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氷塊のクレイオ  作者: 柴門秀文
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ブルーの名称1-3

 スタッフの顔ぶれを、大空は見回した。

 ツアーを主催する流氷カフェは、大空の両親が経営しているダイバー向けのショップだ。

 父親の高志(たかし)は、母親の登美子(とみこ)とともに札幌で知人の結婚式があって不在だった。

 今回のインストラクターは、両親に気を遣って大空が進んで引き受けた。

〈文句は言えないが、せめて父さんがいてくれたら〉と、泣き言が頭に浮かぶ。

 3年前に警察を退官した高志がいれば、もっと適切な方向に導いてくれたはずだった。

 定年まで、5年を残していた。

 現役時代は北海道警察本部で捜査一課長を拝命し、後に紋別警察署長を経て退官した。

 退官の理由は明かさなかったが、特別な事件で精神的なダメージを受けた、と噂では聞いている。

〈いけない。他力本願ではなく、自分で何とか対処しなければ〉

 ショップとカフェを経営する登美子を手伝うようになって、高志がずいぶんと落ち着いた。

 大空が巻き込まれた面倒の中に、再び高志を引き摺り込むわけにはいかなかった。

「カリカリしても、何も進展しませんよ。お汁粉が用意されています。身体を温めて待ちましょうか」

 不満を呟き合っているツアー客の後から、北越の快活な声が響いた。

 ベース・キャンプのスタッフが、手際よく甘い湯気を立てた汁粉を配る。もともと冷え切った身体を温めるために、ダイビング後に食べてもらう手筈になっていた。

 機転を利かせた北越が、先回りしてスタッフに手配した。

〈良かった。だいぶ落ち着いたようね〉

 大空が気を回せばいいだけの話だった。足止めと事情聴取の依頼に手一杯で、考えが及ばなかった。

 心強い協力者に、大空は安堵の息を吐いた。

 身体が温まり幾分かでも腹が朽ちると、雰囲気は目に見えて穏やかになった。

 談笑を始めたツアー客を  監視しながら、大空は窓の外を確認した。

 派出所の巡査が積雪に難儀しながら自転車で現着した。

 現場保持を巡査に引き継ぐと、大空は窓越しに海岸近くまで迫った知床半島の白い山並を見回した。

 海岸線に沿った国道の遠方から、パトカーのサイレンが聞こえてきた。

 顔を近づけて、北越が大空に囁く。

「どう思う? 殺人(ころし)だろうか。状況は派手だけど、目立つ傷などはあったかな?」

「とても綺麗なドレスを着ていました。氷に閉じ込められていたから、よく見えなかったですが、苦しんでいる様子や、血痕なんかは確認できませんでした」

 大空の答を聞いて、北越が残念そうに唇を曲げた。殺人事件でなければ、捜査一課の出る幕はない。

 殺人ではないように、と願うが、複雑な気持ちだ。

「どうして、流氷の下に閉じ込める必要があったと思う?」

(わか)りません。理由を調べるのが私たちの仕事ですよね」

 海中で見た青い女神の姿を、思い起こしてみる。

 特異な状況だったが、残忍さは感じられなかった。

 だが、死体を氷漬けにして、流氷の下に遺棄(いき)する行為自体が正常ではない。

 すべての理由が知りたい。大空の中で浮かび上がった思いが強くなった。


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