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レノン・レノイドの気まぐれ世界  作者: 夢見文太
第一章 華の学園ライフスタート!
4/24

二話 入学式!!それと色々と。

「うへぇーーー」


なんとかアニキのポートの気持ち悪さを乗り越え、地下鉄中央横浜駅に着いた俺である。

彼といったら酷いのである。絶対俺を入学式に出させないつもりだ。


「いやぁ……。しかし……」


駅がごったがえしている。これぞまさに、通学ラッシュというやつか。

そもそも、地下鉄ではなぜか学園筋と名づいているが、学園通りと呼ばれる中央横浜から鳴木区からお隣の区間までを結ぶ巨大な学校密集地帯、その途中に存在するのがつまりナルコーだ。立地条件は最高というわけである。


とりあえずそんな巨大な地下鉄道には、そういうわけで、快速列車や特急列車も存在しており、もはやそれらを駆使しないと大変なことになる。

電車の乗り方は鬼アニキからみっちり鍛えていただいたので、大丈夫なのだが、これは死ねる。


「まじ、か……」


只今は、いわゆる“学生専用車両時刻”というやつで、学生以外の方々はこの路線を使用することは不可能である。色々な犯罪防止であろう。


「――だるすぎる」


そんなこんなで、早速、第一ラウンド開始のゴングが鳴った。


トゥルルルルル…… ――まもなく、6番線に快速急行葉松寺(ようまつじ)行きメトロが、8両編成で到着いたします。黄色い線の内側まで、お下がりください。


――。


(下がれるかよ……)


もはや無理。密集しすぎ。確かに、自動ドア式のホームであるが、ドアが開いた瞬間その勢いで電車内に人が流れ込む勢いだ。


ポワァーーッ ゴオオォォォと、ついに身の程知らずの電車様がやってきてしまった。ちなみに説明しておくが、転成力と呼ばれるものの応用により、この世界の電車ほとんどは浮遊メトロというものである。

揺れも衝撃もないし、脱線事故は一切なく、転成力の存在による画期的な発明である。


だが今はそんなものただのおもちゃにすぎん。と、神様はあざ笑うだろう。

やはり、ほとんどの高校が入学式なだけあって、とんでもないことになっているのであった。


アニキよ……、なぜ俺を見捨てたのであろうか。せめて学校までポートしてくれてもよかったのではないか……。


――ウィーーン。

ようやく学校の前に到着した俺はホームから出た。死んでしまうので、とりあえず、そばのベンチに座ることにする。


「はぁ……、着いた……」


改札を出て、鳴木高校前駅から奇跡の脱出を遂げた俺は、とりあえず自販機で

“BOKU BLACK”を買った。自動販売機はとにかく頑丈だが薄くて壁に貼るタイプであるのだが、金を処理する部分とその左らへんになにかが置ける出っ張りがある。

まあ、そういって自分は携帯の“ADY”で精算したが。ここでは著作権の問題があるので、名前を変えさせていただく。


そして欲しい飲み物の写真をタッチすると、瞬間的にその出っ張りに飲み物が現れる、いわゆるだれでも使える転成力が発動する。その分飲み物を補充する手間が省けるのだ。どういう仕組みで飲み物が出てくるかは謎だが。


「はーー」


生き返る。この一言に尽きる。

――さぁいこうか。どうせ学校はすぐ目の前だ。


むしろ目の前にそびえ立っている。なんという立地条件。そして学校のためだけに地下鉄を設けるとは、ゆとり教育も甚だしい。


この地下鉄鳴木高校前駅のホームの入り口周辺には、様々な店が並んでいる。ファーストフード店だったり、レンタルショップや漫画喫茶だったり、ゲームセンター。

昔と違って転成力の学生の発達を目的に、ここ学園通りにはいわゆる娯楽店舗が学生を掻きいれんとばかりに建ち並ぶ。

その他コンビニやアパレル店も多く建ち並ぶ。


いやまあ、努力して受かったのだからここまでして頂かないと困ってしまうところではあるが。


「うえー」


と、そんな拍子抜けた声が出てしまうのも無理もない。

とんでもない、どでかい高校が目の前にそびえ立っているのだ。


ちなみに、この神奈川県立鳴木高校とは、先ほども説明しました通りとても優秀な学校である。


誰しもが小さい頃から親に、偉くなりたいならナルコーにいきなさいっ!と無理難題として、例を挙げられるほどすごい学校なのだ。


そしてちなみに、アニキの母校でもある。アニキは昔から“移動士(ポーター)”と呼ばれる存在であったうえに、勉強もできちゃうもんだから、ほぼトップの位置でこの高校に入学を果たした。

