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第94話

「第4ブロック、決勝トーナメントに勝ち進んだのはなんと第3ブロックと同じ今大会初参加のマック選手だぁ!」



 たった今、第4回戦に勝利した俺は決勝トーナメントへの進出が決定した。

 初戦のカルロが相当強い選手だったらしく、第4ブロックには他に強豪と呼べる選手がいなかった。

 なのでスムーズに目立たず進むことが出来た。


「運が良かっただけだろ」

「4ブロックはパッとしない選手が多かったからな」


 舞台から控え室へ戻る俺にわざわざ聞こえるように野次を飛ばす観客の声が耳に入る。

 俺はそれを無視して、ティアラとレニが待つ選手席へ戻った。

 まぁそれくらいの評価の方がむしろ好都合なのである。


 これにより決勝トーナメントは《ボロス》、《フレリィー》、《カルマ》、《マック》の4人で行われる事が決定した。


 レニはあの後、2回戦敗退。初戦でほとんどの力を使ってしまったこともあるが、対戦相手だった《カルマ》は長年剣を握っていた事を感じさせる見事な剣さばきあった。さらには余力すら残していて手を抜いているようにも見えた。本気で剣を握ってから1ヶ月ほどのレニでは相手になるわけがなかったのだ。



「お兄様、視線にお気づきですか?」



 選手席へ戻るとティアラが自然な表情で問いかけてくる。

 視線――きっとフレリィーのことだろう。

 ヴァンの姉であるフレリィーは初戦以降、物凄い視線を俺に向けてくるのだ。

 もしかしたら正体がバレたのかと思ったが、それなら声をかけてきてもいいはずなので、勘ぐっているという段階だろう。



「気づいている。だが怪しんでいるぐらいのものだろ? 探りも入れてこない」



 なんにせよ目的を済ませて、とっとと帝国を出たい一心である。

 だがやるべき事がもうひとつ出来てしまった。

 やるべき事というよりは、俺がやりたいと思った事になるのだが――。



「そうですね。おそらくですが……あれはお兄様に惚れてますね」


「いや、違うと思うよ?」



 深刻な面持ちでズレた事を言っているティアラに向けて俺は真顔で言い放つ。



「あの子もクロード家の端くれ、きっとお兄様の実力の片鱗に気づいて心ときめかせているに違いないですわ! あぁ、誰もが気づけない実力にただ1人気づいている女騎手! 燃えますわね!!」



 実力に勘付いているという推理まではいいのに、結論が何故かズレている。

 フレリィーの向ける視線はそんな甘いものではなく、どちらかというと疑問や対抗心という感じなのだ。



「サナさんは何を言っているんですか?」


「気にしないでくれ。こういうの基本無視していいから」



 本気で首を傾げるレニに呆れながら俺は告げた。



「明日の決勝トーナメントの対戦表はぁ――」



 そしてしばらく実況の話しが会場を響き渡る。

 明日からの決勝トーナメントの組み合わせの発表だった。


[ボロスvsフレリィー][カルマvsマック]


 この2組の勝者が決勝を戦い、勝った方が優勝。晴れて"龍虎(りゅうこ)"との模擬戦が行えるのだ。

 今日まで1度も"龍虎(りゅうこ)"は姿を見せなかった。"龍虎(りゅうこ)"どころか皇族のお偉いさんも来ていない。

 おそらく決勝トーナメントのみに出席する予定なのだろう。


 実況の発表も終わったので、俺達は決勝トーナメントに備えて会場を後にした。




――




 冒険者ギルドは基本どこの国営にも属さない立場である。

 だけど、どの国の領土でもある程度大きな都市であれば冒険者ギルドは存在する。それはこの帝国中央都市ザナッシュも例外ではない。

 俺はそんなザナッシュの冒険者ギルドに1人で足を踏み入れていた。


 理由は特になく、次の用事まで時間が余ったので、帝国にはどんな依頼があるのかと興味を惹かれたからだ。


 掲示板に貼られた依頼内容は王国とあまり変わらないが、高難易度の依頼が明らかに多いように思えた。

 帝国の周りには確かに高ランクの魔物が多く生息しているのでそのせいだろう。

 高ランクの魔物を狩ることで騎士や冒険者のレベルが上がり、素材で強い武器を作ることが出来る。それを使用し、さらにレベルの高い魔物へ挑戦することが出来るということだろう。

