……私なんか嫌な予感がヒシヒシとするんですけど……?」
双葉はまだ怖がっている……が、知るかっ、あの部屋は俺の王国だっ!何者にも触れさせん!例えそれがあの大家のクソババァであったとしても、だっ!……ごめん、おいちゃん今、嘘言った。無理です、即効逃げます。
「じゃあ、お前はいつまでもそこにいろ。俺は帰るからな」スタスタ
「あ、あぁー!ま、待ってくださいよぉ!私も帰りますー!」
「……不気味だ」
現在の時刻、23:55。
双葉とアパートに帰るとアパートは先ほどのヒ○カのような邪悪なオーラを感じなかった。しかし、だ。何だ?まぁ時間帯もあるだろうが静か過ぎるアパートに只ならぬ不気味さを感じた。
「うぅ……」
双葉は泣きそうな顔で震えていた。
「……行くぞ、双葉」
「うぅ、はい……」
俺達はたどたどしい足取りでアパートのオンボロ階段を上っていく………一歩、一歩、まるで絞首台を上るがごとく歩を進める……あれ?何でだ?どうして俺こんな嫌な汗かいてるの?
「……見たところ異常は無いな」
二階に上がると部屋の前には予想通りクソババァはいなかった。ふぅ……とりあえず、一安心と言ったところか。俺は胸を撫で下ろし、双葉の様子を見る。双葉も俺と同じ心境だったのかホッとした表情を浮かべていた。
「よ、よかったですぅ……私、危うくミンチにされてお鍋で食べられるかと思いました……」
「お前はどんな想像をしてたの?まぁ、魔血子は魔女のような奴だがさすがに俺達みたいな肉もろくについてないガリガリガ○クソンは食わないだろ」
「ぽ、ぽっちゃりしている人なら食べる方なんですか……?」
双葉はまたガクガク震えていた。んなわけないだろ、まぁ別に言わなくてもいいか。それより、今は早く部屋に入ろう。俺は部屋のドアノブを回し……
「……あら?」
「……つ、司さん?ど、どうしたんですか……?」
「……開いとる」
……何故?俺は確かにバイトに行くとき鍵をしたはずだが。
「あっ……」
双葉ははっとした表情を浮かべていた。……そういえばコイツ俺の後に外に出たよな。ケーキの匂いがしますですぅ~みたいな理由で。……まさか。
「え、えへへ……」
「………」
ポカッ
俺は無言で軽く双葉の頭を小突いた。
「ひぃーん!許してくださいぃー!だってだってぇー、私鍵持ってなかったですものー!」
てんぱっているのか双葉は両手をバタバタさせて、涙目になっていた。……何か変な語尾になっているが。
「……別にそんなに怒ってないから落ち着け。つーか、別に部屋に入られても盗られるような金目のもんは無いからな」
「そ、そうなんですか……?で、でもぉ……そのぅ、司さんのベットの下に怪しげなグッズやご本がありましたけど……(///)」
「てめぇは人の留守中に何家探ししてんだぁー!?ふざけんなっ!コラァー!!!」
「ひぃーん!痛いですー!そんなに怒ってないって言ったじゃないですかぁー!?」
「それとこれとは別だっ!チッキショー!そんな汚物を見るような目で俺を見るなぁー!俺だってなぁ!いい歳こいても溜まるもんは溜まるんだよぉー!悪いかっ!?コノヤロー!(泣)」
「何言ってるかわかんないですよぉー!ひぃーん!ごめんなさいぃいいいいーーーーー!!!!!!(泣)」
とりあえず俺のプライドをぶち壊してくれたロリモドキと数分ほど(一方的に)拳で語り合った。
「うぉおおおおおおおおお何じゃこりゃぁあああああああああーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」
部屋に踏み込むと部屋の中は見事にもぬけの殻だった!
「無いっ、俺の愛用していたパソコンたんも!際どい角度でチラッと縞々パンヌーが見えるフェ●トたんフィギュアも!俺の嫁候補No.1のこ●みたんドアップマウスパッドも!毎日欠かさず御用達の俺専オ●グッズも!アレな姉様素人DVDも!全部っ!全部無いのぉーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!(泣)」
「その中に生活必需品が一つもないんですね……(汗)」
双葉は引き気味の顔で俺を見ていたが……今の俺にはどうでもよし子さんだっ!何で……!?何でさ!?いくら泥棒が入ったからってこんな壮大な泥棒をする奴がいるのかっ!?嘘だ……夢だ、これは夢だ……夢だといってくれ……シェリー……う、うぉおおおおろろろろろ~~~~~ん(泣)
バターーーンッ!
「やっかましいっ!下まで響いてんだよっ!てめぇのアホみたいな声がよー!」
部屋に誰か入ってきた……誰だ?……この声は……
「ひっ!つ、司さんっ……!」
あ……?双葉は突然入ってきた不審者に驚きの声を上げた。何でそんな泣きそうな声になってんの……?……だめだ、まともに思考が働かない……誰か、誰か……俺を慰めておくれ……できれば美人のお姉さんで、あと膝枕しながら。
「ふんっ……まぁいい……クッ、クッ、クッ……ようやく帰ってきたようだねぇ………オタニート」ポキポキ
涙で視界がよく見えない………あぁ、何だこれは。骨の軋む音……ダブルで悪夢だ……ようやくまともに思考が働き出したのと同時に地獄の淵に叩き落されるなんて………あぁ、これは悪夢だ……誰か、誰でもいい……この俺を、この悪夢から解放してくれ………