6.謎の店
書類の登録が済んだ後には、ギルドの隣に建つ店に向かう。
古びた看板のこぢんまりとした店に入れば、壁沿いに隙間なくある棚が目に入る。
干からびた動物とも草ともつかない何か、磨かれて燐光を放つ石、華奢な鳥籠に閉じ込められたふわふわと飛ぶ何か、石の中を泳ぐ影、ボロボロで手に取る事すら出来そうに無い本。
そんなものたちが、正方形の中にごちゃごちゃと押し込められている。
慣れた足取りですたすたと奥に入っていく要に、一見さんお断りな雰囲気がすると思いつつ鬼火がついて行く。
実際には一見さんお断りなんて事は無いのだが、その見た目のせいで知る人ぞ知る店になってしまっているのは、今の鬼火は知らない事だ。
長方形の間取りの突き当たりには、カウンターがあった。入口から見た左側は壁に引っ付き、右側の天板が途切れている所からカウンターの内側や、その奥の扉に移動するようだった。
その上には、レジスターや細々としたものが壁際に寄せられていて、真ん中から右側には天鵞絨のクッションの上に真円の水晶球が置かれ、それを覗き込むように人が一人、座っている。
「おまいさんが来るとは珍しいね」
二人がカウンターの前に立った時、唐突に喋りだした。嗄れた声でしかもローブを着て顔が見えないため、男なのか女なのかは分からない。
「ああ、確かあんたは神々の気紛れの職業を変えてやる事が出来ただろう。それを頼もうと思ってな」
普通なら何処に行くのか分からなかった、と答えを返しつつカウンターとほぼ同じ高さの鬼火を抱え上げる。
「ああ、『転職』の事かい、本当なら神殿に行くんだがね。で、おまいさん、名は」
前半は要へ、後半は鬼火へ向けた台詞だが、明らかに対応が違う。
要へはおざなりに言ったが、鬼火へは頭を撫でて飴を一つ渡すサービス付きである。
「私は鬼火だ。それと、特に就きたい職業は無いな」
「そうかい、そうかい。なら、この水晶に触りな。どの職業に向いているかがある程度分かるよ」
鬼火は分かったと返事を返して、要に抱えられたままペたりと水晶に触れた。
その一瞬後。水晶球の真ん中から、ふわりと浮かび上がってきた。何が、と言えば、薄っすらと光る文字がである。
この世界の文字の幾つかの単語。その意味は。
「おや、『星』と『水晶』とは、珍しいね。なら、職業は『星詠見習』に、サブ職業は『水晶細工師見習』にしてあげようねぇ」
ぱっと、鬼火の目の前に、ステータス画面の職業欄が現れた。それまでは空白だった筈のそこには、言われた通りの職業名が書かれていた。
それを首を傾げて?を浮かべながら眺める鬼火と、座っている人物へうわぁ、という顔を向ける要。
「それ、初級じゃなくて中級か上級に入る職じゃないのか?」
「いいや、見習だけれども特級職だね」
「「えっ」」
鬼火と要の声が重なった。
座っている人物の顔は見えないが、げんなりとした声で続ける。
「しょうがないじゃないか。うちで転職出来る選択肢は特級職しかないんだよ。寧ろまだこの世界に来たばかりだってのに二つも適性がある事の方が驚きだろうに」
大抵は初級、中級、上級と転職してくる頃には特級の適性が一つあるかどうかなんだがね、と続けた。
そこまで言われてしまえば、職について疎い鬼火にも、どれだけこの状況がおかしいのかが分かるものである。
鬼火を抱え上げたままの要については言うまでもなかった。
……容疑者は
「主人公にチートっぽい設定を付けたかった」
と自供しており……