Le Diable au sang et corps 2-b
【2e-b Chapitre】
第三次左翼突破作戦。
二次攻撃が不発に終わった左翼部隊が後方にさがった。敵騎馬隊は撤退するペトラルカの隊を前回同様追うことはしなかった。側面が弱点である以上、無理に追撃戦を行う必要はないと判断したのだ。
まず、怪我人が後方の医術師の許に送られた。それから痛んだ剣から新しい剣に持ち換える者、防具の点検をしている者、渇きを癒す為に喉に水を流し込み者など再突撃の準備が始まった。その部隊の前に長子であるペトラルカ卿が立った。この左翼部隊は騎馬隊を中心とした部隊ではあり、その任は自陣の弱点である側面の守備を担当し、それだけでなく敵の密集陣を敷く後方に切り込んでいく混血の中心とした遊撃部隊を敵側面まで送り届けることと敵陣に切り込んだ遊撃部隊の退路の確保であった。
前に立つペトラルカが隊の後方まで聞こえるようにと叫んだ。
「再度確認だ。攻撃の合図と共に進撃、遊撃部隊は走り出すチャンスがあるまで我々騎馬隊の陰に隠れていろ。武勇は厳禁だ。二次展開後、遊撃部隊が敵中に切り込むのに成功したら、彼らの退路を確保する。時間は一刻(一刻は約十五分)、それ以上の長居は無用。撤退にかかる。遊撃部隊は一刻で必ず戻ってこい。でないと敵中に孤立することになるぞ。後サブリエをひっくり返すのを忘れるな」
激しい戦闘時に砂時計を見る余裕など微塵もない。最後の一言は緊張した少しでも雰囲気を和らげようと、ペトラルカが咄嗟に出た言葉だった。ユーモアのセンスに乏しく生真面目なペトラルカにしては気の利いた冗談だった……、客観的にみると、ほとんどセンスの欠片もないものであった。
イレーヌは「ペトラルカ卿のユーモアのセンスは彼自身が立案する作戦案のレベルに遠く及ばないな」と思いながら、自分の後ろに構える小隊に見やった。「?」意外な事に、彼らには面白かったようで口許が緩んでいた。イレーヌは自分のユーモアのセンスが悪いのだろうか、とちょっとだけ不安になった。
今より少し前の出来事。
第二次左翼突破作戦失敗後、トゥッリタ軍左翼部隊陣地にて。
ペトラルカが隊の被害状況を聞きながら、一直線にイレーヌの処に来た。そして神妙な面持ちで、
「ダンヴェール伯、各遊撃隊を前線まで押し上げるとして、そこから馬を降りて敵陣に斬り込めるか?」
イレーヌはペトラルカが言わんとしている事を一瞬で理解した。敵陣まで自軍の騎馬隊では辿り着けない。そこで敵の意表を突いて馬を降りて走れと。イレーヌはその案に乗った。敵騎馬隊の各剣士は腕が立ち、何より騎馬隊の連携は自軍より素晴らしい、恐らく最強の騎兵をこの戦場に集めているのだろう。まともに打つかっても勝ち目はない。なら選択肢は一つしかない。
「親衛隊の剣士がついてこれるなら、問題ありません」
ここでペトラルカが遊撃隊の面々を招集し、第三次左翼突破作戦の説明を簡単にした。この状況では複雑な作戦は兵を混乱させるだけで何のメリットもない。
ペトラルカが遊撃隊に属する剣士たちの顔を一人ひとり確認するように見て回った。彼らの誰も首を横に振る者はいなかった。ラディゲが最後だった。ペトラルカのどこまでも真直ぐに前を見るような力強さと相手を信じて疑わず、自分たちに対する信頼を包み隠さずさらけ出す態度は、無自覚な脅迫でもあった。さらに正義感が加われば完全に無敵だ。ラディゲも皆と同様に首を横に振ることはなかった。その時、会戦前と同様に少し手が震えたが、今回はラディゲ本人は気付いていなかった。
「ボッカッチョ伯、遊撃隊の護衛は貴殿に任せた」
「了解」
ペトラルカの命令に左翼部隊次子のボッカッチョ伯の頼もしい低い声が響いた。
第三次左翼突破作戦が開始された。
「抜刀、突撃」
とペトラルカの大きな叫び声と同時に騎馬隊が一斉に駆け出しだ。事前にリキメル卿から、そしてラビであるフェリクス卿からも再度注意を受けたにも関らず、またもペトラルカは隊の先陣を切って馬を駆けていた。リキメル卿とフェリクス卿の注意をペトラルカは忘れてはいなかったが、今作戦を遂行するに当り、どうしても味方の背中に隠れていることが出来なかったのである。彼を護衛するリッピ卿は最早諦めの境地なのか、ペトラルカの暴走を止めようとはしなかった。だがリッピ卿の心の内は幾分違っていた。このように熱く兵思う上官を死なせてなるものか、と燃えに燃えていたのだった。