 歩いて3時間圏内(けんない)に高ランクの魔物がいない王国とは比べ物にならない好循環(こうじゅんかん)である。



「おいおい兄ちゃん見ねぇ顔だな。ここはお遊びでくる場所じゃねーぞ?」



 しげしげと掲示板を見ていると、無精髭(ぶしょうひげ)を生やしたガタイのいいおっさんが単身で声をかけてきた。



「悪いな。興味本位で見てただけだ」



 そう言ってその場から即座に立ち去ろうとする。



「おいおい待てよ、お前なかなか良さげな服きてんな。それにそのバックも高そうじゃねぇか」



 めんどくさいことを回避するために避難する選択を即座にとったのだが、やはり絡まれた。

 おっさんの指摘した俺が着ている服はラバーズ商会で出している服である。帝国は強さを求める傾向にあるせいかオシャレの水準が低い。そのせいで平民服ではあるが「良さげな服」に見えたのだろう。

 これはカツアゲみたいな感じかな。



「さらばだ」



 仮にも俺は剣闘士大会準決勝まで進んでいるのに認知(にんち)されていないぐらいには目立っていないのだろう。まぁ髪の色を少し変えているのも事実だが。

 そう思いつつも早々にギルドから抜け出そうとした。



「待てよおっさん」



 すると俺とおっさんの間に割り込む形で1人の男が入ってくる。



「こいつは俺の連れなんでね」


「あぁ? お前もおっさんだろうがよ」



 男の言葉に無精髭(ぶしょうひげ)のおっさんが反論。

 確かに年齢は同じぐらいではある。



「俺様はこういうものだが?」



 割って入ってきた男はそう言って胸元から金色プレートを一瞬チラつかせる。



「Aランク!? すみませんでした!」


「わかりゃいい、今日のところは見逃してやるから、どっかいけ」


「はい!」



 無精髭(ぶしょうひげ)のおっさんは元気の良い掛け声をあげて、早々に立ち去っていく。



「ったくよ、人のことをおっさん呼ばわりしやがって。俺様はまだ29だっつーの」



 男は独り言を呟きながらこちらへ振り向く。

 29は充分おっさんじゃないのか?と一瞬頭を過ぎったが、前世からカウントした場合の俺の実年齢がブーメランのように返ってきたので、その考えを(あらた)めることにする。