そして卒業も果たした。高校程度……、と思うが今、日本トップの大学の大学院生一年生、つまり二十二歳で、俺とは実は六才離れている。

まあ、彼がどれほどすごく、俺と全然違う人種であるかはお分かりいただけただろう。


そもそも、俺もこの高校にはギリギリで入れたのだし……。


高校は努力さえすれば入れるという言葉がある。問題はそこからどう頑張るかとよく言われる。まさにそうだったかもしれない。俺はあの時のアニキのご指導のおかげでここに入れたのだから。

高校入学は、筆記試験と面接であり、その評価基準は昔からほとんど変わりはない。大学はどうだろうかまだわからないが。

まあ、そんなこんなで俺はこれから……、


「なに説明しきったぞ、みたいな顔してんだ?」


「わっ!?」


俺は急に話しかけられたのでおどろいた。振り向けばその人物がいた。


「まったく。急にな、わりっやっぱ今日一人で行かないといけないわ!とか言い出すからこの俺の計画が狂ったではないか」


と、その男。


「って、お前かよ……」


こいつは俺の古くからの友人であり、名前は新谷公真(にいたにこうま)、顔立ちは至って普通だが頭はキレるやつだ。そして微妙にテンションがうざめだ。


「まあまあ、さあ早速このどでかく、そして妙にセキュリティ感が出ている校門を一緒にくぐろうではないか!友よ!」


「お、おう」


そう彼は、高らかに声をあげ、張り切っていた。


そんなこんなで、どでかい校門をくぐった。

その時である。俺は、本日二つ目の衝撃を受けただろう。

そもそもの話、横浜中央駅前のように、みんなバンバンと転成力を使っているのだ。


「じゃまじゃまじゃまーーーー!!!!」


急に叫び声が。


「ええ!?」


俺があわててとりあえず左に体を動かすと、右を物凄い勢いで通り抜けるものがいた。

ビュン!!と。


地面を滑っているのであろう。他にも宙を浮きながらヒューンと校内へ入っていくもの、アニキのように不意に現れるもの、校舎の壁を平気で90度上を向きながら登っていくもの、完全にフリーダムな状況である。

ほとんどが先輩であろう。


(いいな……、こんなことしてみたいや)


「おおそうだ!」


(どうした、そんなに声を張らなくても聞こえるぞ)


「俺な、ちょっとだけなんだけど、転成力使えちゃうんだぜ」


俺は驚いた、この言葉がふさわしいだろう。公真は、“浮いた”宙に、浮いた!?


「え!?お、お前いつのまに!?」


不安定ながらも、ぷわーっとなぜか宙に上手いこと浮いている。


「どうだー。こんなことも可能なのさー」


公真はちょっと早めに地面に向かって降下した。

だが、それが悪かったのかもしれない。不意に誰かが現れて、こう、おでことおでこをゴチン!とぶつけたのである。


「わぁぁ!?」


公真がそう叫ぶと地面へ急落下!


