第六話 愛名高校 一年三組
愛名高校 一年三組
目覚まし時計のアラーム音で、ぼんやりと目を覚ます。
時刻は午前六時半だ。
一階のリビングでは、父親が、ナイトウェア姿のまま、朝のニュースを眺めていた。
「父さん、おはよう」
「おはよう。和馬」
テレビでは、トラックにはねられて死亡した三十代の男性の話をしていた。
どうやら、歩道に突っ込んできたトラックに、子供がはねられそうになるのを、間一髪で助け、自らは、トラックにはねられて死亡してしまったそうだ。
トラックの運転手は、脳卒中で、意識がほぼなかったらしい。
被害者、加害者双方にとって、痛ましい事故だな……。
幸いなのは、三十代の男性が助けた子供が無傷だったことだが、この経験が何かの形でトラウマになってしまわないことを願うばかりだ。
父さんが小説を登校している素人小説サイトで、トラックにはねられると、異世界へ転生できるという物語が、幾つもあったのを思い出す。
この死亡した、三十代の男性も、異世界へ転生しているのかもしれないな。
まかり間違っても、俺のように、無理を続けて、地球に帰ろうなんて思わないことを願う……。
あんな辛い生活は、もう二度としたくはない!
あちらの世界にだって、それなりの幸せは、しっかりあった。
そういう生活を堪能してほしいところだ。
もう二度と、戻りたくはない異世界を思っているのも、辛くなるだけなので、気分を変えるため、キッチンダイニングへ行くと、母親が、朝食の準備をしていてくれた。
「母さん、おはよう」
「和馬、おはよう。トーストは、一枚?」
「二枚でお願い」
それから、すぐに用意をしてくれて、早速、朝食を頂いた。
カップスープにゆで卵のサラダ、トースト二枚が今朝の朝食だ。
我が家は、朝に卵料理が載ったサラダがでるのが、定番になっていたな。
朝食を終え、朝のニュース番組の中でやっている星座占いを見ると、六月生まれで双子座の俺の今日の運勢は、真ん中くらいのようだ。
ちなみに、ラッキーアイテムは、恐竜の化石らしい。
ストレージペンダントの中には、恐竜の化石ではないが、竜の骨なら、あるぞ!
いつの間にか、完全装備となっていた父親の出勤時間が来たようだ。
「それじゃあ、いってきます」
父のその声に答てから、俺も準備を始める。
まだ寝ぼけている顔を洗い、寝ぐせを直す。
髪を、切った方が良いな。
それから、歯磨きやらを済まし、制服に着替え終わったころには、午前八時前となった。
自転車通学に合わせて購入したザックに、高校指定バッグと母親から受け取った弁当を入れ、しっかりと背負い、スポーツサイクル用のヘルメットとゴーグルを掛けて、準備は完了だ。
俺の通う愛名高校は、私立大学の付属高校で、付属中学もある。
大学への進学率も高く、自転車で通える範囲にあったので、選んだのだが、いくつか生徒に無駄な足かせを付けるような校則がある。
それの代表格が、高校指定バッグだ。
昔ながらの学生カバンなら、機能性も良いらしいので、まだわかるのだが、我が校の指定バッグは、教科書とノートだけで、他が入らなくなってしまう。
サブバッグを持ってきてよいことにはなっているが、むしろ、サブバッグがメインバッグとなってしまっている。
運動着やらは、サブバッグに入れるべきだと思うが、補助教材や弁当は、どうしたら良いと考えているのだろうか。
俺の場合は、高校指定バッグをいれてもまだまだ余裕のあるザックをサブバッグというメインバッグにしている。
そんなおかしな校則もあるが、これでも数年前と比べるとかなりましになっているそうだ。