混血の遊撃部隊は三部隊計十二名で構成されている。部隊長である混血一名にそのサポート要員として親衛隊の剣士三名が就く。彼らは騎馬戦に参加しない為、馬上の武器は一切携帯していない。それどころか馬一頭に二名の剣士が乗馬しているのである。完全に輸送部隊と化している。
イレーヌの後ろにラディゲが乗った。ラディゲは楯と持てるだけの剣を持ち、主にイレーヌの剣を持ち、彼自身の剣は一本のみ、イレーヌに至っては数本の剣のみと言った具合だった。
ここで遊撃部隊の役割を再度簡単に述べておく。
遊撃部隊は敵右翼から敵ファランクス隊の裏に侵攻し、前方攻撃に特化したファランクス隊の動揺を誘う事である。
敵陣の最奥部まで斬り込んで行く隊はイレーヌの指揮する部隊だった。彼女は今会戦時に於いて、誰もが認める最強の剣士であり、それに付き従う剣士も腕が立つ剣士が選ばれている。親衛隊の伝統として、軍序列の高い者、剣の腕が立つ者がそれに応じた責任と義務が負わされる。イレーヌ隊が一番危険な任務を負うのは当然の事であり、イレーヌ自身も親衛隊の伝統を嫌と言う程知っており、今更特に不満など全くなかった。
ラディゲはイレーヌの後ろに乗込んだ。あぶみがない騎乗は意外と難しい。この時代、旧ラッティーナ帝国内ではまだあぶみが存在していなかったのだ。馬に乗るには脚で挟み込まなかればならず、それなりの筋力とバランス感覚が必要とされる。見た目ではイレーヌよりラディゲの方が筋力がありそうだが、実際はその逆である。その為に馬上技術は今一つのイレーヌが馬を操っているのであった。
イレーヌが騎馬隊の後方で隠れるように馬を走らせる。ラディゲは、実は大物なのか、単なる愚か者なのか、それとも三度目の突撃で慣れたのか、イレーヌの華奢な肩越しに兜に隠された顔を覗き見ようとと体を少し左に傾けていた。彼にとって剣士として闘うのと同じ価値がイレーヌの存在にあった。その意は、ラディゲにとってイレーヌは何物にも代えがたい存在であることの証左だった。これは若い男性が恋に暴走する時に見られる現象で、さらにこの暴走が酷くなると恋をした女性を完全に神聖化してしまうのである。この暴走は本人が恋に醒めるまで決して他人の言葉に耳を傾けなくなり、最悪な場合には自己破滅なんぞという結果をもたらしてしまう。ラディゲもその危険性を十二分に含んではいた。しかし彼が剣士になったその重責が完全にイレーヌに狂ってしまいそうな感情押さえ付ける役割を果たしていた。ラディゲ家が伯爵領主であった栄光を取り戻すと言う両親への誓いが。
第三次左翼突破作戦の基本戦略は第二次左翼突破作戦と同じである。今回は前回と戦術が根本的に異なる。敵ヘルヴェティア騎馬隊に穴をあけるのではなく、遊撃部隊が敵陣に走り込めるようにヘルヴェティア騎馬隊の隙を創ることであった。
前回の突撃同様トゥッリタ軍はヘルヴェティア騎馬隊の前に屈するしかなかったが、前回とは戦術が違っている。剣を交えても戦局が不利になると、なりふり構わず撤退するのである。ヘルヴェティア軍は逃げるトゥッリタ軍を追わなかった。敵が自軍を誘い出そうとしていると読み取ったからだ。それは一部正解であった。当然のことながら、トゥッリタ軍もその程度の事は予想していたのである。
戦線を開いて一刻程過ぎた頃、逆V字に展開していたトゥッリタ軍が二部隊に分かれそれぞれが各サイドを一点突破で狙うように突撃を始めた。作戦通り二次展開がはじまったのだ。ヘルヴェティア軍も俊敏に対応する。両サイドに騎馬兵を集めた。その機を狙っていたかのように、六頭の馬から十二名の剣士が下馬し、ヘルヴェティア軍陣営に向かって走り出した。その様子は眼の優れたヘルヴェティア兵によって確認されてはいた。この陣営の前に今は小川になっているアーレ川が流れている。前に記したように、ヘルヴェティア王国の民は宗教上の理由から混血と吸血鬼の違いを全く理解していない。混血と吸血鬼は全く同種であると言う認識が一般化しているのである。吸血鬼は流れる水を渡ることが出来ない事実から、彼らはこのアーレ川がある限り、混血の剣士が現在展開している側面防御の戦線を突破することはないと信じ切っていた。ヘルヴェティア軍の見解は、この別働部隊を捨て駒覚悟の決死隊のような連中だと判断した。即ち敵の陽動であり本命の攻撃は左右からの一点突破であると。当然、騎馬隊で対応などせず、剣士たちに対応させたのだった。