 35まではおっさんじゃないんだ。きっと。



「ん?」



 男の姿をよく見ると、第3ブロックの勝者である《カルマ》だった。



「よう、お互い紹介は不要だろ?」



 キメ顔にも近い笑顔を向けながら、親指を立ててキラキラとした瞳でこちらを見ている。



「準決勝の相手が何故ここに?」


「そりゃあこっちのセリフだっつーの。マックは冒険者なのか?」


「まぁな、それで俺になんか用があるのか?」



 質問の意図を読み取ってくれなかったようなので、俺はカルマの質問に答えつつ、再び問いかけた。

 実はというとカルマは会場を出てからずっと俺を付けていた節があったのだ。バレバレすぎる尾行だったから逆に警戒していなかったが。



「まぁバレてるよな。まぁなんだ、明日の準決勝頑張ろうぜっていう事と、お前さんに興味があったんだよ」



 カルマはヘラヘラと笑いながら告げていく。

 嘘は付いていないように見える。



「そうか、明日はお互い頑張ろう。ではっ」


「待て待て待て、結論が早すぎだろ。俺様はお前さんに興味があるんだって!」


「俺はお前に滅法興味が無い」


「そんなこと言うなよぉ、他人にもっと興味持とうぜ」



 説得するカルマを無視して俺は移動を始めた。



「なぁ、なんでお前さんはあんな勝ち方をするんだ?」



 何故か自然に隣を歩いているカルマが問いかけてくる。

 こいつは図々しいタイプのようで、俺はとりあえず無視を決め込むことにした。



「俺様が見た感じ、お前さんは強いだろ」


「見たまんまだぞ、どうしてそう思う」



 急に真剣か視線に変わったカルマの質問へ俺は逆に問いかける。



「うまくごまかしているようだが身体の動き、剣さばき、先読み――全てにおいてお前さんは他の選手より群を抜いている」



 (あご)に手を当てながらカルマは断言した。

 よほど相手の実力を見定めることに自信を持っているらしい。



「その評価は買いかぶりすぎだ。だがあまり目立ちたくないとは思っている」


「なるほどなぁ……目立ちたくないねぇ。わかるわその気持ち」



 そう言ってカルマは同情するような眼差しを向けてきた。



「俺様も本当は手を抜きたくないんだけどよ、あまり目立ちすぎると色々めんどうだろ、帝国ってさぁ……。そういやお前さんは帝国を拠点にずっと冒険者してんのか?」



 一拍(いっぱく)おいてからカルマは再び問いかけてくる。

 コロコロと話題が変わる忙しいやつだという印象だ。



「まぁな」


「そうかそうか。俺様は相手の実力を見定めることには自信あるんだ。それで感じたのが、お前さんの実力は《ボロス》や《フレリィー》よりも上なんじゃないかってな」


「妄想の域だな」


「だから――お前さんのような強者(つわもの)を俺様の仲間にしたいんだ」


「……ちょっと意味がわからない」



 どうしてそうなったのだろう。いきなり話が飛びすぎだ。



「俺様の仲間にお前さんは相応しいと思ってな」


「なるわけないだろ。そもそもお前はどこの国なんだ。先程の会話から帝国ではないだろう」


「俺様は法国出身だぜ」



 法国の人間だったか。

 前に法国出身の冒険者であるラズの話を聞いた感じだと信仰心の強いイメージであったが普通のおっさ――男性もいるらしい。



「無理だ」


「そんなこというなって、いつも一緒にいる少年と、かわい子ちゃんも一緒にいいぜ?」



 しっかりと【気配遮断(シャドウ)】をかけたティアラのことまで認識しているぐらいには実力者らしい。

 その証拠に、先程から普通に歩いているように見えて一切隙のない動き方なのである。



「関係ない」


「なら明日の試合、俺様に負けたら仲間になってくれよな?」



 だからなんでそうなるんだと思いはしたが、俺はしばらく思考した。

 こいつの図々しさは筋金入りなのでずっと付いてくるつもりだろう。条件を飲む形で受け入れてもいい気がしてきた。



「俺が勝ったら何をしてくれるんだ?」



 なので俺が勝った時のことを提示して今日は引き下がってもらおう。



「お前さんの事はきっぱり諦めよう」


「それは当たり前だろ。それ以上のメリットを提示しろと言っているんだ馬鹿者」


「馬鹿って……んー。なら俺様の賞金やるよ。どうせ優勝するし」



 どこからそんな自信が出てくるんだ。

 法国の情報などを知りたいと思ったが「なんでそんなことを?」という流れになるのがめんどくさいので賞金で受け入れることにした。

 レニに渡せば喜ぶだろう。



「それでいい」


「よっしゃ、約束だぜ! じゃあまた明日な!」



 決定した直後、そう言ってカルマは台風のように去っていく。

 その表情からは既に仲間にしているという感じすら読み取れる。

 だからどこからあの自信が来るのだ。

 明日の勝敗後に【神の五感】でその根拠を見てやるか。


 俺は去っていくカルマの方へ振り返ることなく、次の用事を済ませるべく動き出した。







 マックは一体何者なのだろうと、走りながらカルマは考えた。

 本戦の1回戦、帝国騎士団の若き獅子(しし)――カルロをあんな形でノックアウトするのは相当な強者(つわもの)なのだ。


 おそらく観客のほとんどがカルロの自滅だと考えるだろう。だけどカルマの目は誤魔化せない。


 あの一瞬、マックは凄まじい気迫のようなものを放っていた。それにより対戦相手だったカルロはバランスを崩されたのだ。

 あんな芸当が出来る者が法国騎士団に何人いるだろうか。



「どちらにせよ、仲間に引き入れたい人材だぜ」



 ポツリと独り言を呟くカルマの頭に、どこからともなく魔力が走った。



『やぁ、聞こえるかな?』


『なんだダグラスさんか、これびっくりするからいきなりやるのやめて欲しいぜ』



 突然頭に響いた声に驚きつつ、カルマは思念(しねん)を放った。



『すまないね、これ以外方法がないんだ。今後も改良を加えるとしよう』


『いや、別にいいんだ。俺様が我慢すればいいだけだからよぉ。すまねぇ』



 自分よりも実力がある者に謝られたことにより、カルマも非を認めるように頭を下げた。



『情報集めは終わったかい?』


『大方集め終わったぜ。帝国に《ラグナ》の目撃談は全くと言っていいほどなかった。そして"龍虎(りゅうこ)"もラグナの可能性は限りなく低い。めぼしい強者(つわもの)も……いないなぁ』


『そうか、詳しい話し戻ってから聞こう。実は緊急でやって欲しい事があるんだが、帝国を撤退してくれないかい?』


『えっ、今日!?』


『なんだ、やり残した事があるのか?』



 口調は平然としているが、ダグラスの怖さを知る者にはプレッシャーのような何かを感じるのだ。

 そんなダグラスにカルマの私用である剣闘士大会の事を言い出せるわけがない。



『なんもないぜ、すぐ戻ればいいんだろ』


『あぁ、迎えをよこした。中央都市を出てすぐのところにいる』


『了解』


『早く戻ってきてくれよ《フレンス》。最高位司祭が来なければ始まらない』



 その言葉を最後にカルマ――(もとい)、フレンスの頭の中に響く電波が途絶えた。



「ちくしょう……せっかく約束したのによぉ」



 マックとの約束がフレンスの頭に蘇る。

 ――また帝国に来ることもあるだろう。その時まではお預けにしといてやる。

 そう考えたフレンスは自国に戻るために帝国領を離れたのだった。

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