10.「あいつ」との合流
この、ゲーム風に言うならば「始まりの街」がある国には、騎士団と国軍の両方が組織としてある。
騎士団の役割は、街中の警らや王族貴族の護衛などで、イメージは警察に似たものだ。
国軍の役割は、国境沿いの警備や国と国を移動する際の要人の護衛で、イメージは自衛隊や海上保安庁などに似たものである。
その中でも陸海空に分かれているのだが、よく騎士対軍人ではなく、海担当対陸担当で喧嘩が起きているのは中々面白いものである。ちなみに仲裁をするのは空担当だ。
閑話休題。
何故この話になったかと言うと、要の仕事と要の報告の後に向かった場所に関係してくる。
単刀直入に言うと、要は軍人なので報告に行くのは、軍人や騎士、果ては使用人の寮まであり小さな町程もある広さで有名な王城にいる上司のもとだし。彼の言う食堂ももちろん騎士や軍人達が使う城内の食堂の事なのである。
鬼火猫はクッキーの入った袋につられて、行ったり来たりしている。
バターの香りがするプレーンクッキー、胡桃やドライフルーツ入りのクッキーなど、幾つかの種類が入っていて焼き立てなのかいい匂いがしている。
場所は食堂のテーブルの上だ。丁度混み合う時間ではないのか、広い食堂にはまばらにしか人がいない。
袋を動かしている手の持ち主は言わずもがな、要である。
目をキラキラとさせて涎が垂れはじめている鬼火猫と、それに笑いを堪えきれずに変な顔になっている要だ。
ひとしきり鬼火猫が遊ばれた後。要は鬼火猫を連れて王城を出た。城下町の広場まで来ると鬼火猫を鬼火に戻し、名残惜しげに二人は解散する事になった。
「俺のおすすめはプレーンクッキーだ。なんかあったらメールでもして呼べよ?」
要は持ったままだったクッキーの袋を渡しながら言うと、鬼火の頭を撫でた。
「分かった、ありがとう。もしもの時は頼む」
これで鬼火の少し長いツッコミ所のあるチュートリアルは終了した。
要の背中を見送った鬼火は、何かしなければならない事があった気がするんだが思い出せない、と眉をひそめ首を傾げる。
コツコツコツ(石畳をブーツが踏む音)
ガシッ(鬼火の頭がブーツの持ち主に掴まれた音)
「さぁ〜て鬼火ちゃ〜ん。なんでNPCとちょっと雑談しつつギルドで登録するだけのチュートリアルがこぉんなに長かったのか私に教えてくれないかしら?」
後私と合流する約束忘れてたでしょ、と告げたのは凛々しい目付きで黒髪をきっちりと結い上げた女だ。鬼火の友人兼上司の翡翠である。
彼女は鬼火の仕事についての連絡と、様子の確認をしに来ていた。
「げ、翡翠。あ、いや、すまん。すっかり約束を忘れていた。長くなったのはあれだ、出会ったNPCが色々と案内してくれたんだ、うむ」
流石に王城の中にまで入った事や職の事を告げてしまうと話が長引く事は簡単に予測出来たので、鬼火は少しぼかして伝えた。しどろもどろになったが、特に怪しまれる事はなかった。
嘘は言っていない、詳しく説明していないだけで。
「そうなの。まあそれはいいとして、まず本題に入る前に移動しましょうか」
鬼火は翡翠の案内で歩いて移動する。向かう先は表通りから少し逸れた裏道にある空き家だ。
「そういえば、鬼火。結果なんの職になったの?比較的レアな職だったらキャストとしてのキャラが立ってありがたいんだけど」
運営としてわざわざいじるのは面倒だしねと冗談まじりに翡翠は問いかけた。
「……特級はレアに入るか?」
鬼火は少し考えた後、そういえば師匠が特級だと言っていたなと思い出す。
「レア中のレアね。因みに職名は?」
「星詠見習と水晶細工師見習だ」
「よくやった鬼火。前々から変な所で運が良いと思ってたけどピンポイントにキャストで欲しいけど確率高すぎて諦めてた職を二つも当てたねほんとによくやった。そしてごめんね。鬼火の一人二役が決まったよ。大丈夫、その時は職のメインとサブを入れ替えて見た目も変えられる様にしておくから」
鬼火は後に、翡翠の真顔で声がルンルンというギャップが怖かったと語った。
そんな鬼火に対する翡翠の弁明は、ごめんこれでやっと出来なかったイベントが出来ると思ったら興奮しちゃって、とのことだった。