俺が入学する数年前に、大幅な校則変更と削除がされたそうで、その時の生徒会役員には、心から感謝をしたい。
「それじゃ、母さん、行ってきます!」
「いってらっしゃい」
駐車場にある愛用のクロスバイクにまたがり、出発する。
以前なら、約三十分の道のりだったが、目標は、二十分で到着することにした。
当然、以前の身体能力とは、比べ物にならないほどの身体能力を獲得しているので、遅めの自動車程度の速さで、走り続けた。
高校の最寄り駅である地下鉄自由が丘駅周辺は、混んでしまうので、昨日の夜に頭の中に入れた周辺地図を参照し、比較的安全な、最短ルートで、高校へ到着した。
腕時計を見ると、八時十五分だったので、八時前に出てこの時間なら、目標到達だな。
体調としては、殆ど疲れを感じていないし、汗すら書いていない。交通事情さえ良ければ、もっと早く到着できそうだ。
とはいえ、これ以上になると、人外の速度にもなりかねないので、今後の通学は、このペースで良いだろう。
ちなみに、腕時計は、黒色の丈夫なデジタル時計に黒色のベルトを付けて通学用に使うことにした。
防水、耐圧機能がしっかりあり、雨の中でも大丈夫なのが、通学用にする決め手となった。
汚れたなら、水洗いもできそうなのが、心強い。
駐輪場から、昇降口を通り、俺の一年三組の教室の扉を開く。
ちらほらと、速めに来ていたクラスメイトタチを見て、また懐かしさのあまりに目頭が熱くなってしまったが、平常心と、自らに言い聞かせる。
「おはよう!」
挨拶を返してくれる奴もいれば、目礼のつもりで、軽く頭を下げるやつや無視というよりも、聞こえなかった不利をしている奴もいる。
まさに、この感じが、高校だよな!
自分のロッカーと座席を、記憶から、何とか掘り起こすことに成功し、ロッカーに、ザックとヘルメットにサブバッグを詰めて、シテイバッグだけ持って座席に着く。
「林、おはよう」
「津田、おう」
記憶の中では、この林が、一番クラスで話す相手だったはずだ。
だが、この林は、入学当時、出席番号順に座った時、たまたま隣にいただけで、性格を知って行くと、無害な腹黒という雰囲気があると、わかってきたんだったな。
例えば、昼食の時に、飲み物を買いに行こうとすると、一緒に来るのではなく、注文をしてくる。それなりに、並ぶのだが、一人で並ぶのは何かと辛い。
代金は、しっかり渡してくるのが、無害な腹黒感が出ていると思う。
細かいことだが、毎回、これが続くとイラつきもする。
そういう人を使うことに躊躇がない奴なので、心を開いて、友人となれるかというと、もう一歩、たりない感じがある。
すでに、クラス内のグループはほぼ固まりつつあり、大まかに分けて三つある。
付属中学出身の派手目と運動部系のグループ、林や俺がいる、無害そうなグループ、自らオタクネタを積極的に話すオタク勇者と陰キャラのグループだ。
さらに細分化でき、派手目、運動部、腹黒無害、真実無害、オタク勇者、陰キャラとなる。
そして、この中で言うと、俺は、真実無害になっていたのだと思う。
これが、このままスクールカーストとやらになるのか、単純なグループ分けとキャラ付けで終わるのか、どうなって行くのだろうな。
だが、校内にアクセサリーを持ち込むためには、派手目の協力が欲しいところだ。
多少無理をしてでも、アクセサリーを校内に持ち込みたいのは、もう習性のようなものなので、押し通すしかない!
それくらいに、自衛のためのアクセサリー類は、俺にとって重要なアイテムたちなのだ!
