十一話 無限移動転成と風箒
「それで、この風箒が暴走しちゃってここまで飛んできたわけか」
――ビュオー……。
風邪がたなびく、ここはこの辺で一番高い丘の位置に、啓一と恒星は立っていた。
「そういうわけだ。――それで……、あれは間違いなく“ララ・ノイヤ”だ。間違いなくここに“レノンの別邸”は存在しており……、そして“レノン・チルドレン”も集結してるようだな」
「レノン・チルドレン……。片下とかいうオッサンもその一人だな。まさか、俺らのクラスもろとも殺しにかかってくるとは……」
恒星は、風を転成させつつ色々なオーラを自分のもとへかき集めそれを分析しているようだ。
「ああ……。呪死先生と染井理事長がいるのにも関わらず随分豪快なことをするもんだ……」
「あの二人ならどうやら今は頼りになれなさそうだ。“無限鏡世界”にいるらしい」
恒星は、ポートさせたオーラの中に二人のオーラが存在せずそう推察した。
「それは困ったな……」
――ザッザッ……。
「おいおい、怪しさ満点だったけどお前ら殺人士じゃねえか。オーラがちゃんと出てやがるぜ」
恒星がそう言葉を投げかけた先には、魔導師専攻コースの三人が深くフードを被って立っていたのだ。
「なんだと……?――でも待ってくれ恒星。あいつら様子がおかしい」
その三人は、無口だ。一度も口を開いていないうえに、少しゆらゆらとしているようであった。
「もしかして、噂の傀儡人形がナルコーに忍び込んでたわけか?」
三人は、魔導書を手に取った。
「詠唱を始める気だ。魔導書の呪文を心の中で唱え得るのであれば、禁忌を犯していない限り詠唱が必要かつ、割とやっかいな魔術がくるぞ、恒星」
恒星は全く余裕であった。そもそも恒星にとって殺人士戦は手慣れたもんだったのだ。
「そういえば啓一。俺最近身に付けた必殺技があってさ。丁度試してみたかったんだよね」
啓一は、恒星の話を片耳聞いていた。まっすぐに魔導師専攻コース生、もとい傀儡人形を監視していた。
「ちょっと風箒の突風を借りたい」
「任せろ」
不意にぱっと手元に風箒が現れ激しい突風を起こすために風箒は荒ぶった。
それと同時に、恒星は手をかざすとなんとその数多の突風はランダムで吹き起り、三人を包み込むなどした。
――パッ。
恒星は危機を感じ遥か上空へ啓一と一緒にポートをする。
――ドッカーン!!
遥か下は物凄い爆風が巻き上がっていた……。
「サンキューな恒星。お前……、まさかさっきのって!」
「へへ。“無限移動転成”発動」
「すっげー!」
啓一は恒星の手を取り、片方の手で風箒に捕まってぐるんぐるんと高度を上げていった。
「さっすが、守衛士の転成士はスケールが違うなあ」
啓一は恒星を絶賛した。
「――そんで……。いいか啓一。傀儡人形は、基本的に不死身だ。獄炎魔導師の不死の呪いがかけられているうえに、ものの平気で闇魔術を使ってくる。あの大爆発の感じをみると、三人一斉に詠唱されるとだいぶやばそうだぜ」
「そうだな。まあ、魔導書を使う魔術にはどうしても隙があるから、俺らのこの無限風箒作戦で乗り切っていくのが名案のようだな!」
恒星はうなずいた。
――
――
――
一方そのころ、急遽アニキは帰国していた。
そして来た先は、もちろん……。
「国待君、久しぶりね」
「お久しぶりです明宮先生!」
アニキと明宮は、とある開けた場所にいた。
「ここで間違いないんですね?」
「ええ、そうね。ここだけが、私の“永続治癒転成”の効果を受けないの。そうであれば、ここには間違いなく“絶対転成”が作用していると考えられるの」
アニキは深くうなずいた。
「――なるほど、先生がそう言うんだったら間違いなさそうですね。じゃあ、“大移動転成”の詠唱を始めていきます。先生には俺に“永続治癒転成”をし続けてほしい」
「――そう……。十分に“転成力の枯渇”に気を付けて」
アニキは、地面に軽く手を触れゆっくりと魔法陣を形成していった。
「あなた、魔法陣を展開できるのね」
「もちろん、これぐらいは容易いですよ……。それより……、俺の推察ですが、今回はレノンの別邸に清太や零転成士が閉じ込めているわけではなさそうだ」
明宮は、怪訝な表情をした。
「まさか……、呪死先生が結界で完全に探知し切れなかったということは……」
「――そう。俺は“大移動転成”で、ダークマターをこの次元にポートさせます」
アニキは大仕事を前に、覚悟を決めた。
「必ず……、清太を救い出す」
十一話 完




