五話 国待清太の行先
この辺りから、一章はガラッと話を動かしていこうと思います!
俺国待清太は、やり切った顔をして放課後の通学路を歩いている。
――いや、やつれたといっても過言ではない。とにかく疲れた……。
なんせ、いきなり殺人士と対面し体内のオーラを持っていかれたかのような感覚に陥るし、とにかく授業が滅茶苦茶だ。
結局今日の授業としては、転成技術基礎と、魔術学の二本立て。
うちの学校は、かなり時間割が変わっていて生徒の熟練度により変動的だ。
それが、一クラスの生徒数が少ない理由の一つでもあるのだろう。
(――そういえば、他のクラスも気になって見ようと思ったけど、どこのクラスも誰もいなかったな……)
それに、俺が見たときはうちのクラスがある階には三つしか教室が無かった。
更に上の階に行こうと階段を上がろうとしたが、なぜか大きな門戸が深く閉ざされていた……。
この学校……、純粋に怖いと思った。
さて、実は今夜からうちのアニキが遠征に出るのだ。そのため、今夜はアニキの高等転成技術によるポートを見送るという一大イベントが待ち受けているのだ。
「ただいまー」
家に帰ると、アニキは身支度をしていた。
スーツケースに荷物をまとめ切ると、軽く撫で、小さな直方体のようなものに変え鞄の中に大事そうにしまったのだ。
「おお。みたか?モンスターボールみたいな事ができるんだ。これはMPから支給された魔具“運搬箱”だ。さぁ……」
アニキは俺の頭をポンと触った。
「――なんだか、胸騒ぎがするんだよなぁ。俺が遠征を命じられたのは、殺人士になったとある黒魔導師の捕獲作戦なんだけど、それ自体は毎回失敗はしないんだ。だけど、お前の身に何かないかと心配でな……」
「大丈夫だって!俺は、学校に行くだけだしさ。それに、学校にはMP所属の先生たちがいるだろ!」
「まぁ。それはそうか」
アニキは、ホッとする。その後、玄関に行き靴を履いた。
「よし、お前も靴を履いてくれ」
俺も玄関に出て靴を履いた。
――そうすると、いきなり景色が変わったのだ。
――シュン!
いつものあの感覚。下の方から混み上げてくる感覚だ。
アニキは俺の体に触れもせずにいとも簡単に俺とアニキの両方をポートさせたのだ。
そういえば、アニキのポートは恒星のそれとは違って、対象に触れずともポートをさせる効果があるらしい。
流石は、最も国家転成士に近いポーターといったところだろう。
「よし。ここだ」
アニキがポートさせたのは、どこかは分からない荒野であった。
そして、俺らの足元には巨大な魔法陣が描かれていた。
「これは効果増幅の魔法陣だ。今から俺は遠くにポートしなきゃならないから、この魔法陣の力を借りて大移動転成を発動させる」
「俺は家にはどうやって帰ればいい?」
「そこに魔法陣があるだろ。それが転移式魔術の魔法陣だから、そいつの力で家まで転移をして欲しい」
アニキはそう言うと、深く息を吸い込んだ。
拳を額に当てて、目をつむった。
すると、魔法陣が神々しく光を放ったのだ。これは、魔法陣から魔力が生じている時に見られる光景だ。
俺は、この後物凄い光景を目の当たりにする。
次の瞬間、魔法陣から大量のポートに関するオーラが周囲に漂いはじめ、アニキの体も光始めた。
「じゃあいってくるわ!しばらく元気でな!」
「おう!気を付けて!」
アニキはそういうと、両手を高く掲げ思いっきり地面に叩きつけた。
――ゴゴゴ……。
凄まじい地響きとともに、魔法陣の上が白く輝き、光が解き放たれたのだ。
――そしてその後、魔法陣は光を失い、アニキも姿をくらました……。
――
――
――
昨日はアニキの大移動転成を目の当たりにし、それと同時にアニキは遠征へ向かっていった。
今日から俺は本格的に一人で、ナルコー生活を過ごしていかなければならない。
家が一人になるから、年頃の男の子からすれば彼女を連れ込めるとか、良いこと尽くしなのかもしれないが、明らかに今のナルコーにそれといった事は期待できやしない……。
(それにしても……。入学式のあれだけの先輩たちは一体どこに行ったんだ?もしかして、アニキと同じように遠征に駆り出されてでもいるのだろうか?)