派手目グループの池田が俺より早く教室に入っていたので、事前に用意していたアイテムを持ち、池田に話しかける。
ちなみに、池田は、挨拶を返してくれるくらいに気の良いやつだ。
「池田、ちょっと良いか?」
「おう、津田か、どうした?」
「池田たちってさ、決行派手目な感じがするから、アドバイスがほしいと思ったんだ」
手に持っていた、アイテム……、帰還して、すぐに購入した男子高校生向けのファッションシを出し、アクセサリーの乗っているページを開く。
「どんなのなら、高校に付けてきても良いと思う?」
「え、ああ、唐突だな。そういえば、何か雰囲気変わってるし、こういうアクセ、身に着けるのも悪くないよな」
それから、池田と、華美に見える物を除外して行きながら、池田の好みや俺の持っているアクセサリーを、ほしいアクセサリーというように聞こえるように説明していく。
「おはよう。恒彦、津田と何してんの?」
「おう、おはよう信也。津田がさ、アクセをほしいって、言いだしてさ。信也も一緒に見てやってよ」
池田は、池田恒彦、信也は、織田川信也という名前だったな。
二人とも付属中学からの付き合いなのだろう。
信也は、リーダー気質で、派手目のわりに、しっかりしている印象だった記憶がある。
「おう、津田か。何か雰囲気が変わっている気がするな」
「信也もそう思うよな。何か、はっきりしたっていうか、すぐにそこに津田がいるのがわかるって感じなんだよな」
「ああ、圧力みたいなのが、何かある感じっていうのか。そういうのだな。俺の親父、政治かだから、同じような雰囲気持っている人にもあったことあるかも。でも、津田の方が、圧力あるきがする」
「政治家より、圧力あるって、かなりすごいじゃん!」
「うーん、よくわからん。でも、おれらに協力してほしいって言ってきたんなら、ここは、張り切るところだろ」
「織田川も池田もありがとうな」
「せっかくだから、信也って呼んでくれ。こいつも、恒彦な。おれらも、和馬って呼ぶわ」
後から、平手正人、柴田勝、滝川一郎も加わり、付属中学出身ならではの目線で、いろいろとアドバイスをしてもらい、昼食の時間も、一緒にして、話の出来る時間は、ほぼすべてを信也たちと話をしていた。
ちなみに、平手正人は、学級委員をしているので、良い感じに、調整役となってくれた。
一日中話し合った結果、アクセサリーについて、ネックレスとペンダントは、目立たない物なら問題無し、ブレスレットも華美な物じゃなければ、基本的に問題無しで、いっそ腕時計の付属品のように見せてしまえば、良いだろうとなった。
だが両方とも、華美でなくても、高級感を感じる物はやめた方が良いということだった。
指輪とピアスにイヤリングは、無条件でやめた方が良いとなった。落としたら大変だし、どうしても目立ってしまうから、とのことだ。
俺が持っているアクセサリーは、魔道具で、自同調性機能があるから、落ちることはないが、そんなことを、あえて口に出す必要はないだろう。
ここは、信也たちの言う通りにしておくべきだな。
服装については、指定制服の中で、工夫をするのは基本的に大丈夫で、縫ってまで改造するのは、なしということだ。
さらに、頭髪は、染めるのは絶対にやめた方が良いといわれ、ついでに、サイドきつめなソフトモヒカンにしてみたらどうかと提案された。
まず、アクセサリーで絶対に身に着けておきたいストレージペンダントは、大丈夫となったが、腕輪の中で、ほぼすべての強化系の効果がある腕輪が使えなくなった。
だが遮光の腕輪と言う、魔法や魔法薬などのアイテム類を使った時に放つ魔力光を消してくれる腕輪がある。
これは、密偵や暗殺者が使う腕輪で、暗い場所や人知れず魔法を使いたい時に、この腕輪があれば、魔力感知能力が高い者以外には、ばれないという品物だ。
現代地球での生活で、うっかり魔法を使ってしまうこともあるかもしれない。そういう時のために、この腕輪を常備することに使用。
見た目は、黒で、植物の彫刻が彫られているシンプルなデザインなので、問題ないだろう。
ちなみに、校則でのアクセサリーの扱いは、家庭の事情を考慮して、風紀を乱さない程度の者に限り、着用を許可する。
とあり、ピアス、イヤリングは、名指しで禁止と書いてあった。
指輪については、名指しこそされなかったが、本当の意味で、家庭の事情、おそらく宗教的な物やらを考慮した物のみなのだろう。
服装についての、校則は、学校指定の物に限る。とだけあった。
過去の校則では、無駄に詳しく書かれていたのかもしれないな。
頭髪については、元々、染めるつもりはなかったので、問題はないが、髪色申請とやらを、しなければ、色素の薄い学生は、問題になるそうだ。
今のこの国は、帰化二世や、国際結婚した夫婦のもとに生まれた子供も少なくはない。
髪色申請というのは、違和感を感じてしまう制度だな。
一日中、信也たちと、話をしていて、派手目には見えるが、基本的に、表裏のない良いやつらだと感じたので、そのままこのグループに残ることにしよう。
トークアプリの申請を、試しに申し出たところ、全会一致で、五人で作っていたトークグループに招待された。
林、すまないな。腹黒は、腹黒同士仲良くやってくれ……。