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第五話 チャリティーイベント

 チャリティーイベント


 俺と父親は、自宅のある千種区星が丘エリア周辺で、オタクグッズたちを売りさばいていたが、腕時計を購入するために、成り行きで、母親の参加しているチャリティーバザーの会場へ行くこととなった。

 そうして、訪れたのは、中区栄エリアだった。


 このエリアにある、久屋大通公園周辺で行われているチャリティーイベントの規格の一つとしてチャリティーバザーは、開催されているらしい。


 俺は、公園の近くで我が家の愛車から降ろされ、父親は、駐車場に向うそうだ。

 移動する車内の中で、おおよそのバザーの位置は、聞いてあり、人の波に乗りながら、迷うことなく、バザーの会場に到着した。

 だが、イベントのおかげで、ちょっとした祭り状態のこの公園内は、異世界生活が長かった俺には、むしろこの場の方が、異世界に感じてしまいそうな賑わいだった。


 道中で見聞きした話によると、このチャリティーイベントは、両親が亡くなり、縁者に受け入れを拒否され孤児となった子供や様々な理由で親と離れて暮らすことになった子供たちが、生活をする児童養護施設への支援を目的としていることがわかった。

 今の日本は、極端な少子高齢社会となり、政府が率先して子育て支援政策をいくつも実施しているが、どれだけ政治的な支援策をしようとも、出産や子育ては、人と人の関係の中にあり、どうしても国の支援策だけでは、零れ落ちてしまう子供たちがいるのが現状だ。

 そんな子供たちのために、児童養護施設があり、それを支援することは、今後のこの国のためだけではなく、施設にいる子供たちのためにも、重要なことだ。


 俺は、長い異世界での生活の中で、子供を作ることはなかった。


 もし作ってしまったなら、帰りたいという思いが、弱くなりそうで怖かったのが理由だ。


 だが、世話になった国には、身寄りのない子供を集めて養育している神殿がいくつもあり、そういう神殿には、積極的に寄付をしていた。


 国への恩返しのつもりが大きかったが、子供たちが育っていく様子を見られることは、未来を感じ、それは、大きな活力となった。


 俺が寄付をしていた神殿の子供たちが大人となり、一緒にチームを組んで、ダンジョンに入ったこともあった。

 その時の俺は、うれしい気持ちと心配する気持ちが、複雑に入り組んだ気持ちだったのを、よく覚えている。


 俺は、基本的に子供が好きなのだと思う。もちろん、子供が成長していく過程が大切であって、幼児愛好家のような好きではないと確実に言い切れる。


 こういう主旨のチャリティーイベントには、積極的に参加したいところだ。


 バザーの会場に入ると、あまり迷うことはなく、母親が務めるNPO法人のブースを見つけた。


 売っている物は、未使用の食器が多いようだ。


 異世界の品々の目利きなら、それなりの自信があるが、現代地球での品物を同じに考えることはできないだろう。

 それでも、並んでいる品々は、おそらく高級品なのだと感じる風格があった。


 俺の住んでいる千種区の星が丘エリアは、内情は別として分類上では、高級住宅街になるらしい。


 我が家がある区画は、そのエリアの中のおまけのような位置にあり、建売の住宅街となっている。

 よって、我が家が、高級住宅街の住民に、見合った生活をしている家庭ではないことを、宣言しておきたい。


 それは、ともかくとして、母親が務めるNPO法人は、その高級住宅街を有する星が丘エリアに本部がある団体なので、こういう品々が集まるのだろう。


 ブースの様子を伺っていると、母親を見つけ、すぐに目が合い、母親が俺の側にやってきた。


「母さん、到着したよ」

「和馬、いらっしゃい。丁度、休憩時間だったから、時計屋さんのブースに行きましょう」

 母親がブースから出ると、NPO法人の方々が、俺についての話を始めてしまい、すぐに動けなくなってしまった。

 さらに、代表と呼ばれている、斯波という壮年の男性まで現れて、母親の帰りが遅くなることが多いことを謝られたり、いろいろな活動をしているから、興味があったら遊びに来てほしいやらと、話し込むことにもなってしまった。

 それから、皆が落ち着くまで、しばらく付き合い、タイミングを見計らって、移動を開始した。


「斯波代表も皆も、珍しく私の息子が現れたから、少しだけ、はしゃいじゃったみたいね」

「母さんのNPO法人のこと、興味を持ったことって今までなかった自覚はあるよ。でも、こういうイベントになら、手伝うのも悪くないかな」

「和馬を誘っても良さそうなイベントがあったら、これからは、声をかけることにするわ」


 母親と、NPO法人の話をしながら、腕時計が売っているというブースに到着した。


 四十歳手前程の男性がブースで腕時計以外にも、いろいろな時計を売っている。


「生駒さん、先ほどは、わがままを聞いてくださって、ありがとうございます」

「斯波代表のところの津田さんでしたね。しっかり取り置きしてありますよ。そちらが、お話にあった高校一年生の息子さんでしょうか?」

「息子の和馬と申します。わがままに付き合っていただいて、ありがとうございます」

「うんうん。取り置きは、三つあるから、全部見せるね」

 奥から、三つの腕時計を取り出し、俺によくわかるように見せてくれた。

「まずは、時計本体は黒色のミリタリーっぽいデザインのデジタル表示の、この腕時計だね。見た目通りに、頑丈な作りをしていて、太陽充電式なんだ」

 確かに、頑丈そうに見える腕時計で、太陽充電式は、俺の好みだ。

「ストップウオッチや、湿度計と温度計、夜でも問題なく使えるように、照明機能もついて、通常のアラームと振動式のアラームもある。他にもいくつか機能はあるけど、わかりやすいのはそんなところかな」

