プレ五話 “リミッター”解除
暗い洞窟を歩くのは零転成士であった。
彼の周りには、いくつかの死体が転がっていた。恐らく、彼に襲い掛かった殺人士達だろう……。
いつもと彼の様子が違う。沈着冷静な彼は、今日はかなり気が動転しているかの様に気性を荒げていた。
「なんだなんだなんだ!!どうなってやがる!?」
普段はそんな声を荒げないというのにどうしたのだろうか。今日はいつもと様子が違った。
「ああん!?」
そんな彼の目の前に現れたのは、白装束の少年だった。彼は独特な雰囲気を醸し出していた。白装束なのに、とても哀愁が漂っておりどこはかとなく切ないような寂しさを感じた。
背丈はとても小さく華奢である。年齢は中学生ぐらいかもしれない。
だが零転成士は、相手が子供だろうが何だろうが今の彼にはお構いなしだった。声を荒げてその子を睨むのだ。
「お兄さん。あなたは、自身の力を解き放っているんだね。僕にはそれが分かる」
「黙れよ!?クソガキめ!!俺の力で八つ裂きにしてくれらぁ!!」
そう言うと、途端に地面が盛り上がっていった。
――バキバキ!!
恐らく……、零転成士は重力をゼロにした。その影響で地面は重力を失い浮き上がっていく。
「は!?どこいきやがった!?」
少年は姿をくらましていた。こんな単純な洞窟に身を隠すような所など存在していない。
「はぁん?この穴からかぁ……」
地割れにより生じたほんの僅かな穴に潜っていったのだ。まるで、それが分かっていたかのように……。
バリバリバリ!!!
もはや何のエネルギーをゼロにしているのかすら分からない……。
零転成士は辺り一帯を滅茶苦茶に引き裂いたのだ。
「まずいね。逃げなきゃ」
少年は急いで地割れで生じた穴に入る。
まるで道順を知っているかのように、その穴の先にある魔法陣目掛けて走っていくと、魔法陣に到達した瞬間に彼は“転移”した。
「あぁん!?このオーラは転移魔術だな……。魔法陣でも設置されてるってかぁ……?」
零転成士は辺りの地形を何の前触れもなく一瞬で元に戻した。
――自らも元の顔に戻っていた。
「さて……。続きを探検するとしようかねぇ」
ザッ……ザッ……とまた歩き出した。
「自らのリミッターを外してたわけか。しかし、“この場所”に迷い込んで随分経つみたいだね。オーラが薄くなっていたよ……」
少年は、大きな水晶の前まで転移していたようだ。
そう言って、再びどこかへと転移式魔法陣により転移をした。




