六話 ダークマター"暗黒魔力空間"
木曜日投稿分、遅くなり申し訳ありませんm(__)mm(__)m
次回は月曜日20:30までの投稿予定となります!!
――カツ……カツ……。
(なんだこの洞窟は……)
彼これカメレオン転成士にこの場所に連れ去られてから小一時間は経過しているだろう。
結局のところ、転移魔術が解けたかと思ったらこのよく分からない洞窟にいて、カメレオン転成士の姿は無かった。
そして、この洞窟はとにかく果てしない。
薄暗いのだが、十分に辺りを見渡せるほどの明るさがなぜかあり、そのおかげで歩くことに不自由はしない。
――ただ……、果てしない……。
一体どこまで続いているのだろうか?
どこまでも続いている洞窟。もはや、終点などない、そう感じるのも無理もなかった。
「あれ?なんだゴウクンが言ってた新入りというのはお前か」
不意に洞窟に姿を現した。
「びっくりしちゃあいけないよ。この洞窟は想像以上に複雑だ。迷路なんでもんじゃあない。オイラだってまだ理解できていないんだ」
「君は……一体?」
その少年はとても幼かった。
「オイラは、マーチっていうんだ。お兄さんは素敵なオーラが出ている。オイラお兄さんの事好きだ」
マーチは、トコトコと小走りで近づくとぎゅっと清太の右手を掴んだ。
「あ、ああ……」
良かったことに、この子からは殺人士の特有のオーラが見られない。だからといって、油断していい理由にはならないのだがどうやら本当に心も純粋な子供のようなのだ。
「お兄さんて、もしかして……。そっか。この転成力のオーラは具現転成士のそのものだもんね。それに、割と無差別に強いやつだ」
「そういえば、マーチは魔導師なのか?」
(おっと……)
こういうことは質問してから気づく。確かに昨今では特に、悪い人は魔導師が目立つ。マーチは今のところ純粋そうなのだから、勝手に決めつけは良くないように思える。
「ちがうよ。オイラは転成士だ」
マーチは、俺の手を引っ張って歩き出すと、一つの魔法陣まで誘導した。
「こいつは、オイラがこの空間に監禁されてる間暇だから設置したんだ。お兄さんわかるよね?だって、お兄さんはきっとナルコーの生徒だ。オイラの転成力がそう言ってるよ」
「マーチはナルコーのこと知ってるのか?」
どうやらその様子。マーチは、俯くのだ。
「あ、そうだ!オイラが転成士というのを証明するね!きてきて!」
マーチは俺を魔法陣まで導いた。
転移すると、大きな水晶の前にたどり着いた。
「これはね。オイラが作ったんだ。魔導具“巨大魔水晶”っていって、あらゆる力を水晶の中に取り入れることでその力を宿し続けることができるんだ」
その水晶には、恐らくこの洞窟の色々な景色が映し出されていたのだ。
そうはいっても、景色はほぼ変わらない……。
「――まって、マーチ!人がいる!」
右下の方に映し出されている通路に、ロングコートを着ている男が映し出されていたのだ。なんと……、俺以外にもここに転移された人が、マーチともう一人いたのだろう。
「ああ……。関わっちゃいけないよ。このお兄さんは危ないよ。今は自分の転成力が制御できない」
「マーチは会った事あるの?」
「これみて」
マーチは俺の手を引っ張ると、その先には――。
そう、この巨大魔水晶が置かれている空間には、いくつもの魔法陣が設置されていた。恐らく、さっきの魔法陣みたいにそれぞれ行先が決まっているのだろう。
「行先はきまってないよ」
「あれ?もしかして、マーチの転成力はテレパシーかなにか?」
マーチはえっへんと、腕を組む。
「オイラはね。未来が分かるのさ」
なるほど……。それなら全て辻褄があうのだ。
そもそも、俺がこの洞窟に迷う事も知っていた。だからこそあの場所にマーチは迎えに来てくれたわけだし、このロングコートの人の事もよく知っているんだ。
(ちょっとまて、それ良く考えたら最強だな……)
相変わらず、敵サイドはチート級の転成士や魔導師が多い。
でも大丈夫だ。守衛士サイドだってアニキのような大移動転成使いや、呪死先生のような頼もしい人たちがいる。
「そうだ……。お兄さんならこの危ない転成士を正してあげられるのかも……」
マーチは俺を別の魔法陣まで引っ張った。
「特訓すれば、お兄さんは具現転成力を使えるようになるよ。具現転成士は転成士の中で上位転成士だし、ゴウクンも嫌いって言ってたから多分メチャクチャ強いんだ」
「そういえば、マーチ。その……、ゴウクンていうのはどんな人なの?」
マーチは、また俯いた。
「知ってたけど……」
――グスン。
(うわぁ……)
唐突に泣き出した。子供が泣いたら面倒くさいのは鉄板だ。
「ご、ごめん!マーチ。な、何があったのか聞かせてくれるかい?」
