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第8話

 客間を後にした俺達は国王の寝室に向かっていた。

 リンシアを先頭に、リル、俺が後を追う形だ。

 この城無駄に広いな。


 寝室に到着すると見張りの兵士が2人いた。リンシアの姿を発見し、2人の兵士は(ひざまず)く。



「リンシア様、戻られていたんですね。ご無事で何よりです」


「ありがとう。それよりもお父様は様子はどう?」


「意識はありますが、精神が不安定な状態で、先程は差し出されていた()を怖がっている様子でした。それでなんの御用でしょうか?」


「彼……私の友人がお父様の病気に心当たりがあり、今の状態を改善出来るかもしれません」



 リンシアが俺の紹介をした。なるほど友人か。



「この者は、医者なのですか?」



 兵士は俺の全身に目を(くば)り疑問を向ける。確かに医者には見えないよな。



「3級回復魔法は使えます」



 魔法には等級があり、1級から数字が高くなるほど威力や効果、難易度が増す。

 俺がリンシアに1度見せている【エリアハイヒール】は3級魔法だった。



「左様ですか。ですが、ルシフェル様がここへは誰も通すなと」


「責任は私が取ります。お父様の症状は一刻も争うのです。それとも王族である私の命が聞けませんか?」


「いえ、滅相もないです! 一応私達も中に入りますがよろしいでしょうか?」


「許可します」



 扉が開かれ俺たちは国王の部屋に入る。先ほどの客間よりも広く、壁にはやたら高そうな絵画が飾られている執務室。その横に寝室へ繋がる扉があった。

 寝室には7人は同時に寝れそうな大きなベッドがあり、その上に国王が仰向けで横たわっていた。 衰弱し、苦しんでいるようだ。精神的にも弱っていて、右手が痙攣している。



「唾液をこれに採取できるか?」



 俺はリルにそう告げた。親指サイズの透明で四角いガラス板を渡す。

 リルに頼んだのは俺の行動を兵士達がしっかり見張っているからである。極力国王には触れないよう配慮するためだ。



「かしこまりました」



 リルは国王の唾液を板に接触させ、俺に渡す。



「身体強化魔法を使うが大丈夫か?」



 魔法を使う際も、一応兵士に確認を入れる。



「……問題ない」


「今検査するから少し待っててくれ」



 心配そうなリンシアに声をかけて、俺は【顕微眼(マイクロスコープ)】を使った。

 【顕微眼(マイクロスコープ)】は目のピントの拡大化させて、小さな物質を見る俺のオリジナル魔法である。

 遠くを見ることが出来る魔法【千里眼】からヒントを得て創ったのだ。

 拡大、拡大、拡大――。俺は倍率を上げて板を見つめる。すると、国王を(むしば)んでいたウイルスの死骸が見えた。



「なるほど、原因がわかった」


「本当ですか?!」



 リンシアが驚きと期待の表情をする。兵士たちも驚いているようだった。



「これは凶犬病(きょうげんびょう)に似ている」


凶犬病(きょうげんびょう)?」



 この世界で凶犬病(きょうげんびょう)は伝わらないか。

 凶犬病(きょうげんびょう)は前世なら犬やコウモリに噛まれることでかかる病気であった。


 分析しながらも、俺は凶犬病(きょうげんびょう)ウイルスがこの世界に存在したことに驚いていた。

 この世界に来てから、スラム街にいる動物を調べたことはあるが、凶犬病(きょうげんびょう)ウイルスが見つかったことがなかったからだ。

 症状からして候補には入れていたが、まさか当たっていたとは。



凶犬病(きょうげんびょう)は俺がそう呼んでいるだけだ。正式名称はわからない。だがこのウイルスは知っている」


「助かるのですか?!」


「……」



 俺は無言で考えた。

 なぜなら前世の地球では、凶犬病(きょうげんびょう)の症状が出てしまった患者は100%死ぬと言われていたからだ。



「ウイルスが潜伏しているうちは対処できる。だが症状に現れて発症してしまったら100%死ぬ病気と言われている」


「そんな……」



 リンシアの顔は青ざめていた。

 

