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第二話 異世界からの帰還

 異世界からの帰還


 約三百年ぶりに見る路地の風景を眺めているうちに、ぼんやりとした意識が覚醒していく。

 そうか、やっと帰ってこれたんだ……。


「よっしゃあああああ!」


 おもわず、感情が爆発し、大声を上げながら、全身で喜びを堪能していると、路地に面した家の窓が突然開き、その家の住民と目が合ってしまった。

 俺と目が合った住民は、恐ろしい物を見たような表情になり、窓は勢いよく一気に閉められた。


 住民と目が合ったことで、僅かだが、頭が冷やされ、自らの様子を客観的に見つめてみることができた。

 全身甲冑に抜き身の剣を振り上げ、大声を出している男……。


 今の俺は、どこから見ても危ない不審者にしか見えない……。

 これは、間違いなく通報案件だ!

 急いで、魔剣と鎧をストレージペンダントに収納し、周辺の地理を思い出す。


 確か目隠しになる程度に木々が植わっている公園が、すぐ近くにあったはずだ。

 その公園まで、鎧の中に着ていたインナーウェアのまま、不審者に思われないように、慎重な歩みで、木々の間に隠れる。



 今の俺の見た目年齢は、二十代後半くらいになっている。

 約三百年もあれば、少年の体から老年の体まで体験することができ、世代ごとに良くも悪くも特長があることを感じた。

 少年の体では、覚えた戦闘技術を使おうとすると、力みすぎてしまったり、何をするにも未熟に感じてしまった。

 老年の体では、戦闘に耐えれるだけの戦闘技術があっても、老いのためか、僅かにずれたり、スタミナが持たなかった。

 そうして、最も戦闘技能を使いこなせる世代が、二十代後半という結論に至ったので、聖域のダンジョンでの、最後の戦いは、この世代の体で行うことに決めていた。

 とはいえ、現代地球に帰還したからには、俺が異世界に落ちた時の年齢の姿に戻る必要がある。


 ストレージペンダントから、若返りの雫を取り出す。

 俺が時空の割れ目に落ちた時の年齢、高校一年生十五歳の年齢を強く念じ、若返りの雫を口にする。

 体が淡く光り、十五歳の俺の姿へ無事に戻ることに成功した。


 ここで、ふと、大切なことに気が付く。

 現代地球に帰還したことで、ストレージペンダントが使えなくなっていたり、若返りの雫が使用できなくなっていた可能性が十分あったのだ。


 守護者の広間に入るまでは、無事に願いの祭壇に辿り着いたなら、願いを口にする前に、若返りの雫を使うつもりだった。

 だが、願いの祭壇の前に行くと、神との会話が、突然始まってしまい、若返りの雫を使う時を見失い、そのまま現代地球に帰還してしまった。


 ストレージペンダントも若返りの雫も使うことができたから、良かったものの、あの時は、神との会話と帰還できる願いが叶いそうだということに、完全に舞い上がっていたようだ。

 現代地球に帰還できた喜びは、完全に抑え込むことは、無理にしか思えないが、もう少し冷静になるべきだ。


 冷静になるようにと自分に言い聞かせているうちに、アイテム類が使えたことで、早めに試しておいた方が良いことを思いついた。

 うすい魔力しかないとはいえ、ストレージペンダントと若返りの雫が使えたのなら、魔法も使える可能性は非常に高い。

   植物操作の魔法で、茂みを動かし、俺の姿をどの方向からも見えないようにできるか、試してみることにした。

 無詠唱で魔法を発動させると、両手が淡い緑色に光り、手を動かすと、それに合わせて、周囲の木々が動き出し、俺を完全に隠してしまった。


 やはり、魔法もしっかり使えるのか……。

 なら、おれの強化された身体もそのままなんだろうな。


 いろいろと注意しなければならないことが出来てしまったが、便利な能力が使えるのだと思えば、悪くはないのだろう。

 いや、待てよ。ダンジョンコアをくれたり、神威を授けてくれたということは、現代地球でも、魔法やらを使えることを神は、知っていたのだろう。


 このことは、まだ検証をしたいことがあるから、その時に何かに気が付くかもしれないと、今は、その程度に思っておこう。


 気を取り直して、服装を着替えることにする。


 地球の服は目立つため、あちらに着いて早々に、服装は支給されたものを使うようになったので、ダンジョン内で、愛用のストレージペンダントを手に入れるまでは、大事に保管しておいた。

