プレ二話 タイトルなし
ビュオーー……
不気味に風が音を立てながら、枯れきっている田んぼを通り過ぎる。
そんなど広い田んぼを歩く一人の人間がいた。
彼は薄い深緑色のロングコートを羽織っていて、肩幅があり、髪の毛は黒でいたって普通の髪型である。そして、普通の縁の眼鏡をかけている。
「おかしいねー。ここと聞いたんだけれども」
眼鏡男はそう言いながら、田んぼを踏みしめながらひたすら歩く。
「確かにこの辺に例のアレがあるはずなんだけれども」
とりあえず、変わったところといえばしゃべり方がおかしいぐらいだろう。それ以外に彼に変わったところは見当たらない。
「もーーん?」
と、気色悪い声を出して彼は何かについて疑問を感じた。
辺りの気配がだんだん変わってきた。何かがいるような、そんな気配だ。
その男は気づいているのだろうかは分からないが、確実に危険な匂いが漂っている。
やはりその表現は合っていたかもしれない。
急に、いや不意に彼を円で囲うように銃弾がズラーッと、そう、現れた。
そして彼めがけて何発も現れて撃ち放たれていった。
だが、なぜかその銃弾は彼に届く前にパラパラと力なく落ちていく。
「ちょっとまってねー。いきなりびびるよー。とんでもないし、なんでしょー?」
宙からの発砲が止んだ。
「ふふ……」
彼は手をさーっと軽く振る。
次の瞬間、空間に色が塗られていくように、シューーーっと彼を囲うように、次々と人間達が姿を現した。
「いわゆるステルスというやつだねー」
「ひぃっ!?」
急に現れた男の内の一人が奇声をあげる。
その男どもは全員迷彩服を着ていて、機関銃を手にしていて、それ以外は無防備である。
「こ、こいつっ!! やっぱりそうだぞ! まちがいねえ!!」
違う男がそうつぶやく。
「う、うわ! こ!こいつやっぱそうだ! くっそ! やつらハメやがった!!」
次々に、男どもが口を開く。
「こ、こいつが!!……」
男たちはとんでもなくビビッていた。それがふさわしい言葉であろう。ものすごい顔をしている。
「ちょ、ちょっとっ。私をそんな顔でみないでねー。それに私は、君たちに一切危害を加えるつもりはこれっぽっちもないねー。まあ、“力的には”むしろそれは難しいんだねー」
「う、うそだ!!」
男たちはとにかくびびっている。
「お、おまえが……“零転成士”!!!」
「うーんー、ごめいとぉーーー」
「うっ、うてぇぇ!!うてえええ!!!」
ズパパパーーーーっととにかく彼に銃弾が撃ち込まれる。
だがやはり、無様に唐突に銃弾はパラパラと元気を無くして落ちていく。
「うーーん、私も銃弾に撃たれるというのは、物理的思考からどう感じるかを知りたいんだけどねー。どーも私の体のまわりには結界なるものが出来ているらしくて、私の体に近づくものはそれが持つ全てのエネルギーというものが、ゼロになっちゃうらしいんだねー。私も自分でもよくわからなくてねー。こうやって色んな人に説明し続けていくことで、きっとだれかがこの謎を解いてくれることを期待しているんだけどねー。無理っぽいかも?」
コート男はそう淡々と語る。彼に無数に銃弾が撃ち込まれているのにも関わらずだ。
男たちは荒れ狂って銃を撃つものだから、そのせいでひょんなところに飛んでいき、流れ弾をくらうものもいた。
「ぐわぁっ!」
「わぁぁっ!!」
「にゃろおっくっそーー!!」
そう彼めがけて走る男もいれば、
「ひっひぃぃ!?」
と逃げていくものもある。
とりあえずよく分からないシュールな光景であった。
「ちょっとちょっと、意味わからないね。落ち着いてよねー」
コート男もそうつぶやく。
「こっこのっ!!」
走っていた男が、目の前にどでかい岩を転成、つまり出現させてそのままコート男に向かって飛ばした。
「だから無駄なんだよねー」
岩はもちろん彼の1m程先で急降下し、ズーーンと地面を掘り進めた。
「こ、こうなったらっ!!」
男は、キンッと栓を抜いた手りゅう弾を手に持ち、コート男めがけて突っ込んだ。
「らぁぁぁぁ!!!」
「相変わらずなにがどうなってるのか、よくわからないねー」
コート男は、本当に意味不明そうに、額をポリポリと掻いている。
もちろん、手りゅう弾を持った男は穴を飛び越えようとした瞬間、穴に向かって急降下した。
だが、爆発は起きなかった。
「だいじょーぶー?」
コート男が穴を覗いてそう言う。
「まあ、その手りゅう弾の持つ火薬のエネルギーとかがゼロになっちゃたんだねー」
コート男は、相変わらず意味不明そうに再び田んぼを歩き出した。
「しかし、どこだろうねー この辺のはずだけどねー」
呑気だがとんでもない力を持つその男は、その悲惨な状況によって何者であるかを証明していた。
コート男は歩きながらもなお、つぶやき続けていた。
「おかしーねー」
あんたがおかしい。そうなのではないだろうか。