 そんなリンシアを見ながら俺は思い出す。

 凶犬病(きょうげんびょう)はウイルスを持った犬やコウモリなんかの動物に噛まれた際に体内に入り、潜伏する。

 1ヶ月から1年の間に症状に現れ、心臓や脳を(むしば)み、最後は死にいたらしめる。 

 そして、100%死ぬ病気と言われているが、コウモリに噛まれて発症したアメリカの高校生が助かった事例がある。


 新聞に大々的に乗った方法は、大きくわけて2種類の薬を使い、完治させた事例。

 精神疾患を抑え、体の痛みを和らげる薬と、ウイルスを殺す薬である。



「可能性は極めて低いが、助かるかもしれない方法が1つだけある」


「本当ですか?」



 リンシアは俺に顔を向けた。目には光が戻り微かに期待を取り戻した表情をする。



「1%未満だがな」


「1%未満……ですか」


「放っておけば必ず死ぬ」


「貴様ら!!父上の寝室で何をしている!!」



 俺がそう言うと扉から怒鳴り声がした。

 振り向くと豪華な衣装を来た濃い青髪男が中に入ってきていた。



「申し訳ありません、ルシフェル兄様。ですがここは寝室でお父様も寝込んでおります。お静かにお願いできますか」



 リンシアは驚きはしたが、少し間を置いて冷静に対処した。

 こいつがルシフェルか。少しツリ目が印象的で顔はやっぱりイケメンだな。俺には負けるが。



「その父上の寝室に私の許可無く入ったのが問題なのだ」



 少し声を抑えてルシフェルが言った。



「すみません、でもお父様の病気が治る可能性があるかもしれないのです」


「なに?」



 ルシフェルは目を細め声を引き上げる。そして意外そうな顔をした。



「この者はクレイ、魔物に襲われていた私を助けてくれた方です。そして、病気にも詳しく診断して貰いました」



 リンシアは俺をルシフェルに紹介すると、ルシフェルが俺に目を向けた。



「あっどうも」



 その視線に答える。

 ルシフェルは落ち着いて俺に問いかけてきた。



「王族に対する返答がなっていない、冒険者風情か。それで父上の症状の原因がはわかったのか?」


「あぁ、これはウイルス性の病気で、発症すれば100%死に至る」


「……そうか」



 そう言ったルシフェルが安堵したように感じたのは気のせいだろうか。



「だが助かるかもしれない方法は一つだけある。可能性は1%未満だがな」


「1%未満だと? そんなもの父上に試せるわけがないだろうが」



 ごもっともな意見です。



「それに、お前のようなどこの者かもわからぬやつを信用出来るか! 病気だってどうやって調べたんだ」



 ルシフェルは俺を睨み言い放つ。

 そんなルシフェルを俺は観察した。



「武器のある場所、そして花畑を通ったな?」


「そうだが、なぜわかる」


「魔法で見たんだ。服の繊維(せんい)についた鉄粉、そしてカサンドラの花粉が大量に見えるぞ」



 堂々と主張する俺に、ルシフェルは少し考える素振りを見せた。



「それでウイルスを見たとでも言うのか?」



 ルシフェルは半信半疑で驚きながら俺を見て言った。



「そうだ。信用しないならここまでだ」


「そんなの信じられると――」



「お父様、今なんと?!」



 リンシアの声が俺たちの会話を遮った。



「まか……せる」



 静かになった部屋で国王の声だけが聞こえる。



「その者に、任せる……その治療を……してほしい」


「1%未満だぞ?」



 俺は弱々しく言葉を紡ぐ国王に問う。



「良い…‥私の身体だ、もうダメだということも……わかっている……可能性があるなら……やってくれ」


「ですが父上――」


「わかった。治療は1ヶ月かかるが全力で取り掛かろう」



 ルシフェルの言葉を遮って俺は言った。

 国王から死に(あらが)いたいという意思が伝わったからだ。

 その意志に応えてあげることは出来る。



「あと治療中は俺の言うことを聞くこと、そして完治した場合は俺の質問に正直に答えてくれ」


「頼む……」



 国王は了承したという意味で短く返事をしたのだった。




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[良い点] 文章のテンポが良くて、続きをあっという間に読みつくします(⌒∇⌒) 
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