期待していた高校生活とは裏腹に、縦割りの交流というのは無さそうだし、登校らしい景色も見る機会が無さそうである。
それはそれで、良い学園生活かもしれない。
とりあえず、そんな考え事は一気に不安へと変わるのだった。
校門から足を踏み入れるのだが、明らかに様子がおかしかった……。だが、その雰囲気は確信へと変わる。
――サー……と、白い靄がかかったのだ……。
「おはよぉさん」
――!?
――この感覚……!!
これは、木崎先生の授業で感じたあれだ。あの殺人士のオーラだ……!!
「あ、あなたは……」
俺はがっしりと肩を組まれていた。
――到底逃げられない。
アニキの感じていた嫌な予感というのは、これだったのか……。
「なぁ……。俺が誰だと思う?多分会ってるよな?俺ら。」
――その殺人士は、ゆっくりと俺と一緒に歩き出した。
しかし、なぜ……?この学校には呪死先生の結界が張り巡らされているから、こんな風に殺人士が歩き回るのは不可能なはず……。
そう、呪死先生の監視結界がそうはさせない。
「ここで質問しようかぁ……。俺は誰だと思う?それと、どうして俺がナルコーで自由に動けるのかなぁ?」
俺は、殺されないかと必死になっている……。そして、この質問にも答えないと恐らく俺の命は無いのかも。
「恐らくあなたは、カメレオン転成士?」
「お~。正解。俺も有名になってきたもんだぁ」
エッジの聞いた声でその男は嬉しそうにそう語る。
「ちなみに、今からお前さんはこの俺と俺が自由に動き回れる原因によって、ある場所へ向かってもらう。俺もそんな乗り気じゃねえんだけどなぁ。そもそも呪死の野郎に見つかったら生きちゃ帰れねぇんだ」
男は何歩か歩いたのち、地面に対して手振りをする。
「転移式魔法陣ですか……」
「そうなんだよぉ。いやぁ、これでわかっちまったなぁ。ナルコーの子らが恐ろしく強い理由」
カメレオン転成士は、その魔法陣に俺と一緒に乗った。
すると、いつものアニキにポートされる時と同じ感覚が生じた。
でも、いつもと違い景色が移動している空間にいたのだ。
「ちょっと待ってくれな。呪死の結界が面倒でなぁ。その結界の狭間を縫って転移していかなきゃなんねぇ。あの極悪魔導師の言う通りに、魔法陣と結界の両方を張ってみたが、本当に魔術ってのは偉く時間がかかりやがるぜ」
その男は、とても多弁だ。むしろそこまで手の内を晒してくれるとは、何かヒントが隠されているのだろうか……。
「要するによぉ。あいつの結界には狭間が存在するのさ。そう、流石にこのバカでかい学校を守り切るにはちと、役不足なこったぁ」
そういうことなのだろう。その狭間を見つけ、転移式の簡易的な結界と魔法陣を張っておいたに違いない。
「おっ、そろそろ着くぜぇ」
景色がいつの間にか薄暗い空間へと変わっていた。だが、恐らく移動をし続けているらしい。
「まあ、察したと思うがお前さんを拉致するのが目的だ。まぁ、MPの野郎どもが憤慨して行先を突き止めてくるだろうなぁ……。事が収まるまで俺は姿を消させてもらうわ」
――拉致、か。
その先で俺はどういう目にあうのだろうか……。
アニキの顔を思い浮かべ、俺は祈りを込めた。