「う、うん。ごめんね……?久しぶりの友達が出来たから、感情がおかしくなっちゃうんだ」
マーチはとても頭がいい。それに、恐らくこれほどの力の使い手であれば敵側だ。でもマーチはきっと本人の意思で加担しているわけでもないし、恐らく今から話してくれるのを聞けば、マーチがここにいる理由が分かる。
「ごめんね。この質問されるのを“未来予知”できていたのに……。やっぱりいざされたらショックだった」
マーチはキレイに手入れされている白装束の袖で涙をぬぐった。
「ゴウクンてのは、獄炎魔導師のこと」
「獄炎魔導師……?」
コクン、とマーチは頷いた。
「とーっても強い魔導師なんだよ。でもね、だれかがゴウクンの事は、キンキを犯したって言ってたんだ。だから、あれだけ強い。そしてね、魔術警察に追われてるの。でもね。ゴウクンはものすごーい強いから、魔術警察の人は絶対勝てないの!」
なるほど……。黒魔導師の一人の様だ。そして状況を整理すると……、恐らく水晶に映っている人も、この洞窟にさらわれてきたのだ。
カメレオン転成士が犯人とは考えづらいが、きっと、その“ゴウクン”の仕業なのだろうか……。
「もしかして、マーチはここの洞窟から出たいのかい?」
「うん。ほんとはゴウクンに会いたいけど、でも、ゴウクンいけない事してる、のオイラ分かってる。“キンキ”は犯しちゃいけないんだ。あれに触れてしまうと、魔力や転成力の代わりに自分の寿命や体力とか、体内の能力が衰えてしまう」
マーチはてくてくと歩き出した。
「だからこっちに来て。お兄さん。この先に、オイラが作った闘技場がある。お兄さんの事はそこで鍛えてあげるね。それでね。一緒にここから抜け出せばいいんだ!それとね。あの水晶のお兄さんも一緒!でも……、あの人は魔術警察だと思う。知ってるよあの人」
マーチは、深く息を吸ってこう言った。
「零転成士なんだ。オイラ予知した」
「零転成士……」
聞いたことがない。恐らくナルコーの先生でもないのだろうし、果たして何者なのだろう?
「――分かった。マーチありがとう。さて、いこうか」
「うん!すっごい楽しみ!」
そして、俺とマーチは魔法陣の上から姿を眩ました。
――
――
――
ざわざわ……。
1-1組。国待清太が配属されている鳴木高校普通科、は朝からどよめいていた。
無理もない。国待清太が失踪したのだから……。
「これは……、不測の事態だ……」
「ええ、今朝喜くん。私の千里眼で探しても清太君の姿は見当たらないわね」
「なあ、天海。これってもしかして……」
「間違いない。カメレオン転成士のオーラがこの教室にも漂っている。剣豪士の第六感ではっきり目視できる」
清太と同じクラスの天海あやめは、剣豪士だ。そして剣豪士には、第六感というものがあり、剣豪士祖先のお告げを聞くことができたり、残留する転写のオーラを強調させたりできる。
「とりあえず、親友のピンチが訪れたんだ。俺は、全校集会が終わったら守衛士出令を自発して、清太を探しに行くぜ」
「本来であれば、我々も向かわなければいけないところだが……、流石に力不足であるな」
「まあ今朝喜、心配すんなって。俺らポーターがこういう時のために今まで訓練してるってもんなんだから」
ガラガラ……。
「まあ、これだけ皆ざわついているのであれば、国待君の事は既にリークしているのであろう」
木崎は教壇に立った。
「もちろん、君らはうずうずもできないだろうし、守衛校生徒である以上彼の捜索に打ち出さねばならない」
木崎は、皆の机の上に一切れの紙切れを出現させた。
「これは染井理事長の伝書だ」
――その紙きれには、こう記されていた。
“守衛校生徒に出陣令を発令する”
「出陣令……。更に、染井理事長からのものとなると、これは絶対命令になるわけですね」
「そうだ、西園寺君。君の風箒は特に今回は役に立たせてもらう事になるだろう」
不意に、教室からナルコーの講堂へとクラスごと瞬間移動をした。
「そして、この度皆と同行をする、魔導師専攻コースの生徒諸君だ」
「うっ……」
一同そう声を上げるのも無理なかった……。
彼らは、グレーのローブに身を纏い、全員顔までフードを被っているのだ。
ただし、彼らはわずか5名しかいない。
「まあ、魔導師らしく冷静な諸君だが上手い事連携して宜しく頼む」
そして、ナルコー七不思議の一つ。全校集会だというのに、ここには1-1の皆、そして魔導師専攻コースの5名合わせて16名しかいないのだ。
「さて、皆さんお揃いですね」
染井理事長が、ポンと壇上に現れた。
「全校的に、不測の事態です。もうお気付きでしょうけど、他のナルコー生は、守衛兵役という守衛校に出される任務へと赴いているため、今回の国待清太生徒に対する捜索令に当たって頂くのは、ここにいる皆さんだけになります」
