12月22日(1)
「マジパネェ……(汗)」
冬至を迎え、街はクリスマスモード満載に彩られたある日。俺はそんな周りの楽しそうな雰囲気とは打って変って、憂鬱な気分で手元にある通帳に目をやった。その通帳の差引残高の一番下の覧にははっきりと『0』という絶望的な数値が記入されていた。
「俺は明日からどうやって生きていけばいいのですか?」
俺はそんな答えのない質問を自分に投げ掛ける……すげぇ欝だ。何度見ても0、0、0、0………零。今、ちょっとカッコいいとか思った自分は馬鹿ですか?そうですね。
「はぁ~…まずったなぁ、こりゃ。まさか、知らぬ間に実家からの入金が途絶えていたとは、不覚」
うん、おかしいなとは思っていたんだ。先月、いや……半年くらい前からか。あれ?金、増えてるかコレ?もしかして減ってるのではないの?とは感じてはいたんだ。まぁ、元々入ってた金が大金だったから俺の金銭感覚が鈍っていたのかもしんない。いや、それにしても酷いな俺の鈍感さ、いや頭。今日確認したらまさか、差引残高がワンコイン(※500円)だったなんてっ!とりあえず、どういうことか実家の両親に電話したんだが……
『お客様がおかけになった電話番号は現在使われておりません』
……why?何故?何それ?おいしいの?思わずミー、頭が真っ白になったよトム。
あぁ、これはアレか?……捨 て ら れ た 。この歳にもなって?おいちゃん、もう三十路一歩手前(※29歳と11ヶ月)だよ?あれか……半年前に実家から送られてきた『ママとパパが選ぶ司ちゃんのお嫁さんこーほー(はぁと)』と書かれたふざけた一冊の本を無視してゴミにポーイしたのが悪かったのか?いや、だって仕方ないじゃん……あの本開いた瞬間、地獄絵図だったんだぜ?見開きで妖怪が出てきたかと思ったよ。すぐさま、ギブアップしたよ。そして本気で吐いたよ、二日酔いでさ。寿命縮んだかと思ったよ。
「ちっちゃい事は気にするな!それ!わかちこ!わかちこー!」(チャラオDQN)
「やぁーもぉーん!かっちゃん、それマジウケルー!わかちこわかちこって……キャハハハハ!」(ガングロDQN)
俺の前を歩くカップルのDQN共が馬鹿騒ぎしていた。ただのパクリじゃねぇか……くそっ、思いっきり顔面に蹴り入れて、あの女は俺の肉便器にしてやりたい……いや、やらねぇけど。しかし、真剣にどうすっかねぇ……日雇いのバイト入れるか?くそぅ、しかし今俺はケーキ屋のアルバイト真っ最中だ……ただでさえ忙しいこの時期にこれ以上バイトは入れにくい……ケーキ屋のバイトの給料は月末まで待たねばならない。店長に無理言って、前金貰っとくか?
「……まぁ、ごちゃごちゃ考えてもしゃあない。今は空腹を満たすとしよう」
ちょうど近くに庶民の味方の吉●家が見えたので、入るとしよう。そして俺が店に入ろうとした時、視界にあるものが入ってきた。
『私を買って下さい(←1万円から)』
へったくそな字でそう書かれた看板を持った女が吉●家の前に立っていた。腰のあたりまで伸びている銀髪のロング、全体的にこじんまりとした幼女体形に白くて透き通るような肌、どう見ても中学生くらいにしか見えない。いや、女の子がこんな夜の街に一人で突っ立って、そんな法に触れそうな看板を持って立っているつー時点でドキドキ……じゃなくてビックリするのだが……
「なんでトナカイのコスプレなんだ………」
いや、あれはコスプレつーより着ぐるみだな。いや、今がクリスマスだからというのは分かる。でもな?んなひと昔前の不良少女が書くみたいなエロエロな看板を持って……何でトナカイの格好なんだ!?萎えるでしょ?萎えますよね?萎えると言えっ!反論は認めないっ!だから俺は宣言しよう!