イレーヌたちはアーレ川を駆け抜け一気に敵の馬防柵まで走り切った。途中、飛んでくる矢を楯で防ぎながら。そして、そこで待ち受けていたヘルヴェティア軍の剣士たちが一斉にイレーヌたちに襲いかかる。それに対応したのが混血の三剣士だった。この時の闘いでは、イレーヌの剣は群を抜いて冴えていた。ブルネレスキ工房の剣とイレーヌの剣術がまさに正確無比の時を刻む時計の歯車のようにピタリと合わさった瞬間だった。イレーヌたちが待ち構えていた剣士たちを血祭りにあげると、直に遊撃隊は敵の後方深部に向かって再び走り出した。
その様子を見ていたヘルヴェティア軍の兵士たちは、ある伝説を思い出し恐怖の感情を露にした。その伝説とは四十年程前に起こったヘルヴェティア王国とトゥッリタ公国での会戦であった。ヘルヴェティア王国がトゥッリタ公国を打ち倒す寸前に、トゥッリタ公国が飼っている吸血鬼の剣士が悪鬼のような剣術でヘルヴェティア軍に大損害を与えたのだ。その剣術はヘルヴェティア王国では悪魔の剣とされていた。徹底的に失血死を狙う剣、モントルイユの剣のことであった。このモントルイユの剣はとにかく血が流れる、それも半端な血の流れ方ではない。当然、その剣を使う剣士も血達磨となってしまう。それが悪鬼のように見えるのである。今イレーヌはその再現をはじめたのである。
対応に出た剣士たちが一瞬で血祭りにあげられるのを見てヘルヴェティア兵は声を失った。そして、
「Vampire」
誰かがその言葉を呟いた。それが呼び水となり一気にざわめきが起こり、その後津波のような動揺がヘルヴェティア軍後方でうねりとなり浸透していった。
ペトラルカは自軍の眼から遊撃隊が敵陣に斬り込みに成功をしたことを知った。今一点突破と見せ掛けて、一撃離脱の攻撃を加えている。味方の損害を最も少なくする戦術を用いているが、それでも怪我人がでるのは避けられない。これからはそんな気楽な事など言ってられない。敵陣で暴れてきた遊撃隊の退路を確保しなければならない。遊撃隊は命を賭して敵陣に斬り込んで闘っている。彼らがその責務を終えた時、今度は我らが命を賭して遊撃隊を護るのである。それが軍組織、いや親衛隊と言うものである。例外も多々あるのだが……
「タンヴィル伯、オッシュ卿」
イレーヌがそう叫ぶと、混血を中心とした三小隊はそれぞれ役割を果たすべく展開をはじめる。一番敵陣奥まで切り込むのはイレーヌの隊である。何度も言うように、最強の剣士が重責を負うのは親衛隊が指揮する部隊の伝統であり義務である。そして残り二部隊はイレーヌ隊の退路の確保を担当する。
ペトラルカの隊以外にもイレーヌ隊の為に混血二隊もイレーヌ隊の退路を確保にあたるのは、敵陣の突き破り、敵陣奥深くに一撃離脱する場合の基本戦術である。英雄憚にあるような一小隊で敵陣を突破、敵深部に一撃後離脱、無事帰還、それが簡単に出来たなら戦闘はまさに百戦百勝、誰も苦労しない。敵も木偶の坊でもない。自陣に侵入した敵を殲滅しようと戦術展開するのは当然である。この場合は敵の退路を断ち敵を自陣内に孤立させることが基本戦術となる。こうなると多勢に無勢、孤立した敵は自刃するか自殺に等しい無謀な突撃をする以外選択肢はない。ただどちらを選んだとしても結果は死あるのみ。
だが、この例に当てはまらない戦いもあった。それは四十年前のトゥッリタ公国とへルヴェティア王国の戦役である。この時へルヴェティア軍に完膚なきまでに叩きのめされたトゥッリタ軍は混血のみの小隊を敵陣に特攻させ敵の頭を狩る作戦を強行した。特攻は片道切符、失敗は死を意味していた。
なぜそんな無謀な作戦に混血たちが従事したのか? 混血たちが人として生きていけるのはトゥッリタ公国以外存在しない。混血を人として受け入れている唯一の国がトゥッリタ公国なのだ。そのトゥッリタ公国が亡ぶ事は、混血が人として生きていく世界を失う事と同義だった。そのような特殊な条件でもない限り、敵陣内に切り込み一撃離脱する場合、退路の確保は必須項目となる。
イレーヌの背中について行くのは三名の親衛隊の剣士。イレーヌの死角からの攻撃を、正面以外の三方向からの攻撃を防御するのが彼らに課された最重要な任務となっている。その為、速度が生命線である今作戦ではあるが、楯を持っていくことになる。通常の楯では重過ぎて、今作戦で重要な速度を保つことが出来ない。今作戦用として鋼でなくタイタンと言われる軽金属を使用している。翅のように非常に軽く鋼に匹敵するくらい硬く防具に最適な金属である。しかし全く普及していない軽金属であった。その理由は採掘される量が非常に少なく、その為需要と供給の関係から価格が高騰していたのである。