だが、その“不意”に現れた誰かがまたぱっと公真の下に現れて公真をキャッチした。

公真をお姫様だっこする、公真がかすむほどのイケメン。二人は見つめあい……、そして。


「なんでだよ!」


そう、不意に現れたイケメンは言う。

だがその青年が空振りの張り手をしたため、公真が落ちる。


「いたす!」


「公真大丈夫か!」


「大丈夫じゃない……、大問題……だ……」


――がく。


「いやーわるいな」


青年がそう言う。


「あ、あなたも……、ポーター?」


俺がそう質問する。


「ああ、そうだ。でもごめんな。急いでるんで、またな!」


そうイケメン青年はまたぱっと“消えた”。一体俺の身の回りにはどれ程のポーターがいるんだ……。


「俺が使える転成力は一体、なんなんだろうな……」


軽く俺は落ち込むが、まあいいさ、進もう。とりあえず自分の教室へ向かうしかない。

俺はとりあえず、歩幅を進めた。


「って無視かよー!」


なんか声が聞こえるが、気のせいだろう。


「気のせいなわけあるかっ」


バシっと頭に痛みを感じた。


「めんどくさ!」


「はは、やはりそうこなくちゃな」


そういえば公真のことを完全に忘れていたな。


「しかし、あれだー。校内探検といこうか?」


公真がなんか言い出した。


「っていっても、まあ、確かにまだ入学式まで三十分ほどあるけれども……」


「いいじゃんいいじゃん、いこうぜ!学校を知り尽くすぞ!」


そんな短時間で知り尽くせるかっ。


「てゆーか、ここは職員室か……」


公真が言う。

職員室はまあ、綺麗である。ホログラム式の掲示板が外側にあり、“本日入学式”と表示されていた。

そして、戸はガラス張りで、唯一曇ってない部分から中を覗くことができる。


「ふぉえー。中も外も綺麗なんだなぁ」


公真が感心していると、俺らよりひとつ向こう側の戸が開いて、恐らく先生と思われる人物が出てきた。


「おいっ。美人すぎだろっ、あの先生っ。白衣似合いすぎだし……」


そう、公真が小声で興奮しまくる。


「はいはい……」


俺はあきれる。


先生がずかずかと早歩きでこちらに近づいてくる。


「先生おはよー!」


公真がにこにこ挨拶する。変態すぎないかおまえ?


「おはようございます」


俺は礼儀よく挨拶をする。


「おはよう」


先生は軽く笑みを見せて颯爽と俺らを通り過ぎた。


「なにを急いでんだろうな。ほら、清太!いくぞ!」


「おっおい! まてってっ」


完全にストーカーとなった公真の後を俺は頑張って着いていく。何してんだ、こいつは……。


しばらく……、尾行を続けると。えーとっ、あれは“保健室”と上に表記されている、その教室にその先生は入っていった。

「やっぱり保健室の先生だぞっ。うひー、俺毎日風邪ひいちゃおっかなー」


「大丈夫だ 既に病気だからな」


そんな俺の助言すら聞かずに、彼、“変態”は保健室を覗きこむ。

なんだ、このわかりやすいザ・高校生は。とても友達と思いたくない。昔からこうだがな。


「本当に大丈夫なの?あなた、また傷口開いてるじゃない」


さっきの先生だ。


「大丈夫さ。ちょっと急用で出かけたしな、それでちょっとやらかしたんだろうよ」


「ぬぬぬ……。なんなんだ、あの男は……。これは、教師と教師の禁断の恋というやつかっ。やつめ……、あんな美人先生に手を出しやがってっ。くそー! 俺はもう生きてけねぇー!」


そうづらづらーと語った公真はそそそーっとばれないようにしながらも、廊下を走っていった。


(子供か)


しかし、ここからじゃ見えないが、どうやらあの先生は他の男の先生と話していると考えられる。まあ、盗み聞きも良くないし、あのアホを追うか。


「レノン……ね。本当にあいつ、許せないわ……」


(ん? 今の……、いや、気のせいか、行こう……)


まったく、どこにいるんだろうかあいつは……。

なんだかんだいってまだあと二十分もあって暇だからいいものの、残念な高校男子を一向に見つけることができない……。


「おーい……、公真ーーー……」


「なによ!!ばかばかばか! 見ないでど変態!!」


パアンっ!とそんな叫びとともに急に教室から公真が教室方向を向いたまますっ飛んできて、壁に激突してパタッと前のめりに倒れた。

後頭部にブラジャーをのせて。そして、教室の戸がピシャっと閉まった。


「とりあえず聞こう……、お前はなにをしてるんだ……」


「教室を間違えたのさ……、はは……、慌てるのもどうやらよくないよう……だ……」


がく。


「それもういいわ!」


俺はとりあえず、瀕死状態の公真に肩を貸しながら引き上げる。


「……」


とりあえずブラジャーなるものは、教室の前に捨てておこう……。

ほんとに、こいつといると昔からよくないことばっかりだ……。

俺が廊下の向こう側を見ると人を見つけた。よく見れば、さっきのポーターさんである。


「おお!」


と、ポーターさんが叫ぶと急に俺らのすぐ前に現れた。


「あ、どうも」


「そこの彼は一体なにがあったかわかんないけど、まあまた会ったな」


「はは、気にしないでください」


「タメ口でいいってー!その上履きの色、君らは一年、俺も一年だからな」


よくみれば、彼も緑色の線が入った上履き、一年生であった。


「なんだ!そうだったんだ、よろしくっ。俺は国待清太」


「エアコンみたいな名前だねー」


――。


「微妙にネタ挟むのやめない?」


と、俺は一応ツッコんだ。


「ぷげっ」


ショックで公真を落としてしまった。無理もない。


「無理なくない!」


公真が復活した。


「あ、さっきは、うーん感謝すべきかは分からないけど、とりあえずどーも。俺は新谷公真、よろしく!」


「ああ、俺は沙羅木恒星(さらぎこうせい)、まあ、俺らどうやら同じクラスらしいし、これからよろしくな」


そう彼はいつのまにか、窓のふちに座っていてそう言った。


「あ、ああ」


俺はそう言う。


(ポーター、すごい、完全に使いこなしている……)


