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第98話

 中央都市ザナッシュに一際高い塔の様な建造物が存在する。その建造物のてっぺんには時刻を知らせる針が2つ付いた巨大な時計が設置されており、現在その針が2つ重なって深夜0時を告げていている。

 俺とティアラはその建造物――時計塔に足を運んでいた。辺りを見回せど、深夜なだけあって人っ子一人見当たらない。



「まさか向こうから対談を申告してくるとは意外でしたわ」


「そうだな。実は大会に参戦しなくても良かったんじゃないか?」


「そんなことありません。必要なことでした」


「そ、そうか」



 必要な事だと早口で言い切るティアラの面持ちはどこか楽しげであった。

 本当にそうだろうかとも考えたが、実際俺も参加して楽しかったという事実も否めない。

 それにティアラが楽しんでくれていたのなら良しとしよう。


 すると遠くから人影がこちらに近づいてくるのを感じた。

 青白い法被(はっぴ)を羽織った女性。身長は俺より少し高いぐらいで、藍色の髪を1つ結びにしている。特徴的なのが大抵の男であれば100%視線を向けてしまうだろう巨大な果実が2つ実らせていた。



「お兄様?」



 そんな事を考えていると、ティアラは(いぶか)しげにジト目を向けてきた。

 視線が向けていたのは事実だが、それは視界に入っただけだと主張したい。


 それにしてもこんな時間に女性が一人とは。

 一応ここは街路に繋がる道なので、通り抜けようと思った人だろうか。

 そんなことを思っていると、その女性は俺達を目の前に歩みを止めた。



「待たせたな」



 そして一言告げる。

 どうやら今回の対談の関係者らしい。



「"龍虎(りゅうこ)"の遣いか?」


「アッハッハッハッハ! そうかわかんねーよな。俺がククルだ。他国からは"龍虎(りゅうこ)"とも呼ばれている。それにしてもあの衝撃で無傷なうえに生きているとは、天晴れだな」


「「え?」」



 まさかの展開に思わずティアラの声とハモってしまった。

 目の前の甲高い声で男らしく言い放った女性は、自らを"龍虎(りゅうこ)"と名乗った。つまりこの女性が"龍虎(りゅうこ)"であるククルなのだろうか。



「全く気配が違うじゃないか」


「疑うなら確認してみろよ。(おのれ)は使徒を判別できるんだろ?」



 ククルが言うと同時に俺は【神の五感】を発動。大会中に見た時と全く同じ情報が入ってくる。つまりこの女性があの鎧の中身ということになる。



「キャラ、違くないか?」



 そう、目の前の女性はあの鎧のときとは声も気配も全てが違うのだ。



「ありゃー、神器の効果だ。神器アテナ――あの鎧を纏うと自分の理想とした人物像になることが出来る。まぁ己との戦いで破損したから今修理中だがな。全くどんな攻撃力だっつーの」


「なるほど、あの鎧はククルの作り出した人物像というわけか」



 ひとまずククルの説明に納得することにする。

 神器とは使徒にしか使えない兵器のようなものだ。だが気配すら変える擬似変装に、あの反射能力は反則的ではないだろうか。



「そうだ。とりあえずここじゃ目立つ。こっちへこい。そっちのお嬢ちゃんも関係者なんだろ? 己と同じく、気配が只者じゃない」



 ククルは一瞬、ティアラに目を向けながら気さくに笑う。【気配遮断(シャドウ)】を看破しつつ、関係者と断言出来るほどには、相手の力量を推し量る感覚が鋭いらしい。


 一応警戒しながらも俺とティアラはククルの案内に付いていく。そのまま時計塔の中へ入り、魔法をギミックとした地下室へ通された。地下室は20帖ぐらいの部屋になっており、さらに奥に続く扉が1つ。真ん中には4人は同時に座れるソファーとテーブルがあり、若干生活感の溢れる家具が揃っていた。


