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11.鬼火の店『夢のあしあと』


 店ばかりが軒を連ねる表通りを中程まで進み、裏通りに繋がる細道を抜けた左手に、その空き家はある。


 ここ一帯は表通り側が全てプレイヤーの店である代わりに、裏通り側はほとんどが蔵かNPCの店である。商店街のようなアーケードはないが同じようなものだ。

 その為に、空き家の右隣は道を挟んでNPCが営む店。左隣もNPCが営む店で、空き家と背中合わせにはプレイヤーが営む店がある。


 空き家と言っても、今直ぐにでも店を始められるくらいには整っている。


 蔦の絡まる赤煉瓦の壁。その真ん中にある飴色のドアを開いて二人は店内に入る。横の長さに比べて奥行きと高さが大きく感じる。

 室内には、出入口の横と吹き抜けの壁と天井に窓があり明るい。両サイドの壁際に備え付けられがらんとした木目調の商品棚の前を通り過ぎ、右奥にあるカウンターの裏側に回り込み、その横にあるドアをまたくぐった。


 ドアの向こうには螺旋階段と少しのスペースがあった。階段を登った2階は商品等を置くための部屋のようだ。縦長な長方形を四つに区切った左上に螺旋階段、真ん中の縦線の部分には廊下があり、後の三つには何もない部屋がある。長方形の下側に吹き抜けがあり、そこにも短い廊下があった。


 また登った三階が最上階である。二階と吹き抜けや廊下の位置は変わらないが少し部屋数が増えており、生活に必要な台所や風呂場、寝室などが全て三階にまとまっていた。この階にのみ備え付け以外の家具が揃っていた。


 この店に足りないのは肝心要の商品と店主のみである。


 翡翠は寝室まで案内し、鬼火をベッドに座らせた後、自分は椅子に座った。


「さて、貴女にはこの店を経営してもらうわよ。基本的には貴女の好きなように物を売っている店だけど、イベントの時期では公式アイテムも売ってる隠しスポットな感じね」


 何か質問は? という翡翠の問いに鬼火は首を横に振る。


「プレイヤーなら必要な名義とかは全部運営になってるから特に書類とかは気にしなくていいわ。店名はメニューから変更出来るから鬼火が決めておいて。ランダムが条件の店っていう立ち位置にしたいから開店時間も閉店時間も自由よ。細かい疑問があればまた後で。忘れ物を取ってくるからのんびりしてて」


「分かった」


 ひらひらと手を振る鬼火に手を振り返し、翡翠は一旦ログアウトした。ホームを決めていないプレイヤーと同じ、さらさらと崩れて消えていくエフェクトだった。


*#*#*#


 メニューから開いた店舗の設定画面に、鬼火が無いネーミングセンスを捻り出しさんざん考えこんで思い付いた店名が書き加えられた頃。

 翡翠が手に荷物を持った状態で現れた。ちなみに、現れた時のエフェクトはログアウトする時の逆再生である。その荷物を鬼火に差し出して言う。


「とりあえずこれ着て」


 現実(リアル)でも偶にみる光景だなと思いながら鬼火は荷物──恐らくは服などの装備品なのだろう──を受け取り、新しく現れた『装備しますか』の選択ウィンドウからYESを選択した。


 黒い布に何の変哲も無さそうな石ころをつけたチョーカーとブーツはそのまま。シンプルなスカートとシャツは、子供用のスラックスとワイシャツ、ベストに変わり、ケープも身に付けていた。どれも夜の星空を思わせるような、細かで輝き過ぎないラメの入った深い蒼色をしている。


 今度はピロリンと音がした。通知の音は内容によって違いがある。予想外のタイミングで来たステータス向上の通知に、単純に音に驚いた鬼火よりも、特に何もしてないのになんでレベルが上がるんだという思いの翡翠の顔の方が、どんな風にとは言わないが酷かった。


「翡翠、よかったな。早速私の職の『見習』が両方ともとれるみたいだぞ。条件には『他人から貰ったプレイヤーのレベルより高いレベルの装備品を身に付ける』とあるが、どれの事なんだ?」


 それを聞いてなんとなく原因を把握した翡翠である。


「あー成程。多分師匠から弟子に一人前になったぞって感じで装備渡す前提の設定だねそれ。そして恐らく今回引っかかったのは渡した装備全部かな」


 要するにチョーカーとブーツ以外全部と言う翡翠に、へぇーと呑気な答えを返しながら鬼火は物珍しげにケープの裾をめくってみたりスラックスを撫でてみたりする。


 そんなマイペースな鬼火はそういえばと口を開く。


「店の名前は『夢のあしあと』でもいいか?まだ何を売るかはっきりと決まっていないし、運営側の店だからゲームの名前にすこし関連していてもいいんじゃないかと思ってな」


「いいと思うわよ。メニューで店名を登録したら自動的に看板に文字が入るわ。看板のレイアウトもメニューから変更出来るから、今のデザインが気になるならいじってみて」


 じゃあある程度の説明は終わったから私は戻るわ。のんびりでいいから店を開いたら連絡してね、と言って翡翠はまたログアウトした。


 引き攣った翡翠の表情を思い出して時差付きで、もしかしてやばい事だったか、と顔が引き攣った鬼火はベッドに座っている。

鬼火の装備のくだりは、半分存在を忘れかけていたので流れがちょっとおかしい事になっているかもしれません……

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