一体、俺はアニキのようになれるのだろうか、恒星は一年だがここまですごいのだ。俺には才能が無いのかもしれないな。どうなのだろう、もはや笑えてきたさ。


キーンコーンカーンコーン……。


予鈴とともに、ぞろぞろと生徒が教室に戻ってくる。しかし、普通は入学式の日なんてみんな緊張やらなんやらで教室でじっとしてるもんだと思うけどな……。


「清太ーーー、清太ーーー!」


他人のふりをしておこう。


名字の最初が“く”の俺が、窓際から二列目に席を設けられていて後ろから二番目という超絶ポジションな俺に対して、公真は三列目の一番前の席である。


(へへ、ざまあみやがれ)


そして嫌味のつもりか執拗にこちらに声を投げかけてくる。うざったくてしょうがない。

公真が頑張って手を振っていると、教室の黒板側のガラス戸がすーっと開いた。それから数秒後に先生が入ってきた。つまり、手で開けたのではないのだろう。


「みなさんどうもはじめまして。私は、本日から一年間みなさんの担任となるものです。よろしくおねがいします。担当教科は、あーごめんな沙羅木くん、君の力を借りるよ」


「え?まあ……、いいけど、先生厨二病?」


恒星が戸惑う。


「その単語は教え子に使う子がいたので知っています。だけど、厨二病ではなく、本当にそう表現できるのです。ではついでに私の使用転成力をお教えしましょう」


使用転成力……。先生は手を軽く振り黒板に綺麗な字を出現させた。


そこには、模倣転成、その上には“コピーてんせい”と記されていた。


「なるほど、じゃあ先生は俺が今丁度使用していたポート転成をコピーしたってわけね」


「そうだ、ありがとう沙羅木くん。いや実に、有能な生徒が集まるね、この学校は。 毎年そうさ。できる子がいればいるほど僕の転成力も活きるよ」


先生はそう言い、また黒板に字を出現させた。


「そして、君の力を借りて、チョークの粉を黒板の隙間にポートさせて字を出現させている 今のをみてわかるように私はいわゆるコピー転成士なんだ そして、一応勉強のために言わせてもらうけど……、私は歴とした“国家転成士”。国から、称号、そして資格として与えられている名誉ある称号を持っている」


聞いたことある……、国家転成士……。


「そして、私は物理と転成技術の教科を担当する。それと、国家転成士の取得法という特別講義も開くことがあるから一応覚えといてくれな」


しかし、そこまですごい人がなぜ高校の教師なのか……。まあうちの学校は凄い学校ではあるから驚くことではないのかもしれない。


「さあ そろそろ入学式が始まる。とりあえずは、講堂に入る時だけ一礼してイスに次々と腰かけてもらい、その後の帰る時は普通に出ていってくれて構わないからな」


こうして、みんなは衝撃を受けながらも次々に廊下に出ていった。


「いやまあ、なんか転成力を真似されるって良い気分じゃねーよな」


「ああ恒星。ああ、ていうかあの人って国家転成士なんだ……。とんでもなくすごい人だよね」


「まあそうだね。でも国家転成士って、いわば監視できるために付けられる資格だから国家転成士の人は、よくいつも見られてるみたいで気持ち悪いって言う人が多いけどな」


「そうなんだ……」


だが、確かに父さんもそう言っていた気がする。まあ、今はいないしどうでもいいけど。


「ん?」


恒星は悩む俺の顔を真剣そうに見つめる。


「まあ、そこまでわかりやすく悩まれると簡単にわかっちゃうって」


「え?」


恒星の言葉で俺は我に返った。


「そうか……、やっぱり。国待清太ってことはあの国待力太(くにまちりきた)の息子ってこと?」


「え?なんで父さんの名前を?」


そういえば、父さんってすごい人だったような……。


「君の父さんはすごいなんてものじゃない。分かりやすく表現すれば怪物さ。おまえわかんねえの?まあ、国家転成士だったな、そういえばな」


「そう、父さんが言ってた。だから俺、父さんってすごいなーって、憧れに近いものも感じてな」


「ああ、なんかこう素晴らしいとも言い難いし、素敵とも言い難いしみたいな」


「そう、親父とは思えないような変な感覚で」


「なるほどな。もっとこう自分の中では父さんとしていて欲しいわけだな」


「ああ、それでもやっぱり自分でも驚いてるんだ」


俺は、悲しい顔だけはみせまいと恒星に笑みをみせた。


「そんな近親相姦なんて……、そうだな、さぞ辛かったよな……、ぐすん……、大丈夫だっ、俺がついてるからな!もし……、あれなら、俺でよかったらいつでも相手してあげるからな!」