 ストレージペンダントを手に入れてからは、一度も外に出していないので、あまり汚れてはいないはずだ。


 約三百年も時間は立っているが、ストレージペンダントの中は、時間が止まっているので、殆ど痛んでいない状態の地球で来ていた服に着替えられた。

 無難なスニーカー、ヴラックデニムのパンツ、Tシャツの上に、長そでのボタンシャツを羽織ったという、ありふれた高校生の姿だ。

 若返りの雫で、肉体を若返らせることはできても、鍛えた筋力まで、なかったことになるわけではないので、若干服がきつく感じる。

 それはさておき、アクセサリーがないのは、何か寂しいので、悪目立ちしなさそうな魔道具のアクセサリーをいくつか身に着けておく。

 あちらにいる時は、自らを強化させるために、アクセサリーを身に着けるのが、当然だったんだよな。


 さて、これでひとまず、うろついても問題のない状態になった。


 神を疑るわけではないが、本当に、俺があちらに飛ばされた直後の世界なのか、確認をしておいた方が良いだろう。

 公園の近くにあるコンビニに入り、新聞を覗き見して、今日の年月日を確認する。

 二千二十五年四月十九日の土曜日となっている。

 確かにこの年月日で会っている。


 俺の通う高校の土曜日は、午前中だけ授業があり、この日は、午前中の授業を受けて、昼過ぎに帰宅し、適当に昼食の焼きそばを作って食べたんだったな。

 それで、食べ終わったころに、母親から、夕食の食材といくつかの調味料の買い出しの指令を受けたんだった。


 コンビニの時計を見ると、正午から数えて、だいたい予想できる範囲の時刻を示していた。

 腕時計は、太陽電池式だったが、あちらでも使っていたので、壊れてしまった。

 壊れた腕時計は、世話になった国に何かの研究の役に立つかと思い、寄付をしてきたので、買い直さなければならない。

 ケータイにも時計はあるが、時が止まる仕様のストレージペンダントの中にあるので、時計としてはどうなっているのだろうか。


 せっかくコンビニに入ったので、時事ネタが載っていそうなビジネス誌と男子高校生が気にしそうなファッション誌を購入することに決める。

 漫画雑誌も悪くはなかったが、この頃の漫画雑誌は、異世界が舞台の物語がいくつも流行っていたので、異世界帰りの俺には、あまり読みたい物語に思えず、見送ることにした。


 ストレージペンダントから、コンビニの監視カメラと店員の目を気にしつつ、ひっそりと大切に保管してあった財布を取り出す。

 帰還後、初めての買い物は、正直なところ、かなりオドオドとしてしまったが、無事に会計を済まし、コンビニを出て、公園に戻った。


 公園のベンチに座り、母親にメッセージを送ることにする。

 ストレージペンダントの中から、ケータイと電池を取り出す。

 ケータイは、電池が心配だったが、あちらで状況が分かった時に、電池を外してあったので、電池を付け直し、起動するか確認する。

 こちら喪服と同じような扱いをしていたので、問題なく起動した。

 だが、落ち着いたらケータイは、新しい物に交換した方が良いだろう。

 数年間は時間停止させずに放置してあったので、不具合があるかもしれない。

 ちなみに時計機能は、軌道と同時に電波を拾ったようで、すぐに正確なものになったようだ。


 久しぶりのケータイの操作に手が震えるが、無事にタップができ、母親へ送るメッセージを作って行く。

 できあがったメッセージを送り、手持ちの小遣いがなかったので、買い物ができなかったと、報告をする。


 すぐに折り返しのメッセージが届き、夕食は、少し遅くなるが、母親が買い物をしてきてくれることになった。


 早々に必要なことは、終わらせたと思う。

 まだ、日が高いので、春の陽気に照らされながら、ビジネス誌から時事ネタを拾い出し、記憶の整理をしていく。

 異世界での約三百年と言う時間は、記憶があいまいになってしまうには、十分すぎる時間だったようで、時事ネタを拾いながら、記憶の齟齬を埋める必要があるようだ。

 印象的だった時事ネタを読み続け、整合性をとっていく。


 少しずつだが、今が現実のものだと実感がわいてくる。

 長い間、フルネームで使っていなかった、俺の名前を口にしてみる。

「津田和馬、そうだ、俺の名は、津田和馬だ!」

 カーズマーでもないし、ツーダでもない。津田和馬だ。

 さらに自覚をするために言葉を続ける。

「ここは、日本の愛知県、名古屋市千種区の星が丘周辺、俺の家の近くだ!」


 唐突に家を見たくなり、ビジネス誌を閉じ、公園を出る。


 気持ちが高ぶって、全力疾走をしそうになってしまうが、長い異世界の探索者生活で、身体が強化された俺が、全力疾走をしたなら、軽く自動車の速度を超えてしまうだろう。

 記憶にある通りの道順を、焦るなと、自分に言い聞かせながら、ジョギングに見える程度の速度で進んで行く。

 そうして、俺にとっては長い長いジョギング、実際は十分ほどしかかかっていないジョギングの末に、何度も夢に見た自宅が見えてきた。


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