「際どいパンティが見えそうなサンタの格好が王道だろうがっ!!!」
俺はこんこんと降る雪の空を仰いで高らかに大声でそう言った。ふっ……ぶちまけてやったぜ。
「え、えぇ~~~………ちょっ、何あの男。ちょーキモいんですけどぉー」(ブタDQN)
「脇の下臭そうぉ~~~うげぇーーー………ついでにイカ臭そう」(ブッチDQN)
「ふぉ、ふぉっ……あらまぁ、若い方はサカッてらっしゃるのぉ………あたしも半世紀前は(省略)」(昔日を思い出すおばあちゃん)
周りのDQNから一般ぴーぽー、お年寄りまで色んな視線を感じる。……あれ?俺、何言っちゃってんの?ぐぉ!何だ!?この野次馬はっ!?俺、ちょーモテモテ!?んなわけあるかっ!!!
「お、お前らっ!?俺はサル山の大将じゃないんだぞっ!?ち、散れっ!しっ!しっ!」
俺が手であっちいけのポーズをすると野次馬はブツブツ文句を言いながら散っていく。……な、何だ?この羞恥プレイは……うっわぁ、すっげぇ恥ずい。俺は顔にわずかな熱を感じながら、再び吉●家に入ろうとするが……
「ま、待ってくださいっ!お兄さんっ!(///)」
「……あ?」
背後から俺を呼ぶ声がしたので、反射で振り向くとそこにいたのはさっきのエロ看板を持って突っ立っていた女の子だった。何故か少し頬を染めて俺を見つめてくる。
「……はぁ、はぁ(///)」
そしてそのトナカイの女の子は何故か両手を太ももあたりにおいて息を乱す……何だコイツ?サカッテンのか?なんていやらしい女だ。……そして俺は何ていやらしい奴だ。
「……えーっと、俺に何か用?」
なかなか何も言ってくれないので、痺れを切らして俺は自分から口を開いた。
「かっ、かっ……」
「……かっ?」
「買って下さいっ!」
……は?いきなり何を言い出すんだコイツ?
「……えっ?何?お前の着ているトナカイの着ぐるみを売ってくれるのか?俺に?いやでも……俺は動物フェチじゃないからなぁ……せめて、ブタならいいけどよ」
「ち、違いますっ!これ売ったら私着る服無いですっ!野盗ですか貴方はっ!?」
銀髪の女の子はさらに顔を真っ赤にさせながら、俺にぷんすかぷんすか抗議してくる。
「じゃあ、何だよ。俺はお前から何か買えるほどの金なんて持ってねぇぞ」
ワンコインで何が出来るというのだろうか。吉●家の牛丼を食うっきゃねぇっ!そうだ、こんな所でこんなクソガキに構っている余裕はねぇ。俺は踵を返し……
「じゃ、そゆことで」
右手を挙げ、そのまま吉●家入っていこうと前に歩いていくが……
「ま、待ってください……私を、私を……!」
「私を……私を買って下さぁいっ!!!(///)……ふにゃ、あ……あぅ」
バタッ……
銀髪の女はとんでもない事を大声で喚き、そのまま雪の積もる地面に倒れた。
「お、おいっ……!すげぇことぶちまけながら倒れるんじゃあないっ!あぁーもぅ!野次馬共!だからてめぇらは俺を見るんじゃないっ!あっ、そこのクソガキッ!今、俺に向けて鼻糞飛ばしやがったろっ!?ちょっと前出てこいやコラァ!!!」
俺のロンリークリスマスは始まったばかり……だと思った。しかし、この時俺は知る由も無かった。
いつものロンリークリスマスよりも、大変で……エロくて、そんでもってすげぇエロエロな日常が始まるなんて!夢にも思わなかったんだ!……うん、ごめん。今、ちょっと嘘ついた。