「……いや、だからちょくちょくボケるなって!なんかキャラおかしくないか……」


「お、おれ……、あんま経験ないけどいけると思うから……、多分締まr」


「くるな!」


「ハハハハぁぁぁ。ぬぁにー?なんだか楽しそうな会話が聞こえてきたずぉー?この辺かなぁ?」


妙な公真の声が聞こえる。

俺と恒星はとりあえずその場を後にした。


「ひどいじゃないですかー、俺さっきずーと泣いたんですよー?」


「うるせえよ!」


とりあえず、講堂前で今から入学式が始まるのだから静かにしていただきたい。


「いやぁー、まあなんせ、俺みたいな人間はこういうところにk」


「あ、保健室の先生が通り過ぎってったぞ。あー、もーペラペラしゃべくってっからこんな目に逢うんだよお前は。もしかしたらもう一回通るかもしれないから、まだチャンスはあるぜ」


公真はものすごい顔で、小声で、ぅん、といった。


俺はそれが面白すぎて心の中でひたすら笑って、吹き出しそうになってしまった。

案外この学校も楽しいかもしれないな。


「まあまあさっきは悪かったって。気を取り直してまた俺の話を聞いてくれって」


「恒星あのな、別に悪くは思ってないけど……。ただ変な奴というのはわかったよ」


「俺だってあれだ。やりたくてやったわけじゃねえよ」


「ど、どういうこと……? で、他に話したいことがあるの?」

「お前の転成力についてだ」


「え?」


講堂に群がる人たちの声が一瞬にして消えたように感じた。


「知ってるか?合致転成力って。通称“ベスト転成”」


知っている。アニキから教わったし、中学でも少し習った。少しというのは、中学では転成力については深くは学ばず、ほんの少しの知識しか与えられないからだ。


要は、自分に一番相性の良い転成力、それが人間誰しも持ち合わせており、それを使い続けることによって今まで使えていた他の転成力はほぼ使えなくなりベスト転成しかほとんど使えなくなる。

恒星とアニキにとってのポート転成である。


「まあ、俺もお前がどんなもんを使えるか分からないし楽しみでもあるが、お前の父さんからある程度は推測できるさ」


「俺の父さんのベスト転成って……」


「そう、国家転成士が使う国家転成力と呼ばれているもの 君の父さんが使う転成力は“力転成”とか名づけられてたな」


確か、どんな力も転成できるとか……。


「だが、俺が知ってるのはここまでさ。だから、いやつまり俺が言いたいのは、お前の念写のオーラとかが力転成絡みであるのは間違いないってことだ」


「そう、なのかな」


念写のオーラ、そう、転成力とは人間が念写をし物質などに作用を与えることで、何かしらの反応がおき、とある法則により“転成”が生じるのである。


「どのみちっ。普通はみんな高校から力を付け始める。俺みたいなのは特例さ。ガキの頃から特訓されない限り、苦痛な過去がない限りこんな目には逢わねえよ」


「え?」


恒星の顔を見た。恒星はどこか悲しそうな表情をしていた。


「ははっ。ほら移動し始めたぞ、いくぜ!おい!アホ! もう美人姉さんはとっくに講堂の中だからとっとと入るぞ!」


「ええ!? まずい!早く入らねば彼女の顔を拝むことができぬ!」


恒星はさっきたしかに……、まあいいか。


「ふっ」

俺は自分の愚かさとこいつらのバカっぷりに思わず吹き出してしまった。でも、さっき友達になったばかりだからって……、そりゃ心配さ。こいつは一人で抱え込んでいそうなそんな感じだからな。


「まてって!」


ぞろぞろ……と、大量の人が講堂に流れ込んでいった。


「これより、新入生に入場していただきます」


静けさの中、一人の司会の教師の声だけが講堂内に反響する。


「それでは、新入生が入場します 暖かい拍手で迎えましょう」


パチパチ……。


俺たちは次々と入場をする。

そういえばここにたどり着くまで色々あったな。この入場によってしみじみと感じた。

やっぱり俺は思う。ここまで来られて良かったなって。


俺は一気に静まり返ったこの講堂でじーっと席に着いていた。


「一同、起立」


全員ゆっくりと立ち上がる。


「それでは、開会のお言葉を間宮(まみや)先生から頂戴いたします」


檀上に一人の先生が礼をしながら登壇し、こちらを向いた。


(あれ?)


