ブルーの名称1-4
海岸沿いの道道に、次々と捜査車両が到着した。
「いよいよ、到着だね。どうやったら検視ができるかな」
「まずは、流氷の下からホトケさんを救出しなくちゃですね。ダイバーが必要だわ。手伝っていただく必要があるかも知れませんよ」
顔を上げて北越の顔を見ながら話した。見下ろした格好で、北越が口元だけで笑う。
「しかし、大変だな。なにしろホトケさんが分厚い氷に閉じ込められているんだからな」
「流氷に穴を空けて、氷柱ごとクレーンで引き揚げる必要がありますね。遺体を損傷しては、満足な検視ができませんから」
大空は真剣に答えた。
肩を竦めて、北越が苦笑した。
「夜まで掛かるかも知れないな。先延ばしはできないからな」
「風向き次第では、流氷が沖に流されますものね」
大空は顔を顰めて見せた。
停まった警察車両から、鑑識と刑事が海岸に降りてきた。
先頭を切って歩いてきた主任警部補の牛岡権太が、容赦なく大空の背中を叩く。
「またソラマメかぁ、面倒な話ばかり持ち込むんじゃねえよ。まったく」
「私が持ち込むんじゃなくって、たまたま出会っちゃうんですぅ」
大空は口を尖らせた。
牛岡が怒るほどではないが、非番の日に限って大空は事件に巻き込まれる。
「大した事件じゃあねえんだけどな。重要度が低いくせに、やたらと謎ばっかり多すぎる」
「でも、今回は死体ですよ」
言い訳した大空を無視して、牛岡が北越に向き合った。
「なんで、ここにいるの、あんたぁ? 関係者はプレハブの中に待機して」
不機嫌な声を出す牛岡に頭を下げ、北越が警察手帳を翳して身分を告げた。
「方面本部の部長刑事さんが、どうしてここに?」
一瞬だけ声を詰まらせてから、牛岡が身分を名乗る。
中標津警察署刑事課、主任。
階級は北越より高い警部補だが、所轄の負目からか、牛岡が追従笑いをした。
苦々しい表情が、あからさまに見えていた。
「すみませんね。たまたま、出会っちゃいました」
北越が揶揄うと、牛岡が大空の背中を拳で突いた。
明らかに飛ばっちりだ。