8.ギルドカード
しばらくして要も気が付き、三人ともがゆっくりと椅子に座り紅茶を啜っている頃。
「お邪魔しまーす」
ガチャリと扉が開いた。
先程の電話と同じ声だ。
鬼火はティーカップを傾けながら、さっき師匠が言っていた来客とはこの人かと納得する。
要の知り合いでもあるらしく、彼は一瞬怪訝そうに眉を顰めた後、納得した顔をしていた。
声の主はすたすたと入って来て、カウンターの傍にいた鬼火に向けてカードを差し出した。
「私はギルド受付のリリアナです。遅れてしまい申し訳ございません。こちらが鬼火さんのギルドカードになります。念の為、間違いが無いかご確認下さい」
鬼火の目が点になった。決して「定番のギルドカードを忘れていたとは」と衝撃を受けている訳では無い。
「浮かんでいる画面は、持ち主以外が見ることは出来ません。また紛失した場合、発行代金が掛かりますので失くさないようにしてください」
カードについての説明が続いているが、聞いているのかどうか。鬼火はきらきらとした目でカードを眺めている。
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【鬼火】 冒険者ランク:F
性別:女
職業:メイン 星詠見習
サブ 水晶細工師見習
スキル:無し
称号:神々の気紛れ キャスト
フレンド:無し
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「間違いは無いようだ。質問なんだが、この冒険者ランクというのは全部で何段階ある?」
「現在ですと、七段階あります。下からF、E、D、C、B、A、S、ですね。ただここ数年でランクの種類が増えてきているので、これから増える可能性はあります」
「成程、ありがとう」
「細かい説明はカードの端から開けるメニューで確認出来ますから、何かあれば覗いてみて下さいね。私はこれで失礼します」
実はこのギルドカード、カードとは名ばかりで、プレイヤーの視界の隅に映るメニューと同じ事が出来るのである。連絡機能がメインでは無いスマートフォンと言えばいいだろうか。メールやチャットはあるが電話は無い。
基本的に文字は、名前とランクが刻まれたカードの上に浮び上がる画面に表示される。かつ仕舞おうとすればふわっと消えて、出そうとすれば手の中にぱっと現れる不思議仕様である。カードのみ、画面なしの状態を保つ事も出来るようだ。
リリアナはまたガチャリと扉を開いて、ギルドの受付に戻っていった。
鬼火は視線をカウンターに戻した。
要がお茶請けのクッキーを食べ尽くしていたのを見て衝撃を受ける鬼火。
それを気にせず要は、フレンド申請をした。
しれっとトヨも便乗している。
フレンド一人目と二人目だな、とわくわくしながら鬼火はフレンド申請を承認した。
「そうだ。水晶細工師見習ならあれがいるじゃないか。取ってこよう」
ふと思い出したように唐突に呟いたトヨは、何かを取りにカウンターの奥にある扉をくぐって店の奥に入っていった。
唐突すぎて鬼火は反応出来ていない。
その直ぐ後、ピロンッ!という音と共に、要のカードにメールが届いた。