「これより、第三十一回鳴木高等学校入学式を開会いたします」


良い感じの低めの声が講堂に轟く。


「一同、礼」


あ、あの人は……、さっきのアニキと話してた魔術警察の人だ。


(え?なぜ? なぜ魔術警察の人がここで……、先生を?)


「一同着席」


全員ゆっくりと席に着く。


「それでは、鳴木学園大形成会理事長、染井恵子(そめいけいこ)理事長よりお言葉をいただきます」

そして、檀上のマイクの前にポンと、その偉大なオーラを醸し出し、少しふっくらしていて上品なクリーム色のジャケットに綺麗なスカーフを纏う上品なおばさんが現れた。


――そして会場がどよめいた。


「新入生のみなさま、みなさまのご入学を心よりお喜び申し上げます。さっそく、魔術を使って転移する等、ずるをして申し訳ございません。新入生のみなさまの中には、もちろん転成士になる方、魔導師になる方に分かれるかと思われます。ですがどちらにせよ、みなさまならすぐに使いこなせて偉大な人間になれることでしょう。特に、私もおすすめをするこのナルコーに入ったからには卒業時には完璧な転成士、あまりこの辺で普及はしていませんが……、魔導師になれることは約束されています。みなさまにお言葉を差し上げましょう。“強くなれ”この言葉を信じて日々生活していただければ私は幸せでございます」


そして彼女の頭上に綺麗に光る字が現れた。“強くなれ”と。

そしてまたどよめいた。小声で女子の、わーきれーい、などの言葉も聞こえた。


「以上で私のお言葉と致します」


「一同起立」


――ザッ。


「一同礼」


礼をし終え、会場に盛大な拍手が起こった。

彼女が、礼をし終えたあと、またポンと消えた。


「それでは、閉会の言葉。明宮(あけみや)先生からお言葉をいただきます」

あの保健室の先生は明宮先生っていうのか。しかし、スーツ姿も非常に美しい……。

「これにて、第三十一回鳴木高等学校入学式を閉会致します」


「一同礼」



――

――

――


「いやまあしっかし、あのおばさんは実に貫録があるよな!」


「ああ公真、それもそうさ。彼女は偉大な理事長というお偉いさん。この辺ではトップクラスのビジネスマンなうえ。いわゆる大魔導師と呼ばれる存在なんだ」


(しかし恒星よ、なんであんたはそんなに詳しいんだ)


「まあ、色々とこう、情報をクリクリっとね」


彼はほんとに謎めいている。


そんなこんなで俺たちはようやく初日を充実して過ごし、晴れた気分で放課後を迎えた。


「ま、そういうわけでお友達やっほうパーティーといこうじゃまいか!」


公真はこういうのが本当好きである。 はこれから家に帰って色々やらねばならぬというのに。


「大丈夫大丈夫、ほらもちろん行くだろお前もなあ恒星」


「もち!」


うっひょーいとクルクル訳分かんなく二人で回られても……。


「ん?」


俺はみんなで学校の前を駅へ向かっている最中に、不思議なオーラを放つ感じの女子を見つけた。明らかに周りの子とは違う、一人だけでなんだかこう凄く浮いている。


展開が早いってのも、こう自分的にもなんだか嫌な感じはある。だが仕方ない。展開が早かったのだから。


何が起きたかというと、その少女がこっちを見つめている最中、急に辺りが静まった。


――なんだかこう、時がゆっくり流れる感覚。


多分……、本当にそうなのだろう……。


そしてさっきの少女の声が急に耳に入ってきた。


「気をつけろ、恒星に助けを求めるんだ」


「え、え?」


――パーーッ……。


と音をたてて周りが綺麗に光って途端に何かが、飛んできた……。


「え、え?」


次の瞬間体に変な感覚を覚えた。決して卑猥な意味ではない。


「え、え?」


「お前はツッコミ役だろ。ボケまくってどうすんだよ!あんな状況じゃ誰もツッコんでくれる奴はいねえぞ?」


「こ、恒星!え、えええええ!?ていうか俺いつからツッコミ役になってんの!?」


「おちつけ」


「い、いやまてなにが起こってんだ、え、え」


「いいか、よくきけ。うーん、恐らくこれは魔法陣だな……。だるいぜこれ。要は隔離させる魔術。魔術の中で相当高度なうえ、大規模な準備が必要なはず……。ったくMP(マジックポリス)のやつらなにをやってんだ……」