理事長は、壇上から講堂の皆の前へ“転移”した。
「そういえば、魔導師の中でも魔導師専攻コース担当の呪死先生や私のような魔導師が魔術の発動に詠唱を必要とせず、ほとんど時間をかけずに魔術を発動できる仕組みを知ってますか?」
染井理事長は、手のひらを生徒一同に向けて手の甲を見せるように広げた。
「私は、この魔導具“魔女の爪化粧”をマニキュアのように爪に塗ることにより強大な魔力を得ているのですね」
――そして、染井理事長は手を叩くと、皆の目の前にガリガリの成人女性が現れた。
「この女性は殺人士です。国際指名手配犯で、元々国家転成士“猛毒転成士”としてMPでは数々の功績をあげていました。ですが、残念なことに……、自らの体も脳みそすらも猛毒に犯された。そう、禁忌に手を染めました」
「なあ、恒星~。禁忌に手を染めることは、転成士でもできるのかあ?」
「ああ、そうだ。公真もそういう殺人士にその内出会うことなるさ」
「ええ、そうね。ちなみにこの猛毒転成士は、今私の呪縛魔術によって“見えざるもの”による縛り付けを行っています。だから……」
染井理事長はいきなり手を高く掲げたと思ったら、その頭上に雷雲が生じ、手を思いっきり振りかざすと、イカヅチが彼女の体に打ち付いたのだ。
――それも、何発も……。
「いやぁあああああ!!」
「理事長!!」
1-1一同は、流石に引いた……。染井理事長は、そう、サイコパスな中年女性なのだ。しかし、魔導師専攻コースの生徒は微動だにしない。
「大丈夫です。彼女は体の周りに常に猛毒のバリアを形成しているのが見えるかしら」
確かに、皆が良く見ると彼女の体の周りは薄紫のオーラのようなものに包まれているのだ。
「呪縛魔術で縛り付けているうちにこれを剥がして、そこで、魔力檻に拘束をします」
――パキン!!
「理事長!!今外れたはずです!!」
木崎はそう叫ぶ。
「うふふ……」
1-1の皆の目の前はいきなり毒霧により視界が塞がれた。
「皆……大丈夫であるか?今私が解析を行ったが、これは猛毒の霧で、決して吸い込んではならない……」
「見れば分かるわよ、そんなの。私ね、世界で一番殺人士が嫌いなの」
深海は手を横に薙ぎ払うと、いつも通り水世界が出来上がる。
「これで毒霧の影響は受けない」
しかし、深海が転成した水はみるみるうちに紫に変色していく。
「ちっ」
――バシャ!!
深海は水を解除した。
「皆、あの女を束縛するのに力を貸してくれるかしら」
今度は、猛毒女の付近だけに巨大な水の塊が転成された。
ザブン!!
水の塊の頂点から勢いよく猛毒転成士が飛び出す……!
そして、毒霧と毒による雲が現れ、その中に姿をくらます。
「目障りだ!」
木崎先生は風箒をコピー転成し、全ての霧を薙ぎ払う。
「きゃはは!!」
猛毒転成士は、背中から毒水を噴射した勢いで木崎目掛けて飛んできたのだ。
「ヤメロ」
――カン!!
綺麗な鉄同士かち合う音が鳴り響くと、そこには、魔導師専攻コースの生徒が剣で彼女の攻撃を防いだ。
「気を付けるんだ。彼女の鉈は猛毒が塗られているぞ」
その生徒は剣を薙ぎ払うと、雷が落ちる。
「なるほど、雷の魔術。それをツルギに魔力を宿らせているというのだな」
今朝喜は分析転成をした。
「もう、皆喧嘩が好きなのね。ここには、魔導師最強クラス、そして大魔導師“大女賢者”様がここいるじゃない」
パチパチパチ……。
綺麗な拍手が聞こえた。
「流石、我が生徒ね。まだまだ、学園通りは平和よ」
大女賢者は、指を軽く遊ばせる。
「いやぁあああああ!!」
猛毒転成士はいきなり、何かに縛り付けられたのだ。
「これだけ転成力を消費すれば、十分ね」
大女賢者は、手を掲げると、その手には巨大な杖が出現したのだ。
「あれは……、魔導具“大賢者の杖”!!」
啓二は驚いた。その杖はどす黒く、染井理事長の背丈、図体にとてもよく似合っている。
「魔力檻……、解放!」
大賢者の杖を薙ぎ払った。そうすると、猛毒転成士の足元から物凄い光が放たれ、途端に彼女は魔力檻に拘束されてしまった。
いつの間にか手ぶらに戻っていた“大女賢者”染井理事長は、魔力檻のもとまで歩き拾うと、手でこすりイヤリングにし耳に付けた。
「さて、今日はナルコーは休校となります。そして、皆様にはこの殺人士の拘束にも立ち会ってもらい、実際に拘束の仕方も分かったところで丁度良く実践訓練といきましょうか」
染井理事長は、指パッチンをすると、全員の足元に巨大な転移式魔法陣が出現し全員どこかへと転移をした。
ここから……、国待清太の捜索が始まろうとしている。
六話 完
そろそろ登場人物多くなってきたので、この辺りで整理しようと思います。
※ここに記載予定




