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13.隣人のプレイヤー


 私の店では何を売ろうか。単純に考えるなら、細工師として作った作品とイベントアイテムを売る事になるだろうか。何を作る事が出来るのか確認しないといけない。水晶製のフィギュアなんて面白そうだ。が、そもそも売れるレベルになるのか?何にせよ、食品系以外にしておくか。この通りには食べ物屋が多い。店の場所代ぐらいは発生しているだろうし一応はキャストの店なのだから、売れなくて潰れたなど目も当てられない。


 鬼火がつらつらと考えている内に店に着いた。裏通り側の鬼火の店である。しかし鬼火の持ち物欄にはクッキーひと袋。消えた二袋の代わりに、持ち物欄ではなくフレンド欄に表示されるフレンドカードが増えている。


 自動的にNPCへの挨拶は終了したらしい。何故そこを自動にしたのか、解せない。


 ちょっと眉を顰めながら、鬼火はまた表通りに向かう。プレイヤーにどんな風に声をかけるかを両隣に行っている間に考えようという、計画未満な鬼火の企みは潰えてしまった。


 まあ終わってしまったものはしょうがないと頭を切り替えて、店のドアを開けた。からんころんと柔らかく音が響いた。音を立てたのは綺麗な装飾が彫られた木製のドアベルで、鬼火は少しわくわくした。そこで水晶をはめ込めたらもっと好みなのに、と思う辺りに何故水晶細工師になれたのかが伺える。


 外観よりも中はすっきりと広く、高い天井近くまで棚が伸びている。分かり易く商品と商品説明が置かれ、非売品の置物もあってオシャレな店内である。店主の背は高いのだろうなと、棚の一番上にある硝子(ガラス)細工が何故下側にないのかと見ながら鬼火は思った。


 雑貨屋の様だが、主に売られているのは店主が作ったものらしい。雑貨に料理、服飾品に家具にと種類は様々だが、どれを見ても製作者が同じなのだ。


 眺めるのが楽しくなって、店内を軽く見てからカウンターに向かった。今いるのは店主(プレイヤー)だろうか、それとも店番(NPC)だろうか。


 カウンターには店主がいた。やはり彼の背は高かったので、鬼火は首を精一杯上に向けて店主の顔を見て告げる。


「この店の裏手で店をする事になったキャストの鬼火だ。引越しそばとして菓子を持ってきた。良ければどうぞ」


 ずいっと差し出された袋入りクッキーを店主が受け取ったのを見て満足気に鬼火は頷く。


「丁寧にどうも。俺はプレイヤーのシャケだ。クッキーはありがたく頂くよ。キャストのお客さんとは珍しいけど、大丈夫なのかい?その、ファンだとか」


「近場で買った物だが、口にあうといいな。私は芸能人ではないから大丈夫だ。それに、イベント時にいる芸能人キャストが目立っているが、そうでないキャストの方が案外多いぞ?」


 芸能人のキャストはずっと此方(こちら)にいられ無いからな、大人の事情という奴だ、と続けた鬼火は、ドアベルが鳴ったのをきっかけに暇を告げる事にした。


 つまりは、クッキー(雑談付き)を押し付けてからの逃亡である。このまま雑談を続けていれば営業妨害になってしまうと気付いたとも言う。


「来客の様だから私は失礼する。勝手に押し掛けて済まなかった。顔見知りの隣人程度に覚えておいてくれると嬉しい」


 そう言い置いて、鬼火は出入り口へと向かう。付き合いの長くなりそうなプレイヤーに会えて少し浮かれているので、彼女は店主の返答を聞いていなかった。


「……彼女なのか、彼なのか。いまいちよく分からない子だなー。それに、金色の瞳孔は何の種族だったかな?」


 とは言え、彼の返答はさして意味のあるものでも無かったのだが。


 ドアの前に立った時、丁度鬼火の目の高さに輝いていない魔法陣が浮かび上がった。円の中に何かの星座が点と線のみで描かれているシンプルな物だ。


 引き寄せられるように鬼火が魔法陣に触れた途端に輝き始め、星座の絵が付け加えられた。


 これが何なのか不思議に思いはしたが、そういうものなのだろうと特に気にする事無く鬼火は店を出た。


*#*#*#


 そこは、おおよそ人の足では辿り着ける筈も無い世界の果て。

 巨大な何か達が、音無き声でのんびりと駄弁っていた。


『おや、おや。何時の間にやら、私の愛し子がいる様だね。しかも渡り人にだ』


 それは水晶の様な鱗を持っていた。身動ぎする度にどんな楽器の音色にも似ず、なんとも言えない綺麗な音が辺りに控え目に響く。


『またか晶の。否、渡り人には珍しいが』


 それはの火の様に煌々とした鱗を持っていた。硬く透明な表面に反して、内側では灯りがトロトロと揺れる。


『そう自慢した所で、晶の。どうせ妾達には見せなんだろう?』


 それは清水の様な鱗を持っていた。それを覆うように常に水が滴り落ちている。その水はそれの頭から長い胴体を滑り落ち、尾先に辿り着く頃には何処かへと消えていく。


『そうしたかった、のだけれど。どうも、ほら、ヒトのいう詠者えいじゃでもある様でね』


『ふむ、なれば我ら皆で愛でても良いという神の思し召しか』


 それは地を荒々しく削り取った様な鱗を持っていた。しかし、鱗は苔むして木々さえ生えその表面はちらとも見えない。


『地の。そう急くな。そも晶のが上手く出逢えるかすら分からぬ故にな。己らが愛でる事が出来るのはそれからよ』


 それは風を象った様な鱗を持っていた。その鬣は風が吹かないここで、風が吹いているかのようにたなびいている。


『そうじゃな、風の。だからこそ晶のを急かすべきと妾は思うぞ』


『お前ら、そうやって何度か失敗したのを覚えてねえのかよ』


『火のの、言う通りだよ。皆して私を急かすのは、辞めておくれよ』


 またゆるゆると会話は続く。

 「巨大な何か達」は、この世界の竜達である。この時、まだ誰も接触した事の無かった彼らとプレイヤーが出会うきっかけが出来た。






ピコンッ!

《新しいお知らせ:イベントクエストの開始条件が揃いました》


《クエスト名:或ル島ヘノ誘ヒ》



開始条件

・果ての諸島[競技場・カジノエリア]が解放されている事

・プレイヤーあるいはキャストに水晶細工師がいる事


概要等

・イベント期間中、竜(人型)が新しく解放される果ての諸島[城砦・城下町エリア]にランダムに現れます。

・イベント期間中の城下町では祭りが行われており、期間限定アイテム・装備などを入手する事が出来ます。

・時間経過によりイベントストーリーが進みます。

・イベントキャストがいます。

・イベント終了後も[城砦・城下町エリア]は解放されますが、期間限定アイテム・装備などは入手出来なくなります。

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