「あー、なるほど」


「理解早www まあ助かる」


とりあえずよく分からないが、バトル展開らしい。


「よし清太、とりあえずガン逃げるぞ!」


「逃げるって、ここで応戦したほうがくないのかな!?」


「じゃあおまえが戦うかい?」


シュンと、俺は軽々もうちょい前へポートさせられる。そこには何かが飛んできた。


「ごめんなさい!」


次の瞬間、目の前に恒星がポートする。軽く手で触れそれを後ろの地面にポートさせる。


――ズシュッ!


と地面に突き刺さる。


(なにこれ……、は、刃物……)


包丁の先だけのような感じだ。


「魅せプレイしてやったぜ!でてこいよ!」


「やるな」


何者かがそう呟くとその何者かは、地面に急速で降り立った。


シュタッ!


そして、すぐさま少し溜めてから電光石火のスピードで刃を投げてきた。


――パッパッパッ。


だが全て先程と同様にされて唐突に地面に突き刺さる。


「なんだ?なんでそんなに転成力を使える。それになんで魔術が発動してんだ? どこかに仲間が大量にいんのか?」


恒星は疑問に思う。

「無答」


パララララ……。と刃を放ちながらこちらに宙を浮かびながら突撃する。


「くっ」


恒星がそう言うが、不意に俺の体にポート感を感じる。


「ほんっと。国待さんには感謝だな……。ここまで飛ばされてまともな体でいられるのはそうそういねえぞ……」


「やだ、恒星ひy//」


「なんかボケるお前キモくないか……」


恒星はそう言い、宙に浮いている俺にもう一度触れる。

これだ、この感覚。これがあまり好きではない。これはポートされる時の妙な感覚。なんだかよく分からないけど、下から混み上げてくるような感じ。

微妙にだが吐きそうになるのだ。


「ふう、ここまで来ればひとまず安心かもなあ」


――ビュオォォ……。


俺らはビルの屋上に来ていた。


「た、たっけえ……。てか、もしかしてもうその魔法陣抜け出せたんじゃ?」


「んいや」


恒星はケツを微妙に浮かせる座り方をしたまま、俺の隣からビルの端へポートする。


「むしろここにその魔法陣がある」


恒星は立ち上がり、少し歩いて何か考え事をし、“ちっ”と舌を鳴らすとビルの資材が積み上げられているとこまでポートした。

その瞬間魔法陣の位置に先の尖った鉄パイプが突き刺さった。


「くっそ!」


――ガン!といきなり俺の隣に来たかと思うと、ポートした瞬間にビルの出っ張りを蹴る。


「この数……!!やべえぞ。あの糞警察どもが。こんなかしこまった仕掛けぐらい普通気づくだろ?」


「こ、恒星……」


「んあ……、わるい。とにかく、俺らを隔離させたあの魔術は今俺がぶっ潰した魔法陣と、その他の多数の魔法陣から成る、巨大な魔法空間が織りなす隔離空間だ。いや、しかしお前が国待さんのポートに慣れてくれてて良かったさ。じゃなきゃ、多分、両方やられてたかもな」


「なんてことだ……。とりあえずあの飛んできた謎の人物はやばい奴で、俺はあいつから逃げなくちゃならないのと、この魔法陣をぶっ潰して行かなきゃならないって事だよね?」


「流石だ。だが、いくつか問題があるんだよ、これが。まず、ポートできる俺でも、この魔法陣の外側に出れない。まあ多分念写が跳ね返されるとかなんかだろうな。隙間さえ見つければどうとでもなるんだけどな……」


