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レノン・レノイドの気まぐれ世界  作者: 夢見文太
第二章 守衛校生徒捜索任務編
20/24

十話 合成獣“ララ・ノイヤ”剛堂

大変お待たせいたしました。

仕事が落ち着いたのでまとめて投稿しますm(__)m


 俺はなぜここにいるのか分からなかった。

――ここは、地獄だ……。


強いて言えば、片下がここにいる。俺の気の知れたやつが見えてるってのが唯一の心の救いだ。


俺は植物の姿をした化け物に丸呑みにされていて、体なんて原型を留めてすらいない。


――でも意識はある。まさに“生き地獄”だ。


「どうだ」


この低い声は、忘れもしない。忌々しい記憶が蘇るほどによく覚えているさ。

“獄炎魔導師”、黒魔導師の中でも国際指名手配されてて、危険度も魔導師の中でも最も高い。コイツを筆頭とする闇魔導師は、世間にはうじゃうじゃといやがる。


「そうだな。植物獣“ウツボ・カズラ”は最近実に機嫌が良い。まあ、ワシの転成力を持ってすれば、植物獣であれなんであれ、飼いならすことも容易だからのう」


こいつは、ハリアー博士ってやつだ。俺がMPの任務でこの“レノンの別邸”に潜入した時にこいつの悪事に気づいた。

こいつは、金目当てで“レノン・チルドレン”と絡んでやがる。

そして、こいつのお得意の“服従転成”で、どんなやつもこのジジイのいう事を聞きやがるもんだから、学会でコイツを怪しむ人は誰もいない。


――だが、俺だけはコイツを最後まで疑ってたというのに……。


「さて、ハリアー。例の物は持ってきたか。コイツの報酬はそれを受け取ってからだ」


――例の物……?調査レポートにそんな報告は無かった。まだこいつらは何か隠してやがるのか?


「ああ、いいだろう。おまえさんの企みには毎回スケールのデカさに驚かされるわい」


ハリアーは大きな黒い箱まで歩み寄ると、大きい南京錠に軽く触れた。


「鍵を開けろ」


南京錠はその指令を受けると、独りでにガチャッと音を立てて鍵を開け床に落下した。


「さあ見るが良い。拉致するのにはなかなか骨が折れたがのう」


ハリアーが箱を開けると、そこには少年が入っていたのだ。髪の毛は綺麗な銀髪で、まるでイギリス人のようでとても可愛らしかった。


「素晴らしいオーラ……」


黒魔導師は、ルビーの指輪が中指に、薬指にサファイアの指輪がはまった大きくも綺麗な手でその少年を抱き上げた。


「貴様、未来予知ができるな?」


少年は終始無言であった。起きてはいるが、目を伏せ明らかにこの状況を諦めているようだ。


「フン……。いいか、貴様の予知転成はこの俺の“傀儡化計画”にとって非常に重要な転成力だ」


獄炎魔導師は少年を抱き上げながらひたすらに言い続ける。――これはこいつのやり口だ。魔術のオーラが出ている。こうやって、“洗脳魔術”による呪いをかけていやがる。


俺は原型こそ留めていないが、腕辺りを動かせている感覚が少しだけある。さっきからこの植物獣から抜け出せないか試しているが、恐らくこの植物獣には“弱い部分”がある。

――そこに穴でも開けられればな……。


「――ほう。お前さんにはそういう趣味があるのかとも一瞬思ったが、それがいわゆる洗脳魔術なのじゃな」


「ハリアー……。俺たち高位の魔術師は基本的に自らに魔術の呪いをかける事が多い。そして俺らの様な人間は、基本的に無駄な欲望を呪いで自身から取り除いているんだ。分かっただろう。俺は明らかにレノンよりも信頼できる人間だ」


やはりこいつらもレノン・チルドレンで間違いなかった。レノンの別邸には多くの“レノンへの訪問”をする鍵が隠されているのに間違いない。


「それでは獄炎魔導師様。その少年を“傀儡人形”にする準備は整っておりますが、いかがいたしましょうか」


――こいつは片下真一だ。MP所属。俺と同じチームでここの“レノンの別邸”に忍び込む同じ班員。俺らの所属する“レノン捜索隊”だったのだが、失踪により殉職。だがようやく見つけ出した。こいつはここでやつらの言いなりになっていたんだ。


「もちろんこの坊主も“傀儡人形”にする。片下、こいつを儀式場へ連れていってくれるか」


「承知しました」


獄炎魔導師は少年を降ろすと、片下が手を取った。


「坊主。貴様の名は何だ」


「――マーチ」


マーチはそう一言だけ言うと、片下とともにガラス張りの自動ドアから出ていった。


「――さて、約束だ。貴様の欲しがっていた、“魔術の禁忌”をくれよう」


――なるほど……。ハリアーは魔術の禁忌を犯し、強大な服従転成力を身に付けるつもりというわけか。


「よろしく頼むぞ」


獄炎魔導師は、空間から巨大な白い杖を手に出現させた。これがいわゆる魔導具“大魔導師の大杖”である。


獄炎魔導師は魔法陣を二人の足元にいとも簡単に出現させる。


――今しかない……。俺はなんとなく感じる感覚だけを頼りにこの植物の弱い部分を見つけた。


獄炎魔導師が詠唱を始めた次の瞬間……。


――パァン!!


植物獣は木端微塵に破裂し辺りにはその残骸が無残に飛び散った。


(動ける……!)


そう感じた俺はもの凄い速度で自動ドアを突き破った。


――ガシャーン!!


俺の“高速移動転成”であれば高速で移動できるうえに、移動から生じるエネルギーを前面に出すことができる。だからこの自動ドアも破壊することが容易かった。


「……!?」


途端に体が物凄い重くなった……。あの植物獣から出た瞬間に俺の体は元に戻ったはずだ……。なのになぜ?


「どうだ。新しい体に生まれ変われた気分は。貴様、名は剛堂奏ごうどうかなでといったな」


研究所のような場所を出たそこは、とても長い廊下だった。さっきまでハリアーに禁忌を犯す魔術をかけていたはずのその男が、既に俺の目の前に立っていた。


「――こんな体にして……、何が目的だ?」


俺の体は全身紺色になっていた。――そして、体がもの凄く重たい……。


「貴様はララ・ノイヤという種族に転生したのだ。そのためには、あの植物獣の転成力による“体の熟成”が必要だった」


聞いたことがある……。昔、剣豪士を殲滅させたキメラの種族……。


「ほお~、立派な合成獣キメラが出来上がってるのう!」


「……!!」


俺はハリアーの方へ振り向いた。さっきとまるでオーラが違った。魔術の禁忌を犯した者特有に見られる禍々しいオーラになっているではないか。


「早速試させてもらおうかのう……。“絶対服従転成”!!」


――そこからというもの、俺は記憶がない。ただ一つ言えることは、俺のオーラが明らかに殺人士になっていることであり、明らかに力が増強されているという事だ。


わずかに記憶の中に残るこんな会話があった。


「なるほど。素晴らしいですね」


「ララ・ノイヤといえば、レノン様の野望を叶えるための最後の切り札なのでしょう?こやつはとてつもない完成品なのですわい。体の一部を切り離し、転生前にベスト転成力だった“高速移動転成”を自在に使いこなしていましてのう」


どうやら俺は、とんでもないモンスターに生まれ変わったらしい。



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