 流石に大量の帝国兵が待ち伏せしててリンチされるみたいな展開は無さそうだな。



「まぁ座れよ」



 俺たちはククルの指示で腰を下ろすと、目の前に両手を差し伸べてきた。



「とりあえず確認だ」



 クルルの言葉にティアラが確認の意味で俺は視線を送る。

 俺はそれに頷くと、お互いククルの手を握った。


 すると、キーンと電流が走る感覚。

 これはヴァンやティアラと最初に触れたときに感じた12神の使徒だという証拠である。



「どうやら本当に使徒らしーな。それで、俺に聞きたいことがあるんだろ?」



 笑みをこぼしながらククルは問いかけてきた。

 まず何から切り出すべきか。ここまで堂々としていながらも交友的な態度を見せてくるとは思わなかった。



「俺はクレイ、バロック王国の冒険者だ」


「私はティアラ・ブリジット・クリステレス。ミンティエ皇国の第3皇女ですわ」



 だからまずは簡単な自己紹介を済ませ――。



「俺達はある目的の元、この帝国に来た。目的については後で話そう」



 何故ここにいるかを説明した。



「ほぉー……」



 感心したように嘆息するククル。

 それは俺達の正体を知ったことによるものではなく、わざわざ自らの正体を明かしたことによるものだろう。

 どうやら先に自己開示することによってククルの警戒心を少し解くことに成功したようだ。



「質問はいくつかあるが、本題の方を先に話させてもらう。緑のダンジョンの最奥で魔石を手に入れたのは本当か?」



「あー、そうだな。手に入れたよ。今は手元にねーけどな」



 質問に対して少し考えるようにククルは呟く。 



「手元にない?」


「2年前ぐらいだったか、奪われたんだ」


「奪われた? 誰にだ?」


「あんまり言いたかねーな」


「大会で対峙してわかったが、ククルから何かを奪える者はそういないと思うぞ。どんな奴だったんだ?」



 言いにくそうに目をそらすククルへ、褒めつつも確信に迫るように話しを進めた。



「王国から来たなら……ゲインという男に聞き覚えはあるか?」



 俺はまたもその名前を聞き、思わず表情を崩しかける。



「あるよ、王族殺しの反逆者と呼ばれているな。生きているのか?」



 一節によれば行方不明で亡くなった者として扱われている場合もあるので、消息不明として扱うことにする。



「そう……だな。生きている。そのゲインに奪われたんだからな」



 そう告げるククルの言葉はどこか歯切れが悪い。

 2年前というのならレニの姉が連れていかれた時期とも重なるのだ。

 そしてその話を聞いたことにより新たな疑問が浮かんだので、それをぶつけてみることにしよう。



「ゲインとは元々知り合いだったのか?」


「……ここから先は他言無用で頼むぞ」



 その疑問に対して真剣な面持ちに変わったククル。俺とティアラは静かに頷いた。



「ゲインは俺の弟子だった」


「……弟子だと?」


「そうだなぁ、もう何十年も前の話だけどな」



 当時のことを思い出したのだろうか。ククルは柔らかい笑みを浮かべながら囁いた。



「己はゲインのなんだ? あの試合で最後に使った【絶剣(ぜっけん)】はゲインの技だろ」



 【絶剣(ぜっけん)】を知っているのであれば、ここは正直に告げたほうがいいだろうと即座に判断した。



「ゲインは一応、俺の師だな」


「なに? ゲインの弟子!? アッハッハッハッハ! そうか、己はゲインの弟子だったか」



 そして愉快に笑い出すククルはどこか嬉しそうであった。



「己はガキだった頃のゲインに面影が似てる。クールで何でも出来て、それでいて真っ直ぐなやつだった――だけど2年前に再会したゲインは全くの別人のようだったよ」



 ククルは尚も、ほんのり口元を緩めながら淡々と語っていく。



「会ってない20年の間に何かあったんだろうな。変わり果てたゲインは俺から魔石と何かを奪っていったよ」


「何か?」


「それはわかんねーんだ。記憶に穴が空いたように思い出せない」