本作戦起案時はこの楯を木製で対応しようとしていた。偶然それを知ったイレーヌが木製の耐久性では問題あるとしてタイタン製にすべきだと主張した。しかし費用面で折り合いがつかないという理由を聞かされ、それではと彼女を中心とした混血たちが費用の多くを負担したのだった。この件は本人たちの希望により伏せられているので、一握りの関係者しか知らない事案である。混血たち全員に当てはまる訳でないが、混血ゆえに人から反感を買わないように、金銭面で恵まれていても質素な生活を営む者が多い。当然ながらイレーヌも大多数側の質素な生活をしている。社会的な慣習も影響していない訳でもない。しかし彼女の場合は性格による部分が大きい。外見から受ける印象では、何処ぞのお姫様と言った感じだ。それは外見上の話であって、実情は彼女は剣を持つ事に誇りを持ち、剣士として騎士道にも似た心構えを常時保とうと努めているのである。
混血がこの公国で就ける職は、社会的な慣習から剣士かボマルツォの森の交易者の二択である。剣士は剣を持つことが必須であり、ボマルツォの森は妖魔の巣であり自身を護るには剣が必要となる。一般的に混血が剣の手解きを受けるのは自身の親である。イレーヌの母親は未だ存命だが、実は彼女は親から剣の手解きを一度も受けたことがない。イレーヌの母親は混血には珍しく剣術が得意でなく、その為、母親の幼馴染、ラウラ、シモーネの姉弟の母親、当時最強の剣士と称されていたモントルイユ候に娘を預け、剣を学ばせたのだった。そのモントルイユ候の噂は、子供達も耳にしていた。モントルイユ候がトゥッリタ公国一の剣士であると。世を知らぬ子供達にとって、その手の話を聞くと多分に漏れず拡大解釈されるものである。公国一の剣士が世界の頂点に取って代わり、薄氷を踏む勝利など一度もなく一振りで相手を薙倒すとそう言った風に変換される。今振り返って見ると、イレーヌが初めて恋をしたシモーネの母親と憧れた剣士が同一人物であったのも大きかったのだろう、当然幼いイレーヌはモントルイユ候に過大な憧れを抱いた。そしてその憧れが幻想であると気付き始め、それが完全に崩壊する前にモントルイユ候は吸血鬼の牙に斃れてしまった。その影響なのか、イレーヌにとってモントルイユ候の幻想は手の届く中途半端な理想化と為した。それ故に理想と同化し易かった。そしてその理想化されたモントルイユ候の姿は自分がこうありたいと言うイレーヌの願望を含むようになり、その行動規範となっていった。今彼女の剣士としての行動は彼女自身の憧れでもあった。
イレーヌは小隊の先頭に立ち、当初の予定通り敵の深部へと突入して行く。全く後方を気にしておらず、小隊の剣士を信頼しているのが見て取れる。イレーヌは立ちはだかるヘルヴェティアの剣士を容赦なく斬っていった。モントルイユ剣の独特の作法で。この剣術が敵兵士にとって悪魔の剣と言われる所以は、徹底的に動脈血を狙う事である。力任せに剣を突き刺したり、頸を刎ねたり、袈裟斬りにと即死させる剣ではない。その為、致死するまで、即ち出血死するまで少しばかりの時間を必要とする。なお動脈血を完全に斬られると専門の医術師と専門の器具がない限り応急処置すら出来ないのが現状である。そうなると動脈血が斬られた人間はただただ迫り来る死の恐怖に震えるしかないのである。戦場でなくとも死の恐怖は伝播する。当然の事ととして、戦場では死がそこに隣り合わせとして潜んでいる。兵は死の存在の影に敏感でなのである。そして何より返り血を浴びて全身血塗れになりながらもなお、化け物は冷徹に血を求めてくるのである。ヘルヴェティアの剣士が悪鬼と見間違えるのは仕方のない事かもしれない。
今この場所で、四十年前にあった会戦時で神がかり的な活躍し、トゥッリタ公国救国の英雄として名声を得たラウラの再現を、ヘルヴェティア軍からしてみれば悪夢以外何ものでもないシーンがいま再現されているのである。
「Sie werden euch alle töten!」
「Vampire」