大変だ、最悪すぎる。なんてことが起きているんだ。

ということは、空間の隙間さえ見つけ出せば良いってことかもしれない。


「それと、俺とお前だけがここに閉じ込められたってことか。ただの偶然ならいいけどな」


「とりあえず、隙間をみつければいいんだな? いこう」


「よし、いくか」


恒星が決心し、俺に触れてポートさせようとした時だった。俺めがけて巨大な刃が飛んできた。俺は屋上内でポートさせられタンクのようなものにぶつかった。


そして恒星は、さっきのやつのもとにポートしていた。


――鉄パイプを持って。


「くそがきが、じゃまだ」


「やめろ!」


ブン!とパイプを振るが見事なエアロテクニックでかわされて、瞬間長身の刃を出して握って振る。


だが恒星は奴の真後ろにポートした瞬間落ちる勢いでパイプを振り下ろすが、後ろ手により刃で防がれ手首を奪われた。


「!?」


「恒星!」


そのまま恒星は、放り投げられるが辛うじてポートしたようで、さっきの俺を助けてくれた時と一緒だ。

屋上にポートして叩きつけられた。


今まで何度もその場面が出てきているが、ポートはポート前の自分の体制、物の速度など全てを保持したまま成される。その分、今恒星は結構なダメージを受けたはずだ。


「あまいぞ、ガキめ」

そいつは急速に恒星のもとへ滑走する。


「くそっ」


俺は助けたいのに、体は打ちつけて動かないし、届かない。


「あほ……!」


恒星がそういい、資材のもとへポートし、ひとつの資材にポートした瞬間触れると、資材が次々に消えそいつの頭上に降る。


「よんでいるさ」


――そいつが再び空中へ滑走する。


「こっちのセリフだぜ!」


恒星は資材が降っているとこにポートする。


「おらぁっ」


――カンカンカン!


次々に持っていたパイプで様々な資材を打つ。その打たれて飛んでいるのが保持されたままやつのもとへ多数のミサイルとなってポートされる。


「だがそんなふざけたわざなどきかん」


やつは目の前で長身の刃を振らせながら、恒星に急接近する。その間は、とても速かった。


「ぐあっ」


恒星が反応しきれずに、そいつに掴まれるがすぐにポートして俺の隣に飛んできて背中をうちつけ、尻餅ついた。


「くっそ……。まずい、手が動かねえかも……。俺は触れないとポートできないんだ」


「ま、まずいな。落ち着いとけよな、恒星……」


俺はそういって、少し回復した体を気力で持ち上げる。なんか無いかと必死に考えた。


「ふたりともとらえるそれがやくめ」


そいつは少し遠めの宙からこっちに飛んできた。


「くっそ……」


俺は半分諦めかけたかもしれない。その時


――ガッシャーーーン!!!


窓ガラスが勢いよく叩き割られたかのような音が鳴り響き、俺が立っている目の前の空間から巨大で不気味に輝く剣を振る少女が現れた。


天海(てんかい)!」


――恒星が叫んだ。


「てんかい?」


俺はその少女のことだと分かった。


「――隙間を作った」


その少女はそう哀愁漂う声色でしゃべる。お構いなしに突進してきたそいつは刃を飛ばす。


「無駄だ、私は貴様らを許さない」


少女は剣をかざすと、その剣は急に震えたかのように見えた。すると刃が全てその場で飛び散る。


「倒す」


少女は剣を地面でバウンドさせる。


バオン!と咆哮を上げ少女は物凄い勢いで飛ぶ。


「ぬ!?」


――少女はその勢いでやつを薙ぎ払う。


カン!とガードされるが、凄まじい勢いでそいつは飛ばされた。


――ガン!


とまた剣と空気が震えると、やつはビルの下へ落ちていった。


「天海……、よかったよ。来てくれたんだな」


「空間の連結部を感知して、鼓動を聞いていたが、お前の弱い念写オーラが伝わったからこの位置を探し当て叩き割った」


「流石だな天海」


「あぁ」


そういうと物寂しげな少女は、剣に握ってないほうの手で軽く触れると剣はゆっくりと消えた。


「す、すごい 始めて見る……。もしかして、剣豪士(けんごうし)?」


「そうだ そいつは“剣豪士”だ。今数少ない剣豪士の生き残りで、めちゃくちゃすごいやつなんだぜ?」


「ここに割れ目を作ったから出られる。二人はここから出るんだ」


「え、まて天海、お前は?」


「急用ができた」


そういうと、剣が咆哮をあげながら天海の手に現れビルの端を叩く。


ボォーン!と飛んでいってしまった。


「わるいな無愛想で。あいつはああいう奴なんだ。また今度皆でしっかり話しような」


「ふーん そうかだいぶ深い仲で、仲睦まじくて微笑ましいよ」


「ま、まて!天海は別にそういうんじゃねえ! ただのポートの仕事仲間だよ!ほら早くいこうぜ」


こいつはちゃっかりあんな可愛らしい娘とできていた。隅におけないやつだ。俺らは靄がかかっているその空間の割れ目へと入った。


――入学式早々酷い目にあった……。


それに公真がここに入れられなかったのは、本当に偶然なのか、もの凄く気になった。


とりあえず、一件落着。


二話 完



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