 以前のティアラの証言で《ユーミル》の魂を奪った者がいた。それがゲインであるとするならば、魂に関する何かを奪う能力なのだろうか。

 さらに言うなら、その記憶の穴に関しては俺も心当たりがあるのだ。


 それから俺達はゲインの昔話を少し交わし、情報交換をしていった。


 驚いたことにゲインは俺と同じで、あのジルムンクのスラム街育ちだったという事実が明らかになった。それも50年ほど前に。

 そして任務のため通りかかったククルが数年面倒を見たという。

 ゲインはその後、騎士になるために王都へ旅立ち、それから会っていないらしい。


 30代ぐらいに見えていたゲインだが、まさか50過ぎのおっさんだったとは。

 つまりククルは何歳なのだろうか。計算すると70は軽く超えているんだが。



「己、今俺の年齢を推測しなかったか?」


「龍人族は長生きだなと思ってな」



 心が読めているんじゃないかと思うほどの指摘に即座に対応した。

 なぜわかったのだろう。ティアラもそうだが、女性というのはその辺の勘が鋭すぎる。



「歳は秘密だ。だが己が想像するよりは長く生きてるぞ」



 にっしっし、と笑いながらも、からかうように言い捨てるククル。

 俺は脱線してしまった話を戻すことにした。



「次の質問だ。ハーデスについては知っているか?」


「ハーデス……何かの名前か?」



 首を傾げるククルを観察する。

 とぼけた様子もなく、本心で言っているようだった。



「それについては私が。ハーデスは12神がこの世界を創造する前に滅ぼした神です。何かの間違いでハーデスの力はこの世界の各地のダンジョンに眠っているんですわ。そしてククルさん、あなたが奪われた魔石はおそらく――」


「ハーデスの力の1部――ハーデスの欠片ということか」


「はい――」



 そしてティアラは、ハーデスを復活させようとしている者達と悪魔がいること。

 ハーデスに味方をしている神がいて、その神の使徒が復活させようとしているかもしれないということ。

 自分たちがそれを阻止しようとしていることをククルに告げた。



「なるほど、話は理解したぞ。つまりゲインがハーデスを復活させようとしているというか?」


「確定ではありませんが、その可能性は高いでしょう。さらに付け加えるなら、ゲインだけではなく他にもそれを目論む者はいるかもしれませんわ」



 ククルの問いかけに答えるティアラは何かを確かめるように真剣な眼差しで見据えながら説明をした。



「俺を確かめているのだな。アッハッハッハッハ! クレイも大人びた考えをしているが、皇女ちゃんも抜け目がないな」



 それに対してククルも何かを察したようで笑いながら言い切る。



「なら俺はハーデスの件に関しては全面的にお前達に協力しよう。ボロスを決勝で倒してくれたことだしな」



 帝国の上に立つ者としてか、長年の経験か、ククルは俺達の意図を察していたらしい。「ハーデスの件に関して」と付け加えるところも抜け目がない。

 これが演技ならお手上げではあるが、少なくともククルは嘘を言っている気配は全く感じない。



「そう言ってくれると助かる」


「だが俺は帝国からは出れない身だ。各地を移動するにも時間が掛かってしまうからな。それでも良ければということになるが」


「かまわない」


「なら協力出来ることがあるなら言ってくれれば力になる」


『あぁ、何かあればこれで知らせる』



 俺は【メッセージ】でククルの頭に直接語りかけた。

 ククルは少し目を見開くがすぐに口元を綻ばせた。



「これは次元属性魔法の類だな? その若さでこんな魔法まで使えるとはなすげー才能だぜ」



 余計な説明も不要らしい。ククルは1度使っただけで次元属性と見破れるぐらいには長年蓄積してきた経験や知識があるということだろう。その知識があるだけでも心強い。


 俺はここで話を区切り、先程からチラホラと出ている帝国についての話題へ切り替えることにした。

ご愛読、ブックマーク等ありがとうございます。

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