ヘルヴェティア軍陣地内でそんな言葉が飛び交う中、イレーヌは確実に死を迎えるヘルヴェティア剣士の数を増やしていく。そして返り血を全身に浴び、彼女は血塗れ化していた。一瞬返り血がイレーヌの視界を奪った。イレーヌの剣を浴びたヘルヴェティアの剣士が断末魔の叫びをあげながら、闇雲に剣を振り回す。この二つの偶然によりイレーヌは不覚を取った。頭部に衝撃が走る。兜がずれ視界を奪おうとする。それは避けなければならない。咄嗟に出たイレーヌの行動は兜を脱ぎ捨てる事だった。もし中途半端に兜を付けていては、何かのはずみで兜がずれ視界を奪うかもしれない。敵が剣を持っている時なら確実に致命傷となる。兜がずれて負けたなど剣士としてのプライドが許さない。無論頭部への防御がゼロになる訳だが、何時兜がずれ視界を奪われる、という心配しながら闘うよりいっそ兜を捨てた方が身軽になり戦闘に於いて有利だと判断したのだ。イレーヌは素早く兜を投げ捨てると、イレーヌに剣を向けようとしていた剣士が目を見張った。彼は吸血鬼の顔は化け物らしく醜いものだと信じていた。ところが、兜を脱ぎ捨て顔を見せた吸血鬼は貴族の令嬢のように美しく、さらに返り血を浴びた姿は一種の官能的な妖艶さを纏っていた。次の瞬間、彼は眼球をイレーヌの剣で潰されていた。イレーヌの絵に描いたような美しい姿が彼が人生で最期に見た映像となった。
ラディゲはイレーヌが兜を脱ぎ捨てたことで、一瞬息が止まる程の衝撃を受けた。イレーヌが負傷したと思ったのだ。誰だって想い人の怪我をするところなど見たくはない。会戦が始まる前に誓った言葉「彼女を傷つけない」がこんなにも簡単に崩れ去ると思ってもみなかった。そしてラディゲは今自分に彼女を援護するだけの力ないことを実感を伴って自覚した。それは今まで自分が味わったことのない挫折感、敗北から感じた挫折感とは全く違ったものであり、彼の心を抉った。今にも崩れそうな両膝を無理やり動かし走り続けイレーヌの背中を追う。時より襲い掛かってくる敵を異様に軽く桁外れに頑丈な楯で防ぎながら。そしてイレーヌの背中を追う度、ラディゲのイレーヌへの想いは強まっていく。心理学を少しかじった人が今のラディゲを見たら、この状況を吊り橋効果だと判断するかもしれない。ラディゲはイレーヌに元々恋心を抱いている。それを恋と緊張感を取り違えるものだろうか……、心理学的な解釈はさておき、ラディゲが抱くイレーヌへの想いは彼女を追う時間と共に膨れ上がる一方であった。
イレーヌの小隊が敵陣深く斬り込んだことにより、吸血鬼の再来という心理的な効果が、ヘルヴェティア軍の深部から湧き立ち、さらに混乱として生じた波が様々な噂となり付帯し混じり合いながら周囲に影響を及ぼしていく。その振動は主力部隊であるファランクス隊にも徐々に浸透していった。その効果はペトラルカやリキメルが予想した通りであった。一度浮足立った兵を鎮めるのは時間が必要である。
そんな最悪な状況でもしっかりと統率力を持って兵を率いる事が出来るリキメル卿やペトラルカのような指揮官はどこの国でも居るもので、それはヘルヴェティア軍でも例外ではなかった。
「吸血鬼はいない、左翼部隊は健在だ」
と浮足出したファランクス隊を落ち着かせ、再び統率を取り戻しつつあった。さらに、それだけなくイレーヌの小隊を囲い込んで殲滅させようと兵を展開しはじめたのだった。
イレーヌは敵の動きの変化を肌で読みとった。それは戦場の独特の雰囲気や空気で知るものであり、第六感的なものでもあった。ただそれを読む事に長けた人物がいる事は現実の結果が証明している。イレーヌは自身の鼓動を使って時間を計っていた。むろん正確なものではないが、おおよその目安にはなる。「ここまでか……、今が潮時かもしれない……」まだ折り返しの時間になってはいなかったが、ここで反転すると決断した。
「反転、撤退する」
大きな声がイレーヌからとんだ。
小隊が反転した後、イレーヌたちが見た状況は今まさに自分たちの退路を断とうする部隊がいたことだった。それがどれ位の兵が展開しているまでは判断がつかないが、厄介な事には違いない。イレーヌは数年前のフェンリル狩りでは、強制解散(*1)時における別動隊の指揮や最悪の事態、混血最後の一人になる剣士として部隊を率いる役目を負っていた。彼女の剣士として腕は言うまでもなく一流であり、その事を余人が口を挟むまでもない。それだけでなく、戦況全体を俯瞰できる能力をも買われてもいた。その彼女の能力はこの時遺憾なく発揮された。もし予定通りの刻まで敵陣まで深く切り込んでいたなら、退路を完全に断たれ、それを突破するには不可能に近い。混血一名、親衛隊三名では、自決か、少しでも多くの敵兵を巻き込んで死ぬかの最悪の強制二択になっていたかもしれなかった。
