7.謎の店 続
鬼火も要も固まったままだ。座っている人物はそれをのんびりと眺めて、気が付くのを待っていた。
さて、いつ気が付くのか。偶然にもそこにあった砂時計をひっくり返した。
Chiriririn!...Chiriri......Gririn!!!
砂が幾らかも落ち切らぬ前に、カウンターの上で雑多な物に埋もれていた電話機がベルを鳴らした。
最初は軽やかな音だったのが、直ぐに急かすように音色が変化する。
座っている人物はその変化を聞いてから、のんびりと受話器に手を伸ばす。
変わる前に受話器を取れと周りから言われているにも関わらずお構い無し、その所為でこの電話機の軽やかな音の継続時間は、他の物よりかなり短くなっているのは余談である。
「はいはい、雑貨屋だよ。何か用かね」
『用が無かったら電話しないと思うんですがってそんな事はいいんですよそこに巌城さんいます?そのお連れさんのギルドカード受け取らずにどっか行っちゃったんですけど』
捲し立てるような返答と問いかけは、女の声だった。漏れ聞こえる声を聞く分には、先程鬼火達二人組のせいで顔を引き攣らせる事になった受付嬢のものとは違うようだ。
「ああ、いるよ。今は固まってるから、移動する心配も無さそうだねぇ」
のんびりとした回答に、電話口の向こうはしばらく無言だったが。
『……何があったのかは聞きませんので、その状況をキープしていて下さい。その間にギルドカードを持って伺いますから、お願いしますよ!』
女がそう言い終わった後、座っている人物はカチャンと受話器を下ろした。
しばしの沈黙。まだ二人は動かない。
座っている人物が、今度はお茶の用意を始めた。カップは四つある。
何処からか取り出したガラスのティーポットで紅茶を淹れる。
くるくると茶葉が踊り、ふわりと、いい匂いが辺りに漂う。
その匂いに鼻をひくつかせて、意識を現実に戻したのは鬼火である。どうやら鬼火は、中々に食い意地が張っているらしい。
鬼火はちょっと首を傾げて要の顔を見た後、まだ戻ってきそうにないと判断したのか、自力で要の腕から降りてカウンターの上に顔を覗かせた。
「いい匂いがする。紅茶か?」
「そうだよ。そろそろまた来客がありそうだからねぇ」
どうぞ、と差し出されたティーカップをありがとうと受け取った鬼火は、首を傾げて問うた。
「要は放置か?」
「まぁ、放置だねぇ。直ぐに気付くだろう」
要に対して辛辣な、座っている人物である。
「あぁそうだ。まだわたしの自己紹介をしていなかったねぇ」
「確かにそうだ」
座っている人物も鬼火も、世紀の大発見をしたかの様な顔をしているが、そんな訳は無い。
「そうさな。名はトヨ。職詠みのお婆と呼ばれる事もあるが、おまいさんは師匠と読んでくれると嬉しいねぇ。ほら、職業の系統が近いものだから」
あまり仲間が居なくてねぇ、という台詞に、素直に頷く鬼火。
「分かった、師匠」
要には速く正気を取り戻して貰いたい所である。