 デジタル表示ならではの、便利な機能が満載の時計なんだな。だが、俺の好みは、チクタクと針が動くアナログ表示の腕時計なんだよな……。

「さらに、ベルトは、マジックテープ式の黒色と緑色、それに森林迷彩柄があるんだ。高校生活の相棒には、もってこいだと思うよ」

 三本の付け替えのできるベルトの質感は、肌に馴染みやすい材質のようで、配慮のできるメーカーの時計なんだろうな。

 正直なところ、俺の好みが、デジタル表示なら、確実に飛びつく。


「それじゃあ、二つ目。これは、電池式のアナログ表示のカラフルな腕時計で、カジュアルって感じだね。この文字とこの文字を読んでみて」

「えっと、一つは、漢字で東京ですよね。もう一つは、英語でロンドンですか?」

「そう、この腕時計のベルトは、丈夫な合成樹脂でできていてね、カラフルに彩られたベルトには、いくつかの国の首都が、その国の主要言語で書かれているんだ」

 おお、面白い!

「ということは、これとこれも、どこかの首都名なのでしょうか?」

「チューリッヒ、モスクワって書かれてあるね」

 電池式なのが、俺の好みと違うが、かなり良いデザインだ。


「最後は、太陽電池式で、シルバーのフォーマルでも使えるシンプルな腕時計だね」

 アナログ表示で、通常の針の他に、もう二つ、小さい時計版が入っている。

「この中にあるのは、片方が月で、もう片方が日をあらわしているんだ。うるう年は、電波を受信する機能があるから、それで修正されるようになっているね」

「海外に持っていったなら、どうなります?」

「その地域が、よほどの僻地じゃない限り、電波を受信して、その地域の時刻と月日に修正される仕様になっているね」

 三つ目が、確実に、俺の好みだな。

 後は、値段か……。


「和馬、どれも良い腕時計でしょう。三つとも買っても良いのよ。高校生にもなったんだから、その場その場での服装や持ち物を変える練習にもなるわ」

 異世界の生活でも、面倒なことだが、その場に合わせて服装や持ち物を変えるようにしていた。

 あちらは、貴族や王族が、しっかりといて、統治者として機能していたから、誰にどこへ呼ばれたかで、服装や持ち物を変えないと、最悪、命の危機すらあったんだ!


 それから、母親を交えて、値段の話をしたところ、桁が一つ間違っているような安値を提示され、オタクグッズの売買代金で全てを購入できてしまった。


「僕はね、普段は、アンティークの時計の修理を仕事にしているんだ。それだけでも、十分に暮らしてはいけるんだけど、趣味で海外から気に入った時計を取り寄せて、店頭販売もしているんだよね。でも、良い物なのに、売れ残ってしまって、倉庫に眠ることになる物もいくつかあるんだ。そういう時計たちを、こういうイベントで、必要としている人がいたなら、安値で譲ってしまうんだ。気に入ってくれた人に引き取られるのが、時計たちにとっては、一番の幸せだからね」

「母に言われた通り、場面に合わせた、使い分けをしていこうと思います。良い時計を譲って頂き、ありがとうございました」

「名刺を渡しておくから、電池の交換が必要になったり、修理が必要になったら、尋ねてきてね」


 名刺に書かれていた住所は、我が家と同じ星が丘エリアだったので、もしもの時は、寄らせてもらおう。


 それから、父親とも合流し家族三人で、フードエリアを食べ歩き、夕方のバザーが終了する時間まで、NPO法人の手伝いをすることになった。

 その後の撤収は、気を遣われたのか、大人たちだけでやるそうで、自由となった俺は、公園の中央に設置されているステージで、数組のミュージシャンが行うライブを見ることにした。

 どのミュージシャンも、プロなだけあって、迫力のある演奏で、久しぶりすぎる日本のライブステージに、興奮してしまった。


 ライブが終わり、両親と連絡を取ると、すでにNPO法人の方々は、撤収を完了し、帰路につくところだったそうだ。

 俺も両親と合流し、帰路についた。


 オタクグッズのあれこれから、チャリティーイベント、時計にライブと濃厚な一日を過ごし、明日は、いよいよ帰還後初の高校への登校となる。

 時間割をしっかり確認し、十分すぎるほどに準備をしてから、風呂に入って、就寝した。

 ちなみに、夕食は、帰り際にフードエリアで、値下げをして売っていた味噌カツサンドだった。


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[一言] 5話 誤字 本文 数組のニュージシャンが行うライブを見ることにした。 「ニュージシャン」は【ミュージシャン】では
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