イレーヌは隊の速度を落とす事なくヘルヴェティアの剣士たちを血祭りにあげていく。その度新たに鮮血を浴びる。まるで彼女が大怪我を負っているように見えてしまう。そしてその凄惨な状況に反比例するような美しく整った顔。その相反するイレーヌの姿が強烈な印象となってヘルヴェティア兵の心に刻まれてく。それがまた新しい衝撃波となってヘルヴェティア軍を再び揺さぶる。その動揺を抑えようとする指揮官のせめぎ合いは一進一退の状況を作り出していた。
イレーヌが優雅にワルツを踊るように身体を回転せた瞬間、ヘルヴェティア兵から鮮血が噴出した。しかしイレーヌの顔が曇った。
「切味が落ちてきた……」どんなに凄腕の剣士であっても剣の損耗は避ける事の出来ない現象である。剣は剣士にとって最も重要な武器であり、そして同時に消耗品でもある。刃物である以上、少々刃が痛んでも研ぎ直せばまた切味が戻るのである。しかし切味が落ちた剣を戦場で後生大事に持つ事などあり得ない。命を賭して闘っている時に使えない武器程邪魔なものはない。因ってどんな名刀であろうと切味が落ちた剣は、戦場ではポイと捨てられるのである。多分に漏れず、名刀の代名詞、マリアローザと言われる薔薇の刻印のあるブルネレスキ工房の剣であっても同じ運命をたどる。
イレーヌの前に見るからに屈強な四名の剣士が、退路を阻む為に立ちはだかった。その剣士たちに先制パンチを繰り出すようにイレーヌは手に持っていた剣を投げつけ、そして後方にいる彼女に従事する親衛隊の剣士に、
「押し通る、援護を」
と伝えた。イレーヌはこの連中と闘うことを一瞬で決めた。回避する方が、時間的な無駄が大きいと判断したのだ。今時間は金のように貴重だ。
親衛隊の剣士は彼女の死角からの攻撃を防ぐことである。側面、特に背後が重要な守備のポイントとなる。ラディゲは剣の腕は評価されたが、戦術眼を評価されたわけでない。その為一番重要な殿の役目に任じらる事はなかった。彼は右側面を担当していた。
イレーヌは仕留めるべき剣士を定めると残りの剣士との戦闘については後ろの剣士に任せた。イレーヌは近衛隊に所属しているが、親衛隊の剣士たちの結束と信頼の厚さを十二分に理解している。当然イレーヌもラディゲを含め自分に従事する剣士には絶大な信頼を置いている。でなければ、敵に何時囲まれておかしくない状況でターゲットにする剣士を一名に絞ることなど出来はしない。イレーヌは投げ捨てた剣の代わりを背中に背負っていた鞘から剣を抜いた。少しでも後ろの剣士の負担を減らそうと、その鞘をも抜き取りターゲット外の剣士に向かって投げ捨てた。兜に隠れたヘルヴェティアの剣士の顔がしっかりと見える位置に来た時、不意に右側から風を斬る音が聞こえた。
「矢?」
視線を右に流す。混血の鋭い動体視力を持ってしても、不意に飛んでくるの矢を完全に捉えられない。だが、戦場で鍛え上げれた直観力、生死の選択で確実に生を引き当ててきた直観力が、矢が来ると訴える。イレーヌはその直感に従った。
「みんな、伏せろ」
悲しいかなイレーヌの言葉は少しばかり遅かった。心の奥底では敵の剣士と剣を交えようとしている時に、敵弓兵が味方の剣士に矢が当たるのも構わず自分たちを射てくるとは思わなかったのである。パニック状態になった人間は時として考えられない行動を起こす事がある。今回の行動はまさにパニック状態になった人間の行動そのものであった。ヘルヴェティアの弓兵らは吸血鬼の出現を耳にした。ただ彼らがその事を耳にするまでの間に、多くの人の恐怖が雪だるま式に膨れ上がり、まるで尾びれ背びれが付く噂話と化した状態になったのだった。そして伝説化としたラウラの血塗れの剣、神に仕える僧たちの言葉「吸血鬼は悪魔だ」これらが混然一体化して、ただ恐怖が逃れる為だけにヘルヴェティアの弓兵に矢を引かさせたのだった。
敵味方双方ともヘルヴェティアの弓兵からの攻撃は全くの想定外であったようで、イレーヌの小隊では唯一右側面を担当していたラディゲがイレーヌの言葉に反応し楯に隠れることが出来た。残り二名の親衛隊の剣士は矢が当たらないことを祈るのみとなった。最も集中して攻撃を受けたのは当然ながらイレーヌだった。至極当たり前の事として、ヘルヴェティアの剣士にも矢は突き刺さり、イレーヌの細い体躯にも何本かの矢が刺さることとなった。
断末魔の声を上げ斃れるヘルヴェティア剣士。
イレーヌは混血であった為、この程度の負傷では致死することはない。心臓を潰すか首を刎ねない限り死ねないのである。それでも痛みは普通の人間同様に感じ、血を流し過ぎると致死することは決してないものの、意識を失ってしまう。二本の矢が鎧の強度の弱い部分から脇腹に到達しており、幸い心臓には届かなかった。代わりに胸(肺のこと)にはかなりのダメージを負った。後は数本掠った程度であり血は流れているが大した創ではない。次の瞬間、左大腿部に痛みが走った。闇雲に放たれた矢の一本がイレーヌの左大腿部を抉ったのだ。体が傾いでその勢いが止まらない。足に力が入らない。尻を突き、左脚をかばうように左手を地につけた。
「ここまでか……兜をつけていない頭に矢が直撃しなかっただけでも幸運だったのだろうか?」斃れたヘルヴェティア剣士の顔がこちらを見ている。それは驚愕に溢れていて、もしかしたなら自分が何故矢に撃たれたのか理解できていないようだった。
イレーヌにはこれが混血を狩る作戦なのか、偶然の産物なのかは判断がつかなかった。もしこれが既定の作戦ならヘルヴェティアは「この戦いに国の全てを賭けている」とそう感じながら目を閉じ頭を伏せた。今作戦では動けなくなった者を見捨てるのが必須条件である。親衛隊の剣士たちには自決用(*2)として猛毒で有名なヘカテーの花で造られた劇薬が渡されている。敵の手に墜ち、拷問や凌辱などを避けるためである。残念ながら、この猛毒で有名なヘカテーの花でさえ混血に死を与えてはくれない。猛毒に苦しむだけである。もしかしたなら、猛毒の苦しみ耐えかねて気を失うことはあるかもしれない。だがそれだけである。混血の自決は本人たちに任されているが実情だった。イレーヌは短剣を胸に、心臓に何時でも突き刺させる状態になったまま、死んだふりを決め込む事にした。この後、もし敵兵が検死にこなければ、まだ生き残る術はある。もし検死に来た場合には、腹を括って死ぬまで闘うまで。ヘルヴェティア国教では混血は悪魔の血を引き継ぐ存在であり、滅ぼすべき妖魔でしかない。公国の剣士として一人でも多く敵兵を道連れにハデスの門を叩くまでである。
その時、
「イレーヌ」
と叫ぶ男の声が耳に響いた。
自分のファーストネームを呼ぶ男性は数える程しかいない。そして今回の会戦では男性女性問わず、自分のファーストネームを呼ぶ人はいないはずである。そう思いながらイレーヌが顔を上げると、ラディゲが飛び交う矢を物ともせず自分の方に突進して来る。必死な顔をして。その視線は愛情と言う名の熱を帯びて真直ぐイレーヌに向けられている。イレーヌとラディゲの視線が絡み合った。
「イレーヌ」
再びラディゲがイレーヌの名をそれだけが全てのように叫ぶ。これだけ熱烈に自分が求められて、女として嬉しくないはずがない。死がそこにある事など怖れることなく、男にここまで思われては、女に生まれた甲斐があるというもの。本当に女冥利に尽きる。そして、こんなに思われながら命を終えるのも悪くはないと、そんな誘惑に堕ちかけたが、寸前のところで剣士としてもプライドがその身を支えた。
「構わず、逃げて」
イレーヌはそう叫んだ、つもりだった。しかしイレーヌの口から出たのは言葉ではなく、胸から溢れ出た鮮血だった。
「イレーヌ」
三度目のラディゲの叫び声。過去二回の叫び声とは違い今回の叫び声には、イレーヌの身を案じる不安な響きを、誰が耳にしても感じ取ることが出来る程だった。引切り無しに飛んでくるヘルヴェティアの矢。ラディゲにはその矢の存在がまるで感じられないようだ。彼の心には剣士になった本来の目的である家名の復興など微塵もなく、ただ一心不乱にイレーヌの名を叫び彼女の許に向かう気持ちしかない。そんな彼に矢が突き刺さらなかったのが奇跡と言っても過言ではない状況であった。「恋とはすでに狂気だ」と言った詩人がいた。正鵠を射た言葉である。
ラディゲはイレーヌのすぐ傍にダイブしてから、イレーヌの体に負担を掛けぬように優しく覆いかぶさった。互いの顔が息が掛かるほど近くにある。イレーヌが顔を上げラディゲの方を向いた。その顔を見てラディゲは胸を撫で下ろすことは不可能だった。イレーヌが息をする度に口許から赤い鮮血が流れ落ちる。
「もう大丈夫」
ラディゲはイレーヌの頸にそっと腕を回し、壊れ物を扱うようにイレーヌを優しく抱きしめた。イレーヌは黙ってラディゲの行動を受け入れた。
ただイレーヌはこの状況を、まるでアレラーテ劇場で見た三文芝居のようなシチュエーションだと思う一方で、余りにも不器用に自分を抱き締め、生意気にも自分のファーストネームを呼び、死ぬことを顧みないくらい馬鹿で、そして真直ぐな思いに心を動かされた。
「ホント、生意気で馬鹿なんだから」そう思いながら、イレーヌはラディゲの頬に手を伸ばそうとした瞬間、金属が弾ける音が響いた。同時にラディゲの顔が突然横に振れたかと思うと、ラディゲの体は力が抜けたようにイレーヌに体を預けてきた。イレーヌがラディゲの名を呼んでも、手でラディゲの体を揺すっても、息があるものの全く反応がない。まだ矢が風を斬る音が聞こえる。イレーヌは矢が刺さった胸の痛み耐え、無理やりラディゲと態勢を入れ替えた。初陣の剣士に守られながら横たわっていることがプライドの高いイレーヌには屈辱と感じ始めた事、そして何より、このラディゲと言う男と呼ぶには若い青年を自分の身を引き換えにしてでも死なせたくなかったのである。
イレーヌは態勢を入れ替えた事で疵口から大量の血を流してしまった。人なら既に出血多量で致死している状態に陥っていた。それでも混血では死に至る程でもない。ただし、かなりの量の血を流している為、しっかりと意識を保つことが難しくなっていた。急速にイレーヌの意識がぼやけてくる。そして、イレーヌの意識に混濁が起こり始めた。全身に血が回らなくなってきたのだ。それくらい彼女を射た矢は彼女の肉体深く突き刺さっていたのである。それでも必死に戦場の状況を確認しようとしたが、それより先に意識が肉体の深いところへ落ちていった。
*
シモーネがいる。少年だった頃のシモーネだ。初めて好きになった男だ。一緒に居るだけで幸福な気分になり、シモーネが笑えば一緒に笑い、シモーネが悲しめば一緒に悲しんだ。それがいつまでも終わりなく続くものだと信じて疑っていなかった。
いつ頃だろうか、シモーネはわたしではない誰かに心を奪われていた。それが誰なのか知りたかったと同時に知りたくなかった。知ってしまえば、本気でその女性を恨んでしまいそうで、怖かった。シモーネは、母親であるモントルイユ候の死を境に心を何処かに置き忘れたかのように厭世的になり、姉のラウラと共に孤立を望み、誰とも関係を持たなくなった。わたしも例外ではなかった。この時にきっちりと失恋していたなら、この恋をズルズルと引き摺る事もなかったのかも知れない。
向こうから会ってくれなくなった人を健気に思い続けられる程わたしは強くはなかった。恋を忘れるには新しい恋をする、よく言われる言葉。だけど新しい恋が前の恋以上の想いがないと結局また元の想いが勝ってしまう。それがいつまでも続いた。そんな自分が嫌で剣士として誇りを無理やり持ち自分を保った。そうでもしないと崩れ落ちてしまいそうな気がした。それに気づいた時、彼、エミール・ビュールレに出会った。彼は親衛隊の剣士だった。無口な人で今考えると、どことなくシモーネに雰囲気が似ていた。もしかしたら、彼に惹かれたのはそういう事だったのかもしれない。ただ彼と居る時は心の全てを彼で満たすことが出来た……と思っていた。そう思いたかった。しかし彼はわたしの心の内にいる誰かに気付いたのだろう。何も話してくれぬまま別れを告げ、すぐに彼は妖魔との闘いで帰らぬ人となった。彼の遺品である指輪が彼の家族でなく何故かわたしの許に届けられた。その指輪には彼の名とわたしの名が彫ってあったからだった。彼とわたしが恋仲だった事は隠す気もなかったが公言することもなかった。周りの人たちは公然の秘密として扱ってくれた。そしてわたしたちが離縁した事を誰にも伝えていなかった。だからなのだろう。彼の死に対して周りの人たちが気を利かせてくれ、この遺品をわたしに届けたくれた。
この指輪を見た時、自分が彼に対して如何に不誠実だったか思い知らされた。後悔しても、もう何もかもが遅すぎた。それを忘れるように浮名を流したこともあった。どんなに愛し愛さても、あの初恋には敵わなかった。
「イレーヌ」
誰かがわたしの名を呼ぶ。
「イレーヌ」
その声に誘われるように声のする方に顔を、視線を向ける。
「イレーヌ」
その瞬間、世界が幕を下ろした。
<注釈>
(*1)親衛隊独特の言い方。敗走の一種で、現任務を放棄して戦場から離れろと言う意味。随伴した非戦闘員を連れて戦場を離れる事が最優先される。剣を持たぬ者を守れぬと言うのは、親衛隊の剣士としての矜持が許さない。
(*2)旧教では自殺は神に対する冒涜とされ戒められている。このような場合の自決は親衛隊、近衛隊の剣士として名誉を守る為のものであって、神に特別に許された行為として位置付けられている。見方を変えれば神の教えを人間の都合で捻じ曲げていると言えなくもない。